短期集中連載

MPEG-2 TVチューナ内蔵キャプチャカードレビュー
導入編:MPEG-2のエンコード方式とTV録画機能


 最近秋葉原などで、TVチューナを内蔵し、MPEG-2でキャプチャできる製品が多数発売されています。しかしキャプチャという性質上、カタログに書いてあるスペックだけでは比較できないのが現実です。そこで、PC Watchではチューナを内蔵し、MPEG-2でTV放送をキャプチャできる製品のレビューを全3回でお送りします。なお、レビュー時には実際にキャプチャした動画の掲載も予定しています。
 第1回は、MPEG-2エンコードの方式と、TV録画機能を解説します。(編集部)


●大流行のTV受信・録画製品

エスケイネット
WinTV PVR USB
 最近、TVチューナとビデオキャプチャ機能を搭載し、PC上でTV視聴・録画を行なえる製品が人気を集めている。PCIカード形式のTVチューナカードや、USBに接続するボックスタイプの製品だ。この種の製品は、実はPCがまだそれほど普及していない頃から存在していたが、現在のように多くのユーザーが注目するようになったのは、PCの歴史の中でも今回が初めてだろう。

 注目を集めるようになったのにはいくつかの理由が考えられるが、やはりソニー「VAIO」をはじめとした市販PCで、この種のAV機能を搭載する製品が増加したことが大きいのではないだろうか。実は筆者もすでに旧型となってしまったが、「VAIO PCV-R63KTV7」を所有しており、地上波のTV録画にはもっぱらこれを使用している。自分で持っているから言うわけでもないが、こうした機能は実感として、非常に使いやすいものだ。iEPGによる録画予約や巻き戻しや頭出しといったテープメディアでは避けられない操作が不要になるという基本的なメリットだけを考えてみても、旧来のTV録画スタイルとは段違いに優れた使い勝手といえる。まさに「一度使うとやめられない」状態である。

 もちろん、単に使いやすいというだけでは不充分だ。たとえ使いやすくても、録画時の画質が悪いのでは魅力も半減してしまうからだ。VAIOのように高価なチップを搭載した専用設計ハードはともかく、安価に購入できる増設カード形式のTV録画製品がこれまであまり人気を集めることがなかったのは、画質、とりわけ録画を行なった際の画質があまり良くなかったというのが大きな原因の1つだ。しかしこの点に関しても、最近の製品では大幅に改善されている。記録時のフォーマットとして、高圧縮率と高画質をバランスよく両立したMPEG-2フォーマットが利用できるようになったためだ。

 そこで今回は、こうしたTV視聴・録画製品のうち、特にMPEG-2フォーマットで録画可能な製品に的を絞って、製品紹介を行なうことにしよう。取り上げる製品については、以下のような条件に従ってリストアップを行なっている。

  ・Windows環境で動作する製品であること
  ・TVチューナを内蔵(搭載)し、単体でTV放送の受信が可能であること
  ・TV放送を録画し、後から再生できること
  ・TV放送の予約録画が可能であること
  ・録画時のフレームサイズはVGA(640×480ピクセル)以上であること
  ・録画時のフォーマットにはMPEG-2(またはその類似)が用いられること

 これらの条件はいずれも、最近の人気製品ではほぼ常識的にサポートされている。むしろ、現状これらの条件を満足しない製品は、HDD容量やパフォーマンスに不安があるノートPC向けや、ビデオ編集やビデオCD作成用など録画視聴以外の用途など特定用途向けと言ってよく、一般向けとしては魅力が薄い。つまりこれらの条件は、もはやTV視聴・録画製品の常識なのである。なお、レビューは第2回以降に予定しているので、期待して頂きたい。

【表:今回紹介する製品の一覧】
NEC SmartVision Pro USB
エスケイネット WinTV PVR USB
ATI ALL-IN-WONDER RADEON
アイ・オー・データ機器 GV-BCTV4/USB
NEC SmartVision Pro2
エスケイネット WinTV PVR PCI


●ソフトとハード、2種類の方式があるMPEG-2エンコーダ

 ビデオキャプチャにおける圧縮フォーマットにはさまざまな種類がある。それらの中でもとりわけMPEG-2は、画質と圧縮率という相反する条件をかなりの高レベルでバランスさせることに成功したフォーマットといえるだろう。DVDビデオ、BS/CSデジタル放送、D-VHS方式デジタルビデオなど、MPEG-2技術が応用されている製品の多さをみても、このフォーマットの有用性がわかるだろう。

 にもかかわらず、これまでPCでMPEG-2キャプチャ製品があまり登場していなかったのは、MPEG-2のエンコードアルゴリズムが複雑で、これを実装するには多大なコストがかかっていたことが原因だ。MPEG-2では、ビデオCDに使われるMPEG-1などと同様、動画フレーム中の前後フレーム間の画像から相関関係を利用してデータ圧縮を行なう。つまりMPEG-2のエンコードを行なうには、これら相関関係を持つフレーム同士で動き検出を行なうために前後数フレームの画像を保持しつづける必要がある。処理しなければならないデータも多い。

 DVD用など、実際の再生時間の数倍の時間をかけてゆっくりとエンコードすることができる場合ならともかく、TV放送を録画する場合などのように、リアルタイムでエンコードしなければならない場合、専用のハードウェアが不可欠であった。しかもそのハードウェアはきわめて高価であり、この点こそが、これまで安価なMPEG-2キャプチャカードが登場していなかった最大の原因だ。

図1:MPEG-2のフレーム間相関を示す模式図。MPEG-2動画は、I/B/Pという3つのピクチャから構成される。Iピクチャは単体で独立したピクチャだが、Pピクチャは1つ前のIピクチャからの相関を持ち、またBピクチャは前後のIまたはPピクチャからの相関を持っている

 これらの問題を解決したのが、低価格ハードウェアエンコーダとMPEG-2ソフトウェアエンコーダの存在だ。前者は、もっぱらオーサリング用途向けなど高価な存在であったMPEG-2ハードウェアエンコーダを、デコード機能を省略したり、オーサリング向けにしか使わないようなパラメータ設定を簡略化するなどして低価格化を図ったものだ。対してソフトウェアエンコーダは、MMXやSSEといったマルチメディア機能が強化された最近のCPU能力を最大限に活用することで、ソフトウェアのみでMPEG-2のリアルタイムエンコードを可能にしたものだ。今回紹介する製品でもこのいずれかの方式で低価格にMPEG-2リアルタイムエンコーダを搭載しており、720×480ピクセル/29.97fpsという、いわゆる「フルサイズ/フルモーション」のキャプチャを実現している。

 ハードウェアエンコード方式では、キャプチャ時、すでにエンコードが終わった圧縮済みのデータが転送される。そのため転送速度が遅いUSB接続の外付けユニットでも利用可能というメリットを持つ。もちろんエンコードにはCPUが使用されるわけではないので、CPUパワーが低いPCでも安定した利用が可能だ。コマ落ち等、不安定要因が少ない点も大きなメリットといえるだろう。その反面、ソフトウェア方式に比較するとどうしても製品は高価になる傾向がある。

 ただハードウェアエンコーダだからといって、常にCPU負荷が軽いとは限らない。なぜならこの方式では、キャプチャされたデータはMPEG-2形式でPCに転送されるため、これを画面上に表示するにはデコードする必要があるからだ。MPEG-2デコードはエンコードよりも負荷が軽く、また仮に高い負荷がかかった場合でも再生画像がぎくしゃくするだけで、録画データにまで影響が及ぶことはない。とはいえ、快適に視聴するためには、どうしてもある程度のCPUパワーは必要となるということだ。

 PCIカードタイプのキャプチャカードでは、この問題を解消するために、MPEG-2エンコードされる前の「生データ」をグラフィックカードにオーバーレイするという方法がある。しかしこれには、そのように設計されたハードウェアが必要であり、すべての製品で可能というわけではない。また後述する「スリップ再生」を行なう場合には、いずれにしろHDDに記録されたMPEG-2ファイルを再生することになるため、やはりある程度のCPUパフォーマンスが必要だ。VAIOの場合、エンコードとデコードを同時に実行可能なMPEG-2ハードウェアコーデックを搭載するため、スリップ再生時の負荷もそう高くはならないのだが、今回紹介した製品でここまでの機能を搭載したものはない。

 ソフトウェアエンコーダを使った製品では、MPEG-2エンコードをCPUが行なうためにシステム全体の負荷は非常に高い。満足のいく画質でキャプチャを行なうには、最低でもPentium III 700MHz程度のパフォーマンスは必要だ。また一部のエンコーダは、Pentium III のSSE命令を用いる場合があり、この命令に対応していないAthlon/Duron系のCPUでは不利になる場合もある。またスリップ再生中は、MPEG-2のエンコードとデコードが同時に実行される。そのため、負荷は非常に高く、よほど高性能なハードウェアでない限りは、スムーズな動作は難しい。

 とはいえCPUパフォーマンスやHDD速度など、マシンのポテンシャルが十分に高い場合においては、ハードウェア方式との画質差は少ない。それどころか、ハードウェアエンコーダではサポート外となるような高bitレートでのMPEG-2エンコードも行なえる。またキャプチャ用ハードウェアはMPEG-2専用ではなく、汎用の安価な製品であるため、たとえばAll-in-Wonder RADEONが実現しているような、MPEG-2以外でのキャプチャができるというメリットもある。たとえば編集に向くようなフレーム間相関のないフォーマットも利用できるわけだ。現在のところはまだ製品が存在しないが、原理からいえば、アナログでキャプチャしてDVフォーマットでリアルタイムエンコードする、といったこともソフトウェア次第では可能なわけで、安価でかつ自由度の高い製品が得られるというメリットがある。

 とはいえ現実にそういった製品が存在しない以上、これは机上の空論にすぎない。非圧縮キャプチャなど編集を前提としたフォーマットでもキャプチャできる、といった点を除けば、少なくともTV視聴・録画という目的において、ソフトウェアエンコード方式がハードウェア方式を上回る点はほとんどない。低価格である点や、付属ソフトの使い勝手や付加機能といった部分に価値を見出すのでない限りは、やはりハードウェアエンコーダを搭載した製品の方が圧倒的に有利だ。


●使い勝手を向上させる機能

 ビデオデッキで録画された放送は、多くの場合、本放送に比べると画質が劣化する。にもかかわらずビデオデッキがここまで各家庭に普及したのは、一度録画した番組を何度でもみることができる「繰り返し視聴」や、TVが放送されている時間とは異なる時間に放送を視聴することができる「タイムシフト」など、リアルタイムでのTV放送視聴にはない便利な機能が利用できたからだ。「レンタルビデオ」や「市販ビデオソフト」といった、既存ソフトの存在も無視できない。

 では、PCによるTV視聴・録画の優れている点はどこにあるだろう。冒頭で述べたように、ディスクメディアへの記録なのでテープのように巻き戻し作業などがいらないというのも、たしかにメリットだ。だがこれだけの点では、従来のビデオデッキによる録画スタイルから脱却するには魅力が乏しい。こうした原動力となるのが、多くのソフトで利用可能な「スリップ再生」と「EPGによる録画予約」という2つの機能の存在であろう。

 スリップ再生とは、現在受信中のTV放送を常時一時ファイルに記録しつづけることで、放送内容をユーザーが一時停止したり巻き戻したりしても放送内容が失われないようにする機能のことだ。もちろん、一時停止を解除すれば現在放送されているリアルタイムの放送に瞬時に戻ることができるし、倍速再生などでリアルタイムの放送に「追いつく」こともできる。またこのスリップ再生と同様の機能として、ある番組を録画しつつ、録画済の別ファイルを再生する「録再同時実行」機能も多くの製品で利用できる。

 ここで筆者がいうスリップ再生という機能は、製品によっては「タイムシフト機能」などと呼ばれている場合が多い。ただ「タイムシフト機能」という呼び方は、これまでビデオデッキが持っていた、本放送とはまったく別の時間に内容を視聴する、という意味で従来から使われてきた言葉だ。たしかに、リアルタイム放送とはわずかながら時間をずらして再生しているわけで、ミクロな目でみればタイムシフトと呼べないこともない。とはいえ、PCでいう「タイムシフト」とAV機器でいう「タイムシフト」とで意味するところが違うというのもまぎらわしい。そこでここでは、あえて両者を区別するために「スリップ再生」と呼ぶことにする。

 実際のところ、この機能の呼び方には各社とも悩みがあるようだ。たとえばソニーではVAIOの場合は「スリップ再生」と呼んでいるが、ハードディスクレコーダー「SVR-715」では「追いかけ再生」あるいは「新世代タイムシフト」、ビクターのHDD内蔵ビデオ「HM-HDS1」では「時間差再生」などといった具合。ビデオテープデッキを製品ラインアップにもち、そのメリットとして「タイムシフト機能」を標榜していたAV機器メーカーにとって、同じ「タイムシフト」という呼び名は使うわけにはいかないのであろう。

 ランダムアクセスが可能なハードディスクに録画するPCにとって、こうしたスリップ再生機能を実現するのは一見すると容易なことに思える。だが、実際には想像以上に負荷が高いようだ。なぜならスリップ再生中は、HDDへの記録と読み出しが同時に行なわれるため、HDDの入出力、特にシークへの負担はかなり大きい。さらにスリップ再生中の画像は、一時ファイルに記録されたMPEG-2であるため、CPUはこのMPEG-2をデコードしながら再生しなければならない。ハードウェアエンコーダを搭載した製品であっても、再生時はソフトデコードであるし、ましてソフトウェアエンコード方式の製品では、このうえにMPEG-2エンコードも加わるのである。CPUとHDDにとっては、非常に厳しい条件だ。

図2:スリップ再生の動作原理。MPEG-2エンコードとデコード、HDDへの書き込みと読み出しが同時に行なわれるので負荷が高い

 もう1つの便利な機能である「EPG」は、電子番組ガイドの名前が示すように、PC上でデータとして表示される番組表のことだ。新聞やTV情報誌などを参照しなくても放送のタイムテーブルが参照できるという機能で、特に録画予約を行なうときに有効な機能である。この機能は、市販のテレビなどでもごく一部の機種に備わっているし、また今月から本放送が始まったBSデジタル放送などでもEPG機能が標準で利用できる。

 問題は番組表のデータをどこから取得しているかであるが、これには2通りの方法がある。テレビ朝日系列のTV局でデータ放送として送出されている情報を用いる「ADAMS-EPG」と、インターネット上で番組データを入手できる「iEPG」方式である。ともに情報料は無料であり、特にADAMS-EPG方式では、地上波データ放送を使っている関係から、BitcastなどEPG以外の地上波データ放送、あるいは文字多重放送なども利用できる。Bitcastとは、地上波データ放送を利用したプッシュ型の情報配信で、ちょうどWebブラウザでみるような画面が表示されるものだ。テレビ電波と同時に放送されているため、たとえばテレビドラマであれば出演者のプロフィールなど、番組に連動した情報が発信されているのがポイントだ。BSデジタル放送のような双方向性はないとはいえ、データ放送のはしりとも言える存在だろう。

図3:Bitcastブラウザの画面。Webブラウザ風の情報表示が得られるが、時間に応じて情報が更新されるのが特徴。なおテレビ朝日系列以外でも、EPG以外のデータ放送は行なわれている(TV画面ははめこみ合成による)

 ただ、ADAMS-EPGによるプログラムガイドは、テレビ朝日系列でかつデータ放送を行なっている放送局が受信できなければ利用できない。そうした局がない地域や、データ放送を再送信しないCATVで受信している場合には利用できないという欠点を持っている。またデータが放送される時間帯は一日に十数回とあらかじめ決められており、その時間帯にPCの電源を入れておかなければならないのも難点だ。

 対してiEPG方式は、インターネット接続で基本的に24時間いつでも情報を得ることができる。とはいえ、アクセスするたびにインターネットへの接続が必要となるため、通信コストは必要だ。CATVやフレッツISDNなど、インターネット常時接続環境が実現しているのであればiEPGが便利であるが、そうでない場合にはADAMS-EPGの方が経済的である。

図4:TVガイドホームページでの、iEPG番組表。対応したシステムでは「予約」アイコンをクリックすることで録画予約が行なえる

(2000年12月25日)

[Reported by 天野 司]


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