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VIAが0.13μm版「VIA C3プロセッサ」を正式発表
-ただしモバイル向けで800MHz


●Ezraはまずモバイルをターゲットに

 矢継ぎ早にCPUを発表するVIA Technologies社。3月の0.15μm版「VIA C3(Samuel2:サミュエル2)」の発表から1四半期で、今度は“0.13μmトランジスタ”版のVIA C3(Ezra:エズラ)を発表した。

 今回、VIAがアナウンスしたのはEzraのテクノロジと、EzraとSamuel2でラインナップが構成される「VIA C3 Mobile Processor」。つまり、Ezraは、まずモバイルCPUとして発表されたことになる。VIA傘下でC3の開発を担当するCentaur Technology社のC. J. Holthaus氏によると「Ezraは当面はモバイルをターゲットとしており、デスクトップ向けは2~3ヶ月あとになる」という。また、現在アベイラブルなクロックは800MHzで、期待されていた900MHz以上のクロックは今回は登場しなかった。

C3を使った独IBSのフルファンクションPCモジュール。9.6cm×9cmのサイズ μPGAパッケージのC3
 Ezraのスペック(モバイル&デスクトップ)は以下の通り。

製造プロセス:0.13μmトランジスタ
ダイサイズ:52平方mm
クロック:800MHz~1GHz
L1キャッシュ:128KB
L2キャッシュ:64KB
トランジスタ数:1,590万
パッケージ:PGA(モバイル版はEBGA/μPGAも)
ソケット:Socket 370互換
システムバス:100/133MHz
製造:TSMC
量産:モバイル版は量産出荷開始

●Intelの超低電圧版Pentium IIIに匹敵する低消費電力

 モバイル版は、VIA独自の省電力技術「LongHaul(ロングホール)」テクノロジを使うことで、最大25%バッテリ駆動時間を延ばすことが可能だという。また、Intel同様に超低電圧版も提供するという。

 今回、VIAはEzraの消費電力の低さを強調した。例えば、800MHz時の熱設計消費電力(Thermal Design Power:TDP)は、マックス値で8.7W、典型値で5.1Wだという。これは、同クロックのモバイルPentium IIIのマックス27.5W/典型18.2Wと比べて3分の1以下の数値だ。同じC3でも0.15μmだったSamuel2は800MHz時にマックス12W/典型6.6Wとされていたので、プロセス技術の進化で72~77%%程度に消費電力が下がったことになる。

 しかし、Ezraは本来の予定ではSamuel2の1.5Vに対して1.2Vに電圧が下がり、それだけで消費電力は64%程度に減るはずだった。ところが、現在公表されているスペックはそれより高い。これは、最初に登場するEzraが、予定より電圧が高くなっていることを示している。逆を言えば、Ezraはまださらに低消費電力化の余地があることになる。超低電圧版を出すというのは、おそらくそれを見越してのことだろう。

 もっとも、今の段階でもEzraの消費電力は極めて小さい。これは、Centaur TechnologyのCPUコアのトランジスタ数が非常に少なく、TSMCのプロセスのおかげで電圧も低く抑えられていることが影響している。ちなみにEzraの1GHz時はマックス9.7W/典型5.7Wで、モバイルPentium III 1GHzのマックス34W/典型24.8Wよりはるかに少ない。スペック的には、Intelの超低電圧版Pentium III 700MHzと同程度の消費電力となる。

 VIAによると、実際のアプリケーション実行時の平均消費電力もまた少ないという。例えば、バッテリモード時の超低電圧版Pentium III(300MHz/0.975V)では平均消費電力は0.5W程度と発表されているが、Ezraでは同クロックで0.38Wになるという。

 モバイル版C3では、VIAはPGAだけでなく、EBGA(Enhanved Ball Grid Array)とuPGA(Micro Pin Grid Array)でもCPUを提供する。1月の発表では、EBGAは35mm×35mmで約1.5mm厚、368ピンでボールピッチは1.27mm。uPGAは約34mm×約28mmで約3.15mm厚、495ピンでピンピッチは1.27mmとなっていた。こうした薄型小型パッケージでの提供は、C3では必須だ。というのは、低消費電力を売り物にする以上、薄型小型パッケージが要求される薄型軽量ノートPCがターゲットになるからだ。

VIAを率いるWenchi Chen社長兼CEO 発表会にはファウンダリTSMCのFC Tseng社長(中央)とC3のパッケージを開発したASEのJJ Lee副社長(左)も同席した

●VIAが0.13μmレースでわずかに先行

 Ezraの投入で、VIAは、0.13μmを名乗るx86 CPUを初めて発表したメーカーとなった。Intel、Transmeta、VIAの3者で争っていた0.13μm CPUレースは、VIAが一応勝利を収めたことになる。ただし、Intelは6月中にサーバー版の0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)を発表する見込みで、Transmetaも6月下旬には0.13μm版Crusoeである「TM5800」をお披露目すると見られている。つまり、プロセス技術レースでは、差をそれほどつけることができたわけではない。

 また、0.13μmといっても、各社で内容は異なる。例えば、VIAのEzraは0.15μm版のSamuel2とダイサイズ(半導体本体の面積)が変わらない。通常、プロセス技術がシュリンクすると、ダイサイズは小さくなるのだが、Ezraの場合は変わっていないのだ。

 これには理由がある。「それは、Ezraがジオメトリの観点では0.15μmだからだ。トランジスタには0.13μm技術を使い高クロックを達成する。こうした構成にしたのは、(ボンディング)パッドの制約があるからだ。ダイを小さくシュリンクし過ぎると、ボンディングが難しくなるといったことになってしまう」(Holthaus氏)という。

 この説明から推測できるのは、Ezraでは、トランジスタは0.13μm世代だが、配線レイヤーは0.15μm世代のままになっているという可能性だ。実際、Centaur TechnologyのGlenn Henry社長は、1月のPlatform Conferenceの時はEzraを“0.13μmトランジスタのプロセッサ”と表現しており、プレゼンテーションシートでは配線は0.15μmのアルミ配線となっていた。だから、厳密に言うとテクノロジノードとしては0.15μmに分類されるかもしれない。

 もっとも、そうだとしても、現状でCPU性能をもっとも左右する要因はトランジスタ性能であるため、Ezraは十分0.13μm世代の性能を達成できるだろう。また、ダイサイズも、C3のように小さい(Samuel2時点ですでに業界最小)場合にはこれ以上シュリンクする必要性は薄い。さらに、そうした方式ならC3の物理設計の変更もミニマムですむ。ともかく、0.13μm世代という言葉の定義はあいまいで、各社で内容が異なる。

μPGAパッケージの底面 フリップチップ実装になっているμPGAパッケージの表面 PGAパッケージの表面 ファインピッチワイヤボンディングを使ったEBGAパッケージの底面

●モバイルなら勝ち目がある?

 VIAが今回、Ezraの発表でモバイルを先行させた理由のひとつは、おそらく競争上の理由からだ。Ezraの出だしの800MHzというクロックは、デスクトップでは魅力的でもなんでもない。しかし、モバイルCPUとして見た場合には、まだ競争力がある。特に、競争相手が低電圧版や超低電圧版というなら、なおさらだ。Intelの低電圧版Pentium IIIは、Ezraが本格的に登場する時点でもまだ750MHz止まり。クロックだけを見るなら、十分に競争できる。

 アーキテクチャ的に見るなら、Ezraはまだクロック向上の余地がある。VIAは、おそらくステッピングアップして、より高クロックのEzraを投入できるようになった時点で、デスクトップ版も投入するのではないだろうか。ただし、クロックが上がっても、C3が競争力を持つためには、ブランドの認知度を高めるなど、マーケティングの努力がかなり必要となる。

 製造ファウンダリであるTSMCが、プロセス技術のリーダーになったため、VIAのCPUは急激な進化を続けている。これまでを振り返ると、1四半期ごとにCPUの製造プロセスを、0.18μm→0.15μm→0.13μmとステップアップさせたことになる。TSMCのようなファウンダリ専業企業が力をつけるに従って、今後、ファブレス(工場を持たない)CPUメーカーがますます力を強めるだろう。ちなみに、Transmetaも0.13μmからはファウンダリをIBMからTSMCに移す。つまり、TM5800はTSMCで製造される。ファブレスCPUメーカーの時代が、また来るのかもしれない


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(2001年6月6日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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