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究極のAthlonオーバークロックツール「JUMPSTART」登場!
~Athlon 650MHzで900MHzオーバーに成功!!~



カラフルなDIPスイッチが目をひくJUMPSTART。下にある4本のリード線がついた小さなコネクタに注目
 '99年秋から繰り広げられているAMDとIntelの熾烈な動作クロック向上レースは、ついに1GHzという大台に突入した。1GHz動作のCPUを最初に発表するという栄誉を手にしたのはAMDだが、Intelもその2日後にはPentium III 1GHzを発表している。しかし、AthlonにせよPentium IIIにせよ、1GHz動作品は非常に高価であり、そう簡単に購入できるものではない(Pentium III 1GHzに至っては、現時点ではCPU単体では販売されていない)。

 いくら初物とはいえCPUだけで20万近い価格は、ちょっと異常でもある(それでも売れてしまうのが秋葉原の恐ろしいところだが)。そこで今回は、Athlonオーバークロックのための秘密兵器「JUMPSTART」を利用して、実売2万円台前半で購入できるAthlon 650MHzをどこまでオーバークロックできるか挑戦してみることにした。


●Athlonの秘密「Golden Fingers」とは

CPU基板の左上にあるGolden Fingers
 Athlonがマニアを中心に人気を集めている原因の1つとして、Golden Fingersと呼ばれる隠された端子を操作することで、クロック倍率やコア電圧を変更できるということが挙げられる。コア電圧はマザーボードが対応していれば、Pentium IIIやCeleronでも変更できるのだが、クロック倍率はPentium IIIやCeleronでは固定されていて、外部からの変更は不可能である。そのため、Pentium IIIやCeleronを使ってオーバークロックを行なうには、FSBクロック(外部クロック)を上げるしかないが、FSBクロックを上げるとシステムバスクロックやAGPクロックなども一緒に上がるため、システムが不安定になりやすい。それに対し、FSBクロックを変えずにクロック倍率を上げることでオーバークロックをおこなう方法では、CPU以外の部分は定格で動作することになるので、CPUさえついていけば安定した動作が望めることが特徴だ。


●まずは殻割りから

 Golden Fingersは、CPU基板の左上(サーマルプレートを下にした状態で)にある端子だが、通常はプラスチックパッケージに隠されているためいじることはできない。Golden Fingersを操作するには、まずはプラスチックパッケージを分解してCPU基板を剥き出しにする必要がある。通称、殻割りや石割りと呼ばれる作業である。もちろん、殻割りはメーカー保証外の行為であり、無茶をするとCPUを壊してしまう可能性もあるので、そのあたりをよく考えてから挑戦していただきたい。具体的な殻割りの方法についてはここでは述べないが、PC雑誌のバックナンバーやAMDファンのWebサイトなどを探せばすぐ見つかるであろう。

 今回は、価格もこなれてきたAthlon 650MHz(24,000円で購入)をターゲットに、どこまでオーバークロックを行なえるか挑戦してみた。

今回利用したAthlon 650MHz。0.18μmプロセスルールで製造されている。製造週は2000年第1週 殻割り途中の様子。右下の部分はしっかり固定されているので、それ以外の部分を外してから、こじ開けるようにして外す

 なお、JUMPSTARTを利用してクロック倍率などを変更するだけなら、CPU基板の裏側のみ露出させればよいのだが、ここでは、実際のCPUコアとL2キャッシュの性能を見るために、CPU基板を固定している金属製のリテンションパーツを外して、CPU基板を完全に取り外してみた。なぜ、CPUコアやL2キャッシュを確認するのかというと、Athlonには当たりはずれがあり(もちろん、はずれのCPUだからといって定格で利用する分には全く問題はないが)、当たりのCPUの場合、プラスチックパッケージに刻印されている動作クロックよりも、高いクロックで動作するCPUコアやL2キャッシュが実装されているのだ。例えば、550MHz動作品として売られているAthlonでも、当たりのものでは750MHzコアや3nsという高速なL2キャッシュが実装されているものもあるという。CPUコア表面に刻印されている「K7XXX」という文字のXXXがコアのクロックを表している。例えば、K7600なら600MHzでの動作を保証しているコアであり、K7750なら750MHzでの動作を保証しているコアということになる。また、L2キャッシュに関しては、SRAMに刻印されている文字列の最後の部分(数字)がアクセス速度を表している。例えば、-36なら3.6nsになる。この数字が小さければ小さいほど高速なSRAMということになる。

 今回のAthlon 650MHzは、CPUコアは650MHz動作品、L2キャッシュは3.1ns動作品であった(これだけをみると当たりとはいえないようだが、実際は驚くほど動作マージンが高かった)。

殻割りをしてCPU基板の裏側を剥き出しにした状態。Golden Fingersを操作するだけなら、ここまででよい CPU基板の表側。中央がCPUコアで、左右に実装されているのがL2キャッシュのSRAM(SRAMの上にはシリコングリースが塗られているが、左側のSRAMに塗られていたグリースは拭き取っている) CPUコアはパッケージの表記通り650MHz動作品であった L2キャッシュとしてはNEC製のD432937GF-A31(3.1ns動作品)


●究極のAthlonオーバークロックツール「JUMPSTART」

 Golden Fingersの設定を直接変更するには、ハンダゴテなどを使って作業をおこなわねばならず、かなり敷居が高い。そこで登場したのが、AfterburnerやFreeSpeedといったオーバークロックツールである。これらの製品を利用すれば、ハンダゴテなどを使わずとも、DIPスイッチやロータリースイッチを操作するだけで、気軽にGolden Fingersの設定を変更できる。しかし、従来のAfterburnerやFreeSpeedでは、クロック倍率の変更とコア電圧の変更はできても、L2キャッシュ倍率を変更することはできなかった。L2キャッシュ倍率とは、Pentium IIIやCeleronにはないAthlon独特の概念で(PowerPCではL2キャッシュ倍率を変更できるものもある)、コアクロックとL2キャッシュクロックの比率を決めるものだ。要するに、高速で動作するSRAMは高価かつ入手も困難なため、コアクロックが高くなった場合は、L2キャッシュ倍率を変更して、L2キャッシュの動作クロックを低く抑えようということである(もちろん、それによってCPUパフォーマンスは犠牲になる)。具体的には、500~700MHzで動作するAthlonのL2キャッシュはコアクロックの1/2で、750/800/850MHzで動作するAthlonではコアクロックの2/5で、900/950MHz/1GHzで動作するAthlonではコアクロックの1/3で動作する。L2キャッシュ倍率を変更できないと、CPUコアよりも先にL2キャッシュの限界がきてしまい、それ以上のオーバークロックが望めなくなることが起こりやすい。

 今回取り上げるJUMPSTARTでは、クロック倍率やコア電圧を変更できるのはもちろん、従来は不可能であったL2キャッシュ倍率も変更できることが特徴だ。ただし、L2キャッシュ倍率を変更するための信号はGolden Fingers部分には出ていないので、L2キャッシュ倍率を変更したいのなら、CPU基板上の対応する箇所に直接4本のリード線をハンダ付けする必要がある(L2キャッシュ倍率変更機能を利用しない場合は、Golden Fingers部分に装着するだけでよい)。JUMPSTARTは、デンマークのACDCというベンダーが開発した製品で、英文の簡単なマニュアル付きで販売されている。製品については、同社の製品情報を参照してほしい。JUMPSTARTは、カラフルなDIPスイッチが実装されている小さな基板と4本の短いリード線付きのコネクタから構成されている。このコネクタがJUMPSTARTのミソなのだ。リード線の先端をCPU基板の指定された場所にハンダ付けすることで、L2キャッシュ倍率の変更を実現する仕組みである。

 ハンダ付け箇所については、英文の簡易マニュアル(単なるプリンタの打ち出しをカラーコピーしたもの)に、写真と文章を使って説明されているが、写真はあまりわかりやすいとはいえない。それぞれのリード線の先端をCPU基板の2つのランドをショートするようにつけることがポイントだ。ランドの間隔は2mm程度なので、それなりの技量は必要になる。初めてハンダゴテを握るという人はやめたほうが無難であろう。

リード線をハンダ付けする前の様子。R101とR102、R104とR105、R106とR107、R110とR110(全て下側のランド)にまたがるようにリード線をハンダ付けする ハンダ付けをした後の様子。リード線の長さは、ちょうど合うようにカットされているので、そのままハンダ付けをしていけばよい

 リード線をハンダ付けしたら、コネクタをJUMPSTART本体の基板に接続して、(向きを間違えないようにすること。筆者は最初逆に接続してしまい、動作しなくて焦った。緑のリード線が左側になる)、基板をGolden Fingers部分に装着する。

JUMPSTARTをAthlonに装着した様子
 なお、オーバークロックを成功させるには、冷却も非常に重要なポイントだ。オーバークロックをおこなうと、定格よりも大きな熱を出すので、それだけ強力なCPUクーラーが必要になる。今回は、冷却性能に定評のあるCOOLERMASTER製のCPUクーラー(DRACO-K7:DP2-5G52)を利用した。


●定格の1.4倍以上のクロックである913MHz動作を達成!

 今回は以下の環境で、オーバークロックテストをおこなってみた。安定性およびオーバークロックによるパフォーマンスの向上割合を調べるため、Ziff-Davis,Inc.のWinBench 99 Version 1.1に含まれるCPUmark 99およびFPU WinMark、Business Graphics WinMark 99、High-End Graphics WinMark 99を続けて走らせることにした。

FSBクロッククロック倍率コアクロックL2キャッシュ倍率L2キャッシュクロックCPUmark 99FPUWinMarkBusiness Graphics WinMark 99High-End Graphics WinMark 99
【コア電圧1.6V】
100MHz6.5倍650MHz1/2325MHz61.0 3,550 283 885
100MHz7倍700MHz1/2350MHz64.7 3,810 306 949
100MHz7.5倍750MHz1/2375MHzベンチマーク途中でブルーバック
100MHz7.5倍750MHz1/3250MHzベンチマーク途中でブルーバック
【コア電圧1.7V】
100MHz7.5倍750MHz1/2375MHz67.9 4,080 317 997
100MHz7.5倍750MHz1/3250MHz64.7 4,090 309 968
100MHz8倍800MHz1/2400MHz起動途中でハングアップ
100MHz8倍800MHz1/3266.7MHz68.4 4,200 324 1,030
100MHz8.5倍850MHz1/3283.3MHzベンチマーク途中でブルーバック
【コア電圧1.8V】
100MHz8.5倍850MHz1/3283.3MHz72.1 4,640 343 1,080
100MHz9倍900MHz1/3300MHz75.7 4,900 358 1,140
100MHz9.5倍950MHz1/3317MHz起動途中でハングアップ
101.5MHz9倍913MHz1/3304.3MHzベンチマーク途中でエラー
【コア電圧1.85V】
101.5MHz9倍913MHz1/3304.3MHz76.6 4,980 363 1,140
103MHz9倍927MHz1/3309MHz起動途中でハングアップ

 結果は表にまとめたとおりだが、まずコア電圧を変更せずに(1.6Vのまま)、クロック倍率を上げていったところ、700MHzまでは安定動作したが、750MHzにするとベンチマーク途中でブルーバックになって落ちてしまった。そこで、コア電圧はそのままL2キャッシュ倍率を1/3に変更したが(本来なら、2/5で先にテストするべきであろうが、L2キャッシュ倍率2/5は、今回のCPUでは動作しなかった。L2キャッシュ倍率2/5は、CPUのロットによって対応している場合としていない場合があると付属のマニュアルに記載されている)、結果は変わらなかった。

 3.1nsのSRAMなら、323MHzまでの動作が保証されているはずなので、L2キャッシュ倍率が1/2ならコアクロック646MHzまで、1/3なら969MHzまで動作することになる。そこで、コアの限界であると判断し、L2キャッシュ倍率を1/2に戻して、コア電圧を0.1V上げて1.7Vにしたところ、750MHzでも安定動作した。しかし、800MHzにすると、起動途中で固まってしまったので、L2キャッシュ倍率を1/3にしたところ、800MHzでもベンチマークテストが行なえた。今度は、L2キャッシュが限界になっていたようだ。コア電圧1.7Vでは800MHz動作が限界のようだったので(850MHzでは起動はするもののベンチマーク途中で落ちる)、さらにコア電圧を上げて1.8Vにしたところ、先ほどは不安定だった850MHz動作はもちろん900MHzでも安定するようになった。定格から比べると、実に250MHzアップである。

 さらに欲を出して、950MHzに設定してみたが、さすがに限界なようで、Windows起動途中で固まってしまった。コア電圧を1.85Vにしても状態は変わらなかったので、このあたりが限界であろう。コア電圧を上げると、それだけCPUやL2キャッシュが高速で動作するのだが、限界を超えるとCPUやL2キャッシュが壊れてしまう。また、発熱も増加するので、定格の1割から2割増し程度にとどめるべきである。Athlonなら、1.85Vか1.9Vまでが無難であろう。

H.Oda!氏のフリーソフト「WCPUID」で動作クロックを計測してみたところ、913.55MHzと表示された
 なお、クロック倍率の変更によるオーバークロックという本来の目的からは多少逸脱するが、今回利用したマザーボード(K7V-RM)は、FSBクロックを細かく変更することが可能なので、900MHz設定(FSBクロック×9倍)のまま、FSBクロックを上げてみることにした。FSBクロックを101MHz(おそらく101.5MHz程度)にすると、コア電圧1.8Vでは、ベンチマーク途中でエラーが出た。そこで、コア電圧を1.85Vにすると、ベンチマークテストが最後まで動作した。このときの実クロックをWCPUID(H.Oda!氏のフリーソフト)で計測してみると、913.55MHzと表示された。ベンチマークテストの結果も、650MHz動作時に比べると大幅に向上している。FSBクロック103MHz(コアクロック927MHz)では、起動途中で固まってしまった。


●現在のAthlonで利用するならオーバークロックツールの意味は十分ある

 通常、CPUのオーバークロックは定格の1~2割程度増しならほぼ問題なく動作するが、それ以上で安定して動作することはあまり多くない(特にAMD製のCPUは、Intel製CPUに比べると、動作マージンが少なかった)。そうした観点から考えると、650MHz動作品のAthlonが900MHzを超えるクロックで動作したことはかなり驚くべきことだ。もちろん、CPUによって個体差はあるので、全てのAthlonがこのように広い動作マージンを持つとは保証できないが、同じ製造プロセス(0.18μmプロセス)で既に900/950MHz/1GHz動作品が採れていることを考慮すると、現在のAthlonは、600MHz動作品や650MHz動作品でもかなり高いクロックで動く可能性も高いのだろう。

 JUMPSTARTは、15,000円程度で販売されている。そのほかのオーバークロックツールであるAfterburnerやFreeSpeedも1万円台前半で売られていることが普通だ。DIPスイッチとちょっとした部品だけで構成されているパーツとしては、正直ちょっと高いように思うが、執筆時現在(4月中旬)、Athlon 650MHzとAthlon 850MHzの価格差は6万円近くあるので、Athlon 850MHzを買うことを考えれば、十分元がとれるだろう(もちろん、Athlon 650MHzを買って750MHzまでしか動かなかったとすれば、その価格差とオーバークロックツールの価格はほぼ等しいのであまり意味がないが)。今回は913MHzでの動作を確認したが、さらに冷却を強化するなどすれば、まだ限界は上がるかもしれない(限界ぎりぎりで使うと危険なので、今回の場合なら850MHz程度で常用するのが望ましい)。Athlonは、もともとコストパフォーマンスが高い製品だが、こうしたツールを使うことで、さらにその魅力は高まる。もちろん、オーバークロックにはリスクがつきものなので、無条件にお薦めするわけではないが、リスクを承知で挑戦してみたいという人には、強力な味方が登場したといえるだろう。

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Akiba PC Hotline! Hothotレビュー
【4月8日】2次キャッシュ倍率も変更可能なAthlon用オーバークロックツール
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000408/etc_jumpstart.html

バックナンバー

(2000年4月14日)

[Text by 石井英男@ユービック・コンピューティング]


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