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Microsoftの次世代Windows構想「Microsoft.NET」

第1回:Microsoftのビジネスを変える新しいコンセプト


 22日(現地時間)に発表された「Microsoft.NET」については、新聞報道などでも伝えられていますが、構想の大きさと曖昧さから内容の把握が難しい状態です。この分野にくわしい山本雅史氏により全3回の予定で解説をお送りします。(編集部)


■Forum2000で構想を発表

 Microsoftは、22日に米国シアトル本社で行なった「Forum2000」セミナーにおいて、次世代Windows「Microsoft.NET(マイクロソフト ドット ネット)」に関する発表を行なった。「Microsoft.NET」は以前Next Generation Windows Services(NGWS)と呼ばれていた構想だ。

 Microsoft.NET構想は、単に次世代の新しいOSだけでなく、Microsoftが現在発売しているパッケージソフトやサーバーアプリケーション、さらにインターネットサービスまでも統合するものだ。つまり、Microsoft自体のビジネスを大きく変える構想といえるだろう。


 しかし、この構想がすべて実現されるには、最低でも3年、スケジュールが遅れると5年以上かかることが予想され、すぐに変化をもたらすものではない。また、Microsoft.NET構想を支えるさまざまなアプリケーションも、現在リリースされているビジネスアプリケーション、サーバーアプリケーションと基本的には同じものだ。現状ではバラバラで関連性が薄いアプリケーションやサービスを「Microsoft.NET」というコンセプトで統合するといえるだろう。


■Microsoft.NETの実像

.NET Platformの解説
 Forum2000において、Microsoftのビル・ゲイツ会長は「MicrosoftにとってMicrosoft.NETは、'95年に行なった『Internet Day』(Microsoftがインターネットにコミットすると発表したイベント)に匹敵する非常に重要なものです。ユーザーにとっても、Microsoft.NETは、DOSからWindowsへの進化のように、コンピュータが使用される環境を大きく変えるでしょう」と語っている。

 Microsoft.NETは、プロダクトというよりも、Microsoftの製品を統合するコンセプトだ。このコンセプトの重要な部分は、「インターネットにより、パソコンからPDA、携帯電話、デジタル家電などのさまざまな機器とデータが交換できる」という機能だ。単に、データ交換だけでなく、ネットワークに接続されている機器であれば、自由にデータが利用できるというものだ。


.NET Building Blocksの解説
 Microsoftの考えるコンセプトは非常にシンプルだ。例えば、デスクトップで作成したワープロや表計算のデータは、デスクトップPCのローカルハードディスクに保存されているため、ノートパソコンに入れ忘れたときは、外部からデスクトップPCにアクセスしてデータ転送するしかない。さらに、ノートパソコンに入っているアプリケーションが異なれば、データをオープンすることができない。Microsoft.NETでは、ローカルのハードディスクにデータを保存することを止め、サーバー(会社や外部のベンダーが用意する)にすべてのデータを統合しようというものだ。

また、データ形式にXMLを利用することで、外出先で使用する機器が異なってもデータの互換性を持たせる。XMLを利用することで、表示エリアの異なるデスクトップPCと携帯電話(iモードのような表示エリアを持つもの。解説のなかではWebphoneともいわれている)でも、同じデータを利用することができる。もちろん、データを変更すれば、サーバー上にあるデータも変更されるため、いつでも最新のデータが利用できる。

.NET Platformのモック

 しかし、これだけでは、クライアントにブラウザを利用したThinクライアントと変わらない。Microsoft.NETでは、これらのデータをさまざまなアプリケーション(Microsoftではサービスという言い方をしている)で利用できるようにする。特殊なアプリケーション群を構築しなくても、Microsoftやサードパーティが提供するサービスによって、ユーザーは新しいアプリケーションを利用できるようになる。

 例えば、携帯電話で受信した電子メールが会議の予約だった場合、スケジュールを確認して、空いていたらスケジュールを押さえる。その後、携帯電話から、会議に参加するむねの電子メールを返信する。現在では、このような場合、携帯電話だけでなく、PDAに入っているスケジュール帳を確認して、返信を携帯電話の電子メールで書かなければならない。また、PDAに記入したスケジュールは、会社に戻れば、いったんデータを転送して、会社のデスクトップPCのスケジューラのデータをアップデートしなければならない。

 Microsoft.NET構想では、携帯電話で会議予約のメールを見たら、携帯電話からサーバーにあるスケジュール帳にアクセスし、スケジュールを確認する。スケジュールが空いていれば、予約を取れば、後は自動的にスケジュールのアップデートと返信の電子メールが相手に送られることになる。これらの作業がシームレスに行なわれるということが重要だ。

 今までであれば、こういうシームレスな処理は、すべて同一の会社の製品とアプリケーションでシステムを構築しないと実現できなかった。しかし、Microsoft.NET構想では、XMLというスタンダードなデータ記述言語を利用することで、XML形式のデータをやり取りできるデバイスやアプリケーション間で、シームレスに仕事をすることができるようになる。

携帯電話を利用したスケジュール管理のデモ

B to B向け応用例
 もうひとつMicrosoft.NET構想で重要なのが、個人が利用するアプリケーションをシームレスにつなぐだけでなく、会社同士もシームレスに接続しようとしていることだ。Microsoftでは、今後重要となっている Business to Business(B to B)や業界ごとに電子商取引を実現するマーケットプレイスを構築しやすくするようにできている。

 現在、B to Bを実現するためには、専用のアプリケーションを構築して、他社とデータ交換を行なっている。このとき、データ形式としては、さまざまな形式を受信する。これを内部フォーマットとしてXMLに変更し、どのようなビジネス・プロセス(在庫データベースへの問い合わせなどの)によって、仕事が流れていくのかを作り上げていかなければならない。
 このビジネス・プロセスに関しては、多くの企業で似通っており、そこで、Microsoft.NET構想では、Microsoftが認証などの基本的なサービスを提供したり、サードパーティがさまざまなビジネス・プロセスを構築しやすいように、開発ツールやプラットフォームを提供していく。


 Netscapeの共同設立者だったMarc Andreessen氏が設立したLoudcloudは、電子商取引のインフラサービス「Smart Cloud」のプラットフォームとしてMicrosoft.NET構想を選択しMicrosoftとの戦略的提携をおこなった。これにより、Loudcloudでは、さまざまビジネス・プロセスのモジュールを提供していく。サービスを受ける企業では、Smart Cloudが提供しているビジネス・プロセスを利用することで、システム開発の大幅な投資をしなくても、既成のビジネス・プロセスとサービスを組み合わせることで、短期間で電子商取引をスタートさせることが可能になる。

 このようにビジネス分野での提携各社には、アンダーセン・コンサルティング、マーケットプレイスの構築を行なっているCommerce One、企業分野でのビジネスを伸ばしているデルやコンパックなどが入っている。

 この例にも表われているように「Microsoft .NET」では、個人をターゲットとした構想と企業をターゲットとした構想が、同じインフラで入り交じって語られている場合が多く、内容の把握を難しくする一因となっている。


 次回はMicrosoft.NETを構築するインフラストラクチャー、プラットフォーム、ユーザーインターフェイスなどについて解説します。なお、記事中の写真はMicrosoftの報道用写真とWebキャストの画面をキャプチャして使用しています。(編集部)


□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□ニュースリリース(英文)
http://www.microsoft.com/presspass/press/2000/Jun00/ForumUmbrellaPR.asp
□関連記事
【6月23日】米Microsoft、ローカルとネットを組み合わせる「Microsoft.NET」を発表(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0623/msnet.htm

(2000年6月27日)

[Reported by 山本 雅史]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp