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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intelは来年1月に1GHzのモバイルCPUを前倒し、モバイル版Timnaも投入へ


●モバイルCPUのスケジュールは前へスライド

 IntelのモバイルCPUは、ますます熱くなってゆく。モバイルPentium IIIの1GHz版を前倒しにする一方で、低消費電力版はほとんど打ち止めに近い状態にしてしまう。モバイルCeleronも、来年中盤には800MHz台に載せる。また、グラフィックス統合CPUのモバイル版「Mobile Timna+(ティムナ)」も、733MHz以上の高クロックで投入すると言われている。モバイルCPUの高クロック化で、ノートPCの厚型化にますます拍車がかかりそうだ。

 Intelは、モバイルCPUの高クロック化をどんどん前倒しにしている。業界筋の情報によると、モバイルPentium IIIの1GHz版は、当初来年半ばの予定だったのが、今では来年1月にまで繰り上がっているという。関連記事の「Intel MPUロードマップ」を参照してもらえれば、このクロック向上がいかに急峻かわかるだろう。

◎現在の推定スケジュール
2000年9月 800MHz/850MHz
2001年1月 900MHz/1GHz
2001年第2四半期後半 1.13GHz? (0.13μm版)

◎7月頭までのスケジュール
2000年9月 800MHz/850MHz
2001年頭 900MHz
2001年第2四半期 950MHz
2001年第2四半期後半 1GHz以上 (0.13μm版)

 なぜ、Intelはそんなに慌てているのか。おそらく、その理由はAthlonのモバイル版が迫っているからだ。Athlonのモバイル版は、このコラムで予測していたよりも高いクロック、1GHzかそれに近いクロックで登場するという情報がある。Intelの慌てた動きは、そのウワサを裏付けているように見える。Intelが、モバイルでの優位はなんとしても保持したいと考えたとしても不思議ではない。


●熱設計はクレイジーなレベルに

 Intelが、来年頭に1GHzの投入を決めたことで、IntelのモバイルCPUは、1年で「500MHz→1GHz」へと、約2倍にクロックが跳ね上がることになる。しかし、ほとんどのノートPCメーカーは、この話をグッドニュースとは受け止めないだろう。それは、ノートPCの熱設計がさらに難しくなることを意味しているからだ。

 モバイルPentium III 1GHz版の駆動電圧は、通常のモバイルPentium IIIの1.6Vより高い1.7Vになると言われている。これは、電圧を高めないと高クロック駆動品が採れないためだ。しかし、その結果、モバイルPentium III 1GHz版の熱設計電力(TDP:Thermal Design Power)は、計算上約25Wなってしまう。これは、デスクトップCPUとしても熱い部類で、モバイルCPUとしてはかつてないクレイジーな熱量だ。そして、それは、同時にノートPCメーカーに、途方もないチャレンジが要求されるということを意味する。

 25WのTDPがどれほど膨大かは、わずか1年半ほど前まで、IntelのモバイルCPUの熱設計が11W程度だったことを振り返ると実感できる。TDPが25Wということは、ノートPCメーカーは少なくとも25Wの熱を処理できる冷却機構を開発しなければならない。つまり、ノートPCの開発者は、CPUの熱を処理する能力を一気に2倍以上に高めなくてはならなくなったのだ。


●Tualatinに合わせてCoppermine-Tも投入

 Intelは、もともと1GHz以上のモバイルPentium IIIは、0.13μm版の「Tualatin(テュアラティン)」から提供する予定だった。Tualatinの場合には、1GHz版の熱設計も、おそらく現在の700MHzのモバイルPentium III搭載ノートPCと同程度で済むだろう。そのため、PCメーカーが高クロックノートPCに本腰を入れるのは、Tualatin以降になると思われる。

 業界筋の情報によると、Tualatinは現在の0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)のFSBである「AGTL+」とは電圧とクロッキング方式が異なる「AGTL」にのみ対応するという。そのため、次世代チップセット「Almador-M(アマドール)」でないと対応できない。そこで、IntelはTualatinと同時期に、Almador-Mと新FSBに対応した新しい0.18μm版Pentium III(Coppermine-T)を投入するようだ。

 また、Almador-Mからは、FSBは133MHzだけになると言われる。そのため、Coppermine-Tでは933MHzや866MHzといったバージョンが登場し、Tualatinは1.13GHzで登場すると推測される。Tualatinでは、1.4GHz程度までなら、最近の熱設計のノートPCに載せられると見られる。ただし、実際にどの程度のクロックまで提供するかは、その後に控えているモバイル版Pentium 4との関係で決まるだろう。

 6月頃の情報では、IntelはノートPCメーカーに、「0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)」を来年第4四半期にモバイル向けに提供すると説明していたという。Pentium 4のプランは、現在かなり流動的なため、今もこのスケジュール通りに動いているのかどうかはわからないが、IntelがPentium 4をノートPCに投入するつもりなのは確かだ。しかし、Pentium 4は、Pentium IIIと比べて同じプロセステクノロジでも消費電力が大きいため、ここでもまたPCメーカーは熱設計に頭を悩ませることになるだろう。


●Timnaはデスクトップ版でも20W程度の消費電力

 Intelは、Timnaもモバイルに投入する。これは、何も不思議はない。半導体の世界では、統合化は消費電力の低減や実装面積の縮小の常套手段だからだ。Timnaは、CPUとチップセットの(Memory Controller Hub)チップとグラフィックスチップをワンチップに統合している。そのため、電力を食うAGPバスやグラフィックスメモリインターフェイスといった部分が省略される。デスクトップ版のTimnaは、1.6V駆動なら866MHzでも22W程度だと推測されている。来年の熱いノートPCの熱設計は20Wをラクに越えるので、CPUとチップセットで22WのTimnaなら、デスクトップ版そのままでも十分載せられる計算になる。

 ちなみに、Timnaには元々年内発売予定だった「Celeron+Intel 810」相当バージョンと、来年中盤から登場する新グラフィックスコアを搭載した「Timna+」の2種類があると言われている。モバイル向けに登場するのは、どうやら新コアのTimna+の方らしい。

 高クロック化が進むIntelのモバイルCPUの中で取り残されるのが低消費電力タイプのCPUだ。Intelは、低電圧版のPentium III 600MHzとCeleron 500MHzを発表したが、今後1年以上、これ以上消費電力の低いCPUを出す計画はないと言われる。低電圧版も、結局今後は700MHz、750MHzとクロックが上がり、その分消費電力が上がってしまう。また、低電圧版Celeronに至っては、500MHzで打ち止めだとIntelはOEMメーカーに説明したという。

 つまり、今後、0.18μmの製造プロセスでは、IntelのモバイルCPUの熱と消費電力はひたすら上がる一方になる。薄型ノートPCにとっては、ますます苦しい状況だ。しかも、この苦境が、少なくともあと1年は続く。あるOEMメーカーによると、Intelは来年中にはTualatinで比較的クロックが低いバージョンを、薄型ノートPC向けに提供すると説明したそうだ。だが、それは来年の冬モデルの時期になるという。薄型ノートPCは、Intel CPUで行こうとするなら、それまでひたすら増えるTDPとの戦いを強いられることになる。

 こうした状況なら、日本のノートPCメーカーがこぞってTransmetaの「Crusoe(クルーソ)」に流れたとしても不思議はないだろう。今回のソニーのCrusoe搭載発表は、まだ序の口に過ぎない。今年後半から来年前半にかけて、大半の日本メーカーが、少なくとも1モデルのCrusoeノートPCをトライアルで市場に投入すると推測する。そして、その波は、ノートPC同様に熱設計がやっかいな薄型デスクトップにも波及するかもしれない。

□関連記事
Intel MPUロードマップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/intel/roadmap.htm


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(2000年8月11日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp