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メルコ、無線LAN“CATVモデル”レポート
~プラス1,000円のルーティング機能の実力~

●アクセスポイントが充実したメルコの無線LANファミリー

 今回は、メルコの無線LAN「AIRCONNECT」シリーズの中から、ローカルルータ機能を備えたCATV対応モデルのアクセスポイント「WLAR-L11」と、無線LANカードの「WLI-PCM-L11」を試用してみた(無線LANについては「無線LANの基礎知識」を参照)。メルコの製品には、このほかにも表のような5種類のアクセスポイントが用意されており、用途に応じた機種が選択できる。基本的には、標準モデルのWLA-L11と、残りはWAN回線(Ethernet、アナログ、ISDN、シリアル)の異なるルータモデルのバリエーション。WLAR-L11は、ケーブルモデムやADSLモデム等のEthernetデバイスを対象に、アドレスやポート番号を変換し、1つのIPを使って複数の無線端末をインターネットに接続できるようにする、いわゆるIPマスカレード付きのルーティング機能を提供する。

型番価格モデル
WLA-L1133,000円標準モデル
WLAR-L1134,000円CATV対応モデル
WLAR-L11-M38,000円モデム内蔵モデル
WLAR-L11-S35,000円シリアルポート搭載モデル(8月出荷)
WLAR-12845,000円ISDNルータ内蔵モデル(9月出荷)

 アクセスポイント本体は、標準モデルのWLA-L11と全く同じ物で、背面には10/100Mbps対応のEthernetポートが1つだけ用意されている。標準モデルの場合は、これが無線を有線に接続するためのブリッジになっているのだが、WLAR-L11の場合には、ブリッジに加えルータとしても機能するように作られている。ただし、ポートは1つだけなので、ブリッジとルータは二者択一。おそらく多くのユーザが考える、『ローカルの有線LANと無線LANをまとめて、インターネット接続を共有する』という用途には、このモデルでは対応できない。もっとも、標準モデル+1,000円でルータ機能のオマケが付いて来るのだから、あまり贅沢は言えないのかもしれない(ファームウェアのアップグレードで、標準モデルをルータ対応版にすることはできない)。

 もし無線/有線を接続したいというのであれば、普通の無線/有線ブリッジ(標準モデルなら、カードとセットになったお買い得な「簡単導入パック」もある)に、別途ルータを組み合わせることになる。また、メルコではLAN用の有線ポートを加えた製品も予定しているそうなので、こちらを待ってもいいだろう。既に9月出荷でリリースが出されているISDN対応モデルが、4ポートのスイッチングハブ(要はマルチポートのブリッジ)付きという仕様なので、早めの登場が期待できるかもしれない。

 今年に入り、各社から802.11b対応の無線LANカードやアクセスポイントが次々にリリースされてるが、チップセットは、LucentのORiNOCO(WaveLAN)とIntersilのPRISM IIの2種類しかなく、無線LANとしての基本機能にはほとんど差がない。それどころか、技術基準適合証明(無線LANは、郵政大臣の指定証明機関で証明または認証を受けることによって、ユーザー自身の免許取得を不要とした無線設備)を直接受けていない、すなわち、証明付きのOEM品をそのまま販売しているベンダーも多いようだし、見た目は違ってもカード部分は一緒という製品も多数ある。こうなると、差別化が計れるのは価格と付加機能くらい。「無線LAN+インターネット」という、コンシューマ市場に最もアピールできる付加価値を持った製品は、生まれるべくして生まれたといっていいだろう。現在は、価格的にもラインナップ的にもメルコの独壇場だが、ユーザーとしては、各社が機能の充実と低価格化にさらに拍車を掛けてくれることを期待するのみである。

□メルコの製品ページ
http://www.melcoinc.co.jp/pronow/airstation/index.html
http://www.melcoinc.co.jp/product/musen.html


●CATVモデル「WLAR-L11」のルータ機能

 本機の特徴は、アクセスポイントの基本機能(無線通信の交通整理、有線/無線間のブリッジ、ローミング)に加え、インターネット接続共有用のルータ機能を備えている点である。このプラス1,000円の付加機能が、どれほどのものなのか、ざっと検証してみよう。

 IPマスカレードや有線側のDHCPクライアント、無線側のDHCPサーバー機能といった、インターネット接続共有に必要な基本機能はもちろんサポートされており、一般的なWebベースのインタフェースで操作できる。設定は、ブリッジモードとルータモードの選択を兼ねた「目的別設定」と、最小限の設定項目だけの「簡易設定」、全項目を操作できる「詳細設定」の3つに分かれており、いずれも簡潔にまとめられている。無線LAN特有の機能を除くと、ルータとしての機能は非常にあっさりしたもので、前述のDHCP関連の設定と、パケットフィルタしかない。

目的別設定DHCPサーバー設定
一般的なルータモードの設定は、目的別設定でCATV網を選ぶだけ。有線側がDHCPクライアントに、無線側がDHCPサーバーとしてセットアップされる ホスト名やWINSサーバーの設定項目こそないが、DHCPサーバーは一通りのことが設定可能。ISDNルータでは必須の、自分自身をDNSサーバーとして通知し実際のサーバーにフォワードするプロキシ機能や、特定のMACアドレスに手動でIPアドレスを割り当てる機能もサポートしている

フィルタは、プリセットの3個のみ。基本的には、ISDNルータの予期せぬダイヤルアップを防止するためのものだが、「NBT(NetBIOS over TCP/IP)パケットのルーティング禁止」は有用
 このパケットフィルタも、プリセットされているものをセットするだけの簡単なもので、実質有効なのは、Windowsのネットワーク共有を遮断するための「NBTのルーティングを禁止する」という選択肢のみである。アクセス制御のフィルタを追加したり(無線端末のアクセスポイントへの接続を、MACアドレスレベルで制限することは可能)、必要に応じてポートをフォワードしたりといった機能は一切ないので、サーバーの公開は×。ゲーム、チャット、ストリーム等のアプリケーションで、外部からの接続が必須のタイプに関しては、ファームウェアでどこまでサポートしているかにかかっているが、今のところはほとんど絶望的ではないかと思われる(筆者自身がこの手のソフトをあまり使わないので、ほとんど調査できていない)。とりあえず、無条件で1台にフォワードする機能でもあれば救われるのだが、この辺は今後の対応に期待したい。

 なお、筆者の環境では、DHCPサーバーからリースしたアドレスを更新しない(できない)という現象も出ていたが、7月21日に公開されたファームウェア1.01にアップデートする事で解決した。リリースでは、TERAYON製ケーブルモデムからアドレスを取得ができない不具合を修正したとあり、このファームウェアを使うことによって、筆者の環境でのアドレス更新の問題も解消した。同社のQ&Aでは、「TERAYON製ケーブルモデムが特殊な動作を行なっているために、正常にデータのやり取りが行なわれないため」としているが、筆者の環境では、内部のテストに使用していたWindows NTのDHCPサーバーに対して、WALR-L11がリースを更新できないという問題が生じていた。内容的には同じトラブルであり、案の定、ファームのアップデートでNTとの問題が解消されている。「TERAYON製モデムの実装に依存する問題」としているが、疑問が残るところだ。

 とりあえずアドレスの再取得ができるようになったので、更新に失敗した場合の挙動についてもチェックしてみた。結果は、ちゃんとリトライするようで、接続できるようになると自動的に再取得し通信が復旧する。

 WLAR-L11のルータ機能は、以上のような簡単なものなのだが、ルーティングに伴なうシステムの負荷はかなり大きいようで、ブリッジモードに比べると、無線/有線間で35~50%の速度低下が見られた。それでも、転送速度は2Mbps以上出ているので、現行のADSLモデムや帯域制限のかかったケーブルモデムでは、全く問題のないレベルではある。

□WALR-L11のアドレス取得の問題に関するQ&A
http://www.melcoinc.co.jp/qa/wireless/b07g0230.html


●WLAR-11Lのベンチマーク結果

 無線LANのパフォーマンスを実測した。測定方法は、「CATVインターネット接続事情」で行なったベンチマークテストに準ずるが、機材やOS、手順等は若干異なる。

 基本構成は、以下のとおりで「ノートPC」は無線側に置き、「デスクトップPC」を必要に応じて無線と有線に切り換えて使用する。転送は、winsoc.ocxを使ったVB6アプリケーションを使用。100MBのデータを10回送信し、最大と最小を除いた8回分の平均値とした。このソフトは、アプリケーションレベルでの応答は一切行なわず、一方的にデータを送りつける仕様になっているが、TCP(Transmission Control Protocol)はそれ自体がプロトコルレベルでACKパケットを返す。送信側から送られてくる大きなデータパケットに対し、受信側から受領を知らせる小さなパケットが送信されるので、送信に伴なうオーバーヘッドが大きい無線LANでは、この部分のロスも大きいだろう。

 以上を、WEPとRTS/CTSの有無という条件を変えて4通り計測(アクセスポイントにはRTS/CTSの設定がないので端末のみ)。無線という性質上、電波障害による速度低下も予想されるが、計測結果に大きなばらつきが出た1回と、異常に遅くなった1回(いずれも原因は不明だが無線上の障害だろう)を、日時を変えて再計測し、安定した再計測後のデータを採用している。インフラストラクチャモードの「ワイヤレス端末間」「無線-有線間:ルータモード」も実際には再計測しているが、再計測後も安定して遅いので、これは本来の性能と判断した。

【使用機材】
HUB(AirStationの有線LAN側に接続)
 メルコ LSW 10/100-8H(8port 10/100Mbps スイッチングHUB)

ノートPC
 CPU:Celeron 500MHz
 NIC:WLI-PCM-L11(無線LANカード)
 OS:Windows 98 SE

デスクトップPC
 CPU:Celeron 466MHz
 NIC:無線 WLI-PCI-OP & WLI-PCM-L11(PCIアダプタと無線LANカード)
    有線 Planex FNW-9700T
 OS:Windows 98 SE

■アドホックモード(無線端末間)
条件ノートPC→デスクトップPCノートPC←デスクトップPC
WEPRTS/CTS時間転送速度時間転送速度
なしなし168.58秒4.98Mbps169.77秒4.94Mbps
ありなし215.00秒3.90Mbps213.99秒3.92Mbps
なしあり209.82秒4.00Mbps210.23秒3.99Mbps
ありあり219.53秒3.82Mbps219.14秒3.83Mbps

■インフラストラクチャモード(無線端末間)
条件ノートPC→デスクトップPCノートPC←デスクトップPC
WEPRTS/CTS時間転送速度時間転送速度
なしなし331.13秒2.53Mbps333.55秒2.51Mbps
ありなし380.90秒2.20Mbps380.24秒2.21Mbps
なしあり372.54秒2.25Mbps373.57秒2.25Mbps
ありあり406.53秒2.06Mbps408.99秒2.05Mbps

■インフラストラクチャモード(無線-有線間:ブリッジモード)
条件ノートPC→デスクトップPCノートPC←デスクトップPC
WEPRTS/CTS時間転送速度時間転送速度
なしなし193.24秒4.34Mbps191.32秒4.38Mbps
ありなし218.95秒3.83Mbps215.01秒3.90Mbps
なしあり213.21秒3.93Mbps191.53秒4.38Mbps
ありあり221.44秒3.79Mbps214.89秒3.90Mbps

■インフラストラクチャモード(無線-有線間:ルータモード)
条件ノートPC→デスクトップPCノートPC←デスクトップPC
WEPRTS/CTS時間転送速度時間転送速度
なしなし391.70秒2.14Mbps334.78秒2.51Mbps
ありなし359.81秒2.33Mbps333.25秒2.52Mbps
なしあり381.07秒2.20Mbps334.72秒2.51Mbps
ありあり370.32秒2.27Mbps333.31秒2.52Mbps

 無線LANの仕様上、アクセスが競合しなければアドホックモードが有利なのだが、テストの結果もそれを裏付けるものとなった。が、それでも最速5Mbpsなので、10Base-T(筆者の環境では8.7Mbps)に比べるとかなり遅い。Webにアクセスしたり少量のファイルを扱っている分には良いのだが、ファイルサーバーに置いたデータベースをガリガリやるにはかなり辛い。古いCD-ROM程度と思えば間違いないだろう。

 無線LANの一般的な使い方としては、有線上のファイルサーバーにアクセスするスタイルが圧倒的に多いと思う。これを想定したインフラストラクチャモードで、有線側の端末にアクセスする場合(ブリッジモード)の速度の低下はごく僅かだ。が、アドホックモードと同等の事を行なう無線端末間の転送では、著しい速度低下が見られる。有線無線間の通信は、アクセスポイントとそれに制御される無線端末間の転送になるため、ピアツーピアに近い状態といえる。これに対し、無線端末間では、ロングパケットとショートパケットを送る2台の端末が、アクセスポイントに制御されている形で転送を行なっているので、この辺が、より大きな速度低下につながっているのではないかと思う。が、それにしても激しい落ち込みようだ。

 RTS/CTS(Request To Send/Clear To Send)とWEP(Wired Equivalent Privacy)のオーバーヘッドも予想されたことだが、2割の速度低下(アドホックモード)は思った以上に大きい。いずれもオプション機能だが(RTS/CTSのインプリメントは必須)、WEPは必須といっても良い機能なので気になる。WLAR-11L特有の機能であるルータ機能の速度低下は特に大きく、それだけでスピードが半減してしまう(それでも帯域制限のかかったケーブルモデムや、一般的なADSLモデムには充分な速度)。興味深いのは、ほかの機能を併用しても、その後の低下が少ない点である。プロトコル上のオーバーヘッドは、手順が増えることによるタイミングのロスや暗号化によるデータの冗長なので、これらを有効にすればロスが加算されるはずである。が、そうはならないということは、ほかの要因、おそらくは内部処理に大きなボトルネックがあると考えられる。


●動かなかった無線/有線LANカードの2枚挿し

 無線LANの接続方式には、アクセスポイントを使ったインフラストラクチャモードのほかに、端末どうしで直接通信を行なうアドホックモードというのがある。アクセスポイントよりも無線LANカードの方が安価であり、筆者のところのようにノート1台の環境では、アドホックモードの方がより高いパフォーマンスが期待できる。

 そこで、デスクトップマシンに有線と無線のカードを挿し、アドホックモードで接続した無線LANと有線間のルーティングを行なわせるという方法を考えた。ブリッジ接続と違い、ルータ接続ではWindowsネットワークの運用が面倒になるが、うまく行けば儲けモノである。が結果は惨憺たるもの。Windows 98 SEのインターネット接続共有に関しては、無線LAN側が不安定で(ガンガン切れまくる)使い物にならない(手持ちの1,000円~1万円の有線NIC4枚[NE2000互換ノーブランド、Planex、3Com、Intel]とICSの組み合わせはどれでもOKで、無線LANと組み合わせた場合も有線側はちゃんと動作しているのだが)。Windows 2000では、無線LANへの送信が異常に遅く(100kbps程度)、ルーティング云々以前にこちらも使えない状態だった。

 メルコに問い合わせたところ、98 SEの接続共有機能は非サポ-ト、W2Kのドライバは現在開発中でまだ正式に対応しておらず、NT4なら動作するとのこと。とりあえず計画倒れに終わってしまったので、この件については改めてレポートしたい。

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【7月25日】鈴木直美の無線LANの基礎知識~使う前に知っておきたいキーワード~
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【'99年6月22日】【一ヶ谷】無線LANでもっと“ごろごろ”インターネット
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【5月24日】【一ヶ谷】「AirStation」で11Mbpsの高速・快適な無線LAN三昧
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000524/dgogo13.htm
【5月31日】CATVインターネット接続事情
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/link/catv00_i.htm

(2000年7月25日)

[Reported by 鈴木直美]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp