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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

IntelがPentium 4搭載機にRDRAM代を補助
--窮余の策でPentium 4立ち上げに臨む

●IntelがRDRAM Credit Programを打ち出す

 Intelはよほど困っているようだ。PCメーカーが、なかなかPentium 4搭載機を出そうとしてくれないのだ。少なくとも、Pentium IIやPentium IIIの時のように、PCメーカーがこぞってPentium 4搭載機を市場に出そうというムードにはなっていない。

 PCメーカーが渋っている理由のひとつはRDRAM。Pentium 4では、当面、RDRAMしか使えないため、SDRAMベースのシステムよりコストがアップするというのだ。そこで、Intelは窮余の策に出た。なんと、Pentium 4搭載PCを出すメーカーに、RDRAMによるコスト増を補填するとまで言い出したのだ。

 複数のPC業界関係者によると、これは「RDRAM Credit Program」と呼ばれるプログラムで、しばらく前からウワサになっていたという。なんでも、PCメーカーがPentium 4を買うと、IntelからRDRAMによるコスト増のかなりの部分をカバーできるだけのクレジットが提供されるのだそうだ。クレジットは、実際にはPentium 4の値引きに使われる。つまり、Intelは、RDRAMのコスト増を、Pentium 4のディスカウントで相殺しようとしているのだ。

 ある業界関係者はこのプログラムを聞いて「ここまでやるか? ウソだと思っていた」と思ったそうだ。それは当然だろう。Intelは、このプログラムで2,500ドル以下のPentium 4システムを実現できると説明しているという。逆を言えば、ここまでするから2,500ドル以下のPentium 4デスクトップを出してくれと頼んでいるわけだ。そこまでIntelは追いつめられているらしい。

 Intelは、このプログラムを、少なくとも来年第1四半期までは続けるらしい。来年後半のSDRAMベースのPentium 4チップセット「Brookdale(ブルックデール)」までは、このプログラムでしのぐ戦術なのかもしれない。Pentium 4の価格は当面は高い(おそらく600~800ドル)ので、RDRAMのコストアップ分を補填しても利益は出る。しかし、このプログラムはIntelのCPU価格体系を崩し、なによりもIntelの苦境を浮き彫りにしてしまう。Intelにとって、マイナス要素は大きい。

●とても難しいPentium 4マシンの開発

 だが、たとえIntelがRDRAMの差額を補填したとしても、PCメーカーがいきなりPentium 4に積極的になることはないだろう。それは、Pentium 4搭載機の開発には、他にもコスト増と開発負担増と設計の自由度を奪う、さまざまなハードルがあるからだ。

 例えば、マザーボード。PCのマザーボードは通常は低コストの4層基板を使うが、Pentium 4用の最初のチップセットIntel 850のマザーボードでは、コストが高く設計が難しい6層基板になってしまうという。これはi850が、RDRAMインターフェイスを2チャネル搭載する設計になっているからだ。現状では、RDRAM 2チャネルは6層基板でないと難しいらしい。ところが、多くのPC系開発者は4層基板しかやったことがない。

 また、i850マザーボードのメモリ回りの配線は、遅延の調整のために複雑に蛇行しており、なかなか壮観だ。このあたりのデザインは、もうシミュレーション済みのリファレンス通りに作る以外にないだろう。そのためか、i850マザーは、どれもCPUとチップセット、メモリスロット回りのパターンが同じになっているように見える。

 それから、Pentium 4の膨大な消費電力と発熱も、搭載マシンの設計を難しくしている。今年2月のIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」での説明によると、Pentium 4の消費電力はPentium IIIの2倍以上で、来年には60Wに達するという。そのため、Pentium 4は450gの重いヒートシンクとファンを載せ、それを50Gの圧力でマザーボードに圧着しなければならないという。つまり、Pentium 4マザーボードは450g×50=22.5kg(!)の加重に耐えられなければならないのだ。これは、小学生1人分の重量だ。

 そんなヒートシンクをCPUだけで支え切ることはもちろんできない。そのため、Pentium 4マザーボードでは、CPUソケットの回りに補強されたシンク用の穴が開けられている。ソケットの回りにがっしりしたヒートシンク留めを装着し、その上にヒートシンクを載せるという仕組みだ。Intelはマザーボードの筺体への固定の方法や、固定ピンの穴の補強なども指示しているらしい。

 また、Pentium 4システムでは、CPUだけでなくチップセットもメモリも発熱量が多いため、リアファンでPC内部にエアーを循環させてCPUを冷却する設計が推奨されている。そのため、CPUとチップセットの位置も指定されているようだ。それから、Pentium 4では、CPUの消費電力が高いため、電流量を落とすためにCPUへの入力電圧を12Vに高める。そのため、12V供給の専用電源「ATX12V」が必要となる。

●PCメーカーの間にふくらむIntelへの疑問

 呆れるほどの複雑さ。最新CPUを搭載するのに困難はつきものだが、Pentium 4の場合はそれがともかく多すぎると嘆く開発者は多い。コストがアップするだけでなく、設計の自由度も低いので、個性的なマシンを作りにくい。とくに、日本の薄型デスクトップには、当面は搭載できないだろう。

 そもそも、ユーザーの多数派がPentium 4のようなマシンを求めているかどうかにも疑問がある。今のPC市場は、コストパフォーマンスの高いマシンへとシフトが進み、高パフォーマンスへの飢餓感は薄い。それなのに、Pentium 4システム開発のハードルはこれまで以上に高い。苦労してPentium 4マシンを開発しても、あまり売れない可能性が高い。

 それでも、これまでだったらPCメーカーは、最新CPUを搭載すること自体に価値を見いだし、利益にならなくても積極的に対応した。だが、Intel 820チップセットのとん挫や0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)の供給問題など、Intelの力と指導力の限界が見えてきた。特に、i820の失策は大きい。Intelなら力業でこうした問題を切り抜けるだろうと思っていたPC業界関係者に、Intelも失敗することがあると印象づけてしまった。

 そのため、PCメーカーの間には、Intelの示す方向についていってもいいのだろうかという疑問が出てきている。これまでは、常勝Intelについていかないと、PC業界で生き残れないというムードだったのが、変わり始めた。AMDという選択肢が浮上してきたことも大きい。PCメーカーに漂う、Pentium 4に対する様子見の空気は、こうしたメーカー側の疑問を反映している。根が深いだけに、Intelにとってはやっかいだ。

 Intelの“Pentium 4マシンを出してくれ”攻勢は非常に強いそうなので、多くのPCメーカーはそれでもPentium 4モデルを用意するだろう。しかし、積極的なのは一握りのメーカーだけで、大半はOEMまかせの“とりあえずモデル”を出すだけになりそうだ。Pentium 4に本腰を入れるのは、0.13μm版Pentium 4(Northwood)+Brookdaleの、来年冬モデルからで十分と考えているかもしれない。Northwood+Brookdaleなら、4層基板マザーボードで熱設計も容易になるからだ。

 はたしてIntelは、あと2ヵ月のうちにPCメーカーをPentium 4に積極的な姿勢に変えられるだろうか。


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(2000年8月17日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp