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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

追い詰められてX-Boxを発表したMicrosoftの裏事情


●PCゲームとゲーム機の長い戦い

 Microsoftが、X-BoxでPlayStation2に挑むのは必然だ。他に選択枝はなかった。Microsoftにしてみれば、どうにもならない力でPlayStation2の前に押し出され、苦し紛れにX-Box戦略を出すことになったのだ。

 日本はゲーム機大国なので、Microsoftがゲーム機と言い出してもそんなに不思議がないように見える。しかし、PC大国アメリカでは事情が違った。それは、以前はPCこそがゲームプラットフォームだったからだ。

 米国では、家庭用ゲーム機はアタリのVCSが切り開き、'80年代にはやはり任天堂がファミコン(米国ではnintendo entertainment system:NES)が大流行した。「ニンテンドーキッズ」という呼び方ができたほどで、ゲームプラットフォームは一時はゲーム機が優勢だった。しかし、'93年から'96年にかけて、世界的にゲーム機が売れない時期が来る。このあたりから風向きが変わり、米国では、PCの普及にともない着実にPCゲーム市場が拡大していった。いや、その前から米国ではPCゲームはふくらんでおり、PCゲームが縮小してゆく日本と決定的に差が開いていったのはこのあたりからだった。

 そして、Microsoftは、Windows 95のリリースと同時に、この新OSをゲームプラットフォームとして売り込む。DirectXを用意してゲームデベロッパーを誘い、ネットワークゲームといったビジョンで新しい展開を開かせた。Windows 95上へすんなりゲームが移行したわけではなかったが、それでも米国ではPCゲームはどんどん興隆した。また、ゲーム機にしても、もうゲーム専用機の時代は終わり、これからはマルチメディア機器だみたいな話で盛り上がった。大コケした3DOなどはその流れで登場する。


●PlayStation以降、ゲーム機がどんどん優勢に

 ところが、PlayStationがその流れを変えてしまう。まず、日本では、32ビットゲーム機時代になってからは、完全にゲーム機優勢で、国産パソコンゲームと言えば「Hゲー」ばかりという状況になってしまった。

 米国ではPCゲームが全盛だったために、日本ほどの変化はなかったが、それでも'96年ごろから状況が変わり始める。PCゲーム市場が伸び悩むのと対照的に、PlayStationとNintendo64とそれらのソフトが売れ初めたのだ。調査会社の発表資料「Interactive Electronic Entertainment Industry Overview」などを見ると、'96年以降はゲーム機市場がぐんぐん伸びるのに、完全にPCゲームソフト市場が置いてかれているのがよくわかる。

 この資料だと'99年以降は再びPCゲームが増加に転じる予測になっているが、現実はそうならなかった。'99年のゲーム市場調査「Console, PC Games Industry Sales Top $7.4 Billion in 1999」を見ると、PCゲームの衰退は痛々しいくらいで、'99年のゲーム市場の売り上げ74億ドルのうち、PCゲームソフトの割合はわずか18.6%。それに対してゲーム機用ソフトの売り上げは50.5%に達している。残りはゲームハードウェアだ。

 つまり、ゲーム機用ソフトの市場の方が2.5倍も大きくなってしまったのだ。しかも、ゲーム機の方がどんどん伸びている。米国でも、PCからゲーム機へと、急激にゲームプラットフォームが変わりつつあるのだ。

 さらにPCゲーム市場は、閉塞的になり、今後の展開も期待できなくなってきている。それは、PCゲームユーザーがゴリゴリのハードコアゲーマーにどんどん偏ってしまったからだ。日本と違い、米国ではハードコアゲーマーはPCにかじりつく。コアで面白いゲームはPCで登場するからだ。

 かくして、男の子が中心のとんがったゲーマーはPCで、カジュアルなゲーマーはゲーム機という色分けができあがってゆく。PlayStationのおかげでゲーム機の方は対象層が広がり、とくに女性やヤングアダルトに浸透したという。つまり、ボリューム的にユーザーがどんどん広がる可能性が広がっているのは、ゲーム機の方になってしまったのだ。


●ゲーム市場での敗退はMicrosoftの究極の目的の挫折を意味する

 この状況で、PCゲームソフトメーカーが危機感を持たないわけはない。PCゲームだと、いくら売れてもタイトル数がゲーム機用ソフトのヒット作の半分にも届かなくなってしまったのだから。ゲーム機ソフトに転じた競合メーカーが、どんどん儲けてゆくのを指をくわえて見ているわけにはいかない。

 そして、その危機感は、Microsoftの危機感でもある。というのは、MicrosoftはPCが家庭のリビング(ファミリ)ルームに浸透するためのカギは、ゲームとデジタルTVだと見ていたからだ。ところが、「デジタルTVをPCで」という呼びかけは失敗し、そして今、確実に自分たちのものだと思っていたゲームも奪われつつある。これでは、Microsoftの究極の目的「PCをリビングルームに入れる」が達成できない。

 PCは米国家庭に普及しているとは言っても、入っているのは書斎と子ども部屋のみ。つまり、リビングルームにはほとんど入っていない。ところが、家庭のエンターテイメントの中核になれるのは、リビングルームを征するコンピュータだ。リビングを征したコンピュータが、今のアナログTVとVCRという組み合わせに取って代わる次世代のエンターテイメントセンターになる。その市場規模は、全世界で年間数億台にまでなるだろう。だが、このままだと、その地位はゲーム機に奪われてしまう。

 そして、その状況で、PlayStation2が登場してきた。


●X-Boxは、まずゲーム開発者をつなぎ止める

 PlayStation2はPlayStationとはまったく別物だ。別物というのは、PlayStationが閉じたアーキテクチャの“ゲーム機”だったのに対して、PlayStation2は業界標準インターフェイスをいっぱいつけた、開いたアーキテクチャの“エンターテイメントセンター”だからだ。PlayStation2の本当のねらいは誰もが指摘するとおりゲームを超えたところにある。広帯域ネットワークやコンテンツ配信、デジタルオーディオ、ホームネットワークと結びついて、家庭のエンターテイメントの中核になることだ。つまり、MicrosoftがリビングPCの将来像として描いていたものとまったく同じものになることなのだ。

 となれば、Microsoftの採るべき道はひとつしかない。PCがリビングに入ることができないのなら、PCアーキテクチャのゲーム機を送り込むのだ。それがX-Boxだ。つまり、X-Boxは、なんのことはない、MicrosoftがこれまでエンターテイメントPCとかシアターPCとかいろいろな名前をつけていたリビング向けPCの、アナザーバージョンに過ぎないのだ。

 X-Boxの目的は、まず第1段階として、虎の子のゲームデベロッパーたちをMicrosoftの元につなぎ止めることだ。PCゲーム開発者が慣れたライブラリ、慣れた開発環境、慣れたビジネスモデル、慣れた流儀でゲームを開発できるようにする。彼らにとってみれば、PlayStation2の独自のライブラリ、専用の開発環境、ロイヤリティのビジネスモデル、メモリなどの制約などは、なかなか慣れない。ところが、X-Boxなら、今までの経験の上でゲームを書くことができる。苦労しないですむ分だけ、乗りやすいというわけだ。

 そして、X-Boxは第2段階で、PCとの親和性を活かしてPlayStation2に挑むことになるだろう。それが成功するかどうか、その予測は、来週のコラムで解説したい。


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(2000年3月17日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp