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Crusoe TM5800は1GHz版でULV Tualatin 700MHzと同レベルのTDP


●TM5800の駆動電圧は0.9~1.3V

 Transmetaが来週正式発表する新Crusoe「TM5800/TM5500」では、プロセス技術を0.13μmに微細化することにより消費電力が下がる。駆動電圧とキャパシタンス(静電容量)が減るためだ。

ジェームス・チャップマン上席副社長

 Transmetaのジェームス・チャップマン(James N. Chapman)上席副社長(Sales & Marketing)によると、TM5800/5500の熱設計電力(Thermal Design Power)は、5.5W(800MHz時)~7W(1GHz時)だという。これは、現在のCrusoe(TM5600/5400)とほぼ同レベルだ。つまり、既存のCrusoeノートPCとほぼ同様の設計の筺体に、1GHzレベルまでのCPUを入れることができることになる。モバイルCPUでは、B5サイズノートPCにファンレスで入れたり、それ以下のサイズのノートPCに入れることができるTDPは7Wまでと言われている。TM5800は、そのレベルを維持できることになる。

 TDPが減る最大の理由は、駆動電圧が下がることだ。Crusoeの駆動電圧は、現在のTM5600/5400の1.1~1.6V(CMS 4.1xの時)に対して、TM5800は0.9~1.3V(CMS4.2)となる。Crusoeは、LongRunでダイナミックに電圧を切り替えているが、そのトップ電圧が1.3V、ボトムが0.9Vになる。

 ちなみに、同じ0.13μm世代の超低電圧(ULV)Pentium III(Tualatin:テュアラティン) 700MHz版は0.95~1.1Vになると言われている。それと比べると、ピーク性能時の電圧はCrusoeの方が高くなる。しかし、Pentium IIIの方がロジックトランジスタ数が多いため、TDPはULV Tualatin 700MHzで7W程度と、TM5800 1GHzとスペック上は同レベルになる。つまり、同じ熱設計なら、Crusoeの方がより高いクロックのCPUを載せられることになる。ただし、IntelとTransmetaではTDPの基準が異なっており、厳密には同じではない。

 もちろん、Intelも、時間とともにもっと低電圧のCPUを出してくる可能性があり、その場合は800MHz以上へとULV Pentium IIIのクロックを引き上げてくるだろう。だが、TM5800も同様に、より低電圧化が将来可能になる可能性がある。同じクロックだったら、時間とともに駆動電圧を下げてゆくことができるからだ。

●プロセステクノロジで消費電力を低減

 ここで面白いのは、Intelの0.13μmプロセス「P860/P1260」と、Transmetaが使うファウンダリTSMCの低消費電力&高パフォーマンス0.13μmプロセス「CL013LV」の、低消費電力化のアプローチが非常に似ていることだ。両社とも、しきい電圧の異なる2タイプのトランジスタを用意して、低消費電力化を実現する。Intelは今年2月のIDFで、TSMCは今年5月のTSMC Technology Symposiumでこうした技術の概要とCPUへの応用を説明している。

 しきい電圧(Vt)は、低ければトランジスタのスイッチングが速くなりゲートディレイが短くなるという。つまりCPUを高クロック化できる。しかし、その反面、リーク電流は多くなり消費電力が増えてしまうという。そして、0.13μmプロセス以降は、このリーク電流がかなり大きく膨らむと、これまで指摘されてきた。

 そこで、両社とも、しきい電圧が高く遅い代わりにリーク電流が少ないトランジスタと、しきい電圧が低く高速な代わりにリーク電流が多いトランジスタの2種類を用意するという。それも、同じチップ内で2種類のトランジスタを使えるようにする。Intelは、これを利用して、ほとんどの回路は高しきい電圧(350~400mV)デバイスを使い、クリティカルパスにだけ低しきい電圧(250~300mV)デバイスを使うとIDFで説明した。

 それで、どれくらいスピードが違うかというと、TSMCのCL013LVの場合はRO(Ring Oscillator)スピードを公開している。低しきい電圧では駆動電圧(Vcc)が1.2Vの時に11ピコ秒/ゲート、1Vの時に14ピコ秒/ゲート。高しきい電圧では駆動電圧が1.2Vの時に14ピコ秒/ゲート、1Vの時に17ピコ秒/ゲートになるという。これを慎重に組み合わせれば、無駄なリーク電流を発生させずに、高クロック化することが可能になる。おそらく、TransmetaもIntelと同様のことをしていると思われる。こうした技術が、TransmetaがTSMCを選んだ理由だろう。

●ダイサイズは62%に縮小

 TM5800のダイサイズ(半導体本体の面積)は55平方mm。TM5600の88平方mmと比べると62%にシュリンクした。これは、かなり高いシュリンク率だ。その分、1枚のウエーハからより多くのチップが採れる(=製造コストが下がる)。コスト面での競争力は比較的高い。TM5800のダイサイズは、ノースブリッジ機能も含んだ面積で、それを考慮すると0.13μm版VIA C3(Ezra:エズラ)の52平方mmよりも小さいことになる。ただし、Ezraはパッケージングを容易にするために、わざとダイサイズを大きくしている。

 TM5800とTM5500の違いはL2キャッシュの量。TM5800の512KBに対して、TM5500は半分の256KBになっている。昨年9月には、Transmetaの創業者デビッド・R・ディツェル(David R. Ditzel)CTO兼副会長(当時CEO)は、TM5800について「搭載するL2キャッシュの量は512KBに留まるかもしれないし、1MBに上げるかもしれない」と言っていた。結局、512KBに据え置きになったようだ。

 しかし、製造量も少ないTransmetaが、わざわざTM5800とTM5500で、異なるダイ(半導体本体)にするとは考えにくい。そのため、この2チップは同じダイで、TM5500は単純にL2キャッシュを後工程で半分殺したバージョンだと考えられる。これは、どのCPUメーカーでもやることで、IntelのCeleronやAMDのモバイルDuron(Palomino版)はそうした仕様になっている。

●Windows XPのプロセッサドライバ

 ところで、Microsoftは今秋リリースするWindows XPから、OSにCPUの省電力機能のコントロールをするための「プロセッサドライバアーキテクチャ」を採用する。つまり、個々のCPUファミリ毎に異なるCPUドライバをOSに組み込むようにする。このプロセッサドライバに関しては、IntelはMicrosoftと密接に協力していることを明らかにしているほか、AMDのCPUでのインプリメンテーションについても、現在のMicrosoftのデザインノートに記されている。しかし、TransmetaのCrusoeについては、どう対応するのかが明確になっていなかった。

 これについて、Transmetaのチャップマン氏は次のように説明する。「フランクに言って、LongRun自体はプロセッサドライバは必要がない。それは、LongRunはOSとは独立に動くからで、OSやOSに組み込むソフトによってコントロールする必要がない。とはいえ、Microsoftとは非常に密接に協力している。プロセッサドライバでどんなサポートができるかは、やっている」

 これをもう少し説明しよう。CrusoeのLongRunは、CMSが制御を行なう。CMSはOSよりも下のレイヤーで、OSからはCMSを含めたCrusoeがCPUとして見える。そのため、他のCPUのように、OSに組み込んだアプレットによって制御を行なう必要がない。Windows XPのプロセッサドライバは、このアプレットの機能の取り込みを狙ったものだ。そのため、Crusoeの場合には、この仕組みを使わなくてもLongRun自体は機能する。

 ただし、プロセッサドライバを使うと、OSの内部パラメータをCMSがLongRunで利用することも可能になる。そのため、より効率的な省電力制御ができるようになる可能性もある。また、ハードウェアに密着したレイヤHAL (Hardware Abstraction Layer)が担当しているCPU制御、例えば、Cステイト(待機モード)などのコントロールも、ドライバが制御するようになる。そのため、大きな流れで見ると、プロセッサドライバを活用する方向に向かっていると思われる。

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【6月14日】Transmeta、Crusoe Seminar 2001を開催
~0.13μmプロセスのTM5800を国内先行発表~
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010614/crusoe.htm
【6月15日】Crusoeロードマップ & スペック表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/trans/roadmap.htm


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(2001年6月19日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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