AMDは、MICROPROCESSOR FORUM 2000の会場において、同社がサーバー/ワークステーション用に投入を予定しているマルチプロセッサシステムの詳細を明らかにした。
さらに、報道関係者にはAMD-760MPのサンプルマザーボードを利用したAthlonのマルチプロセッサシステムを公開した。この記事では公開されたAMD-760MPの詳細についてレポートする。
AMDは1月のPlatform2000などで、AMD-760のマルチプロセッサバージョン(当時はAMD-770の製品名で語られていた)の存在を明らかにしていたが、今回のMICROPROCESSOR FORUM 2000ではその詳細が公開された。
AMD-762の機能を説明するスライド |
既に、シングルバージョンであるAMD-760はノースブリッジであるAMD-761とサウスブリッジであるAMD-766から構成されていることが明らかにされているが、今回AMD-760MPのノースブリッジがAMD-762であることが公表された。
サウスブリッジは共通なので、AMD-760MPはノースブリッジのAMD-762とサウスブリッジのAMD-766から構成されることになる。以下がAMDのセッションで公開されたAMD-762のスペックだ。
【AMD-760MPチップセット】
ノースブリッジ | AMD-762 |
---|---|
システムバス | EV6バス 266/200MHz |
64バイトバースト転送 2ウェイマルチプロセッサ Point-to-Point FSBトポロジー |
|
MOESIキャッシュコヘレンシプロトコル | チップセットによるキャッシュメモリの一貫性の管理 キャッシュの一貫性維持のために必要なメモリ帯域の減少 |
DDR SDRAMメモリコントローラ | PC-2100/1600(266/200MHzのDDR SDRAM)/ピーク時のバンド幅は2.1GB(1.6GB)/sec 最大4つのRegistered DIMMをサポート 64bitデータバス ECCサポート 64MB/128MB/256MB/512MBのDRAMをサポート 最大4GB |
4× AGPインターフェイス(1×/2×/4×) | |
PCIインターフェイス |
●Point-to-Pointのシステムバスでバンド幅は倍相当に
このうち、AMD-760にはなくAMD-760MPだけがサポートしているのが、いうまでもなくマルチプロセッササポートの部分だ。
AMD-760MPでは2ウェイ、つまりAthlonを2つ搭載できるマルチプロセッサシステムをサポートしている。AthlonのシステムバスであるEV6バスは、マルチプロセッサシステムのためにPoint-to-Pointトポロジーを採用している。Point-to-Pointのシステムバスでは、チップセットとプロセッサがそれぞれ専用のバスで接続されているような形になるため、プロセッサとチップセット間のピーク時のバンド幅はそれぞれプロセッサごとに確保される。266MHzで動作している場合には、各プロセッサごとに2.1GB/secの帯域が確保される。
これに対して、IntelのPentium IIIなどで採用されているP6バスではシェアードバスという仕組みが採用されており、1つのシステムバスに複数のプロセッサが接続されている場合、システムバスの帯域を複数のプロセッサが奪いあう形になっている。
例えば、システムバスのクロックが133MHz(ピーク時バンド幅1GB/sec)のPentium IIIが2つ利用しているマルチプロセッサシステムで、両方のプロセッサが同等に帯域を消費した場合には、最大で半分の0.5GB/secがピーク時バンド幅となる計算になる。それに比べると、プロセッサごとに2.1GB/secの帯域が確保されるAthlonのPoint-to-Pointのシステムバスはサーバー/ワークステーションなどでメリットが大きい。
●2つのプロセッサがキャッシュの内容を保持しあうMOESIキャッシュコヘレンシプロトコル
さらに、AMD-760MPでは2つのプロセッサがキャッシュに格納するデータの内容をシェアする場合にも工夫がされている。それは、AMDが「MOESIキャッシュコヘレンシプロトコル」と呼ぶ仕組みだ。簡単にいってしまえば、2つのプロセッサのL2キャッシュに格納されているデータを一方が更新した時に、両方のプロセッサがそれぞれメモリを読みにいくのではなく、チップセット側で一方が更新されたら、もう一方も更新してしまうというものだ。
具体的にはチップセットでは64バイトのキャッシュラインが用意されており、一方のキャッシュにデータが書き込まれるなど何らかの更新がおこった場合には、他方のCPUから読み込みのリクエストが入る。この64バイトのキャッシュラインを利用してもう一方のキャッシュへデータが転送され、L2キャッシュの一貫性を保持することが可能になる。こうしたキャッシュからキャッシュへと直接データを転送するメリットは、なんといってもメインメモリの帯域の消費を抑さえることができる点にある。
●ThunderbirdコアのAthlonを利用したAMD-760MPのサンプルシステムを公開
AMDでは会場となったFairmont Hotelの一室で、報道関係者向けのセッションも開催し、そこでAMD-760MPのサンプルシステムを公開した。ただし、使用されているCPUはサーバー/ワークステーション向けに投入されると予想されるMustangコアではなく、従来のThunderbirdが採用されていた。実際にWindows NTのタスクマネージャで2つのCPUに負荷がかかり、マルチプロセッサとして動作していることを確認することができた。
AMD-760MPを利用したAthlonのマルチプロセッサシステム。CPUにはThunderbirdコアのAthlonが採用されている | Windows NTのタスクマネージャ。マルチプロセッサ環境になっているのがわかる |
気になる出荷時期だが、AMD コンピュテーションプロダクトグループ プロダクトマーケティングマネージャのマーティン・ブース氏によれば「AMD-760MPは対応のCPUと共に年末に発表される。シングルのみに対応したAMD-760はここ数週間のうちに発表されるだろう」とのべ、まず最初にAMD-760が発表され、年末までにAMD-760MPとそれに対応したサーバー/ワークステーション向けCPUが投入されるという見通しを明らかにした。
実際のところ、OEMメーカー筋からは今月末にAMDがAMD-760と266MHzのシステムバスに対応したAthlon 1.2GHzとAthlon 1.13GHzを投入するとAMDが告知してきたという情報が流れてきており、今回のブース氏の発言はそれを裏付けるものだといっていいだろう。
長い間待たされたAMD-760チップセットだが、もうもまなく我々の前に姿を見せそうだ。
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(2000年10月11日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]