元麻布春男の週刊PCホットライン

カノープスMTV1000を試す


●安くなり水準が上がったキャプチャカード

 メモリやハードディスクほどではないにしろ、ここ数年で大きく価格が下がった製品の1つにTVチューナーカードが挙げられる。ビデオデータの転送に耐えるPCIバスの普及は、フィーチャーコネクタのような互換性に問題の生じやすいサイドバンドを不要にしたし、CPU性能の向上はソフトウェア(CPU処理)によるCODEC処理を可能にした。これらにより、TVチューナーカードのハードウェアは極めてシンプル、かつ小型になった。今では、1万円そこそこのTVチューナーカードさえ決して珍しくはない。

 以前は、こうした低価格TVチューナーカードの多くは、あまり使い勝手が良いとは言えなかった。一般に、安価なカードにバンドルされているソフトウェアは、TVデコーダーチップ(キャプチャチップ)ベンダのリファレンスドライバとサンプルアプリケーションに最小限の手を入れたものであることが大半で、お世辞にもデキがいいとは呼べないものが多かったからだ。まぁ動かなくはないけれど、というレベルのものが結構見られたのである。

 だが、こうした状況は、WDMやDirectShowによるTVチューナーデバイスサポートの標準化と、これに対応したInterVideoのWinDVRやCyberLinkのPowerVCR TV Editionといった、汎用性のあるTVチューナーコントロールソフトの登場により、大きく変わりつつある。こうしたソフトは、専門のソフトウェアベンダが作成したものだけに完成度がそれなりに高く、しかるべきCPUと組み合わせれば、ソフトウェアによるリアルタイムMPEG-2キャプチャさえ可能にする。安価なTVチューナーカードだからといって、昔のようにお粗末なことはなくなりつつある。

●MTV1000の特徴は“高画質”

MTV1000
 カノープスのMTV1000は、こうした状況の中に出てきた標準価格49,800円のTVチューナーカードだ。同社は、上で名前の出てきたInter Video製品の発売元であり、実際、WinDVRと安価なTVチューナーカードをバンドルした製品(WinDVR PCI)をラインナップしている。その実売価格は現在1万円台の半ばというところ。MTV1000の実売価格はその2倍を超える。しかし、単純に機能だけを比べた場合、両者の間にそれほど大きな差はない。それどころか、EPGのサポートといった点で、安価なWinDVR PCIの方にむしろアドバンテージがあるかもしれない。

 では、何がMTV1000で差別化のポイントになっているのか。それは言うまでもなく画質だ。カノープスがMTV1000に与えたキャッチフレーズは「画質優先主義」である。その実現のために、回路設計や基板レイアウトの段階から細心の注意を払ったとのことだ。

 もう1つ、MTV1000の高画質のカギであり、実質的に最大の差別化ポイントとなっているのが、Panasonic製のハードウェアMPEG-2エンコーダだ。MTV1000は、同社の上位モデルのオプションとして用意されているのと同じエンコーダチップを標準で採用している。

 誤解して欲しくないのは、ハードウェアエンコーダだから高画質なのではない、ということだ。MPEG-2のエンコードをCPUが処理するか(ソフトウェアエンコード)、ASICで処理するか(ハードウェアエンコード)は、本質的には画質とは関係ない。十分なCPUパワーさえあれば、後はソフトウェアエンコードに用いるCODECと、ハードウェアエンコードに用いるCODECの差が問題であり、両者に差がなければ、画質には差がないハズだ。これはハードウェアデコーダを用いたDVDプレイヤーというソリューションが、PCで陳腐化してしまった(ソフトウェアDVDプレイヤーの再生品質がハードウェアデコーダに見劣りしない)ことと同じ理屈である。

 ただ、現時点でユーザーが保有する平均的なPCのCPUパワーを考慮すると、必ずしもソフトウェアエンコードとハードウェアエンコードで同じレベルのCODEC処理が可能なわけではない。おそらく、現時点ではハードウェアエンコーダを採用した方が、画質の点で優れる、あるいは使い勝手も含めて総合的に有利である、というのがカノープスの判断なのだと思う(もちろん、その代わりにコストに反映するわけだが)。

 そのMTV1000の画質だが、キャプチャしたデータの画質については、さすがに価格相応に優れている。高画質モード(データレートは8Mbps)はもちろんのこと、1/4解像度モード(同2Mbps)まで落としても、現状のソフトウェアエンコーダより、良好な画質を保持する。特に、解像度感で優れるように思う。加えて、もう1つ印象に残ったのは、音が結構良い、ということだ。特に、聴感上のチャンネルセパレーションが良いように感じた。

●TV視聴よりもキャプチャ優先

 一方、やや問題を感じたのは、表示の品質だ。どうやらMTV1000は、単にTVを表示している状態、あるいはキャプチャしたデータを再生する状態において、De-Interlace処理を行なっていない(つまりキャプチャされたデータもインターレースのまま)。したがって、ニュースを読むキャスターのように、動きのないシーンについては極めて高画質である反面、スポーツのように速い動きの含まれるシーンでは、コーミング(フェザリング)が目立つ。

 筆者がテストした、21インチディスプレイで、デスクトップ解像度1,600×1,200ドットという環境だと、デフォルトのウィンドウサイズで表示している分にはそれほど気にならない(よく見るとコーミングが発生しているのが分かる)。が、再生ウィンドウを拡大したり、デスクトップ解像度を1,024×768ドットに落とす(デスクトップに対するデフォルトウィンドウサイズが相対的に大きくなる)と、盛大にコーミングが生じているのが良く分かる。

 これはカノープスによると、解像度の低下を防ぎ、表示フレームレートを一定に保つ上で、回避できなかった、ということである。本来Windows(DirectShow)には、De-Interlace処理を行なうフィルタがあるハズなのだが、MTV1000は、これを利用できないアーキテクチャ(DirectShow非互換)になっているようだ。したがってMTV1000のドライバを組み込んでも、MTV1000のMPEG1/2デコーダを他のアプリケーション、たとえばMedia Playerから呼び出して使うことはできない(DirectShowに準拠しなかった理由は不明だが、MTV1000がビデオのスケーリング機能を持つPhilips製のPCIブリッジを採用していることと無縁ではないかもしれない。標準的なDirectShowアーキテクチャではスケーリングはグラフィックスチップが行なう)。

 結果としてMTV1000は、単にTVを見るのにはあまり向かない、ということになってしまった。が、そうした用途にはWinDVR PCI(間もなくマイナーチェンジしたニューエディションが登場する)を使って欲しい、ということなのだろう。そういう意味ではMTV1000は、「キャプチャ画質優先主義」といえるだろう。

 なお、上述したように、高画質モードでキャプチャしたデータは、インターレースのままのようだ。したがって、MTV1000にバンドルのソフトウェア(Media Cruise)で再生すると、同じようにコーミングが生じる。しかし、大きなMPEG-2ファイルを再生する一般的な環境がソフトウェアDVDプレイヤーであり、ソフトウェアDVDプレイヤーの大半がDe-Interlace機能(ソフトウェアBob等の名称で呼ばれていることが多い)を内蔵していることを考えれば、大きな問題ではないと思う。

コーミングの例
Media Cruiseによる再生 WinDVDによる再生

 むしろ問題なのは、付属のソフトウェアの方かもしれない。表示・再生やキャプチャを行なうMedia Cruiseと、タスクバーに常駐する予約録画ソフトウェアであるTV Managerの連携はもうひとつのように感じるし、キャプチャを重視するのなら、ぜひともEPGのサポートが欲しいところだ(将来のソフトウェアアップデートでサポートされる予定)。TV Mangaer自体は、予約録画時に画面(オーバーレイ)の表示/非表示、サウンド出力の有無(サウンドはキャプチャされるものの、スピーカーから出力されない)が設定できる(家人を驚かせないための配慮か)し、予約録画終了時に自動的にアプリケーションが終了するなど、小技が利いているだけに、惜しまれる。

 というわけでMTV1000は、TV放送、あるいはテープで保管してあるビデオ等のアナログソースを高画質でMPEG-2にリアルタイムキャプチャしたい、という用途には適しているが、漠然とTVを流しておくような用途にはそれほど適していない。というより、TVを流すだけなら1万円そこそこの製品で十分なのであり、わざわざMTV1000を使う必要はない。DVD-RAMドライブや、出始めのDVD-RWドライブと組み合わせて、手軽に(ほとんど無編集で)アナログビデオをデジタルビデオにコンバートする、といった用途に向く製品だ。DVフォーマットのビデオファイルをMPEG-2に変換するコンバータも付属する。TVチューナー機能には、あまりとらわれない方が良いかもしれない。

□カノープスのホームページ
http://www.canopus.co.jp/
□製品情報
http://www.canopus.co.jp/catalog/mtv1000/mtv1000_index.htm
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【5月30日】テレビキャプチャカードの最高峰「カノープス MTV1000」
カノープスこだわりの画質を検証する(AV Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20010530/zooma12.htm

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(2001年6月27日)

[Text by 元麻布春男]


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