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●TSMCの低電圧&高パフォーマンス0.13μmプロセスを採用
TransmetaはCrusoeを今後1年半で3段階進化させる。3つの新CPUの投入と、3世代の新CMS(コードモーフィングソフトウェア)の投入によってだ。その結果、クロックを1GHzに引き上げると同時に、クロック当たりの性能と消費電力あたりの性能を2倍以上にするという。つまり、性能は現在の3倍以上になる。また、市場としては、サーバー市場をいよいよ本格的に狙う。
すでにPC Watchで報じているように、Transmetaは、0.13μm版Crusoe「TM5800」、「TM5500」の概要を、6月14日に開かれたセミナーで明かした。また、同時にCrusoeの今後のロードマップもアップデートした。PC Watchに先週アップしたのが、Transmetaからの情報をベースに作成した同社の2002年末までのロードマップとスペック表だ。
まず、ロードマップは簡単に図式化すると次のようになる。
時期 | 2000年後半 | 2001年後半 | 2002年前半 | 2002年後半 |
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CPU | TM5600 | TM5800 | 256bit Crusoe | |
TM5400 | TM5500 | 統合型Crusoe | ||
CMS | CMS4.1x | CMS4.2 | CMS4.3 | 次世代CMS |
クロック | ~667MHz | ~800MHz | ~1GHz | 1GHz以上? |
プロセス | 0.18μm | 0.13μm | 0.13μm | 0.13μm |
製造 | IBM | TSMC | TSMC | TSMC |
CPUコアは、今年第3四半期にTM5800とTM5500が登場する。アーキテクチャ的には従来のCrusoe(TM5600/5400)から大きな変化はない。最大の違いはプロセス技術で、0.18μmプロセスから0.13μmプロセスに移行する。TM5800は、当面は800MHzまでのクロックが提供される見込み。その後、製造ファウンダリであるTSMCの0.13μmプロセスのイールド(歩留まり)の向上によって、来年前半に1GHzまでクロックを引き上げる予定だ。
これで、Transmetaは0.13μmからはファウンダリを、IBMからTSMCに移行することになる。Transmetaのジェームス・チャップマン(James N. Chapman)上席副社長(Sales & Marketing)は「TSMCが0.13μmでは明確なリーダーだから」と、製造ファウンダリを移行する理由を説明する。
TSMCは、0.13μmプロセスでは、CPU向けに特にパフォーマンスにフォーカスした「CL013HS」、「CL013HS+」プロセスと、ハイパフォーマンスだが消費電力も比較的低い「CL013LV」プロセスの2系列を用意する。Transmetaが採用するのは「LVプロセスの方だ。低消費電力の割りにパフォーマンスの高いLVプロセスがあることも、TSMCを採用した理由のひとつ」とチャップマン氏は語る。ただし、CL013LVには様々なオプションがあり、Transmetaがどんなオプションを採用しているかはわからない。
いずれにせよ、今後、同社はTSMCを使ってゆくと見られる。ちなみに、Transmetaの現在の社長兼CEOであるマーク・アレン(Mark K. Allen)氏は、元NVIDIAの副社長で、製造や運営を担当していた。そして、NVIDIAはTSMCの最大の顧客だ。実際、Transmeta関係者も、現在のTSMCとの関係は、アレン氏がいるからだと指摘する。
●CMSのバージョンアップで性能向上
Transmetaは、CPUコアの進化と平行して、CMSも進化させる。Transmetaは従来のCMS 4.1xから大幅に改良したCMS 4.2をTM5800では使う。
TransmetaのCPUはハードウェアとソフトウェアレイヤーであるCMSで構成されており、命令のデコードやスケジューリングなどはCMSが行なう。そのため、CMSの改良で、性能の向上と消費電力の低減が可能になる。これは不思議ではない。CMSの核はリアルタイムコンパイラのようなシロモノであり、コンパイラ技術者たちはコンパイラの進化だけでコンスタントに性能向上を達成できると言う。
もっとも、TransmetaはCMS 4.2を、TM5800とのカップリングで提供するのではない。本当は、今春から現在のCrusoe(TM5600/TM5400)向けにも提供している。「CMSを4.1xから4.2に替えるだけで、同じTM5600で、DVDソフト再生では再生時間が10%も向上した」とチャップマン氏は語る。実際に、搭載しているノートPCもある。しかし、Transmetaはそれをあまり大きくは謳いたがらないようだ。これは、CMSがソフトであるため、ユーザーがPCメーカーにアップグレードを求める可能性があるためだと、ある関係者は指摘する。PCメーカーとしては、入れ替えに失敗すると起動すらできなくなる場合があるCMSアップグレードは、なかなか提供しにくいという事情がある。
Crusoeは、CMSがコードを変換する際のキャッシュをメインメモリに置くために、従来のCPUアーキテクチャよりも原理的にメモリ帯域が必要となる。そこで、TransmetaはTM5800ではDDR SDRAMの採用を積極的に働きかけているらしい。DDR SDRAMは、当初の予想よりも普及がずいぶん遅れているが、今年後半ならタイミング的に適正だとTransmetaは見る。
Transmetaの創業者デビッド・R・ディツェル(David R. Ditzel)CTO兼副会長によると、新しいTM5800 800MHz+CMS4.2+DDR SDRAMを従来のTM5600 600MHz+CMS4.1+SDRAMと比較した場合、性能は最大48%向上(CPUmark99)するという。CPUのクロックは33%アップで、しかも通常は性能はクロックに比例しては上がらないため、これはかなりの性能向上と言える。
●性能向上と統合化の2方向に分かれるCrusoe
さらに、Transmetaは来年前半にはCMS 4.3をリリースする。CMS 4.3では性能を引き上げると同時に、サーバー向けのセキュリティー機能(暗号化など)も実装するという。この時点で、TM5800のクロックも1GHzに上がるため、性能はさらに上がることになる。
そして、Transmetaは来年後半には、新たに2つのCrusoeを投入する。1つは256bit版Crusoe、もう1つは統合版Crusoeだ。これは、性能を引き上げる方向と、低消費電力化&小型化を進める方向の、2つにCrusoeが分化することを意味している。
一方の256bit版は、CPUコアの命令長を現在の128bitから256bitへと拡張する。このCPUについては、以前このコラム「256bit Crusoeは8命令を同時発行するアーキテクチャに」、「2002年登場の256bit版こそが“真のCrusoe”だ」で解説したが、今のCrusoeとは異なる内部アーキテクチャになる。そして、1サイクルで実行できる命令数(instruction per cycle:IPC)は、従来のCrusoeの2.2命令/サイクル(典型値)から5命令/サイクル以上(典型値)へと跳ね上がる。このことは、同じクロックであっても次世代Crusoeは現在のCrusoeの2倍の性能になるということを意味する。
チャップマン氏は、昨年12月に、この256bit Crusoeは、TDPが3~6.5Wで、ダイサイズは90平方mm以下をターゲットとしていると明かしている。また、今年5月には、ターゲットクロックが1~1.5GHzになると明かした。プロセスは0.13μmでスタートする見込みだが、2003年には、TSMCで0.10μmプロセスの量産が開始される予定(CL010LVは2003年第2四半期)なので、すぐにマイグレーションする可能性が高い。
一方、統合版Crusoeは、現在のCPUコアにさらに機能を統合して、システムオンアチップ(コンピュータシステムをワンチップに集積する)化を目指す。しかし、Crusoeはすでにノースブリッジ機能を統合してしまっている。これについて、ディツェル氏は「まだ取り込む機能については明かせない。しかし、あと残っているのは、サウスブリッジとグラフィックスしかないのだから、それらを取り込むのは、いいアイデアかもしれない。そうすると、残るのはDRAMになるが、これも、もしいつの日か統合すると、ワンチップで完全なコンピュータができることになる」と語る。
ただし、現在の3Dグラフィックスチップの設計はかなり複雑で、簡単には開発できない。ダイサイズも食ってしまう。そのため、Crusoeがグラフィックスコアを自社開発するにしても購入するにしても、取り込むのは比較的低機能なコアになるだろう。つまり、携帯ノートPCやサーバーでは十分だが、それ以上ではないというラインになると思われる。
統合版Crusoeが、この2チップを取り込むと、3チップ→1チップにまとめられることで、全体の消費電力が下がる。Transmetaによると、消費電力は半減するという。また、サーバー製品では、サーバー密度がこのチップで2倍に上がるという。
これらの製品の段階で、CMSも再びバージョンアップする。256bit Crusoeは完全に新しい次世代CMSになる。また、統合版Crusoeも新CMSに変わるという。
□関連記事
【6月14日】Transmeta、Crusoe Seminar 2001を開催
~0.13μmプロセスのTM5800を国内先行発表~
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010614/crusoe.htm
【6月15日】Crusoeロードマップ & スペック表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/trans/roadmap.htm
(2001年6月18日)
[Reported by 後藤 弘茂]