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元麻布春男の週刊PCホットライン

ソニーとIntelの提携はなにをもたらすか


■Intelとソニーが提携

 先週のこのコラムの末尾で、「メモリースティックにもチャンスがあるような気がしてきた」と書いたところ、まるでタイミングを合わせたかのような動きがあった。ソニーとIntelが提携、Intelがメモリースティックを担ぐことになったのである。もちろん、筆者はこの提携を知るハズなどなく、全くの偶然の一致なのだが、ちょっとドッキリした。

 今回の提携は、両社が家電製品とPC間の接続技術に関して協力するというもの。デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯型音楽プレーヤーなどの家電製品とPC間のコネクティビティについて、両社が共同歩調をとることがうたわれている。具体的には、

1) Intelはソニーが開発したメモリースティックのPC分野への普及を後押しする
2) 次世代のフラットパネルPCディスプレイインターフェイスとして両社はDVIを推進する
3) デジタルインターフェイスにおけるコンテンツコピープロテクションについて、Intelの「Intel Software Integrity System」とソニーの「OpenMG」の相互利用を図る
4) 家庭ネットワークにおいてユニバーサルPnPとHAViの相互運用を検討する

の4点。1はソニーが開発したものをIntelが後押しするという点でソニー側のメリットが大きく、2はIntelが音頭をとってきたDVIにソニーが協力するという点でIntelにメリットがあるように思われる。3については、文面上は対等な印象だが、実際に豊富なコンテンツを持つのがソニー側であることを考えると、ソニーが優位なのかもしれない。4は、実現すればPC側(すなわちIntel)にメリットが大きいように思うものの、最も具体性が薄いため、一概にどちらとは言えないような気がする。ただ、発表がIDF終了翌日の2月18日まで持ち越されたことを思うと、ソニーが一本取ったというところだろうか(できればIntelはIDFの場で発表したかっただろう)。逆に、今回の発表をIntelが提唱するeHOME構想の一環であるとしている点では、Intelがうまくやった印象もある。両社とも、相手に屈しない、したたかさを見せ付けている。

■標準策定にはしたたかさが必要

 このしたたかさこそ、何らかの標準を策定する際に欠かせないものだろう。たとえば日本側(家電側と言い換えても良い)のソニーだが、コンシューマーに極めて高いブランドイメージを持つ反面、業界内部で決して好かれているわけではない。むしろ、あそことだけは手を組みたくない、みたいに言われることが多い企業だ(これもソニーにしてみれば最大級の誉め言葉なのかもしれないが)。書き換え可能なDVDメディアにおいて、規格乱立の要因を作った責任の一端を担ったのは同社だろう。

 その反面、自社の技術を標準に押し上げるのが巧みな企業であることも間違いない。最近はレガシー呼ばわりされているが、3.5インチフロッピーはソニーの規格だ。国内でプレイヤーの生産量でカセットテープを上回ったMDも、ソニーが生み出したものである。Philipsとの共同ではあるものの、CDは民生とコンピュータの両分野で、世界を大きく変えた標準だ。

 もちろんIntelにしても、したたかさという点で抜かりはない。AGP、PCI、USBなど現在のPCに使われている技術の大半は、Intelがかかわったものだ。ATAのように、元々はIntelが生み出した技術ではないものでも、プロセッサとチップセットの高いシェアを背景に、いつのまにか主導権を握っている。業界内で必ずしも100%好かれているわけではない、という点でもソニーと通じるものがある。

 その両社が手を組むということで、恐怖を感じるムキも多いかもしれない。確かに、両社が一致団結して独自技術を振り回せば、業界もユーザーも迷惑するだろう。しかし、その可能性はあまり高くないのではないか。たとえばソニーはIEEE 1394の事実上の旗振り役の1社だが、IntelはUSB 2.0を推している。これまでIEEE 1394とUSB 2.0は、前者が家電のネットワークおよび家電とPCの相互接続、USB 2.0はPCとPC周辺機器の接続、ということで棲み分けるとされてきたが、今回のIDFで初めてIntelはUSB 2.0をPCと家電の接続に用いる可能性に言及した。両社がぶつかり合う可能性は決して低くない。

 だからといって、今回の両社の提携がすぐに立ち消えになるようなはかないものだと言っているわけではない。おそらく両社は、ぶつかるところはぶつかりながら、提携関係も維持しつづけるだろう。片手で握手しながら、もう片方の手で相手をぶん殴る隙をうかがう、というのは米国の企業では良くある話だ。MicrosoftとIntelの関係も、これに近い(MicrosoftとIntelの仲は周期的に良くなったり悪くなったりするが、今は比較的良い方だろう)。

 どうも、日本企業はこうした関係をあまり得意としないようだ。日本企業同士の提携や連合というと、単なる仲良し連合であるか、相手の批判など絶対しない運命共同体のようなベッタリしたものかのどちらかであることの方が多いように思われる。ソニーは、そういう意味でも一般的な日本企業とは少しカルチャーが違うのかもしれない。

■フラッシュメディアは統一されるべき時期

 さて、今回の提携のうち最も具体的で、最も効果が早く現れそうなのは、メモリースティックだろう。Intelは、自社規格であるMiniature Cardに関連した事業をすでにCentennial Technologiesに事業売却しており、競合する規格や技術が存在しない。メモリースティックを押し付けられるようで、気に入らない人もいるかもしれないが、これ以上規格がバラバラのまま、個別に普及してしまうより良いかもしれない。

 現在、ノートPCに対するモデムやネットワークインターフェイスの標準搭載化が進んでいる。USB 2.0やIEEE 1394の普及があれば、ノートPCにはもはやPCカードスロットは不要になるだろう。もし将来的に残すのであれば、フラッシュATAのカードリーダー機能だと思うが、その規格が乱立しているのは都合が悪い。

 メモリースティックならメモリースティックで統一されれば、ノートPCに用意するスロットは、今のPCカードスロットより小さいスロット1種類で済む。より小型で携帯性に優れたノートPCを生み出すには、その方が良いハズだ。またそれ以上に、フラッシュメモリに個人情報を記録し本人認証やセキュリティ用途に用いる場合、複数規格が乱立しているのは都合が悪い。両社がメモリースティックを標準にすることで、こうした用途へも応用が進むかもしれない。

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【2月2日】インテルとソニー、デジタル家電の相互接続で共同開発(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0218/ehome.htm

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(2000年2月24日)

[Text by 元麻布春男]


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