三度目の挑戦が実るか?
PowerVR Series3ベースの「KYRO」が登場!



 古くからPCでゲームをプレイしていた人なら、PowerVRという言葉に聞き覚えがあるだろう。'96年に登場した初代PowerVR、'99年末に登場した2代目PowerVR Series2ともに、市場には出たものの、互換性の低さなどがネックとなり、普及には至らなかった。しかし、PowerVRの開発はそこで終わったわけではない。PowerVR Series2からほぼ1年後、PowerVR Series3ベースの「KYRO」を搭載したビデオカードが秋葉原に登場した。アーキテクチャとしては先進的なPowerVRだが、KYROの性能はどの程度なのだろうか? 早速検証してみよう。


●KYROとは?

 競争の激しいビデオチップ業界において、市場で支持され続けることは難しい。現在は、NVIDIAをATI TechnologiesやMatrox、3dfxが追うという構図になっているが、性能的にNVIDIAに太刀打ちできているのは、ATI Technologiesくらいだ。また、古くからビデオチップを製造していたS3がビデオチップ分野をVIA Technologiesに売却し、3dfxもビジネスモデルをビデオチップ専業ベンダーに戻すことを発表するなど、業界再編の動きが相次いでいる。

KYRO(STG4000)
 ST Microelectronicsから登場したKYRO(STG4000)は、PowerVR Series3ベースのビデオチップである。PowerVRは、NECとVideoLogic(現Imagination Technologies)が共同開発した3D描画アクセラレータのアーキテクチャであり、独自の隠面処理アルゴリズムを採用していることが特徴である。隠面処理とは、物体を描画するときに視点から見えない部分(陰となる部分)を消去する処理である。隠面処理を行なわないと、向こうが透けて見えてしまう(いわゆるワイヤーフレーム表示)。通常のビデオチップでは、画面のすべてのピクセルに対するテクスチャを作成してから、Zバッファ(奥行き方向の値を保持するバッファ)を利用して隠面処理を行なう仕組みになっている。しかし、PowerVRアーキテクチャでは、画面を細かな部分(タイル)に分割し、そのタイルの隠面処理をビデオチップに内蔵されているZバッファを用いて行ない、見えている部分だけのテクスチャ作成をおこなう。そのため、外部にZバッファを必要とせず、無駄なテクスチャデータの転送がないので、ビデオメモリのバンド幅を有効に使えることがメリットである。タイルに分割してレンダリングをおこなうというアプローチは、3dfxに買収されたGigaPixelのGP-1テクノロジでも採用されており、当時としてはかなり先進的なものであった。

 初代PowerVR(PCX1/PCX2)は、初代VoodooGraphicsと同様に、3D描画機能しか持たない3Dアクセラレータであり、2D描画用のビデオカードと組み合わせて利用する必要があった。ビデオカードとの相性問題がかなりシビアであったことや、3D描画APIとして独自のSGL(Super Graphics Library)とDirect3Dをサポートしていたが、Direct3Dへの対応が不完全であり、アプリケーションによってはうまく動作しないといった問題があった。いくつかのベンダー(NECやメルコ、Matroxなど)から製品が登場したものの、結局主流とならずに消えていった。

 PowerVRアーキテクチャの第2世代であるPowerVR Series2は、セガの家庭用ゲーム機「Dreamcast」で採用され話題を呼んだが、PowerVR Series2ベースのPC用ビデオカードはなかなか登場しなかった。'99年末近くになってようやく、PowerVR Series2ベースのPowerVR 250を搭載したVideo LogicのNeon 250が登場した。PowerVR 250は、2D描画機能も備えていたが、発表から登場までに時間がかかりすぎたため、2D描画性能/3D描画性能ともに当時の水準に達せず、Direct3Dに対する互換性が低いこともあって、すぐに消えていってしまった。

 その後しばらくは、PowerVRが話題にのぼることはなかったのだが、2000年6月5日、COMPUTEX TAIPEI 2000の開幕にあわせてST MicroelectronicsがPowerVRアーキテクチャの最新版であるPowerVR Series3ベースのKYROを発表した。KYROは、2D/3D描画機能を備えたビデオチップであり、ドットクロック270MHzのRAMDACを内蔵している。


●秋葉原に登場した初のKYRO搭載ビデオカード「EVIL KYRO」

 COMPUTEX TAIPEIでの説明員によると、KYRO搭載ビデオカードは、2000年第3四半期に登場する予定とのことであった。当初の予定よりやや遅れたが、11月中旬に、秋葉原にKYRO搭載ビデオカード「EVIL KYRO」が登場した。EVIL KYROは、PowerColorブランドで知られるC.P. Technologyの製品であり、ビデオメモリ64MB搭載版と32MB搭載版が流通している。EVIL KYROは、ビデオカードとしては非常にシンプルな作りで、出力端子もアナログRGB端子のみとなっている(パッケージやマニュアルの表記によると、コンポジット出力端子とS-Video端子が追加されている製品もあるようだ)。ビデオメモリ64MB搭載版では、ビデオメモリとしてM.tecの64Mbitチップ「TBS6416B4E-7G」が8個、ビデオメモリ32MB搭載版では、Winbondの64Mbitチップ「W986432AH-6」が4個実装されている。

 KYRO(STG4000)には、ファン付きのヒートシンクが装着されているが、ヒートシンクは小さめであり、発熱量もそれほど大きくないと予想される。また、ビデオカード上に2組のジャンパが用意されており、その設定によって、AGP 2XモードとAGP 4Xモードを切り替えるようになっている。'99年末に登場した、Savage2000搭載ビデオカード「Viper II Z200」(ダイヤモンドマルチメディア製)にも同様なジャンパがあったが、最近では珍しい。

 CD-ROMが2枚付属しており、1枚にはドライバとDVDプレーヤー「WinDVD 2000」が、もう1枚にはゲームソフトの「TEST DRIVE5」が収録されている。

KYRO搭載ビデオカード「EVIL KYRO」のビデオメモリ64MB版 KYRO搭載ビデオカード「EVIL KYRO」のビデオメモリ32MB版 この2組のジャンパによって、AGP 2XモードとAGP 4Xモードを切り替える(出荷時の設定はAGP 4Xモード)


●2D性能/3D性能ともに十分通用し、特に32bitカラーモードでの描画能力は高い

 それでは、早速ベンチマークテストを行なってみることにしよう。EVIL KYROは、ビデオメモリ64MB搭載版でも14,000~16,000円程度、ビデオメモリ32MB搭載版では12,000~13,000円程度で販売されており、ビデオカードとしては比較的低価格である。そこで、比較対照用として、同程度の価格で販売されているGeForce2 MX搭載ビデオカード(SUMA PLATINUM GF2 MX TwinView)とMillennium G450(32MB DDR版)を用意した(ビデオドライバはWebサイトで提供されている最新版を利用)。

【テスト環境】
CPU:PentiumIII 750MHz
マザーボード:ASUSTeK CUSL2(Intel 815Eチップセット)
メモリ:PC100 SDRAM 128MB(CL=2)
HDD:IBM DTLA-307020
OS:Windows 98 SE+DirectX 7.0a

【ビデオドライバのバージョン】
EVIL KYRO 4.12.01.1544-1.00.02.0163
GeForce2 MX 4.12.01.0634
Millennium G450 4.12.01.1700

(1)2D描画性能

 2D描画性能の計測には、Ziff-Davis,Inc.のWinBench99 Version 1.1に含まれるBusiness Graphics WinMark99とHigh-End Graphics WinMark99を用いた。計測は、1,024×768ドット/16bitカラー(65,536色)で行なった。

【WinBench 99】
Business Graphics WinMark 99 259
271
326
327
High-End Graphics WinMark 99 767
832
906
921
EVIL KYRO 32MB版
EVIL KYRO 64MB版
GeForce2 MX
Millennium G450

 2D描画性能は、KYROが一番低いという結果になったが、通常のビジネスアプリケーションを利用する際に、特に遅いと感じられることはない。PowerVR 250の2D描画能力は、ほかのビデオカードに比べるとかなり低いものであったが(特にHigh-End Graphics WinMark99の値)、KYROでは大幅に改善されたといえる。2D描画性能も十分合格といえるだろう。

(2)DirectX 7環境での3D描画性能

 DirectX 7環境での3D描画性能の計測には、MadOnion.comの3DMark2000 Version 1.1を用いた。3DMark2000は、ハードウェアT&Lエンジンに対応したベンチマークプログラムである。

【3DMark 2000】
1,024×768ドット/16bitカラー 3,725
3,761
4,529
2,276
1,024×768ドット/32bitカラー 3,330
3,409
3,067
1,512
1,280×1,024ドット/16bitカラー 2,751
2,821
3,155
1,444
1,280×1,024ドット/32bitカラー 2,233
2,434
1,913
__910
1,600×1,200ドット/16bitカラー 2,096
2,162
2,338
1,006
EVIL KYRO 32MB版
EVIL KYRO 64MB版
GeForce2 MX
Millennium G450

 結果はなかなか興味深いものとなっている。3DMark2000は、ハードウェアT&Lエンジンに対応したベンチマークプログラムであり、ハードウェアT&Lエンジンを内蔵したGeForce2 MXの場合、ハードウェアT&Lエンジンが利用されるのに対し、ハードウェアT&Lエンジンを内蔵していないKYRO(およびMillennium G450)は不利になりやすい。しかし、KYROは、32MB搭載版、64MB搭載版ともに健闘している。特に、32bitカラーモードでの結果は、GeForce2 MXの結果を大きく上回っている。GeForce系チップは、32bitカラーモードでの性能低下が大きいのだが、KYROは32bitカラーモードでもあまり性能が落ちないようだ。ビデオメモリのバンド幅を有効に利用できる、PowerVRアーキテクチャの真価が発揮されている。

 これだけの3D描画性能があれば、コアなゲームユーザー以外は、ほぼ満足できるであろう。

(3)OpenGL環境での3D描画性能

 OpenGL環境での3D描画性能の計測には、id Softwareの3DゲームQuake III Arenaを利用した。Quake III Arenaは3Dシューティングゲームだが、フレームレート(1秒間に何フレーム表示できたか)を計測するテストとしても利用することが可能だ。

【Quake III】
800×600ドット/16bitカラー 85.0
85.6
99.5
48.1
800×600ドット/32bitカラー 82.5
83.2
82.5
40.6
1,024×768ドット/16bitカラー 66.0
66.5
80.0
33.8
1,024×768ドット/32bitカラー 59.0
59.4
53.5
26.7
1,280×1,024ドット/16bitカラー 41.5
41.9
50.3
20.8
1,280×1,024ドット/32bitカラー 36.0
36.3
31.4
15.4
EVIL KYRO 32MB版
EVIL KYRO 64MB版
GeForce2 MX
Millennium G450

 結果はグラフの通りで、こちらも3DMark2000と似た傾向が現われている。16bitカラーモードではGeForce2 MXのほうが高速だが、32bitカラーモードではKYROが逆転する。

 OpenGL環境での3D描画性能も、十分満足のいくものであろう。


●登場がやや遅すぎた感は否めないが、次世代製品への期待はもてる

 以上のベンチマーク結果からわかるように、KYROの描画性能は現時点でも十分通用するものだ。互換性も高いようで、どのベンチマークテストでも描画が乱れるようなことはなかった。なお、PowerVRアーキテクチャの独自3D API「SGL」についてだが、KYROのリリースや技術資料などに一切SGLという言葉が出てこないことを考えると、SGLのサポートは打ち切られたようだ。しかし、最近のアプリケーションでSGLに対応しているものは皆無であり、SGLのサポートをやめたことは、特にデメリットとはいえないだろう。以前のPowerVRで見られた、Direct3Dの互換性の低さがすっかり解消されたことは評価できる。発熱も小さいので、長時間連続動作させても、安心して利用できる(ただし、Apollo Pro133A搭載のMSI製マザーボード694 Masterでは、3DMark2000を実行すると数秒でハングしてしまったほか、Apollo Pro133搭載のDCS製マザーボードP3/370A-VPでは、CUSL2の約半分という非常に低いパフォーマンスしか出なかったので、VIA Technologies製チップセット搭載マザーボードで利用するのはお勧めできない)。

 KYROはコアクロック/メモリクロックともに115MHzまたは125MHzという比較的低いクロックで動作しているにもかかわらず、GeForce2 MXに匹敵する性能を実現している。PowerVRアーキテクチャの有効性・先進性がようやく日の目を見たといってもよい。しかし、GeForce2 MXには、1枚で2つのディスプレイに出力できるTwinView機能というメリットがある。RIVA TNTクラスのビデオカードから乗り換えようと思っているユーザーなら、KYROも有力な選択肢となるだろうが、すでにGeForce2 MXやDDRメモリを搭載したGeForce256を使っているユーザーなら、KYROに乗り換える必要性は感じられない。

 KYROのビデオチップとしての素性は決して悪くないのだが、登場がやや遅すぎた感は否めない。しかし、すでに次世代アーキテクチャであるPowerVR Series4の開発が開始されているという。PowerVR Series4では、ハードウェアT&Lエンジンを搭載することで、より高い描画性能が実現される予定だ。KYROの出来が想像以上によかったので、PowerVR Series4への期待も膨らむところだ。

□Akiba PC Hotline!関連記事
【11月25日】PowerVR3をベースにしたKYRO搭載ビデオカードが登場
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20001118.html
□関連記事
【'99年11月2日】初代PowerVRの汚名を返上できるか!? PowerVR2搭載ビデオカード登場
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991102/hotrev33.htm

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(2000年12月11日)

[Reported by 石井英男@ユービック・コンピューティング]


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