元麻布春男の週刊PCホットライン

WinHEC 2001に感じる不安


●納得のいかない基調講演

 今回で10回目を迎えるWinHECが、3月26日から始まった。この原稿を書いているのは初日が終わった夜だが、筆者はどうも満たされない気持ちでいっぱいだ。その理由は、おそらく1つではないが、大きな理由の1つは、Microsoftに現在の米国の経済状況に対する危機意識がうかがえなかったことだ。Bill Gates会長兼CSAのキーノートで幕を開けた今回のWinHEC 2001だが、合わせて4人のスピーカー(基調講演者、うち1人はCompaqのMichael Capellas CEO)が登壇したにもかかわらず、論調は基本的に昨年春のWinHEC 2000、つまりはニューエコノミー崩壊前、の延長線上にあるものにしか思えなかった。

 もちろん、WinHECはその名前(Windows Hardware Engineering Conference)が示すように、基本的に技術者向けのイベントであって、Wall Streetのアナリスト向けのイベントではない。しかし、IT産業が現在の米国経済の退潮の犯人扱いされている現状、WinHEC直前の金曜日にもMicron ElectronicsがPC事業からの撤退を表明するという逼迫した状況を考えれば、もっと危機意識があって然るべきなのではないか。参加者の大半を占めるエンジニアといえど、シスコやMotorolaなどかつての優良企業のレイオフのニュースに日常的に接し、不況を自分のものとして、ひしひしと感じているに違いない。IT産業のカリスマの1人であるGates会長なら、ひょっとすると現状打開の処方箋を書いてくれるのではないか、と期待した参加者もいたのではないかと思う(多忙なGates会長は、キーノートが終わると、シリコンバレーにオープンした開発センターの開所式に出席するため移動したようだ)。


●Microsoftに感じる違和感と活気のないプレスルーム

 だが実際に語られたのは、「.NET」の重要な構成要素の1つでもあるWindows XPのベータ2リリースが始まること(WinHEC参加者には2日目の午後、CD-ROMが配布されると発表された)、Comdexで構想が明らかにされたTablet PCの試作機のお披露目、といったこと。処方箋どころか、現状に対する問題意識もあまり感じられなかった(これを超強気と感じるか、鈍感と感じるかは、人によって違うのかもしれないが……)。少なくとも先月開催されたIDFにおいてIntelは、鮮やかなまでの変わり身を見せた。それが念頭にあっただけに、余計に違和感を感じたのかもしれない。

閑散としたプレスルーム
 これがMicrosoftが大企業病に犯された証拠でなければ良いと思うし、そうでないことを祈るばかりだが、筆者は最近Microsoftとその周囲に、ある種のズレが生じているような気がしてならない。それを端的に示しているのが、今回のWinHECのプレスルームの様子だ。空間ばかりが目につき、以前紹介したIDFのプレスルームの写真(あれでも、昨年夏に比べると取材者は減っている)と比べると、部屋の大きさの違いはあるものの、差は歴然としている。

 以前は、WinHECのプレスルームは大勢の取材者で熱気に包まれていた。たまたまプレスルームを訪れたMicrosoftの担当者が、取材者につかまり、テーブルでの熱心な議論に巻き込まれている様子を何度も目にしたし、Carl Stork氏(現Windows Hardware Strategy担当ジェネラルマネージャ、これまでハードウェア技術のエバンゲリストとして、WinHECを支えてきた1人)が時間はずれになってようやくプレスルームに積まれたランチボックスにありつく様を目撃したりもした(筆者など、Microsoftのエライ人もわれわれと同じ昼食を食べるのか、と感心した? ものだ)。

 残念ながらそうした熱気は今はない。こうした傾向は'98年、Orlandoで開かれたWinHECあたりから顕著になりだしたように思う。これがMicrosoftあるいはMicrosoft製品の成熟による不可避なものならやむを得ないが、まだイノベーションは終わっていないハズだ。少なくともMicrosoftはそう確信しているだろうし、まだ語るべきことが残されているに違いない。われわれ取材する側にとっては、聞くべき話がまだあるハズなのである。

 その観点から考えても、今回のWinHECは期待に応えてくれそうにない。.NETやHailStormといったソフトウェア技術の話が多くなるのは、(たとえ直接ハードウェアにかかわらなくても)しょうがないとしても、問題は.NETの時代に求められる具体的なハードウェアのビジョンがMicrosoftから示されないことだ(繰り返すが、ここで開かれているのはPDCではなく、HECである)。


●Microsoftの対応が待たれる数々のハードウェア

 WinHECで予定されているセッションを見ていくと、さまざまな要素技術(もちろんハードウェア関連)に触れたものもちゃんと用意されていることに気づく。しかし、その多くはサードパーティによるもので、必ずしもその技術に対するMicrosoftの立場が明らかでないことも多い。もっと言えば、どんな技術がいつ、どのような形でWindowsによりサポートされるのか、そのロードマップが知りたいのである。

 世の中にはMicrosoftのサポートを待つ技術が沢山ある。USB 2.0、Serial ATA(基本的には既存のATAとソフトウェア互換だが、ホットプラグだけはサポートが必要になる)、InfiniBand、AMDのマルチプロセッサシステム(AMD-760MPプラットフォーム)などはその一例に過ぎない。こうした技術が、どのプラットフォームでいつサポートされるのか、どのような形でサポートされるのか分からなければ、ハードウェア開発者は困ってしまうだろう。筆者が知りたいのもまさにそこである。


●雲行きのあやしいMicrosoftとIntel

「Intel」のロゴが入ったミネラルウォーター
 もう1つ今回のWinHECで思うのは、Intelのプレゼンスの小ささだ。2日目のキーノートにIntel副社長にしてCTOのPat Gelsinger氏が予定されているし、展示会にもIntelブースは存在する(内容はIDFの縮小版という感じで目新しさはないが)。会場で配布するミネラルウォーターのスポンサーにもなっているのだが、個別の技術セッションにIntelの名前がどうも見当たらない。目立つのは、AMD、VIA、NVIDIAといった、Intelの直接のライバルの名前だ。

 確かにIntelは、自前のカンファレンス(IDF)を1ヶ月前に開いたばかり。繰り返す必要はないのかもしれない。逆に、IDFには参加しない(あるいは「できない」)競合会社が技術を披露する場としてWinHECを利用する、という行き方も「アリ」だと思う。ただ、ここ数年あまり、MicrosoftとIntelは比較的仲が良かっただけに、それもそろそろ終わりなのか、と感じた次第だ(両社の仲はくっついたり、離れたりを繰り返すが、本当の意味で蜜月の関係になったことはないと思う)。


□間連記事
【3月8日】元麻布春男の週刊PCホットライン
興味深く感じたキーノートと余談
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010308/hot134.htm

(2001年3月28日)

[Text by 元麻布春男]


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