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元麻布春男の週刊PCホットライン

薄型ベアボーンキットの今後


●薄型ベアボーンの台頭

 ベアボーン(Bare-bone)。直訳すると骨組みという意味のこの言葉は、PCの世界では完成形のPCからCPU、メモリ、ハードディスク、CD/DVD-ROMドライブといったパーツを除いた、いわばPCの土台を指す。すなわち、ケース、電源ユニット、マザーボードに必要なケーブル類をセットにした、がらんどう? のPCである(場合によってはフロッピードライブやCD/DVD-ROMドライブがセットになることもある)。

 多くの人がPCを選ぶ際に最も気にするポイントは、価格と性能のバランスだ。そして、これはCPUのクロック、メモリの搭載量、ハードディスク容量といったパラメータで最も大きく左右される。逆に言うと、これらを除いたベアボーンの部分は、どんなPCであろうと大差のない部分。ベアボーンに適当なCPU、メモリ、ハードディスク等を組み合わせれば、PCベンダ/販売店は多くのユーザーのニーズに応えられる、というわけだ。そういう意味でベアボーンはBTOのベースと言うこともできる。

 だが最近の秋葉原等では、こうした伝統的なベアボーンとは一味違ったベアボーンが多く目につく。ケース、電源ユニット、マザーボードがセットになっている点は伝統的なベアボーンと変らないものの、用いるケースが一般のATXケースより明らかに小型・薄型になっている。というより、薄型のケースと、そのケース専用のマザーボード(あるいは薄型PC用にデザインされたマザーボードと、そのマザーボードに合わせたケース)をセットにしたもの、と言った方が良いだろう。

 こうした薄型ベアボーンは、マザーボードとケースのどちらかだけを単体で売ることは難しい。最初からベアボーンとしてセット販売されることを前提にしているからこそ、小型・薄型が実現しているのである。この点が伝統的なベアボーンと一番大きく異なる。今や、秋葉原でベアボーンと言うと、こうした薄型ベアボーンを指す、といっても過言ではない(最近、伝統的ベアボーンが注目されたのはAthlonがデビューした時だが、主に電源ユニットの定格を保証する意図でベアボーン販売されたようだ)。今回は、こうした薄型ベアボーンの中から、Micro StarMS-6209を取り上げてみることにした。

●「MS-6209」の概要

Micro Star「MS-6209」
 MS-6209は、ディスプレイサイドに縦置きする薄型PCのためのベアボーンキット。縦置き用のスタンドは付属するものの、横置き用のゴム足等は付属していない。大きさは幅78mm、高さ300mm、奥行き327mm(いずれも筆者による実測値、縦置き用スタンド含まず)で、一般的なPCより格段に小さい。フロントパネルには、IrDA用の受発光器用の窓(受発光器も付属)、電源スイッチ、オーディオ入出力(マイク入力、ライン入力、ヘッドフォン/ライン出力)用のミニジャック、2ポートのUSBコネクタが用意される。

 キットの中核となるのはMS-6176Eマザーボードだ。L字の形状をしたこのマザーボードは、Intelのi810eチップセットを用いたもの。中央にRiserカード用のコネクタがあることから、フォームファクタとしてはLPXタイプということになるが、対応する電源ユニットはATXタイプだ。Riserカード上には、PCIスロットと、PCIとAMRの共有スロットの計2スロットが用意されるが、拡張スロット部の前方にはハードディスクベイがあるため、ハーフサイズ専用となる。筐体が小型で内部が非常に混み合っており、冷却のことを考えると、この拡張スロットは緊急事態用という気もする。

 いずれにしても拡張スロットはAMRのモデム程度で、あまりアテにしない方が良いと思う。ということは、本キットを用いたPCの機能性は、マザーボードのオンボードI/Oにかかっていることになる。MS-6167Eマザーボードは、PS/2キーボード/マウス、シリアル、パラレル各1ポート、ジョイスティックインターフェイスといった一般的なI/Oに加え、i810eチップセットのNorth Bridge(GMCH)が提供するグラフィックス(ディスプレイキャッシュ付き)、South Bridge(ICH)が提供するAC'97リンクコントローラ機能を用いたオーディオ(オーディオCODECチップはAnalog Devices製、ジャンパスイッチにより無効化可能)、Intel 82559チップを用いた10/100Base-TX対応ネットワークといった機能を備えており、特に拡張スロットを利用しなくても、一般のPCとして最低限必要な機能は完備している。加えて、ケース背面に、Home PNA/モデム兼用ならびにTV出力/液晶ディスプレイ(おそらくDVI)兼用のカットアウトが用意されており、OEMによる大口の発注があれば、こうした機能を実装したモデルも提供されるのかもしれない。

内部 Riserカード用のコネクタ 背面パネル

●「統合グラフィックス」の制限

 さて、このベアボーンキットだが、当然のことながらそのままでは動作しない。そこで今回はCPUにCeleron 433MHzを選択、128MB PC100 SDRAM DIMMを組み合わせた。ハードディスクに選んだのは、Western Digitalのperformerシリーズの272AW。同社が「ホームエンターテイメント向け」にリリースしているドライブだ。最近は7,200回転/分の高性能タイプが人気のようだが、内部が混み合っているだけに、あえて5,400回転/分の本ドライブを選択した。本ドライブのウリの1つが静粛性であることも、この種のベアボーンにはマッチしていると思う。フロッピードライブには、通常のフロッピーの代わりに第2世代のSuperDiskドライブ(倍速)を用いたが、これは筆者の個人的な標準デバイス。CD/DVD-ROMドライブにはいつも実験用に使っている東芝のSD-M1212(ATAPI)を用いた。

 本来このベアボーンキットは、ハードディスク、ATAPIのCD/DVD-ROMドライブ、通常のFDCを用いたフロッピードライブ各1台を接続することを前提に、ケースの所定の位置に対してちょうど良い長さのケーブルが付属している。筆者がドライブの構成を変更したことで、付属のケーブルが使えなくなってしまったのだが、手持ちのIDEケーブル(SuperDiskドライブとDVD-ROMドライブの接続用)は長すぎて、ケースの隙間に詰め込むのに苦労した。

 以上の構成でシステムアップしたMS-6209だが、Windows 98 Second Editionのインストールも順調で、INFのアップデートやドライバのインストールも特に問題無く終わった。MS-6209には、電源ユニット、CPUクーラーの2カ所のファンに加え、筐体前面に冷却用ファンが用意されている(ハードディスクとCPU間の距離がほとんどないことを考えると、CPUクーラーのファンは不可欠だと思う)。ファンのノイズが気になるのではと心配したが、実際に動作させてもそれほど気になるものではなかった。

 ハードディスクも、全く無音というわけにはいかないが、静かな部類だろう。結局、一番うるさいのはDVD-ROMドライブ、ということになったが、これは静かなドライブ(あるいは比較的静かなドライブが多いCD-R/RWドライブ)を選ぶことで、何とかなるハズだ。

 その一方で気になったのは、やはり統合グラフィックスの性能だ。グラフィックス機能がチップセットに統合されていること、ディスプレイメモリがUMAだということで、最初から性能的に大きなものを期待していたわけではない。バリバリのPCゲーマーなら、絶対にi810eベースのシステムを選ばないこともわかっている。筆者も、MS-6209で3Dゲームをやりたいと思ったわけではない。

 筆者が一番辛いと感じたのは、YUVオーバーレイが可能な解像度の上限が低いことだ。わざわざDVD-ROMドライブを組み合わせたことでもわかるとおり、筆者はDVDの再生機能は、音楽CDの再生機能同様、PCの標準機能の1つだと考えている。ソフトウェアデコーダにせよハードウェアデコーダ(MS-6209では拡張スロットの関係上難しいが)にせよ、DVDの再生にはグラフィックスチップがYUVオーバーレイをサポートしていることが不可欠である。だが、MS-6209(というよりi810系の内蔵グラフィックス)では、YUVオーバーレイ可能な画面解像度は、16bitカラー時で800×600ドット、8bitカラー時で1,024×768ドットに制限される。つまり、DVDの再生を行なうにはいずれかの解像度を選ばなければならない。

●これからの「薄型」に対する展望

 i810eの内蔵グラフィックスは、デスクトップ解像度は16bitカラー時で1,280×1,024ドット、8bitカラー時なら1,600×1,200ドットが最高解像度となる。画質の点で1,280×1,024ドット以上は若干辛いことを考えると、i810系グラフィックスは15~17インチ程度のCRTあるいは14~15インチクラスの液晶ディスプレイと組み合わせて、1,024×768ドット解像度で使う、というのが筆者の個人的な結論だ(グラフィックスチップが交換できないため、アナログインターフェイスの液晶ディスプレイを組み合わせる際には、事前に相性テストをしたいところだが)。1,024×768ドット、16bitカラーでそのままDVDの再生ができないというのは、ハッキリ言って時代遅れだと思う。特に1,024×768ドット解像度対応の液晶ディスプレイを組み合わせた場合、DVD再生時にいちいち色数を減らさなければならない、というのは面倒だし、かといって常時8bitカラーで利用するというのも辛い。今やWebサイトにしてもアプリケーションにしても、16bitカラーを前提にしたものはいくらでもある。

 本来AGPというのは、必要に応じてシステムメモリ(メインメモリ)をノンローカルメモリとして、グラフィックスチップに割り当てられるハズである。だが、DirectShow側の問題か、ディスプレイドライバ側の問題か、DVD再生時はこれがうまくいかないようだ(ノンローカルメモリの用途には制約がないため、YUVオーバーレイサーフェイスにも利用できるハズ。それができた上で、フレームレートが十分かどうか、というのはまた別の問題である)。期待のi815/i815eチップセットも、内蔵グラフィックスに関しては、i810シリーズと大差ないと言われており、要注意といえるかもしれない(内蔵グラフィックスを目当てにi815/i815eベースのシステム/マザーボードを買う人はいないだろうが)。

 この手の薄型PCは、PCの機能のディテールにこだわるユーザーには最初から向かない。たとえば、サウンド機能に3Dポジショニング機能がないとか、S/PDIF出力がないとか、文句を言い出せばキリがないのは初めからわかっていることだ。それに加え、上述したようなグラフィックスの制約を考えると、あまりコンシューマーには向かない、というのが筆者の率直な感想だ。せめてATIのRage 128 VR程度のチップがオンボードにあれば、と思ってしまうのは、筆者がこのマシンの想定するユーザーから外れているからかもしれない。なお現在、一部にLow Profile PCIカードを前提に、Flex ATXベースの薄型ベアボーンが出まわり始めている。Low ProfileカードとAGPスロットをサポート可能なi815/i815eチップセットを組み合わせれば、薄型でグラフィックスをアップグレード可能なPCが将来登場する可能性がある。

 あえてコンシューマー分野で、このシステムが向く市場を考えれば、やはりInternet端末的なPC(おそらく今のコンシューマー市場で最も売れているセグメントのPC)ということになる。Internetに接続さえできれば、ほかの機能は要らない、というユーザーなら、これでも良いのかもしれないが、このセグメントは将来アプライアンスに取って代わられる可能性が最も高いのではないか。それを考えると、やはりビジネスクライアントというのが、最も相応しい利用法なのだと思う。その場合、大量発注でDVIを搭載し、DVI対応の液晶ディスプレイと組み合わせる、というのが最も望ましいだろう。

□Micro Starのホームページ
http://www.msi.com.tw/
□製品情報
http://www.msi-computer.co.jp/product/product_barebone/netpc/netpc_3.html

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(2000年5月10日)

[Text by 元麻布春男]


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