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IntelがMcKinleyのデモを公開



●3つのOSをMcKinleyワークステーション上で動かす

ポール・オッテリーニExecutive Vice President, General Manager, Intel Architecture Group
 次世代Itaniumプロセッサ「McKinley(マッキンリ)」がついにベールを脱いだ。2月26日から米サンノゼで開催されているIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」で、McKinleyの動作デモが行なわれたのだ。McKinleyの登場で、Intelの新アーキテクチャIA-64は、ようやく本格離陸のポイントが見えてきた。

 McKinleyのデモは、IDFの直前に完成したA0ステップチップを使ったもの。Intelのポール・オッテリーニ氏(Executive Vice President, General Manager, Intel Architecture Group)のキースピーチの中で、実際にMcKinleyワークステーション上でOSやアプリケーションを動作させるデモが行なわれた。動作したOSは、64bit版Windows(Whistler:ウイスラ)、64bit版Linux、HP-UXの3つ。A0ステップでアプリケーションレベルの動作デモを行なうことで、シリコンの順調な立ち上がりを印象づけた。

 McKinleyは、現在OEMへのサンプル出荷準備が進行中で、今年末までにパイロットリリース、来年プラットフォームリリース、つまり搭載マシンの正式出荷が行なわれる予定だという。99年の春のIDFで、IntelはMcKinleyのスケジュールについて、サンプル出荷が2000年の遅く、量産出荷が2001年遅くのスケジュールと説明していたので、多少の遅れはあるがほぼ予定通りに進んでいる。

 McKinleyの技術的な側面については、まだ詳細は明らかになっていない。現在明らかになっているのは、Mercedより実行ユニット数が増え、システムバスの帯域が3倍(6.4GB/secと見られる)になったこと、Mercedでは外付けだったL3キャッシュ(前回のレポートでL2とあるのはL3の間違い)がOn-Dieになったこと、Merced用ソフトウェアとの互換性があることなど。こうした情報は、すでに'98年の「Microprocessor Forum」に公開されており、現時点ではほとんど新情報がない。より詳しい情報は、IDF最終日のキーノートスピーチ待ちとなっている。

 ただし、今回のIDFで公開されたMcKinleyシステムの情報からは、多少のスペックがわかる。まず、McKinley用チップセットIntel 870のシステムバスは従来通り4プロセッサまでのシェアード型で、CPUコントローラチップ「SNC(Scalable Node Controller)」に接続される。CPUのクロックはまだ公開されていない。しかし、IntelはMcKinleyのクロックについて「1GHz+」がターゲットとしていたので、クロックはPentium 4より低いはずだ。消費電力は多い。IDFのセッションでのMcKinleyシステムのサーマルデザインを見ると、消費電力はプロセッサダイで130W、VRM(Voltage Regulator Module)が約32Wとなっている。Pentium 4と比べてもかなり多い。


●登場前に存在意義を失ってしまったMerced

McKinleyを解説するプレゼンテーションシート。新情報はほとんどない
 McKinleyの順調な滑り出しは、しかし、初代Itaniumプロセッサ「Merced(マーセド)」の後退を際だたせる結果となった。オッテリーニ氏によると、Mercedは今年第2四半期にプラットフォームリリースを行なうという。つまり、Mercedシステムの正式な登場の前に、その次のチップのシリコンを公開するという、交錯した状況になってしまったわけだ。また、MercedとMcKinleyの間は、わずか1年程度に縮まってしまったことになる。製品サイクルがPCほど短くはないサーバー&ワークステーションの世界で、1年後に後継プロセッサが登場するということは、製品寿命がほとんどないことを意味する。

 そのため、今回のMcKinley登場で、Mercedの製品としての意義は限りなく薄れてしまった。MercedはIA-64アーキテクチャへの移行の助走のためのパイロット製品に近い。もっとも、それだけでもIntelにとってMercedの意義は大きい。というのは、命令セットが全く異なるIA-64への移行は、難事業であり時間がかかるからだ。移植を進ませるためには実際のプロセッサが必要で、そう考えるとMercedの存在は重要だ。また、MercedとMcKinleyでは、コードの互換性は保たれている。

 ただし、McKinleyでは実行ユニットなどが拡張されているため、互換性は保たれているとはいえ、最適化となると話は異なる。つまり、McKinleyはMerced用にコンパイルされたコードを実行できるが、McKinleyの真のパフォーマンスは、McKinley用にコンパイルされたコードでないと発揮できないと思われる。リソースが違ってくるので、プレディケーション(Predication)をどれだけやるかといった、最適化アプローチが異なってくるためだ。

 ただし、McKinleyの寿命もそれほど長くはない。というのは、McKinleyは0.18μmプロセスで登場するからだ。McKinleyが登場するときには、Pentium IIIもPentium 4も0.13μm版が登場している。もちろん、McKinleyの0.13μm版「Madison(マディソン)」と「Deerfield(ディアフィールド)」の開発も平行して進んでいるはずで、それらが登場したら、McKinleyは置き換えられてしまうだろう。もっとも、McKinleyと後継プロセッサではバスに互換性があるため、簡単にマイグレートはできるという。


●Tualatinの前倒しはない

McKinleyのデモ風景。左のマシンがLinux、中央のマシンがWindows、右のマシンがHP-UX
 オッテリーニ氏は、McKinleyだけでなく、IA-32プロセッサのサーバー&ワークステーション向け製品の今後の計画も明らかにした。それによると、まずPentium III Xeonの大容量(2MB)L2キャッシュ版が、まず第1四半期中に登場する。次に、Pentium 4のサーバー&ワークステーション版である「Foster(フォスタ)」が、第2四半期中に登場する。OEMメーカーによると、最初に登場するFosterは、256KBのL2キャッシュしか搭載しない実質的にPentium 4と変わらないバージョンでデュアルプロセッサまでの対応となるという。大容量L3キャッシュ搭載版のマルチプロセッサ対応Fosterの登場は第4四半期までずれ込みそうだ。

 このほか、オッテリーニ氏はモバイル製品のスケジュール概要も明らかにした。詳細は、笠原氏がレポートする予定だが、それによると、0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)の登場は今年後半だという。そのため、先週伝えた、Tualatinが前倒しになるという可能性は薄いと見られる。情報が交錯して申し訳ないが、現在のIntelのロードマップは流動性が高く、変化の兆候を的確につかむのは難しい。


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(2001年2月28日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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