後藤貴子の 米国ハイテク事情

米不景気の元凶はPC!?

●PCがストップをかけた米経済

 米国の突然の景気後退、その原因はPCにある。えっ、この間まで、米国ではPCは売れに売れ、ドットコム株暴落以降も好景気は続いていたのに? そこには、“ニューエコノミー”という名のバブルと、その根本的な問題がある。

 ニューエコノミーはインターネットという新しい市場への期待で生まれた。米国家庭に爆発的にPCが普及したためにインターネット人口がどんどん増え、この新市場の発展に期待をかける企業がどんどんIT化を進め、ITに投資した。この動きが新しいインターネットサービスを生み、PCとインターネットのユーザーをさらに増やすことにつながった。

 ところが昨秋、この上昇スパイラルの元にあるホームPCの売れ行きがぴたっと止まってしまった。ニュースで報じられているとおり、本来PCの売上が集中するはずのクリスマスシーズンがまったく振るわなかったのだ。

 しかも、この売れ行き不振は一時的なものではない可能性が高い。なぜなら、PCは欲しい人にはもうすっかり行き渡ってしまい、飽和状態かもしれないからだ。

 そもそも米国でこの2年間、PCが爆発的に売れたのは、超低価格路線で初めてのユーザーの掘り起こしが進んだからだ。どのくらい低価格かというと、例えば小売価格799ドルのPCが、メーカーのキャッシュバック100ドル、特定ISPとの契約によるキャッシュバック400ドルといった値引きによって実質300ドル以下になってしまった。小売価格499ドルのPCならほぼタダだ。米国では“299ドル”という価格が、新しい家電製品が突然売れ始めるマジックナンバーだと言われるが、PCはまさにその価格帯に突入、それでPC購買層が一気に広がったというわけだ。

 だが、それでPCが電話やTV並みに普及しただろうか。全然そうではない。2000年第4四半期をすぎて明らかになったのは、どんなに価格が安くても、PCはある一定以上売れず、頑としてPCを買わない人たちが、人口の半数近くもいるということだ。扱いが煩わしい、必要性を感じないなど、理由はいろいろあるだろう。でも、PCが劇的に変わらなければこの人々を取り込むことはできず、インターネット普及率も電話やTV並みにはならない。インターネットが100%普及しなければ、ニューエコノミーで思い描かれていたような画期的な新市場は生まれない。

 ということは、PCのおかげで拡大した米国経済は、PCのせいで相当長く停滞する可能性もあるわけだ。

●PC中心主義を説くMicrosoft、Intel

 Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CSAやIntelのクレイグ・バレット社長兼CEOは、「大丈夫、PCは変わる」と言っている。1月に行なわれた家電メーカーのイベントCESでのスピーチでは2人とも、PCは家庭のインフォメーション家電(IA)のハブとなり、今までより拡張した使い方をされるようになると説いた。言いたかったのは、そのためには、より高機能・高性能のPCが必要だということだ。

 しかし、PCが家庭のインフォメーションセンターになるというのは、半分は本当としても半分はウソだ。

 たしかに、PCの便利さを知ったユーザーが、もう一段リッチな体験を求めて、高機能・高性能なPCを買い換え・買い増しする可能性はある。今のところ、IAはどれも決定的なモデルに欠けているから、PCがハブにならなければというのもわかる。買い換えが進めば、PC市場はもう一度潤い、米国の景気にもよい影響を与えるかも知れない。

 しかし、激安PCにも目を向けなかった人々が高価格PCに手を出す可能性が、そんなにあるだろうか。それに、激安に惹かれて初めてPCに手を出したユーザも、ほとんどの場合、突然リッチなPC体験の必要性に目覚めるようなことはないだろう。

 結局、PC中心主義ではこれ以上のインターネットの普及は望めない。ということは、長期的に見れば、脱PCしなければ米経済は飛躍できないのだ。

 MicrosoftやIntelがCESでゲーム機のXBoxやWebタブレット&チャットパッドなど、PC以外の製品も展示したのは、実はこのことがわかっているからだろう。

●脱PC=インターネット100%接続時代の覇者は?

 ただし、こうした機器も、消費者が選んで買うスタイルでは爆発的な普及はありえない。TVを買い換えに行ったら、どのTVもデジタルTVでインターネット接続機能やHDDがついていて、ほかに選びようもない。だから、適当なTVを買ってCATVと契約したら、それでもう双方向ができるとかいう状況にならなければダメだ。でも、そういうビジネスモデルが取られるようになる日もそのうち、例えば5、6年後とかには来るかも知れない。

 もしかすると、PCが経済発展の足枷だという認識が高まり、家電メーカーやCATV企業などがロビー活動でもして、米政府に政策の変換を迫るようになるかもしれない。例えば学校や図書館にPCをというのをやめて、別のIAを入れさせるとか、IAの普及のために補助金を出させるとか。そうすれば、やはり脱PCインターネット時代の到来は早まるかも知れない。PCはビジネス用、研究・勉強用などに広く残るだろうが、家庭のインターネット接続の主役ではなくなるのだ。

 しかし、その時代には米国企業、米国経済だけが圧倒的優位に立つことはなくなるかも知れない。

 まず、MicrosoftやIntelのようなPC時代の覇者の企業は、脱PCをにらんだ製品も出し始めているとはいえ、PCも存続させながらという二股をかけているぶん、力がそがれ、競争に敗れる可能性もある。そして、PCのスタンダードを握る米国より家電メーカーの強い日本のほうが有利になり、景気が盛り返すという可能性もある。

 もっとも、日本ではPCの使い方を覚えることがデジタル時代への対応のように見られているが、脱PC時代には、そんな考えは一気にまた時代遅れになってしまう。気持ちの切り替えや決断の下し方の早い米国のほうが、やっぱり時代に素早く対応して、「ニュー“ニューエコノミー”」を創れるのかも知れない。

(2001年2月20日)

[Text by 後藤貴子]


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