Platform Conferenceレポート

Platform Conference基調講演レポート
-- x86-64は「デジタル進化論」に基づく正常進化だ

会場となったSilicon Valley Conference Center
会場:Silicon Valley Conference Center

会期:1月23、24日(現地時間)



 Platform ConferenceはPCコンポーネント関連のメーカーを集めたカンファレンスで、エンジニアなどを対象にPCコンポーネントの最新トレンドを紹介するイベントだ。今回のカンファレンスにも、メモリチップベンダ、チップセットベンダなどPCコンポーネントに関連するベンダが集まっており、小さいながらも要注目のイベントとなっている。初日である23日はAMD、Elpida、Centaur Technologyによる基調講演が行なわれたほか、数多くのセッションが行なわれ注目を集めた。


●x86-64は「デジタル進化論」に基づく正常進化だ

AMD CPG(Computation Product Group)ディビジョンマーケティングマネージャ ボブ・ミットン氏
 基調講演の最初に立ったのはAMDのCPG(Computation Product Group)ディビジョンマーケティングマネージャのボブ・ミットン氏で、同氏は「Digital Darwinism」(デジタル進化論)と名付けられた講演を行なった。ミットン氏は「競争はイノベーション(革新)を生み出すが、その成功したイノベーションはすべてこれまでの知的資産やインフラに基づくものだ」とのべ、IT業界における進化はこれまでの資産を発展させていくものであるべきだと語った。ミットン氏は「当社のx86-64、成功を収めたx86の資産やインフラを継承していく。ユーザーはこれまでと同じOSやアプリケーションを利用できるし、開発者はこれまで長年蓄積してきたx86に関するノウハウを有効に活用することができるというメリットがある」とのべ、同社が2002年に導入を予定している64ビット命令セットであるx86-64がこれまでのx86の資産を継承していくものであることを強調した。


ミットン氏の講演で利用されたスライド。Hammerに関する説明だが、基本的には昨年秋に公開された内容と同じ
 これは言うまでもなく、IntelのIA-64を意識したものだ。IntelのIA-64は形式上はx86互換を維持しているが、Intel側もこれをx86アプリケーションを実行するためというよりは、例えばSCSIカード上にあるBIOS(x86を対象にコードが書かれている)を実行するためなどと位置づけており、事実上全く新しいアーキテクチャと言ってよい。ただ、現時点のIA-64のアーキテクチャに基づくItaniumはデータセンターサーバーといった大規模サーバーでの利用を想定しており、そうした用途にx86互換が本当に意味のあることなのかという点に関しては議論の余地がある。そうした企業ユーザーでは、パフォーマンスがトッププライオリティとなっている。そこではx86互換かどうかはあまり意味を持っておらず、パフォーマンスがでるのであればアーキテクチャに対するこだわりは少ないと言える。

 そうした意味ではx86-64のパフォーマンスに関しては気になるところだが、ミットン氏は「x86-64をサポートするHammerファミリーのCPUでは、我々がAthlonで築いている性能面でのリードを確実にしていく。Hammerではパイプラインに改良を加えることで2GHzのクロックを実現するが、単にクロックだけでなく命令セットなどアーキテクチャ面でも性能向上を図っていく」と述べ、Hammerの性能がクロックだけでなく、アーキテクチャ面での改良を含めて向上していくと述べた。



●「DRAM市場は今後も成長していく」とエルピーダメモリの犬飼氏

エルピーダメモリ取締役の犬飼英守氏
 引き続き壇上にたったのはエルピーダメモリ取締役の犬飼英守氏だ。エルピーダメモリは一昨年に、NECと日立により設立されたDRAMに関する合弁会社(当初はNEC日立メモリ)で、昨年の9月にエルピーダメモリと社名が変更された新しいメモリデバイスメーカーだ。

 犬飼氏はエルピーダメモリに関する説明を行なった後で、DRAMのトレンドを説明した。それによれば、「2005年のDRAM市場構造は大きく変わっていく。2000年にはデスクトップPCの割合が6割近い市場構造となっているが、2005年にはサーバー/ワークステーション、家電、ネットワーク機器などの割合が増えていく」と今後家電や携帯電話などに代表されるネットワーク機器へのDRAMの搭載量が増えると述べ、「今後は家電やネットワーク機器などにも対応するDRAMを生産することがキーになる。これらに対応するためには、高いバンド幅、低いレイテンシ、低電力という3つの条件を満たすことが重要だ」と述べ、今後より高密度で、高帯域、低レイテンシで低電圧なDRAMを作っていくことが重要であるという見通しを明らかにした。

 具体的には、チップ容量は2001年の半ばあたりから512Mbitを、2004年の半ばから1Gbitをという予測を示し、消費電力も次世代DDR SDRAMである“DDR II”以降では1.8V駆動も実現される、と述べるなどなど、今後より高密度/高帯域/低電圧化などが進んでいくことに言及した。

DRAMの密度に関する予測のスライド。2001年の半ばあたりから512Mbitを、2004年の半ばから1Gbitと進化していく 各容量のチップにおける電圧。DDR IIでは1.8Vもサポートされるようになる エルピーダメモリのメモリチップ開発ロードマップ


●Samuel2のベンチマーク結果も公開したCentaurのヘンリー氏

Centaur Technology社長のグレン・ヘンリー氏。いつも斜に構えた講演はエンジニアに人気

 基調講演の一番最後に登場したがCentaur Technology社長であるグレン・ヘンリー氏だ。Centaur TechnologyはVIA Technology向けのCPUを開発している会社で、既にVIA Technologiesから出荷されているCyrix IIIは同社のCPUコアであるSamuel1(CentaurでのコードネームはC5A)に基づく製品だ。

 ヘンリー氏はお得意のやや斜に構えたトークを展開し「我々のコンペティターは1.5GHzというクロックのCPUを出している。しかし、私の家族でこれを必要としているものはない。例えば簡単な文書しか作らない妻には240MHzのWinChip3で十分だし、それなりに重たい文章を作る私にはCyrix IIIの600MHzで十分だ。まぁ私の息子はゲームもするのでもうすこし速いCPUが必要みたいだが、それでも1.5GHzは必要ではないよ」と述べ、会場の笑いを誘っていた。「我々はコスト面でのリーダシップを獲得すべくCPUを設計している」と述べ、同社のCPU開発のターゲットが「コスト」であることを改めて強調した。その後、ヘンリー氏は同社のCPUコアロードマップについて語った(こちらに関しては後藤弘茂氏のレポートに詳しいので、そちら参照してほしい)。


ヘンリー氏の家族がどのCPUを必要としているかを示すスライド。ヘンリー家ではPentium4 1.5Gzは全く必要ないとのことだ 「Intelがお金を出してIntelがコントロールしているベンチマークなど信頼がおけるか!」とヘンリー氏  Winstone 99の結果。Samuel2 600MHz(Cyrix III 600A MHz)とCeleron/600MHzを比較している。果たして、実際にはどうなることやら?

 さらに、ベンチマークについてふれ、「ベンチマークに関して言っておきたいことがある。我々が信じているのは(Ziff-Davis,Inc.の)Winstone99とOffice Benchだ。これらはいずれも信頼がおけるベンチマークと言えるが、ほかは駄目だね。なぜなら、単にCPUに命令を実行させるだけの実世界を反映していないものだったり、何よりもIntelのお金で開発されているものだったりするからね」と述べ、やはり会場の笑いを誘っていた。

 なお、ヘンリー氏はSamuel2のパフォーマンスについて同社で計測した結果に関しても明らかにした。Winstone99の結果で、Samuel2は同クロックのCeleronを上回った。以前、AKIBA PC Hotline HotHotレビューでもふれたように、Samuel1ベースのCyrix IIIはWinstone 99などで同クロックのCeleronを大幅に下回っており、残念ながらパフォーマンスではあまり見るべきものはなかった。今回の結果が製品でも実現されるのであれば、すくなくともビジネスアプリケーションを使う限りはさほど差が無くなる可能性が高い。

 ただし、今回の基調講演では浮動小数点演算を利用するアプリケーションのベンチマーク結果は公開されなかった。Cyrix IIIの浮動小数点演算はビジネスアプリケーションの場合に比べてさらにCeleronに劣る結果となっていたが、公開しなかったところを見るとSamuel2でもあまり変わっていない可能性が高いといえる(基本的にSamuel2はSamuel1にL2キャッシュを追加しただけなので、おそらくほとんど変わらないだろう)。なお、VIA Technologiesの関係者によれば、Samuel2ベースのCyrix IIIの出荷は第1四半期中が予想されているという。

□関連記事
Platform 2000レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/link/pform00_i.htm

(2001年1月25日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.