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三度目の挑戦が実るか?
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●KYROとは?
競争の激しいビデオチップ業界において、市場で支持され続けることは難しい。現在は、NVIDIAをATI TechnologiesやMatrox、3dfxが追うという構図になっているが、性能的にNVIDIAに太刀打ちできているのは、ATI Technologiesくらいだ。また、古くからビデオチップを製造していたS3がビデオチップ分野をVIA Technologiesに売却し、3dfxもビジネスモデルをビデオチップ専業ベンダーに戻すことを発表するなど、業界再編の動きが相次いでいる。
KYRO(STG4000) |
初代PowerVR(PCX1/PCX2)は、初代VoodooGraphicsと同様に、3D描画機能しか持たない3Dアクセラレータであり、2D描画用のビデオカードと組み合わせて利用する必要があった。ビデオカードとの相性問題がかなりシビアであったことや、3D描画APIとして独自のSGL(Super Graphics Library)とDirect3Dをサポートしていたが、Direct3Dへの対応が不完全であり、アプリケーションによってはうまく動作しないといった問題があった。いくつかのベンダー(NECやメルコ、Matroxなど)から製品が登場したものの、結局主流とならずに消えていった。
PowerVRアーキテクチャの第2世代であるPowerVR Series2は、セガの家庭用ゲーム機「Dreamcast」で採用され話題を呼んだが、PowerVR Series2ベースのPC用ビデオカードはなかなか登場しなかった。'99年末近くになってようやく、PowerVR Series2ベースのPowerVR 250を搭載したVideo LogicのNeon 250が登場した。PowerVR 250は、2D描画機能も備えていたが、発表から登場までに時間がかかりすぎたため、2D描画性能/3D描画性能ともに当時の水準に達せず、Direct3Dに対する互換性が低いこともあって、すぐに消えていってしまった。
その後しばらくは、PowerVRが話題にのぼることはなかったのだが、2000年6月5日、COMPUTEX TAIPEI 2000の開幕にあわせてST MicroelectronicsがPowerVRアーキテクチャの最新版であるPowerVR Series3ベースのKYROを発表した。KYROは、2D/3D描画機能を備えたビデオチップであり、ドットクロック270MHzのRAMDACを内蔵している。
●秋葉原に登場した初のKYRO搭載ビデオカード「EVIL KYRO」
COMPUTEX TAIPEIでの説明員によると、KYRO搭載ビデオカードは、2000年第3四半期に登場する予定とのことであった。当初の予定よりやや遅れたが、11月中旬に、秋葉原にKYRO搭載ビデオカード「EVIL KYRO」が登場した。EVIL KYROは、PowerColorブランドで知られるC.P. Technologyの製品であり、ビデオメモリ64MB搭載版と32MB搭載版が流通している。EVIL KYROは、ビデオカードとしては非常にシンプルな作りで、出力端子もアナログRGB端子のみとなっている(パッケージやマニュアルの表記によると、コンポジット出力端子とS-Video端子が追加されている製品もあるようだ)。ビデオメモリ64MB搭載版では、ビデオメモリとしてM.tecの64Mbitチップ「TBS6416B4E-7G」が8個、ビデオメモリ32MB搭載版では、Winbondの64Mbitチップ「W986432AH-6」が4個実装されている。
KYRO(STG4000)には、ファン付きのヒートシンクが装着されているが、ヒートシンクは小さめであり、発熱量もそれほど大きくないと予想される。また、ビデオカード上に2組のジャンパが用意されており、その設定によって、AGP 2XモードとAGP 4Xモードを切り替えるようになっている。'99年末に登場した、Savage2000搭載ビデオカード「Viper II Z200」(ダイヤモンドマルチメディア製)にも同様なジャンパがあったが、最近では珍しい。
CD-ROMが2枚付属しており、1枚にはドライバとDVDプレーヤー「WinDVD 2000」が、もう1枚にはゲームソフトの「TEST DRIVE5」が収録されている。
KYRO搭載ビデオカード「EVIL KYRO」のビデオメモリ64MB版 | KYRO搭載ビデオカード「EVIL KYRO」のビデオメモリ32MB版 | この2組のジャンパによって、AGP 2XモードとAGP 4Xモードを切り替える(出荷時の設定はAGP 4Xモード) |
●2D性能/3D性能ともに十分通用し、特に32bitカラーモードでの描画能力は高い
それでは、早速ベンチマークテストを行なってみることにしよう。EVIL KYROは、ビデオメモリ64MB搭載版でも14,000~16,000円程度、ビデオメモリ32MB搭載版では12,000~13,000円程度で販売されており、ビデオカードとしては比較的低価格である。そこで、比較対照用として、同程度の価格で販売されているGeForce2 MX搭載ビデオカード(SUMA PLATINUM GF2 MX TwinView)とMillennium G450(32MB DDR版)を用意した(ビデオドライバはWebサイトで提供されている最新版を利用)。
【テスト環境】
CPU:PentiumIII 750MHz
マザーボード:ASUSTeK CUSL2(Intel 815Eチップセット)
メモリ:PC100 SDRAM 128MB(CL=2)
HDD:IBM DTLA-307020
OS:Windows 98 SE+DirectX 7.0a
【ビデオドライバのバージョン】
EVIL KYRO 4.12.01.1544-1.00.02.0163
GeForce2 MX 4.12.01.0634
Millennium G450 4.12.01.1700
(1)2D描画性能
2D描画性能の計測には、Ziff-Davis,Inc.のWinBench99 Version 1.1に含まれるBusiness Graphics WinMark99とHigh-End Graphics WinMark99を用いた。計測は、1,024×768ドット/16bitカラー(65,536色)で行なった。
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EVIL KYRO 32MB版 EVIL KYRO 64MB版 GeForce2 MX Millennium G450 |
2D描画性能は、KYROが一番低いという結果になったが、通常のビジネスアプリケーションを利用する際に、特に遅いと感じられることはない。PowerVR 250の2D描画能力は、ほかのビデオカードに比べるとかなり低いものであったが(特にHigh-End Graphics WinMark99の値)、KYROでは大幅に改善されたといえる。2D描画性能も十分合格といえるだろう。
(2)DirectX 7環境での3D描画性能
DirectX 7環境での3D描画性能の計測には、MadOnion.comの3DMark2000 Version 1.1を用いた。3DMark2000は、ハードウェアT&Lエンジンに対応したベンチマークプログラムである。
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EVIL KYRO 32MB版 EVIL KYRO 64MB版 GeForce2 MX Millennium G450 |
結果はなかなか興味深いものとなっている。3DMark2000は、ハードウェアT&Lエンジンに対応したベンチマークプログラムであり、ハードウェアT&Lエンジンを内蔵したGeForce2 MXの場合、ハードウェアT&Lエンジンが利用されるのに対し、ハードウェアT&Lエンジンを内蔵していないKYRO(およびMillennium G450)は不利になりやすい。しかし、KYROは、32MB搭載版、64MB搭載版ともに健闘している。特に、32bitカラーモードでの結果は、GeForce2 MXの結果を大きく上回っている。GeForce系チップは、32bitカラーモードでの性能低下が大きいのだが、KYROは32bitカラーモードでもあまり性能が落ちないようだ。ビデオメモリのバンド幅を有効に利用できる、PowerVRアーキテクチャの真価が発揮されている。
これだけの3D描画性能があれば、コアなゲームユーザー以外は、ほぼ満足できるであろう。
(3)OpenGL環境での3D描画性能
OpenGL環境での3D描画性能の計測には、id Softwareの3DゲームQuake III Arenaを利用した。Quake III Arenaは3Dシューティングゲームだが、フレームレート(1秒間に何フレーム表示できたか)を計測するテストとしても利用することが可能だ。
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EVIL KYRO 32MB版 EVIL KYRO 64MB版 GeForce2 MX Millennium G450 |
結果はグラフの通りで、こちらも3DMark2000と似た傾向が現われている。16bitカラーモードではGeForce2 MXのほうが高速だが、32bitカラーモードではKYROが逆転する。
OpenGL環境での3D描画性能も、十分満足のいくものであろう。
●登場がやや遅すぎた感は否めないが、次世代製品への期待はもてる
以上のベンチマーク結果からわかるように、KYROの描画性能は現時点でも十分通用するものだ。互換性も高いようで、どのベンチマークテストでも描画が乱れるようなことはなかった。なお、PowerVRアーキテクチャの独自3D API「SGL」についてだが、KYROのリリースや技術資料などに一切SGLという言葉が出てこないことを考えると、SGLのサポートは打ち切られたようだ。しかし、最近のアプリケーションでSGLに対応しているものは皆無であり、SGLのサポートをやめたことは、特にデメリットとはいえないだろう。以前のPowerVRで見られた、Direct3Dの互換性の低さがすっかり解消されたことは評価できる。発熱も小さいので、長時間連続動作させても、安心して利用できる(ただし、Apollo Pro133A搭載のMSI製マザーボード694 Masterでは、3DMark2000を実行すると数秒でハングしてしまったほか、Apollo Pro133搭載のDCS製マザーボードP3/370A-VPでは、CUSL2の約半分という非常に低いパフォーマンスしか出なかったので、VIA Technologies製チップセット搭載マザーボードで利用するのはお勧めできない)。
KYROはコアクロック/メモリクロックともに115MHzまたは125MHzという比較的低いクロックで動作しているにもかかわらず、GeForce2 MXに匹敵する性能を実現している。PowerVRアーキテクチャの有効性・先進性がようやく日の目を見たといってもよい。しかし、GeForce2 MXには、1枚で2つのディスプレイに出力できるTwinView機能というメリットがある。RIVA TNTクラスのビデオカードから乗り換えようと思っているユーザーなら、KYROも有力な選択肢となるだろうが、すでにGeForce2 MXやDDRメモリを搭載したGeForce256を使っているユーザーなら、KYROに乗り換える必要性は感じられない。
KYROのビデオチップとしての素性は決して悪くないのだが、登場がやや遅すぎた感は否めない。しかし、すでに次世代アーキテクチャであるPowerVR Series4の開発が開始されているという。PowerVR Series4では、ハードウェアT&Lエンジンを搭載することで、より高い描画性能が実現される予定だ。KYROの出来が想像以上によかったので、PowerVR Series4への期待も膨らむところだ。
□Akiba PC Hotline!関連記事
【11月25日】PowerVR3をベースにしたKYRO搭載ビデオカードが登場
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20001118.html
□関連記事
【'99年11月2日】初代PowerVRの汚名を返上できるか!? PowerVR2搭載ビデオカード登場
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991102/hotrev33.htm
(2000年12月11日)
[Reported by 石井英男@ユービック・コンピューティング]