Athlon MPのパフォーマンスを計測する(デュアル編)



 前回のこのコーナーではAthlon MPのシングル環境におけるパフォーマンスを見ていった。今回はデュアル環境におけるパフォーマンスについて考えていきたい。果たしてAthlon MPのデュアルを搭載したシステムは、今買うべきシステムなのだろうか?


●ワークステーション/サーバー向けマザーボードにふさわしいスペックのThunder K7

Thunder K7
 現時点でAthlon MPの正式な動作環境として用意されているマザーボードはTyanのThunder K7のみだ。Thunder K7はSocketAを2つ搭載し、サポートするシステムバスは200/266MHzとなっており、技術的にはシステムバスが200MHzのAthlonやDuronも利用可能だ。技術的にはと書いたのは、AMD、そしてTyanはMPではないAthlonとDuronをAMD-760MPのマザーボード(つまりThunder K7)で利用することをサポートしていない。しかし、実際にAthlonやDuronを挿せば、ほとんどの場合動作してしまう。秋葉原のPCショップではDuronを2つ挿してデモしている例もあり、筆者も試してみたがDuron 900MHzをデュアル環境で動作させることができた。それでは、どうして動くモノがサポートされないのだろうか?

 その理由はバリデーション(互換性検証)だろう。一般的にCPUメーカーは新しいCPUやチップセットをリリースするときに、それらと周辺のビデオカードやLANカードなどと組み合わせて問題がないことを確認する(この作業をバリデーションと呼ぶ)。しかし、AMD-760MPでは正式に保証されるCPUはAthlon MPなので、当然バリデーションテストはAthlon MPだけで行なわれる(バリデーションテストには膨大なコストがかかるため、通常必要以上のことは行なわれない)。となれば、当然AMDとしては「Athlon MPでしか動かない」としか言えないわけだ。従って、本マザーボードでAthlonやDuronを利用する場合には、自己責任となり、なんらかのトラブルが発生した場合でもAMDやTyanの保証は受けられないので注意したい。

 Thunder K7には、メモリソケットはDIMMソケットが4つ用意されている。利用できるメモリはもちろんDDR-SDRAMで、利用できるメモリモジュールはRegistered DIMMのみとなっている。DIMMには、バッファが用意されていないUnbufferdのDIMMと、メモリデバイスを安定させて動作させるためのバッファを搭載しているRegisteredのDIMMがある。

 一般的にPC用として販売されているのはバッファなしのUnbufferedの方で、こちらは大量に供給されている関係で、非常に安価になっている。これに対して、Registeredはバッファが入っているのと、ECCに対応している。このため、メモリのチップが1チップ多く必要となり、メモリモジュール自体のコストが上がる。さらに、モジュールの需要自体がさほど多くないため、どうしても高価になってしまう。UnbufferdのPC2100の256MBが7,000~8,000円ぐらいであるの対し、RegisteredのPC2100/256MBは安価なものでも2万円を超えており、コストパフォーマンスは悪い。しかし、こうしたマルチプロセッサのシステムが利用されるサーバーやワークステーションといった環境では、安定性が何よりも重視されており、そのためには必要なコストであり、何よりもサーバー/ワークステーション用のマザーボードとしては必須のファンクションだ。

 また、PCIバスは33MHzの32/64bit兼用のPCIバスとなっている。33MHzで32bitのPCIバス(通常のマザーボードに搭載されているのはこれだ)カードを利用した場合は、ピーク時のバンド幅が133MB/secとなる。これに対して、33MHz/64bitのPCIバスを利用した場合には、266MB/secと倍になり、Ultra160 SCSIなどのバンド幅が133MB/secを超えるようなPCIデバイスではメリットがある。AGPバスはAGP 4Xに対応したAGP Proスロットを備える。

 I/O周りは非常に充実している。サウスブリッジにはAMD-766が採用されており、2チャンネルのUltra ATA/100インターフェイスがサポートされている。さらには、オンボードでUltra160 SCSIのデュアルチャネルコントローラ(Adaptec AIC-7899W)が搭載されており、最大で30台のLVD SCSIデバイスを接続できる。また、Ethernetコントローラとして3Comの3C920が2つ搭載されている。これらのUltra160 SCSIホストコントローラや3C920搭載LANカード2枚を購入するだけでも、軽く6万円ぐらいになってしまう。さらに、電源もAthlon MPのシステムで新たに規定された6ピンの電源コネクタなどが必要になるため、別途専用の電源を用意する必要がある

 そのため、価格の方も超弩級で電源込みで10万円を超える価格をつけているところがほとんどだ。しかし、オンボードで搭載されているSCSIホストコントローラやNICなどはサーバーやワークステーションでは必要となるものだ。そうした用途に使うのであれば決して高くないと言える。


●一般的なデュアル対応アプリケーションではPentium IIIデュアルシステムを上回る

Thunder K7
 それでは、ベンチマークの結果を見ていこう。グラフはZiff-Davis MediaのContents Creation Winstone2001、Intel Pentium 4 Application Launcherに含まれるe-Jay/MP3 Plus 1.3、Premiere(Ligoプラグイン追加)、Windows Media Encoder 7.0、SPECのViewperf V6.1のAWadvs-04テストだ。いずれもマルチプロセッサ環境に対応したもので、マルチプロセッサ環境におけるパフォーマンスを計測できる。

 比較対象として用意したのはThunder K7にAthlon MP(シングル)とAthlonの1.2GHzを搭載したシステムと、Pentium III 1GHz(シングル)+Intel 815マザーボード、Pentium III 1GHz(デュアル)+Intel 840マザーボードだ。今回利用したIntel 840マザーボードはTyan製のThunder i840で、CPU、メモリ、チップセット以外のスペックは非常に似通っており、こちらも価格は10万円前後とThunder K7とほぼ同等であると言ってよい。テスト環境は以下の通りだ。

【環境1】
CPUAthlon MP 1.2GHz
(Single/Dual)
、Athlon 1.2
Pentium III 1GHzPentium III 1GHz
(Dual)
マザーボードTyan Thunder K7Intel D815EEAThunder i840
チップセットAMD-760MPIntel815Intel840
メモリPC2100(CL=2.5) PC133 SDRAMDirect RDRAM
メモリ容量256MB
ビデオチップGeForce3(64MB、DDR SDRAM)
ハードディスクIBM DTLA-307030(30GB)
OSWindows 2000+ServicePack1+DirectX 8

 結論から言えば、Athlon MP 1.2GHz(デュアル)はPremiere with Ligosをのぞき、Pentium IIIのデュアル環境を上回った。PremiereではIntelのSIMD拡張命令(SSE)が利用されているが、前回のシングル時でも述べたように、どうもこれらのアプリケーションはAthlon MPのSSEを認識できていないようで、こうした結果となっているようだ。デュアル環境のメリットがもっともよくわかったのはWindows Media Encoder7.1の結果だろう。シングル時に比べて1.5倍近い伸びを見せており、実際に見ていても圧倒的に速いのが見て取れた。最近ではテレビをキャプチャして、PCで見るのが1つの流行となっているが、キャプチャした動画などをほかの形式に変換する機会が多いユーザーにとってデュアル環境は非常にメリットがあると言えるだろう。

Contents Creation
Winstone 2001
64.8
64.2
52.0
54.8
68.2
Athlon MP 1.2GHz
Athlon 1.2GHz
Pentium III 1GHz
Pentium III(Dual)
Athlon MP 1.2GHz(Dual)

【Intel Application Launcher】
eJay/MP3 Plus 1.3 130
130
107
200
224
Premiere with Ligos 109
099
098
290
157
Windows Media Encoder 7.0 109
099
094
150
176
Athlon MP 1.2GHz
Athlon 1.2GHz
Pentium III 1GHz
Pentium III(Dual)
Athlon MP 1.2GHz(Dual)

【Viewperf】
AWadvs-04 60.01
60.30
44.46
58.95
70.53
DRV-07 14.26
14.01
11.19
08.51
10.56
DX-06 29.48
19.87
13.59
15.18
28.53
Light-04 06.90
06.94
04.63
05.64
07.32
MedMCAD-01 24.11
21.84
18.39
21.04
25.88
ProCDRS-03 14.95
14.95
14.45
13.80
14.48
Athlon MP 1.2GHz
Athlon 1.2GHz
Pentium III 1GHz
Pentium III(Dual)
Athlon MP 1.2GHz(Dual)


●3D Studio MAX R3.1のベンチマークではPentium IIIデュアルが上回る

3D Studio MAXの最新版R4
 また、今回はワークステーション環境におけるパフォーマンスを見るために、ディスクリートの3D Studio MAX R3.1( http://www.ktxj.com/max3/index2_maxr3.htm )を利用したベンチマークを行なった。3D Studio MAX R3.1は世界で最もメジャーといってもよいプロフェッショナル3Dグラフィックスソフトウェアで、世界中の3D作成の現場で利用されている。現在は最新バージョンの4.0( http://www.ktxj.com/max3/index_max.htm )が発売されている、3D CGでは定番のアプリケーションだ。

 今回、利用したのはSPEC( http://www.spec.org/ )が公開している「SPECapcSM for 3D Studio MAX R3」で、実際に3D Studio MAX R3.1でスクリプトを実行し、そのパフォーマンスを計測するとというものだ。こちらには、ワークステーション環境ということで、ビデオカードにはQuadro2 MXRを搭載したELSAのSynergy IIIの3D Studio MAX R3.1専用ドライバが付属しており、今回はそちらを利用した。

【環境2】
CPUAthlon MP 1.2GHz
(Single/Dual)
Athlon 1.2
Pentium III 1GHz
(Dual)
マザーボードTyan Thunder K7Thunder i840
チップセットAMD-760MPIntel840
メモリPC2100(CL=2.5)Direct RDRAM
ビデオチップQuadro2 MXR(32MB SDRAM)
ハードディスクIBM DTLA-307030(30GB)
OSWindows NT 4.0+ServicePack4

【各テストの実行時間:単位(秒)】
Athlon MP 1.2GHzPentium III 1GHz
stepping through architectural
scene with smooth shading
8.937 9.469
stepping through architectural
scene with facet shading
16.812 26.797
stepping through architectural
scene with wireframe shading
4.750 4.500
playback architectural scene
in smooth shading
29.828 31.812
playback architectural scene
in facet shading
57.234 57.313
playback architectural scene
in wireframe shading
16.282 15.609
moving table 1 in maximized
viewport for dual planes performance test
7.094 7.171
moving table 2 in maximized
viewport for dual planes performance test
7.094 7.172
moving table 1 in 4 viewports
for dual planes performance test
27.765 27.438
moving table 2 in 4 viewports
for dual planes performance test
27.594 27.312
stepping through juggler scene
with smooth shading
6.938 6.937
stepping through juggler scene
with facet shading
9.515 9.312
stepping through juggler scene
with wireframe shadin
4.625 3.985
playback juggler scene in
smooth shading
5.219 5.328
playback juggler scene in
facet shading
9.844 8.437
playback juggler scene in
wireframe shading
4.563 4.094
stepping through landscape
scene with smooth shading
16.829 16.453
stepping through landscape
scene with facet shading
41.265 34.140
stepping through landscape
scene with wireframe shading
15.344 13.062
playback landscape scene
in smooth shading
33.218 33.063
playback landscape scene
in facet shading
87.640 72.468
playback landscape scene
in wireframe shading
34.422 28.875
adjusting lights17.282 15.984
navigating viewport24.139924.4021
stepping through particle scene
with low particle count
2.719 4.656
stepping through particle scene
with high particle count
59.969 110.281
playback particle scene in
smooth shading
34.406 59.254
playback particle scene in
facet shading
38.813 62.829
playback particle scene in
wireframe shading
32.140 56.359
enlarging grid 122.015 25.578
enlarging grid 2111.719 59.875
displacing grid 116.172 20.203
displacing grid 1175.125 20.422
rendering one frame366.328 313.500
alternatingly selecting 2 objects7.610 6.000
Total running tim2332.800 2568.330

Athlon MP 1.2GHzPentium III 1GHz
Graphicスコア2.53 2.56
CPUスコア1.14 1.38
Overall geometricスコア1.91 2.06

 結果を見ると、このテストではPentium IIIデュアルマシンがAthlon MP 1.2GHzのデュアルを上回った。各テスト項目の実行時間を見ていくと、多くの項目でAthlon MPが上回っているのだが、いくつか圧倒的に時間がかかっている項目があり、これが悪影響を及ぼしているものと考えられる。これがベンチマークのせいなのか、あるいはAthlon MP側の問題なのか、ビデオドライバの問題なのか現時点ではわからない。まだAthlon MPは登場したばかりであり、これからさまざまな評価にもまれていく段階と言える。しかし、現時点ではこのテストに関してはPentium III(デュアル)が上回っているというのが事実だ。


●現時点では総合的に考えてPentium IIIのデュアルマシンを買う方がよいだろう

 以上のような結果から、パフォーマンスの観点からAthlon MPのデュアルマシンは概ね、Pentium III 1GHzのデュアルを上回っていると言っていいだろう。

 しかし、すべてのユーザーにAthlon MPのシステムをお薦めするかと言えば、それはまた別問題だ。今回の筆者のお薦めは、どちらかと言われればPentium IIIのデュアルのシステムの方だ。理由の1つは入手性の問題だ。Pentium III(デュアル)のワークステーションは、デルコンピュータ、コンパックコンピュータ、日本アイ・ビー・エム、NEC、富士通……と多くの大手PCメーカーから発売されおり、入手も容易だ。また、大手PCメーカーならではの保証体制もワークステーションユーザーには魅力であり、この点はIntelが大きく先行している部分であると言える。

 これに対して、AMDはこの分野でスタートしたばかりであり、実績がなく、また大手PCメーカーでの採用例はまだない。もちろん、システムとして保証を受けられなくてもなんとかする自信があるユーザーであれば、Thunder K7とAthlon MPを購入して自分でワークステーションを作ることも可能だろうし、確かにコストパフォーマンスは非常によい。しかし、企業ユーザーレベルではそれを受け入れるのは難しく、そうした意味ではAMDは、よりいっそうの営業努力が求められるだろう。

 一般の自作ユーザーにとっては、現時点ではThunder K7はクライアントマシンとして利用するにはあまりに高価であり、本気で3Dを作成する用途にでも利用しようと考えているユーザー以外にはお薦めできない(そういうユーザーには最適なマザーボードだ)。しかし、Windows Media Encoderの結果を見てわかるように、特に流行りのビデオ録画を行なっているようなエンドユーザーレベルでも十分メリットがある。そうした意味では、SCSIホストアダプタやLAN機能を省略した安価なAMD-760MP搭載マザーボードの登場に期待したいところだ。

□Akiba PC Hotline!関連記事
【6月9日】“Palomino”ことDual対応のAthlon「Athlon MP」が発売に
Dual対応マザーボード登場直後にCPUも、周波数は1.2GHz
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010609/palomino.html
【6月9日】Tyanから初のDual Athlon対応マザー「Thunder K7」が登場
現行ThunderbirdやDuronでもDual動作が可能?
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010609/thunderk7.html
□関連記事
【6月20日】【Hothot】Athlon MPのパフォーマンスを計測する(シングル編)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010620/hotrev114.htm

バックナンバー

(2001年6月29日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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