22日(現地時間)に発表された「Microsoft.NET」については、新聞報道などでも伝えられていますが、構想の大きさと曖昧さから内容の把握が難しい状態です。この分野にくわしい山本雅史氏による解説を全3回でお送りしています。今回が最終回となります。(編集部)
■プロダクトやサービス
・プロダクトとして提供されるもの
Microsoft.NETのクライアント側OSとなるのが、Windows.NETだ。Windows.NETでは、.NET Building Block Servicesにより、ローカルとネットワークがシームレスにつながる環境が実現する。もちろん、Microsoft.NET User Experienceにより、他のユーザーとも自然にコミュニケーションできる(音声認識、自然言語処理)。
さらに、Windows.NETは、テレビやラジオを受信して再生する機能、ビデオレコーディング機能、電子メールやインスタントメッセージなどのメッセージング機能など、さまざまなコミュニケーション・メディアを統合して扱うことができるようになる。この時には、パソコンのスタイルも大きく変わっているだろう。既存のデスクトップPCだけでなく、全面が大型液晶になっていて、紙と同じような表現力を持つノートのようなPC(タブレットPC)や、さまざまなインフォメーションが表示できるPocketPCなど、ユーザーの用途に合わせてさまざまなMicrosoft.NETベースのデバイスがリリースされる。
一方、サーバー側の開発ツールとアプリケーションとして、Microsoft DNA.NETが提供される。Microsoft DNA.NETには、Microsoft.NETベースのサービスの開発ツール「Visual Studio.NET」とサーバー・アプリケーション群(Windows Servers)が用意される。
さらに、Microsoft.NET構想において、サーバー側のアプリケーション開発が簡単に行なえるように「C#(Cシャープ)」という開発言語を発表している。C#は、簡単に言えば、C/C++にメモリのガベージコレクションなどの機能を付け加えたもので、Javaのようにバーチャルマシン(VM)上で動作する。XML、SOAPなどをサポートすることで、サーバー側のアプリケーション開発が行ないやすい。
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・ネットワーク上のサービス
以上がOSやアプリケーションとして提供されるもので、MSN.NETやOffice.NET、bCentral for .NETなどは、ネットワーク上のサービスとして提供される。
MSN.NETは、既存のMSNをMicrosoft.NETに合わせたものだ。ベースとなるのは、現在ベータテストが行なわれているMSNクライアント(コード名Mars)だ。MSN.NETでは、データはすべてXMLで提供され、PCだけでなく携帯電話やPDAなどのデバイスでもコンテンツが見られるようになる。
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さらに、MicrosoftではMSN.NET上に有料のPersonal Subscription Servicesを用意する。Personal Subscription Servicesでは、現在MSN上で提供しているゲームのネットワーク対戦をおこなうGaming Zone、エンカルタなどのアップデート情報などが有料で提供される。
Office.NETは、Officeアプリケーションをネットワークを経由して提供するものだ。これは、単なるASP(Application Service Provider)のように、インターネット上でOfficeアプリケーションを提供するだけではない。クライアント側はブラウザではなく、専用のアプリケーションを利用して、サーバー側のOffice.NETと連携して動作する。つまり、デバイスの種類ごとにOffice.NETの専用アプリケーションを提供すれば、携帯電話やPDAでもOfficeの機能が利用できる。Officeの中核機能のほとんどが、サーバー側に置かれるので、クライアント側は小さなSmart Clientプログラムだけでいい。
bCentral for .NETは、Microsoftが提供するSOHOや小規模事業者に向けたビジネスポータルサービスだ。このビジネスポータルでは、スケジュール帳やアドレス帳などの機能を持ったOutlook Webサービス、SOHOや小規模事業者に向けたWebホスティングサービス、クレジットカードの受付機能、オンラインショップの出店などが行なえる。bCentral for .NETにより、独自のアプリケーションをコストをかけて構築しなくても、SOHOや小規模事業者のビジネスをバックアップする。
bCentralのロードマップ |
ビジネスユーザー向けの |
■Microsoft.NETはいつ実現するのか?
・現在のプロダクツはどう変わる
ユーザーにとって気になるのは、Windows OSがどうなっていくか? Office 2000はインターネット上のASPとして提供されるようになるのか? ということだ。結論から言えば、Windows OSは、今のまま存在する。今後もWindows OS(Windows 2000ベースのOS)がなくなることはない。ただし、インターネットとシームレスなデータ交換が可能になることで、Microsoft.NETに対応したモノに変わっていくだろう。また、OfficeもASP的な提供以外に、クライアントだけで動作する現状のOfficeと同じ形でも提供されるだろう。
.NETのロードマップ |
Windows .NET ロードマップ |
ただし、Microsoft.NET構想によりネットワークに接続されている環境がベースとなるため、デスクトップPCだけでなく、ほかのデバイスとのデータ交換が可能になる。また、音声認識や手書き文字認識、自然言語処理により、使いやすいインターフェイスにデバイスが変わっていくだろう。
Microsoft.NETは、一般ユーザーにとってもメリットはあるが、大きなメリットを受けるのは企業だ。ネットワークで接続されているとはいえ、バラバラな状態のクライアントPC、デバイスを統合し、同じデータをさまざまなデバイスで利用できる。また、サーバー上にサービスを構築することで、自社独自のサービスをさまざまなデバイス上で提供できる。開発自体もモジュール化されているため速く作れるし、Microsoft.NETのパートナーが作るサービスを有料で利用することもできる。開発コストをかけずに独自サービスを作ることが可能となる。
Microsoftでは、クライアント側やサーバーのアプリケーションやプラットフォームの販売だけでなく、ASP事業に似た時間貸しのようなビジネスモデルも考えている。MSN上で提供しているPassport、Office.NET、MSN.NETなどを利用しているユーザーや企業に対して月々利用料を取るのだ。基本プラットフォームの販売(これも時間貸しという考え方がでてくるだろう)と、利用料という2本立てで利益をあげていこうと考えているのだ。
・Microsoft.NETの問題点
Microsoft.NETで目玉にしているナチュラル・インターフェイスに関しても問題がある。音声認識や手書き文字認識などは、現状でも一定のレベルにはあるが、しゃべった内容を認識して、ユーザーがどのような仕事をコンピュータにさせたいのかということを判断する自然言語処理は難しい。単にWindowsのコマンドを認識させるだけなら簡単だが、人の話している文章から、ユーザーが必要としている作業を認識するというのは、相当の知識ベースがコンピュータ側に必要になる。
例えば、地図の表示でも“南米”と言うだけで南米の地図を出すには、このエリアが南米であるという知識ベースを持っていなければならない。人が数十年教育を受けてきたのと同じだけの知識ベースがないと、人と自然なコミュニケーションはできない。
今後Microsoftのプロダクトは、Microsoft.NET構想にしたがって開発されていくが、完成するまでは少なくとも2年以上、下手をすると5年近くかかる可能性が高い。大風呂敷を広げたが、結局できたものは当初の構想の縮小版に留まる可能性もある。そうなれば、Microsoft.NETは、ベーパウェアに終わってしまうのだ。
記事中の写真はMicrosoftの報道用写真とWebキャストの画面をキャプチャして使用しています。(編集部)
□Microsoftのホームページ
http://www.microsoft.com/
□ニュースリリース
http://www.microsoft.com/presspass/press/2000/Jun00/ForumUmbrellaPR.asp
□関連記事
【6月23日】米Microsoft、ローカルとネットを組み合わせる「Microsoft.NET」を発表(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0623/msnet.htm
(2000年6月30日)
[Reported by 山本 雅史]