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WWDC(Worldwide Developers Conference)基調講演レポート
Mac OS Xは夏にパブリックβ版を配布。正式出荷は2001年早々へ

会期:5月15日~5月19日(現地時間)

会場:SanJose McEnery Convention Center


 米Apple ComputerのWWDC(Worldwide Developers Conference = 世界開発者会議)が、5月15日(現地時間)に幕を開けた。会場は例年どおりSanJose McEnery Convention Centerで、カリフォルニア州サンノゼ市の中心部に位置する。Mac OS Xリリースの期待も高まっていることから、昨年比で40%増となる約3,600人のデベロッパーが世界中から集まった。日本からの参加者も昨年の約300人から約400人へ増加。特に日本からは招待も含め80人程度の学生参加者がいるなど、例年にはない傾向も見られる。

 これから5日間にわたって、Mac OS Xを中心に同社が今後展開していくソフトウェアやハードウェアの概要が開示されるが、昨年とは異なりスティーブ・ジョブズ氏の基調講演を除くすべての内容にNDA(機密保持契約)が課せられている。また新ハードウェアの発表もなく、ある意味で開発者会議の原点に戻ったとも言える。


■今夏にQuickTimeをバージョンアップ。WebObjectsは超大幅値下げ

いつもどおり長袖のシャツにジーンズというラフな姿で講演するSteve ジョブズ氏。かたわらにいるのは、NeXT時代からの片腕ともいうべきソフトウェア担当上級副社長のAvie Tevanian氏
 定刻が近づき基調講演会場のドアが開くと、あっという間に座席は満席になった。座りそこねた参加者は床に足を投げ出して座り込み、リラックスして講演を聴く構えを見せるなどいかにもアメリカらしい雰囲気がかいま見える。ちなみに場内では主要セッションにおいて、英語以外の言語では唯一、日本語による同時通訳が行なわれる。

 ジョブズ氏がまず話し始めたのは、市場における同社の成長率。Appleを含むPC関連企業4社を比較して、56%アップの収益率をアピール。デベロッパに対しマーケットの拡大と、さらなるビジネスチャンスの存在を強調した。特に主力製品のiMacについては「発表から2年がたった今でも、競合しうる製品は存在しない」と胸をはった。

 テクノロジー関連では、まず同社の看板技術のひとつであるQuickTimeの状況から。Appleの調査によればQuickTime4はWindowsとMac OSの両プラットホームを合わせて、同社のホームページから3,600万本がダウンロードされ、さらにオンライン以外の配布を合わせると5,000万本に達していると発表した。また4月のニールセンのレポートでは、映画の予告編がもっとも見られているサイトとして、AOLやfilm.comを超えApple(とストリーミングを受け持つAkamai)がトップに立っているという。さらに、夏に登場予定のQuickTime次期バージョンをプレビュー。ソフトウェアでMPEG-1、MPEG-2のデコードとエンコード、ストリーミングをサポートするという。さらにマクロメディアのFlash4再生と、QuickTimeVRのキュービック化(これまでは、上下方向の視点に限界があった)も行なわれる。これらはPowerPC G4のVelocity Engineに最適化され、より高いパフォーマンスが得られるとのことだ。

 続いて発表が行なわれたのは、WebObjects4.5の値下げ。競合製品に勝るWebアプリケーションの開発・運用ツールとして、全世界のトップ企業に3,000もの顧客を抱えているが、さらなる普及を目指すため5万ドルから699ドルへ大幅な値下げを同日付けで行なった。この5万ドルという価格は、開発・運用環境と無制限のトランザクションをパッケージにしたものだが、やはりこのレベルの製品を導入できるのは、Fortuneのトップ500に名を連ねるような大型企業に限られていた。たとえば日本では、NTTをはじめ日産、博報堂、三井海上などが主な顧客である。ちなみに、日本国内での6,998,000円から72,800円への価格改訂も発表されている。ここで、Avie Tevanian氏によるWebObjects4.5を使ったWebアプリケーション作成のデモが行なわれたが、このデモはMac OS X上で行なわれAQUAのルック&フィールとQuickTimeを取り入れた先進的な内容となった。ジョブズ氏は、WebObjectsの次期バージョンについても言及し、WebObjects5は2000年末に出荷予定。100% Pure Javaで書かれた、Javaアプリケーションとなることを明らかにしている。

コンピュータ市場における同社の好調さを示すスライド。販売台数、売り上げともに好調な伸びを示し、56%の成長は他社に勝ると言い切った アメリカ、ヨーロッパ、日本のそれぞれにおけるマーケットシェア。昨年度に比していずれの地域でも大幅な伸びをみせている。特に日本での好調さが目立つ 5,000万本のQuickTime4のなかには、こんなものも含まれていると笑いを誘った。シリアル食品のオマケについたTOY STORYのCD-ROM。これが500万個販売された
次期QuickTimeのデモを担当するのはプロダクトマーケティング担当の上級副社長であるPhil Schiller氏。フル画面のMPEG-2ストリーミング再生や、上下方向へも視点を拡大したQuickTimeVRの紹介をユーモアたっぷりに披露した 次期バージョンのQuickTimeVRで見た画像。エッフェル塔を見上げることで上方向に視点を向けられることを示している。このまま視点を動かして水平方向を見ると、実はラスベガスのテーマホテル「Paris」にあるレプリカだったとわかるオチ



■Mac OS Xは夏にパブリックβ版を配布。正式出荷は2001年早々へ

スケジュールの延期?! とも受け取られかねない新しいロードマップ。パブリックβ版の配布形態や詳細については一切明らかにされなかった
 続いてジョブズ氏が今日のメインディッシュにたとえるMac OS X。ここでロードマップが改めて披露されたが、1月にSan Franciscoで行なわれたMacworld EXPOでのロードマップとは違うスケジュールになっている。当初は最終β版をWWDCで配布し、夏にパッケージを出荷すると思われていたが、この日配布されたのは「Developer Preview 4」(それでもDP4を今日配布するとジョブズ氏が言った瞬間、会場は沸いた)。夏にはパブリックβ版が公開されるスケジュールへと変わっていた。ハードウェアへのプリインストール開始は、2001年1月と言うことで変更はない。開発スケジュールの遅れと危惧されるが、後で確認したところ、これは遅れではないというコメント。アップルによれば、以前にパッケージによるMac OS Xの出荷を予定した時と、パブリックβにおけるソフトウェアの内容にほとんど違いはなく、あくまで出荷や配布の形態が異なるだけだという。同社としては基本的にOSはハードウェアにバンドルして出荷するものととらえており、2001年1月に向けて作業が続いているというコメントが返ってきた。

 1月に初公開されたMac OS Xの新インターフェイスのAQUAについては、2月にAQUAを実装した「Developer Preview 3」をデベロッパに配布して以来、数多くのフィードバックがあったとジョブズ氏は続けた。それらの意見を参考にして、より現在のMac OSに近づいた操作感を保てるように改良を加えているという。なかでも最も歓迎されていることを証明するようにデモのたびに拍手が巻き起こったのはFinder部分だ。ビューと呼ばれるウィンドウ部分のツールバーが隠せるようになったり、ハードディスクをデスクトップに置いたり、マルチウインドウを開いたりするなど、現在のFinderの操作によく似た設定が選べるように改良された。ほかにも新しいフィーチャーがいくつかある追加されている。Classic、Carbon、Cocoaの各APIやQuartzなどのグラフィックモデルについては従来どおりの説明とデモが披露された。

 この日配布された「Developer Preview 4」の内容については、付属するすべてのApple製アプリケーションやツールが、CarbonあるいはCocoaによって書かれているほか、Carbon化されたMicrosoftのInternet Explorer 5も含まれているという。現在は実装されていないものの、出荷時にはJava2の採用も明らかにしている。

 Mac OS X上で動作するアプリケーションとして順に紹介されたのが、「Palm Desktop」と「Quake III ARENA」、さらにAdobe Systemsの「InDesign1.5」がある。そしてMac OS Xを新たなプラットフォームにするAlias|wavefrontの3Dグラフィックツール「Maya」も加わった。いずれも印象的なデモを、幅広いジャンルにおいて示すとともに、来場したデベロッパに向けて、今後のソフト開発はMac OS 9ではなくMac OS Xをターゲットに行なうようにとメッセージを送った。

 最後にジョブズ氏は、Avie Tevanian氏を再び壇上に招き入れ、彼とMac OS Xの功績をあらためて讃えて基調講演は終了。来場者は、参加証に添付されたクーポンを手に、Mac OS Xの「Developer Preview 4」を配布しているコンコースへ足早に歩き出していった。

改良されたAQUAによるデスクトップ。Dock部分にタイルがなくなり、アプリケーションとドキュメント(とゴミ箱)の間が区切られるようになった 不要なアイテムをDockから取り出すと、煙を上げて消える。デスクトップに不要にファイルを作らないための改良と思われるが、こうしたエフェクトはいかにもAppleらしい メニューやダイアログだけでなく、Dock部分も透過するようになった。ポインタを近づけると、アプリケーションやファイル名が各アイテムに表示される
Mac OS Xに対応したQuickTime Player。パレットやポップアップが出る操作を取り去ってシンプルにまとめられた。これをはじめ50にもおよぶ付属アプリケーションは、すべてCarbonかCocoaに対応する Mac OS Xで動くようにCarbon化されたPalm Desktop。メニューバーの左上に現在利用しているアプリケーション名が表示されるのも、Developer Preview 4からの新機能だ OpenGLを使ったQuake III ARENAのデモ。デモ中には「(CD-ROMに)バンドルしてくれっ!」という声が会場内からあがった
4月にバージョン1.5を出荷して以来、わずか数週間でCarbon化を行なったという AdobeのDTPソフト「InDesgin」。デモに利用したプラグインもわずかな期間でCarbon化したというもの マトリックスをはじめ数々の映画のCG作成に使われてきたAlias|wavefront社の3Dグラフィックツール「Maya」。新たなプラットホームとして、Mac OS Xが追加されるという



会場となったSanJose McEnery Convention Center。やや天候が不順で、時折小雨がぱらつく。この時期にしては珍しいかも知れない コンベンションセンター内のコンコースには、お馴染みのThinkDifferentの垂れ幕。参加者にはもれなくWWDC 2000の文字が入ったバッグが配られている。2000の文字色はCandyカラーにあわせて5種類 基調講演終了後、Developer Preview 4の配布場所に殺到する参加者。昼食もとらず持参したPowerBook G3に早速インストールを試みる強者も少なくない


□Apple Computerのホームページ
http://www.apple.com/
□Worldwide Developers Conferenceのホームページ
http://www.apple.com/developer/wwdc2000/
□ニュースリリース
http://www.apple.com/hotnews/articles/2000/05/clent/
「Mac OS X Developer Preview 4をリリース」(和文)
http://www.apple.co.jp/news/2000/may/16macosx.html
「アップル、WebObjectsのライセンス価格を5万ドルから699ドルに値下げ」(和文)
http://www.apple.co.jp/news/2000/may/16webobjects.html
「QuickTime 4が5,000万本を超える」(和文)
http://www.apple.co.jp/news/2000/may/16qt.html
□関連記事
【5月16日】米AppleがWWDCで次期版の「QuickTime」を披露、今夏にリリース予定(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0516/qt.htm

(2000年5月16日)

[Reported by 矢作 晃(akira-y@st.rim.or.jp)]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp