後藤弘茂のWeekly海外ニュース

なぜPentium 4の性能はAthlonに劣るのか

●惨憺たるベンチマーク結果

 Pentium 4が発表され、ついに秘せられていたベンチマーク性能が公になりはじめた。海外のリークサイトや個人サイトでは以前から、Pentium 4のベンチマーク結果が露出していたが、昨日の公式発表後はPC Watchをはじめとする商業サイトでもベンチマーク結果が掲載されている。

 それを見れば一目瞭然だが、ほとんどのテストでPentium 4はクロックから期待されるほどの性能が出ていない。多くのベンチマークで1.2GHzのAthlonに劣る結果が出ているし、Pentium III 1GHzに劣るものさえある。

 まあ、そもそもベンチマークが本当のCPU性能を表しているかという議論もあるが、ここではそれは置いておくとして、なぜ、Pentium 4はここまで性能が出ないのだろう。「SYSmark2000」などで現状のアプリケーション性能が反映されているとしたら、そこでAthlonに劣るのはなぜだろう。IntelがPentium 4の設計を誤った結果なのだろうか?

 まず、明らかなのは、このベンチマーク結果は設計ミスではなく、Pentium 4のアーキテクチャに深く根ざしたものということだ。つまり、惨憺たるベンチマーク性能はIntelのデザインチョイスの結果であり、Pentium 4開発チームは覚悟の上だった。では、Pentium 4開発部隊は、いったい何を考え、何を狙って、Pentium 4を現状のアプリケーションで性能が出ないアーキテクチャにしたのか。

●性能が必要なのはSSE/SSE2だと割り切ったIntel

 「整数演算性能は犠牲にして、SSE/SSE2による浮動小数点演算/SIMD演算性能にフォーカスする」

 端的に言ってしまうと、これがPentium 4のコンセプトだ。Pentium 4のアーキテクチャでは、整数演算の性能は出にくい。これは、GHz時代のCPUでは、整数演算性能はリニアに高める必要はないと、Intelが割り切ったことを示している。これからCPU性能が必要になるのは、整数演算ではなく、浮動小数点演算やSIMDマルチメディア演算だというのがPentium 4のメッセージだ。

 そして、Intelは、浮動小数点演算/SIMD整数演算にフォーカスするに当たって、命令セット&レジスタセットの変革もついでに行なってしまおうと考えた。すなわち、x87/MMX命令&FP/MMXレジスタから、SSE/SSE2命令&XMMレジスタへ移行させようというわけだ。

 だが、こうしたアプローチの結果、Pentium 4は整数演算が主役の日常アプリケーションや、x87浮動小数点演算命令主体の既存のコードでは性能が出なくなってしまった。Pentium 4が真価を発揮できるのは、SSE/SSE2命令による浮動小数点演算/マルチメディア演算の割合が高い、新世代のアプリケーションということになる。つまり、Pentium 4は、ソフトウェア側の対応と、PCの使い方の進化を前提としているわけだ。

 それに対して、Athlonは、既存コード/既存アプリケーションで性能を出すことを強く意識して設計されている。演算ユニットの構成を見ても整数演算性能を重視しているし、浮動小数点演算はx87命令の性能が出やすいように設計されている。現在のソフトウェアインフラとPCの使い方が続くことを前提としているわけだ。そのため、現在のベンチマークではAthlonが圧勝することになる。

●IntelとAMDの方向性の違いがくっきり

 これは、明瞭な設計コンセプトの違いで、面白いことに両社の64bitへのアプローチの違いとも共通している。すなわち、まったく異なる新命令セットへの移行を前提としたIntelのIA-64に対して、AMDのx86-64は既存アーキテクチャの延長で64bit化を実現しようとしている。つまり、Intelは常にソフトウェア側の対応を必要とする変革を指向し、AMDはソフトウェア側の対応を最小にとどめて性能を引き出すことを指向するというわけだ。

 このように、Pentium 4とAthlonの違いは、IntelとAMDの根本的な方向性の違いを反映している。その理由は3つある。

 第1の理由は、最大シェアを握りx86の元祖であるIntelと、後発のAMDのポジションの違いだ。アーキテクチャの大幅な変革、特に命令セットアーキテクチャの変革は、トップメーカーIntelの特権だった。Intelのアーキテクチャチェンジにはソフトウェアベンダーもこれまで(時間はかかっても)対応してきた。しかし、AMDが独自定義のレジスタセットを増設して、x87命令から独自命令への全面移行を促しても、ソフトベンダーは追従しなかっただろう。

 第2の理由は、Intelがアーキテクチャチェンジで互換メーカーを振り切ることを意図していることだ。Intelは、これまでも新アーキテクチャに移行する度に、互換CPUメーカーを振り切ってきた。例えば、386の時は32bit化と仮想86モードにより、それまでセカンドソースライセンスしていた286ベンダーを振り切った。今回のPentium 4も、Intelの意図の中には互換メーカーの振り切りがあると思われる。

 第3の理由は、狙う市場の違いだ。Intelは常にCPU市場の上への拡大を狙わないとならない。高い平均販売価格(ASP)を保つためには、エンドユーザーをパフォーマンス飢餓状態に置いて、高マージンのCPUを求め続けてもらわないとならない。そのため、常に新しいパフォーマンスニーズを作り出してゆく必要がある。だから、既存コードよりも次の世代のソフトの性能を重視するのだ。それに対して互換CPUメーカーはIntelの既存の市場の切り崩しから入るため、既存コードでの性能を重視することになる。

●PC市場の現状にPentium 4のアプローチが合う?

 こうして見ると、IntelがPentium 4で、なぜ既存コード/既存タイプのアプリケーションで性能が出ないアーキテクチャを選んだのかがわかってくる。今に始まったことではなく、Intelは常にアーキテクチャのジャンプを続けてきたのだ。
 Pentium Proの16bitコード性能はプアだったし、386だってセカンドソースの286に性能で追いまくられた。そして、Pentium 4は、じつは過去最大のアーキテクチャチェンジだった386に匹敵する大変革となっている。

 Pentium 4でのIntelのアプローチは、CPUの性能という側面だけを考えるときちんと的を射ている。というのは、整数演算主体のアプリケーションでは、もはやクロック向上による性能向上は体感的にほとんど感じられないからだ。ベンチマークで整数演算が30%速くなっても、アプリケーション側ができることにほとんど変わりはない。ところが、浮動小数点演算やSIMDが速くなると、やれることは変わってくる。その意味では、Pentium 4のアプローチは、ソフトウェアに新しい可能性を開くわけで、正しい方向にある。

 だが、そのCPUを載せるPCという側面から見た場合、今回のPentium 4のアプローチが適切かどうかはまだわからない。というのは、PC市場がすっかり様変わりしてしまったからだ。PCがコモディティ(日用品)になるにつれて、ユーザーの姿も変わった。今のユーザーの多くは、単なるインターネット端末兼ワープロとしてPCを買っている。整数演算性能をもう求めていないのは確かだが、かといって浮動小数点演算やマルチメディア処理の性能もあまり求めていない。

 ところが、Pentium 4の真価は、今見えているようなアプリケーションでは発揮されない。ヘビーに浮動小数点演算やSIMD演算を使い、データで膨大なFSB/メモリ帯域を占有するようなアプリケーションが、Pentium 4の性能を最大に引き出す。つまり、たとえExcelがPentium 4のSSE2命令に対応したとしても、Pentium 4の力は十分には引き出せない。ヘビーな3Dやビデオストリーム、裏タスクでの暗号処理など、Pentium 4ではPCの使い方やアプリケーションのあり方が変わることを前提としているのだ。

 Intelは、386の時はMicrosoftとCompaqに助けられた。MicrosoftがWindowsで386をうまく使い、Compaqが386搭載マシンを独占投入して話題をさらった。Windowsは386でないと真価が発揮できなかったので、Windowsの普及とともに、386とその後継CPUは発展してきた。ユーザーは、GUIベースへ移行するに連れて性能への渇望が高まり、どんどん性能が高いCPUを求めてきた。だが、今、その時代は終わりつつある。

 この時期に、Intelが性能の重点を整数演算から浮動小数点演算/マルチメディアへと大きく変えたPentium 4を出してきたことは、Intelの戦略からすれば当然のことだ。そうしなければ、性能への渇望が枯渇するのと同時に、ユーザーのニーズは低価格CPUへと集中してしまい、高いASPを保てなくなってしまうからだ。

 だが、今回、386の時のWindowsのような、Pentium 4を必要とする環境がすんなり台頭してくるかどうかはまだ未知数だ。もしかすると、PCは大多数のユーザーにとってインターネット端末で終わってしまうのかもしれない。それは、Pentium 4にとっては不幸な結果になる。

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【HotHot!】【速報】登場したばかりのPentium 4をベンチマーク!
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001121/hotrev85.htm


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(2000年11月22日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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