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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

IntelがPentium 4の普及を大幅前倒し、来年中にPentium III置き換えへ

●来年の冬モデルはPentium 4へ

 Intelは、Pentium 4の普及戦略をスピードアップした。今後、約1年でPentium IIIをほとんどPentium 4に置き換えてしまう。その一方で、0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)用に開発していたIntel 815後継チップセット「Almador:アマドール」のデスクトップ版をキャンセルした。これは、デスクトップへのTualatinの投入をほぼやめたことを意味する。この戦略変更で、Intelの2001年のCPUとチップセットのロードマップは大きく塗り変わった。Intelは、Pentium 4で正面突破を狙うつもりだ。

 Intelは、これまで来年のデスクトップCPUを、Pentium 4とTualatinの2段重ねで支える戦略を立てていた。Pentium 4は生産量をそれほど急激に増やさず、1年半ほどかけて比較的ゆるやかにPentium IIIから移行させる。その間は、来年後半に投入する1.26GHzのTualatinで、ミッドレンジの価格帯の競争を持ちこたえるという構図だった。勝負どころである来年の冬商戦は、まだ0.18μm版Pentium III(Coppermine-T:カッパーマイン)とTualatinがボリュームゾーンを占めるという構えでいたのだ。これは、Pentium 4への移行がうまくいかなかった場合の保険としてTualatinを使う戦略だったと思われる。

 だが、今週、IntelがOEMメーカーに行なった説明によると、Tualatinに中継ぎをさせるというプランを大きく後退させたようだ。新しいロードマップではPentium 4の普及のペースを1四半期分かそれ以上早めた。来年末には、Pentium 4は現在Pentium IIIが占めているメインストリームデスクトップのほとんどをカバーするように持っていくという。つまり、来年の冬モデルの主力はPentium 4へと持っていかせようとしているわけだ。そして、2002年の頭には、完全にPentium 4への移行を終えてしまう見込みだ。これまで、Pentium 4への移行の完了は2002年中盤の予定だった。

 この路線変更のため、Pentium 4とPentium IIIの空隙を埋めるはずだったTualatinの位置は大きく後退した。あるOEMによると、デスクトップ版Tualatinは、特定のPCメーカー以外はほぼ入手できないのではないかという。また、別なOEMは、来年の冬モデルのデスクトップでは、Pentium IIIではなくPentium 4を使ってくれというのが事実上Intelのメッセージだと見る。Tualatinは、Intelのデスクトップ戦略から外れたと見た方がよさそうだ。

●これまでと比べると小さいPentium 4のダイサイズ

 今回のIntelの戦略変更は何を意味するのだろうか。まず、考えられるのは、AMDのAthlon攻勢に対抗するには、Pentium 4で一気に勝負に持ち込むしかないと判断した可能性だ。もちろん、Pentium 4で攻勢に出ることができるという自信もできたことになる。では、こんなに一気にPentium 4の生産量を増やすことは可能なのだろうか。

 じつは可能だ。それは、Pentium 4のチップ自体の製造コストが意外と低く、生産可能な量が比較的多いからだ。それはなぜかというと、Pentium 4のダイサイズ(半導体本体の面積)が小さいからだ。

 これはちょっと意外に聞こえるかもしれない。というのは、Pentium 4は現行のほかのCPUと比べるとダイが大きいからだ。最初に登場する0.18μm版Pentium 4(Willamette:ウイラメット)のダイは、これまでのカンファレンスで公開された写真でのSRAM面積から逆算すると約200平方mmちょっととなる。これは、現行のCoppermineの約100平方mmの約2倍で、AMDの0.18μm版Athlon(Thunderbird:サンダーバード)の約120平方mmと比べても大きい。

 ところが、これをIntelのこれまでの新アーキテクチャCPUの第1世代と比較すると、格段にダイサイズが小さいのだ。例えば、Pentium(P5)はデビュー時には0.8μmで約294平方mm、Pentium Pro(P6)は0.6μmで306平方mm(150MHz版だけ)だった。いずれも17mm角と、大きめの切手ほどもある巨大なチップだったわけだ。それが、次の第2世代プロセスになると、0.6μm版Pentium(P54C)で163平方mm、0.35μm版Pentium II(Klamath)で203平方mmへとシュリンクした。そして、3世代目のプロセスでは0.35μm版Pentium(P54CS)が90平方mmに、0.25μm版Pentium III(Katmai)が127.9平方mmへとシュリンクしている。

 こうして見ると、IntelのCPUの場合、最初は300平方mmクラスのダイでハイエンドにへばりついているが、次の160~200平方mm前後のチップでメインストリームデスクトップをカバー、3世代目の90~140平方mmでローエンドまで降りてくるというのが目安だとわかる。そこで、Pentium 4を見ると、今回はこの第2世代目に当たるダイサイズから始まっており、しかも1年後にはさらに1世代シュリンクすることになっている。つまり、Willametteですでにダイサイズ(=製造コスト)としては、メインストリームデスクトップをカバーできるわけだ。

 しかも、今のPentium 4はトランジスタ数の割にダイが大きい。これは物理設計を最適化すると、同じ製造プロセスであっても今後ダイが小さくなる可能性が高いことを意味している。おそらく、来年になるとWillametteも違うステッピングが登場、ダイが縮小するだろう。その段階で、製造工場を拡大して供給を拡大するというのが予想されるシナリオだ。そして、来年第4四半期に登場する0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)では、おそらくダイは120~140平方mm程度になり、完全にバリューPCもターゲットにできるようになると思われる。

●廉価版の1.3GHz Pentium 4も来年投入

 とはいえ、Intelの0.18μmプロセス自体のキャパシティにはもちろん限界がある。その中で、WillametteとCoppermineを製造するとなると、CPU全体の供給量を考える必要が出てくる。Coppermineの方は原理的に同じ1枚のウエハからWillametteの2倍以上の個数が採れる(ダイが大きくなると歩留まりが落ちる)。これは、Pentium 4の比率が高まれば高まるほど、Intel CPUの総供給数が落ちることを意味している。Intelは、このところ1年以上もの間CPUの供給不足状態にあるわけで、これはかなりリスキーだ。

 それでも、IntelがPentium 4の比率を高める理由はいくつか考えられる。1つは、0.18μmのキャパが順調に増えるメドが立っている可能性。もう1つは、Pentium 4の比率を高めないと、性能競争に負けてAthlon/Duronに市場を食われ、どうせシェアが落ちてしまうと判断した可能性だ。マージンが比較的高いメインストリームデスクトップでのシェアをAMDに取られるくらいなら、CPU全体の供給量を減らしてもPentium 4の比率を高めた方が得策だと考えたのかもしれない。

 いずれにせよ、IntelはPentium 4の生産量を予定よりかなり急激に増やしていく見込みだ。これは、Pentium 4の価格も急激に下げることを意味している。移行を促すために、IntelはPentium 4のローエンドの価格を戦略的に安くしてくるだろう。実際、そのために来年に入ると廉価な1.3GHz版Pentium 4も投入すると言われている。業界筋の情報によると、来年頭にはPentium 4のローエンドとPentium IIIのハイエンドの価格差はほぼなくなる(数10ドルにまで縮まる)という。そして、来年末までにメインストリームPC全体をPentium 4がカバーできるようににするということは、1.5GHz以下のローエンドのPentium 4の価格が、来年の冬商戦時期には200ドルを切ることを意味している。

 もっとも、Pentium 4システムの価格を左右する要素は、CPU自体の価格よりもむしろプラットフォームのコストにある。Pentium 4デスクトップでは、マザーボードやメモリ、冷却システム、電源などあらゆるところにコスト増要因がある。コストが下げられるのは、どう見てもSDRAM/DDR SDRAMベースのPentium 4用チップセット「Brookdale(ブルックデール)」が登場してからとなる。しかし、現在のアグレッシブなPentium 4普及計画では、その前の段階で米国で2,000ドル、日本で25万円以下のラインへPentium 4システムを落とし込むことになっているという。このあたりは、まだ疑問が残るところだ。


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(2000年11月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp