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番外編:VIA Technologies Cyrix III日本最速レビュー
~Cyrix IIIはバリューPC市場で選択肢となりうるか?~



 VIA TechnologiesはCOMPUTEX TAIPEIの会場で、同社のバリューPC向けCPUであるCyrix IIIを再度発表した。2月のCeBIT2000で発表されたCyrix IIIは、昨年VIAがNational Semiconductorより買収した、Cyrixが開発していた開発コードネームJoshua(ジョシュア)で知られるCPUコアを採用していた。ところが、今回の再発表では、そのCPUコアがJoshuaから、同じく昨年VIAがIDTから買収したCentaur DesignがWinChip4ないしはWinChip5として開発していた開発コードネームSamuel1(サミュエルワン)に変更されていた。今回は、このSamuel1コアを使用したCyrix IIIの製品サンプルを入手したので、レビューしてみよう。


●JoshuaからSamuelへ変更された2つの理由

 VIA TechnologiesがCyrix IIIのCPUコアをJoshuaからSamuel1へと変更した理由は2つある。1つは表向きの理由で、Joshuaのクロックが、現在のバリューPCで必要とされているクロックにふさわしいものではなくなってしまったのだ。Joshuaの最高クロックはPR533で、これは実クロックではない。「PR」と最初についていることからわかるように、これはP-Ratingという指標を意味しており、他社(具体的にはIntel)のCPUだとどのクロックのCPUと同等かということを指し示すものだ(PR533の実クロックは133×3の400MHz)。これは、元々Joshuaが同じクロックのCeleronよりも高い処理能力を持つため、実クロックで表記すると単にクロックの数字が低いというだけで、処理能力も低いととられてしまうために考え出された指標だ。しかし、実際にはその指標の根拠はビジネス系アプリケーションを利用したアプリケーションベンチマークであるBusiness Winstone 99に基づいた値であり、浮動小数点演算系のパフォーマンスはなんら数値には反映されておらず、実際の性能を反映したものではないのでは? という疑問の声も少なくなかった。

 そこで、Samuel1ではPR表記をやめ、実クロック表記にしている。しかも、クロックも667MHz~500MHzの間にいくつかの製品があるというように、現状のバリューPC市場における最低線をクリアしている。バリューPC市場のメインの顧客であるコンシューマユーザー、特に初心者層が重視しているのは、実際のパフォーマンスではなくクロックの数字であるというのは、多くのPCメーカー関係者が口を揃えるところだ。であれば、VIAがわかりにくいJoshuaをやめ、Samuel1に変更したというのも理解できる。

 しかしながら、実際にはもう1つの理由が存在している。VIAが決して明らかにしない非公式の理由だが、実は旧Cyrixの開発チームは機能していないという。VIAに近い情報筋によれば、Cyrixのチームからは開発責任者を含め多くの関係者が抜けてしまい、開発は全くストップ状態なのだという。このため、Joshuaの次の製品なども全く見込みが立っておらず、実際には登場しない可能性が高いという。となると、VIAは「Cyrix」というブランドネームを買っただけになり、実に高い買い物だったということになるだろう。今後はテキサス州にあるCentaur Designの開発チームが、Samuel1の後継であるSamuel2(サミュエルツー、開発コードネーム)、Ezra(エズラ、開発コードネーム、システムバスが133MHzのDDR、つまり266MHzになる)と開発を続けていくようだ。


●BIOSの対応はしていたほうがよいが必須ではない

 Samuel1のCyrix IIIのスペックは次のようになっている。

【VIA Technologies Cyrix IIIプロセッサ】
 システムバス:P6バス(100/133MHz)
 L1キャッシュ:128KB
 L2キャッシュ:なし
 拡張命令:エンハンスド3DNow!テクノロジ、MMX
 製造プロセス:0.18μm、76mm2
 パッケージ:370ピンCPGA(Socket 370)

 CPUとしては、IntelのCeleron(0.18μmプロセスのCoppermine-128K、0.25μmプロセスのMendocino)互換になっており、基本的にはCeleronさえ動けば動作する。VIA Technologiesによると、Socket 370マザーボードであれば動作するということで、特にマザーボード側でCyrix IIIに対応している必要はないようだ。ただし、BIOSのバージョンが古い場合には、起動時のPOST画面で「Cyrix III」ではなく、「Celeron」と表示される。しかし、このままでもとりあえずは動作はするようだ。例えば、今回筆者が入手したCyrix III 533MHzをASUSTeK COMPUTERのP3V4Xに挿してみたところ、BIOSのバージョンが「Ver. 1003 03/15/2000」の場合、「Celeron 533MHz」と表示された。しかし、BIOSを最新の「Ver. 1005 06/15/2000」にバージョンアップしたところ、「Cyrix III 533MHz」と表示されるようになった(ただし、パフォーマンスなどは特に変化がない)。また、Soltek COMPUTERのSL-65KVで「VIA Samuel」と表示されるなど、対応はマザーボードメーカーによって異なっているようだ。

P3VXでは、BIOSアップデート前はCeleronと表示される SL-65KVでは、VIA Samuelと表示される

 対応するチップセットだが、VIA Technologiesの資料によると、当然のことながらVIAのチップセットであるApollo Pro133A、ProSavage PM133などに対応しているほか、Intel、ALi、SiSといった他社のチップセットにも対応しているという。そこで、133MHzのシステムバスをサポートしているIntel 810E搭載マザーボードに挿してみたところ、無事動作した。また、最新のIntelチップセットで、やはり133MHzのシステムバスをサポートしているIntel 815搭載のABIT COMPUTER SL6に挿してみたところ、やはり問題なく動作した(こちらは「VIA Samuel」と表示された)。さらに、ソケット変換アダプタ(Slot1からPGA370へ変換するアダプタ)を利用して、Slot1のマザーボードでも利用することができた。しかも、このソケットは「Cyrix III対応」とかかれたものである必要はなく、単なるFC-PGA対応のアダプタで問題なく動作した(なお、FC-PGA未対応のアダプタでも動作した)。こうしたことから考えて、互換性はかなり高そうだといっていいだろう。


●Business Winstone 99や3Dの結果ではCeleron 400MHz相当

 Cyrix IIIの性能を計測するために、本コーナーでCPU評価に利用している7つのテスト(Business Winstone99、High-End Winstone99、CPUmark99、FPU WinMark、3DMark99 MAX、CPU 3DMark、MultimediaMark)を行なった(各テストの詳細に関してはバックナンバーを参照していただきたい)。なお、テストに利用したマザーボードは、チップセットにVIAのApollo Pro133Aを採用したASUSTeK COMPUTERのP3V4Xだ。

 結論からいえば、どのベンチマークでもCeleron 533MHzには遠く及ばないという結果になった。まず、ビジネスアプリケーションを利用する環境におけるパフォーマンスを検証するBusiness Winstone 99だが、Celeron 533MHzが28.6であるのに対して、Cyrix III 533MHzは26.3と下回っている。この26.3というスコアは、Celeron 400MHzの26.1とほぼ同等であり仮にCyrix III 533MHzをP-Ratingを利用して表記すれば「Cyrix III PR400」ということになる。L2キャッシュの性能が大きな影響を与えるCPUmark99に関してはCeleron 533MHzの37.4に比べて25.8と大幅に劣っており、やはりこれはL2キャッシュがないためだと考えることができるだろう。こうした2つのベンチマークの結果から、整数演算系の性能に関してはCeleronには及ばず、アプリケーションレベルではCeleron 400MHz相当と考えることができる。

 浮動小数点演算の性能が影響するHigh-End Winstone 99の性能は、Celeron 533の23.6に比べて、Cyrix III 533MHzはかなり低い15.8という数字しか残していない。さらに、一般的な浮動小数点演算能力を計測するFPU WinMarkの性能は、884とあまりに低くCeleron 333MHzの1,780にも遠く及ばない。ただし、3Dにおける描画性能を計測する3DMark99 MAXの2つのテスト(3DMark、CPU 3DMark)に関しては、AMDの拡張命令である3DNow!テクノロジに対応しているため、2,169とCeleron 400MHz相当の数値を出している。それでも、インターネット・ストリーミングSIMD拡張命令には対応していないCeleron 533MHzの2,850には全く届いておらず、3DNow!に対応していることでなんとか補っているというところだ。なお、3DNow!に対応していないMultimediaMark99では、507とCeleron 333MHzの781にも及ばない結果となっている。

【動作環境】
マザーボード:
 Cyrix III:ASUSTeK COMPUTER P3V4X
 Celeron:ABIT COMPUTER BE6
 K6-2:FREEWAY FW-TI5VGF
メモリ:PC133 SDRAM(プロセッサバスが133MHzのPentium III)
    PC100 SDRAM(それ以外、Celeronでは66MHzで駆動)
HDD:WesternDigital AC14300(4.3GB、Winstone以外、日本語Windows 98 SE)
   WesternDigital AC29100(9.1GB、Winstone、英語版Windows NT 4.0+SP4)
ビデオカード:カノープス SPECTRA5400 Premium Edition(RIVA TNT2 Ultra、32MB)

Business Winstone 99High-End Winstone 99
Cyrix III 533MHz26.3 15.8
Celeron 533MHz(0.18)28.6 23.5
Celeron 533MHz28.8 23.6
Celeron 500MHz28.3 23.2
Celeron 466MHz27.9 22.8
Celeron 433MHz27.2 21.8
Celeron 400MHz26.1 21.0
Celeron 366MHz25.2 20.1
Celeron 333MHz24.1 19.1
K6-2/55027.6 21.4
K6-2/50026.9 21.1
K6-2/45026.1 20.2
K6-2/40025.3 19.3
K6-2/35024.1 18.3
K6-2/30023.1 16.9

CPUmark 99FPU WinMark
Cyrix III 533MHz25.8  884
Celeron 533MHz(0.18)37.4 2,840
Celeron 533MHz37.4 2,850
Celeron 500MHz35.9 2,680
Celeron 466MHz34.2 2,500
Celeron 433MHz32.5 2,320
Celeron 400MHz30.7 2,140
Celeron 366MHz28.8 1,960
Celeron 333MHz26.7 1,780
K6-2/55033.5 1,820
K6-2/50032.2 1,660
K6-2/45030.8 1,490
K6-2/40029.9 1,330
K6-2/35027.7 1,170
K6-2/30024.6  999

3DMark99 Max3D CPUMarkMultimediaMark 99
Cyrix III 533MHz2,169 3,409  507
Celeron 533MHz(0.18)4,385 7,081 1,399
Celeron 533MHz3,839 4,557 1,138
Celeron 500MHz3,702 4,373 1,088
Celeron 466MHz3,555 4,142 1,028
Celeron 433MHz3,403 3,936  968
Celeron 400MHz3,229 3,705  906
Celeron 366MHz3,055 3,473  847
Celeron 333MHz2,838 3,180  781
K6-2/5503,781 6,877 1,011
K6-2/5003,601 6,466  949
K6-2/4503,385 6,154  875
K6-2/4003,240 5,745  796
K6-2/3502,951 5,298  716
K6-2/3002,718 4,786  632


●自作市場では難しいが、コンシューマ市場では値段次第でチャンスがある

 以上のように、Cyrix III 533MHzはベンチマークのうち半数のテスト(ビジネスアプリケーションと3Dアプリケーション)で、Celeron 400MHz相当のパフォーマンスであり、Celeron 400MHz相当のCPUという評価が妥当なところだろう(それでも、一般的な浮動小数点演算能力が低いことを考えると、異論がでることもあると思うが)。気になる値段は、VIA Technologiesの関係者によれば価格は533MHzで70ドル(約7,700円)前後、500MHzで50ドル(約5,500円)前後となっており、先週末時点でのCeleron 400MHzの最低価格が7,700円(AKIBA PC Hotline!編集部調べ)であることを考えると、実に微妙だ。ただ、IntelのCPUはこの値段になると消えていくことが多いので、より低価格でPCを自作したいというユーザーであれば、有望な選択肢になる可能性はある。

 しかしながら、OEM市場に関してはCyrix IIIにはチャンスがあると言える。というのも、多くのPCメーカー担当者が口をそろえて指摘するように、コンシューマ市場において多くのユーザーはベンチマークの結果よりも、クロックの数字を重視する傾向にあるという。ならば、実クロックで「533MHz」ないしは「500MHz」であり、同クロックのCeleronよりも圧倒的に安価であるCyrix IIIにも、Celeronの代替えという観点から意味があると言える。現在、大手PCベンダの10万円以下PCには、AMDのK6-2が採用されている。そのK6-2は550MHzで打ち止めになっており、今後さらに高クロック版のK6-2が登場しない可能性が高いことを考えると、Cyrix IIIにもチャンスはないわけではない。仮に、Cyrix III 600MHzを早期に出荷できるようであれば、ハイエンドはPentium III、ミッドレンジはCeleron、ローエンドはCyrix IIIでという3つのCPUを、1つの同じPGA370(Socket 370)マザーボードで実現できるわけで、PCメーカーにとって魅力的な存在となる可能性はある。そうしたOEM市場に食い込めるかどうかが、VIAの手腕に期待したところだ。

□関連記事
【6月6日】VIA、128KBのL1キャッシュ搭載のCyrix III発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000606/via.htm

バックナンバー

(2000年6月21日)

[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp