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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Transmeta、COMDEXで最新のCrusoe搭載機種を一挙公開

●日本からのCrusoeの津波がCOMDEXを直撃

 「日本からの津波がアメリカを襲う」

 COMDEX/Fall 2000のバックステージで、話題のTransmetaが関係者やマスコミを集めたイベントを『Tsunami』レストランで開催した。形式はパーティだが、日本メーカーのCrusoeマシンが多数展示され、同社の日本での成功を誇示する場となった。Crusoeは日本でこそこれだけ順調なスタートを切ったものの、米国ではまだ“海のものとも山のものとも”状態。Transmetaとしては、この勢いをできれば米国にももたらしたい、というわけでTsunami(津波)パーティとなったわけだ。展示のいたるところに描かれた北斎風の津波は、同社の思いを強調しているようだった。

 会場には、カシオがCOMDEX直前に発表したばかりの「FIVA」や、GatewayがAOLと組んでインターネット端末として開発した「Gateway Connected Touch Pad」、Rebel.com(Corelのサーバーアプライアンス部門を買収した会社)のサーバーアプライアンス「Rebel Netwinder 3100」など、最新のCrusoe搭載マシンも並んだ。また、COMDEX/Fall 2000のキーノートスピーチでは、ビル・ゲイツ会長兼CSAがCrusoe搭載のWhistlerパッドをデモして見せた。COMDEXだけを見ていると、Transmetaはまだまだ快調だ。

 しかし、すでに伝えた通り、COMDEXではCrusoeをターゲットとしたIntelの反撃も始まった、Transmetaとしても予断を許さない状態になっている。

カシオはCrusoe搭載FIVAを展示 GatewayのCrusoe搭載インターネットアプライアンス Rebel.comのCruose搭載ゲートウェイ

●日本はCrusoeバックラッシュに

 これまで、x86互換CPUメーカーの中でこれだけ好調なスタートを切ったメーカーはなかった。そして、Intelの弱点をここまで突いたメーカーもなかった。Transmetaは、現在のIntel CPUが苦手としている低消費電力&低TDPモバイルPCと、Intelが将来の市場として期待しているインフォメーションアプライアンスを2大ターゲットとしている。Intelにとっては、現在のCrusoeノートPCも脅威だが、それ以上にCrusoeインフォメーションアプライアンスも脅威。さらにTransmetaがこのコードモーフィング技術をライセンスなどしたら、どのCPUメーカーもx86互換CPUを作れるようになってしまうわけで、Intelは敵に囲まれてしまうことになる。Intelとしてはできる限り早期に叩いておきたいところだろう。

 そのために対Transmeta戦略の第1弾として、Intelは急いで超低電圧版Pentium III/Celeronを来年早々にリリースする。IBMはすでにCrusoeから超低電圧版Pentium III/Celeronへと転じた。また、世間ではCrusoe搭載機が市場に出たことで、性能などの面に関する批判も始まっている。言ってみれば、日本はCrusoe幻想がやや薄れて、バックラッシュモードに入った段階だ。では、このままIntelが巻き返していくのだろうか。

 Tsunamiパーティに集まった関係者の話を聞く限り、今の段階ではまだCrusoeの波は終わりそうにない。全メーカーがというわけではないだろうが、Crusoeに当面力を注ぐ日本メーカーは多い。それにはいくつか理由がありそうだ。

●Crusoeの利点、Intelの弱点

 まず、Intelの超低電圧版Pentium III/Celeronは、選別品だという弱点を持っている。つまり、1枚のウエーハから採れるチップのうち、1.1Vに落としても500MHzで駆動できるCPUだけを選別している。これは、通常の1.6vで駆動した場合には比較的高クロックで動作するチップであり、Intelにとってはそれほど数多く採れるわけではなく、また本来なら高く売れるCPUだ。それを、電圧とクロックを落とすことで、Intelは場合によっては半額程度の安い価格で提供しなければならない。クロックで階層的に価格をつける、Intelのビジネスモデルには本来適合しない製品だ。対するCrusoeは、Intelほどの低電圧駆動はできないが、特に低電圧駆動品を選別したものではない。

 それから、今回の低消費電力&低TDPレースではTransmetaが先行していることも大きい。TransmetaのCEO、デビッド・ディツェル氏は「このレースでは、Transmetaが先に走りだした。Intelが間違えているのは、Transmetaがここに止まっているから捕まえられると考えていることだ。しかし、我々は早く走っているし、Intelのような大企業はあまり早く走れないだろう」と指摘する。例えば、Transmetaは0.13μm版のTM5800を来年前半に投入する見込みだ。TM5800は現在のCrusoeと同じ熱設計電力(Thermal Design Power:TDP)の枠内でクロックを800MHzから1GHzに引き上げるほか、L2キャッシュを512KBと1MBに拡大すると見られている。対するIntelの低消費電力版Pentium III/Celeronが0.13μmに移行するのは、現在の計画では早くて来年末となっている。また、Transmetaは0.13μm世代ではTM5800系でパフォーマンスは現状と同等で、よりTDPを下げた製品も投入すると関係者は言う。さらに、Transmetaはモバイルに焦点を当てた次世代アーキテクチャCPUの開発も始めている。ディツェル氏は「Crusoeは命令セットをソフトウェアでインプリメントしているので、CPUのアーキテクチャは自由に変えることができる。将来のCrusoeは256bitアーキテクチャになるかもしれない(現在のCrusoeは128bit)」と語る。

 だが、こうした技術的な理由だけでは、PCメーカーはCrusoeに注力しない。彼らがCrusoeに入れ込むのは、Intelの独占支配を揺るがしたいからだ。日本のノートPCメーカーの間には、IntelのCPU戦略によってノートPCのフォームファクタや機能が制限され、作りたい製品ができなかったという思いが強い。デバイスメーカーであるIntelによって、システムメーカーの製品が制約されるのは本末転倒だと感じているわけだ。

 今回にしても、Transmetaが低消費電力&低TDPを謳いだしたら、急にIntelも同カテゴリの製品を出してきた。これによって、Intelは、日本のPCメーカーの要望はあまり聞いてくれないが、ライバルが現れたりすると敏感に反応することを、またもや示してしまったのだ。だとすると、Crusoeをカードとして使った方がいいと、一部のノートPCメーカーが考えたとしても不思議はない。AMDを最初はIntelに対するカードとして採用し始めたのと同じように。

 というわけで、Crusoeの波は、今ほど高くはないにせよ、しばらくは続くだろう。しかし、そのあと本当にブレイクできるかどうかは、Transmetaが本当にPCメーカーの信頼を勝ち取ることができるかどうかにかかっている。それに失敗すると、Crusoeはあだ花として消えることになる。


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(2000年11月17日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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