後藤貴子の 米国ハイテク事情

ブッシュ氏はPentium 4支持? ~高電力消費生活を守るエネルギー政策

●電力危機へのブッシュ氏の回答は電力増産

 Pentium 4とCrusoeのどちらを支持するか? 米国のブッシュ大統領の出した答えはPentium 4だった。なぜかというと、電力大食らいのPentium 4マシンを皆がこぞって使っても問題ないような、電力増産政策を打ち出したからだ。

 この政策は昨年から続くカリフォルニアの電力危機を受けてのもの。だが、明日の危機をどうするというより、もっと長期的な戦略だ。その柱は、これまでの発電やエネルギー資源採掘に関する規制を緩和し、老朽化している送電網も見直すなどして電力供給量を増やすことにある。イノベーションによってエネルギー効率を高め、需要を減らそうという呼びかけもしているが、主眼はやはり供給増。ブッシュ政権は、米国が低電力消費への転換よりも、高電力消費を続けていける途を求めたのだ。

●高電力消費生活は国民の望み

 でも、それも当然だろう。ブッシュ大統領は、米国流ライフスタイルの守護者だからだ。

 米国流ライフスタイル。以前もこのコラムに書いたが、それは安価で十分な電力を使った快適な生活。そして、その根本にあるのは、「自分(たち)の力で、常に今日より快適な生活を手に入れていく」という考えだ。

 もちろん世界中の人間誰もが同じことを思ってはいる。だが、それを他のどの国の人間より具体的に実行してきたのが米国人だ。米国人はネイティブアメリカンを追い払って土地を手に入れ、自然をねじ伏せて農地やハイウェイ網を作ってきた。つまり、もし節電、節電で現在の快適な電化生活を数年前、数十年前の状態に後戻りさせたら、それは米国の歴史の否定にまでつながってしまう。

 むろん、米国には環境問題の活動家は多いし、環境問題や省エネが大切という論には誰もがうなずく。だが、それも余裕があればこそ。快適な生活を削ってまでの環境保護や節電には反対というのが多くの人のホンネだろう。

 実際、停電の続いたカリフォルニアでは州民が経済などの先行きに、より悲観的になったという調査結果もある。これは、これまでのライフスタイルを脅かされたショックのためだろう。こういう意識の変化は、どうでもいいようでいて実はけっこう無視できないものを含んでいる。人々の悲観ムードが本当に経済や政治の勢いをそいでいくことだってありうるからだ。

 だからブッシュ氏が電力増産政策を打ち出すのは米国大統領として当然とも言える。電力を増産するから高電力消費を続けていいよというのは、ライフスタイルを変える必要はないよという、国民への“明るい”メッセージになる。

●国民の意を汲むビアバディ大統領

 しかもこの増産路線は、ブッシュ氏が共和党の大統領であることも大きい。というのも、共和党やそのトップであるブッシュ氏には、もともと、自分からメッセージを打ち出して自分の方向に引っ張っていくというより、国民の意を汲んでそのとおりに動く傾向があるからだ。

 例えば共和党の伝統的経済政策は、企業のしたいままにさせる自由放任主義的傾向が強い。また、トップにも、民主党のゴア氏やクリントン氏のような、メッセージを力強く出すイメージを売るタイプより、ブッシュ氏、ブッシュ父氏、ブッシュ父時代の副大統領クエール氏のような、党にかつがれるタイプが来ることが多い。国民も、そんなキャラクターを買っている。ブッシュ氏がゴア氏に選挙で勝ったのは、「ゴアは説教たれだが、ブッシュはビアバディ(ビール飲み友達)になれるタイプ」と好感を持たれたからと言われている。その点でも、今回のブッシュ氏の政策は国民の期待を裏切らなかったわけだ。

 ブッシュ氏が電力増産に力を入れる理由としてはほかに、エネルギー関連業の強いテキサス出身で、自分自身、石油採掘で財を成したブッシュ家の一員だからとも揶揄されている。また、この夏のカリフォルニアの電力危機は連邦が口を出さない州の問題としていわば捨て置かれたが、これは電力危機の責任を民主党出身のデイビス知事に押しつけることで、同州の民主党離れをねらっているという説もある(カリフォルニアでは大統領選挙のときも民主党が勝った)。どちらもうなづける理由だ。

 さらに、大統領自らスピーチの中で説明していた理由として、米国が政治問題の多い外国の石油に頼るのは国家安全上まずいので、国内資源の利用を増やしたいという側面もある。

●Crusoeブームは一過性か

 が、それはさておき、ではこのブッシュ氏の政策は米国にどのような影響を及ぼすだろうか。

 1月のこのコラムでは、電力危機の影響で、1.米国は電力増産に向かう、2.シリコンバレーの企業は風力・太陽熱などの発電のできる地域に脱出する、3.技術革新での省エネブームが起きると予測した。まず、それを修正したい。

 1.はビンゴだったが、2.は半分当たり、半分はずれになるかもしれない。企業脱出はあるだろうが、規制緩和で火力・原子力の発電がより簡単になることで、風の強い地域や砂漠でなくてもよくなるからだ。もっとも、人口稠密な地域では発電所の建設や資源採掘はなかなか難しいから、やはり電力を武器に企業誘致しやすいのは人口過疎の州。過疎といったって、米国の場合、それなりの規模の都市の回りにガラーンと土地が空いている地域は山ほどあるから、どこにミニシリコンバレーが出来てもおかしくない。

 また、3.の技術革新による省エネは、全国的・長期的なブームにはならないかも。この夏のシリコンバレーでだけは、低消費電力のCrusoeサーバーの導入競争が起きると思う。だが、全国的に見ると他州にはまだ電力の余裕があるうえ、長期的には増産が約束されたから、省エネ技術開発がそれほど盛んになるとは思えない。

●電力が何より優先に

 さて、こうして米国が電力の大量生産・大量消費路線を続けると、次のような変化が起きるかも知れない。

 例えば米国政治の勢力図。電力依存に傾斜がかかるためにエネルギー産業の重要性が増して同産業のロビー力がアップ。すると、このところ政治家がIT産業にすり寄っていたように、エネルギー産業寄りの政治家が増えるだろう。'70年代以来かなりの力を持っていた環境保護団体の政治力は相対的に衰える。もし万が一、次期大統領選にゴア氏が再挑戦したとしても、ブッシュ氏に大敗してしまいそうだ。

 世界政治の勢力図も変わるかも。米国が省エネ第一にならないとコンピュータも省エネ化の流れができない。すると電力のない国はIT化を進められないから、どの国も電力増産に動いてエネルギー産業よりの政治になる。電力を買えない国は発展が望めなくなる。発展途上国にも原発が増え、核兵器拡散の可能性も高まる。ブッシュ氏の政策が世界の動きを変えるというわけだ。

●生活が脅かされるとき、省エネへの動きが

 ただ、米国人が電力増産の上にあぐらをかいてまったく省エネしないかというと、そうでもないだろう。世界中が電力の大量生産を続けると、地球温暖化への影響や大気汚染・放射能事故の危険だって無視できなくなる。すると、それはかえって米国人が望む快適な生活を脅かすものになるからだ。いったん、そう認識すると米国人、特に中流層以上は熱心に政治活動をし始める。たちまち省エネを促す様々なプロポジション(動議)が提出されるようになるかも知れない。

 というわけで、米国のライフスタイルを守るために、ブッシュ氏が省エネ第一を唱える日だって、来るかも知れないのだ。

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【1月23日】後藤貴子の米国ハイテク事情
ハイテクが引き起こしたカリフォルニアの停電
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010123/high19.htm

(2001年6月29日)

[Text by 後藤貴子]


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