元麻布春男の週刊PCホットライン

3年ぶりのCOMDEXで、Web速報時代における巨大展示会の存在意義を思う


●3年ぶりのCOMDEXで思い出すニコチンパッチ

 前回筆者がCOMDEXにやってきたのは、'97年のこと。それを鮮明に覚えているのは、この時ドラッグストアでニコダーム(ニコチンを皮膚から摂取するパッチ。禁煙補助用具)を購入、禁煙に踏み切ったからだ。それまで1日4箱を吸うヘビースモーカーだったのだが、'97年4月(だったと思う)に米国内で一般販売が開始された(それまでは米国内でも医師の処方箋が必要だった。日本は今も処方箋が必要)ニコダームのおかげもあって、タバコを止められたのである。以来、今まで禁煙は続いている。ただし、ニコダームがいくらか緩和してくれるのは間違いないが、貼れば楽に禁煙できるとは思わないこと。

 ラスベガスも、この3年で若干変わった。空港が新しくなったほか、新しいホテルが増えている。'97年は、まだいくつかのホテルが建設中だったが、3年が経過してすべて竣工、営業を開始した。逆に、ザッと見回したところで、建設中の巨大ホテルらしきものは見当たらない。しばらくはこの体制でいくのだろう。それでもラスベガスは世界で最大のホテルキャパシティを誇る街であり、だからこそ世界最大規模の展示会や見本市が開催されるのである。

●そして、世界最大規模のイベントにもいくつか変化が訪れた

 街同様、COMDEXにもいくつかの変化が訪れている。基調講演の場所が変わったとか、以前はテントだった場所に新しく常設の展示場が作られたとか、そういう外面的な変化もあれば、もっと本質的な変化も生じているように思う。おそらく今も、COMDEXが世界で最大のパソコン関連の展示会であることに変わりはないハズだ。出展者数、来場者数(これに関しては日本のWORLD PC EXPO 2000も結構いい線いっているハズだが)、展示面積など、展示会の規模を示す指標の多くでトップに立っていることは確かだろう。そして、「世界最大」の冠がある以上、これからもCOMDEXには全世界から「視察ツアー」が訪れ賑わうに違いない。だが、取材する対象としてみた場合、COMDEXにかつてほどの魅力があるか? というと難しいところだ。

 その状況を作り出した最大の要因は、やはりインターネット。インターネット、特にWebがもたらしたことの1つは、ベンダ/メーカーと消費者の距離を縮めたことだ。たとえば、かつてはプレスリリースを一般のユーザー/消費者が読むことはできなかった。プレスリリースを受け取り、それを元に一般のユーザー/消費者向けにニュース記事を書くということがメディアの大きな役割の1つだったし、それが雑誌などのメディアに求められてきたことでもあった。ちなみに、一般のユーザーに限らず、新創刊の雑誌などにとってはベンダ/メーカーからプレスリリースを送ってもられるようになる、というまでが一仕事だった。

●インターネットで、消費者とメーカーが近づいた

 しかし、インターネットの普及により、一般のユーザー/消費者がベンダ/メーカーの発表を直接知ることが可能になった。雑誌などのメディアは、ニュース以外の部分に付加価値を見出さなければならなくなったわけだが、ベンダ/メーカーにも大きな影響を与えている。以前なら、新製品の発表をCOMDEXのような大規模な展示会に合わせる、ということはほとんどのベンダ/メーカーにとって重要なことだった。1カ所で発表すれば、そこを訪れている全世界のメディアが競って取り上げ、記事にしてくれる。こんな楽な話はない。

 だが、インターネットが普及したおかげで、そんなことすら必要なくなった。新製品が完成したら、展示会などを待たずに、まず自社のWebサイトで新製品情報を公開する。そうすれば、全世界の消費者が見てくれるのである。たとえ自社のWebサイトだけでは充分に情報が行き渡らないとしても、それを補うように情報へのリンクを集めたニュース系のWebサイトが数多くある。多くのユーザーはこうしたWebサイトをポータルに、ベンダ/メーカー情報を居ながらにして入手できるようになった。もはや新製品の発表に際して、大規模な展示会を待つ必要はない。完成次第、好きな時に発表すれば良い。

 もちろん、COMDEXに新しい製品がないのかというと、決してそんなことはない(おそらく他の記事でカバーされていることだろう)。単なる発表だけではなく、多くの場合実際に手に取ってみることができる、という意味も含め、取材する価値がなくなってしまったわけでは決してない。これは出展する価値がなくなったわけではない、ということでもある。だが、「新製品」と称されて展示されているものに、発表済みのものが多く混じっていることも事実。純粋にCOMDEXで発表された、全くの新製品はそれほど多くない。

●現地に行くより、日本でWebを見ているほうが詳しくなれる

 インターネットによりベンダ/メーカーとユーザー/消費者の関係が変わったように、メディアの側にもインターネットの影響が現れている。中でも大きいのは速報性に優れたWeb系メディアの登場だろう。紙の媒体が週刊、あるいは月刊といった発行サイクルを持つのに対し、Webは毎日、随時更新される。

 たとえば月刊誌の場合、COMDEXの記事が載るのは、めぐり合わせが悪いと最大1カ月遅れる可能性がある。以前ならそれでも貴重な情報として読んでもらえたかもしれないが、開催と同時にニュースがWebに溢れる状況で、誰が1カ月後に記事を読みたいだろう。紙媒体がCOMDEXに対して以前ほどのモチベーションを持たなくなったとしても不思議はない。

 こうした状況は、筆者のような末端のライターにも確実に影響する。以前はCOMDEXというと、各ブースでもらったプレスリリースやカタログなど、大量の「紙」を箱に詰め、宅配便で会社や自宅に送る姿が一種の風物詩となっていた。筆者も国際電話で編集部に「今日は何箱送った」などと連絡をしたものだ。しかし報道の中心がWebになると、資料をわざわざ日本に送ってもしょうがなくなる。紙で送らなくてもプレスリリースは、日本でWeb上で読めば済む。

 そして何より、Web上に掲載する原稿を、日本に帰って、日本に送った紙の資料を見ながら書くという状況は考えれない。現地で原稿を書けるかどうかが勝負なのである。会場で紙の詰まった箱を抱えている人を本当に見なくなった。

 以前であれば、COMDEXから帰ると、メーカーの方、あるいは友人から「COMDEXはどうだった? 何か新しいものはあった?」などと尋ねられたものだ。しかし今は「COMDEXでA社が“X”という新製品を出したとWebで見たけど良さそう?」のように聞かれる。これで“X”というのを見ていれば答えようもあるが、実際には「A社のブースって行ったっけ?」とか、「A社のブースにそんなものあったっけ?」と思うことが少なくない。COMDEXはそれほど巨大な展示会だ。

 また、“X”を置いてあったのは会場の展示ブースではなく、近くのホテルに設けられたスイート(メーカーが近隣のホテルのスイートルームに構えた顧客接待用の施設。ここでメディアに会場にはない新製品を見せてくれる場合がある)だったりすることもある。さすがにラスベガス中のホテルのスイートなんて全部回れるハズもないし、招待がないと入れないスイートも少なくない。こうなると、もうほとんどお手上げだ。何のことはない、現地に行った人間より、日本でWebを見ている方がよっぽど詳しかったりするのである。

 実は、こうしたことは、すでに3年前にも感じていた。今回訪れてみて、改めて痛感したことになる。インターネット時代に展示会はどうあるべきなのか。この3年間では、まだ答えは見つかっていないようだ。

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(2000年11月15日)

[Text by 元麻布春男]


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