高機能統合型チップセットSiS 630の実力を探る |
ローエンドPCでは、コストダウンのためにIntel 810/810Eのような統合型チップセットが採用されていることが多い。SiS 630は、'99年5月に発表された統合型チップセットで、Intel 810/810Eよりも高性能・高機能であることが売りだ。量産は当初の予定よりも遅れたようだが、製品発表から半年以上経って、ようやくSiS 630を搭載したマザーボードが登場したので、早速その実力を検証してみたい。
●高機能統合型チップセットSiS 630とは?
SiSの統合型チップセットSiS 630。さまざまな機能をワンチップに集積している |
従来の統合型チップセットでは、一世代以上前のグラフィックスコアを採用するのが普通であり、特に3D描画能力に関しては不満が多かった。ビジネス用途には十分でも、3Dゲームを動かすには力不足という印象は否めなかった。しかし、SiS 530/620の後継として発表されたSiS 540/630(540がScoket 7対応、630がP6バス対応)では、グラフィックスコアとして、SiSの最新ビデオチップSiS 300相当のコアを採用している。SiS 300は、内部128bit構成のビデオチップであり、2D/3D描画能力ともRIVA TNTを超える性能を持つといわれている(SiS 300搭載ビデオカードもやっと市場に登場したようなので、機会があったら性能を検証してみたい)。SiS 300相当のグラフィックスコアを内蔵したSiS 630は、Intel 810Eを上回る高性能統合型チップセットとして、登場が期待されていたのだ。
SiS 630は、統合されている機能の多さにおいても、Intel 810/810Eを上回る。サウンド機能(3Dサウンド対応)はもちろん、100Base-TX/10Base-T対応LAN機能やHome PNA機能もワンチップに集積したSiS 630は、まさに統合型という名に恥じない高機能チップセットだ。また、FSBクロック133MHzをサポートしていることはもちろん、Intel 810Eではサポートしていないメモリバスクロック133MHz(PC133対応)やVC SDRAMもサポートしている。FSBクロックとメモリバスクロックを非同期に設定することもできるので、CPU性能をフルに引き出すことができる。
●最初に市場に登場したSiS 630搭載マザーボード「WinFast 6300MAX」
LeadtekのSiS 630搭載マザーボード「WinFast 6300MAX」 |
CPUソケットはSocket 370対応で、Celeron(PPGA版)やCoppermineコアのPentium III(FC-PGA版)をサポートしている。LeadtekのWebページには、サポートするCPUとして、「Intel Socket 370 Celeron,Pentium III series and other Socket 370 CPUs」と記述されているが、VIA-Cyrixから近日中に出荷予定のJoshuaに対応しているかどうかは不明だ。
SiS 630は、FSBクロックとメモリバスクロックを非同期で動かせることが特徴だ。FSBクロックやメモリクロックは、BIOSセットアップ画面で設定でき、FSBクロックは最大166MHz、メモリクロックは最大160MHzまで上げることができる(それぞれを独立して設定できるのではなく、あらかじめ決められている組み合わせの中から選択する)。
PCIスロットは2基しか装備していないが、SiS 630では、LAN機能(100Base-TX/10Base-T対応)やサウンド機能も統合しているため、実用上はそれほど問題はないだろう。SiS 630は、メインメモリの一部をフレームバッファ(ビデオメモリ)として使うUMAを採用している。フレームバッファとして利用する領域のサイズは、2MB~64MBまでの間で指定できる。
BIOSセットアップのX-BIOSという項目で、FSBクロックやメモリバスクロックを設定できる | LAN機能も内蔵しているので、マザーボードにRJ-45端子も装着されている。接続状況を知らせるLEDインジケータも装備している |
●独自スロットにより拡張性も高い
PCIスロットの上側には、SiS 630独自の拡張スロットであるADIMMスロットが用意されている。ADIMMスロットのコネクタの形状はAGPスロットと同一だが、AGPスロットとの互換性はない(AGPスロットとは実装されている位置と方向が違うので、AGPカードを装着することはできない)。ADIMMスロットに、ADIMMと呼ばれるメモリボード(Leadtekの製品では、WinFast ADIMM-128という型番がつけられている)を装着することで、ビデオメモリへのアクセス幅が128bit幅になるため(メインメモリのみをフレームバッファとして使う場合は64bit幅でアクセス)、描画パフォーマンスが向上する。また、ADIMMスロットには、コンパニオンチップSiS 301を搭載した拡張カード(WinFast ADIMM-DCTという型番がつけられている)を装着することも可能だ。ADIMM-DCTを装着することで、デジタル液晶ディスプレイ端子やビデオ出力端子、セカンダリCRT出力端子が追加される。
また、マザーボード上に2つのUSB端子を装備しているほか、同梱されているUSBブラケットにUSB端子が3個用意されているので、それを利用することで、合計で5つのUSB端子を同時に使えることも面白い。さらに、液晶シャッターを利用した3Dグラスも付属しているので(最大2つの3Dグラスを接続可能)、ホビーユーザーにもお薦めだ。
上から、AMRスロット、SiS 630独自の拡張スロットであるADIMMスロット、PCIスロット×2。ADIMMスロットの形状はAGPスロットと同じだが、実装されている位置と方向が異なる | 同梱されているUSBブラケットには、USB端子が3つ設けられている | 液晶シャッター方式の3Dグラスが付属する |
3Dグラスは、付属のブラケットに設けられている専用端子(2つある)に接続する | 画面のプロパティの中にある「ステレオ」タブで、3Dグラスを有効にするかどうかを指定できる |
●メモリ周りの性能はIntel 810Eに劣るが、2D/3D描画性能は勝る
下記に示したテスト環境で、ベンチマークテストを行なってみた。比較のために、Intel 810Eチップセットを搭載したSUPERMICROのPIIISEDでも同じ環境を作って、テストを行なった。
【テスト環境】
CPU:Pentium III 500EMHz(FC-PGA版:Socket 370対応)
メモリ:PC100対応SDRAM 128MB(CL=2)
HDD:Western Digital製 Caviar 14300(4.3GB)
OS:Windows 98 SE+DirectX 7.0
ベンチマークテストプログラムには、Ziff-Davis,Inc.のWinBench 99 ver 1.1に含まれるCPUmark 99、FPU WinMark、Business Graphics WinMark 99、High-End Graphics WinMark 99、同じくZiff-Davis,Inc.の3D WinBench 99 ver 1.2および3D WinBench 2000、MadOnion.comの3DMark2000を用いた。WinFast 6300MAXの場合は、メモリバスクロック100MHzと133MHzのそれぞれでテストをおこなった。Cas Latencyは、メモリバスクロック100MHzのときは2、133MHzでは3とした。また、フレームバッファとしては、デフォルトの16MBを割り当てている。
結果はグラフに示した通りだが、まず気になるのは、CPUの演算性能を計測するCPUmark 99および浮動小数点演算性能を計測するFPU WinMarkの値が、Intel 810Eに比べてかなり低いことだ。特に、CPUmark 99の値にはかなりの差がある。メモリバスクロックを133MHzに上げることで、ややパフォーマンスは上がっているが、それでもIntel 810Eに比べると2割以上値が低い。VIA製チップセットでも言えることだが、Intel製チップセットに比べると、サードパーティ製チップセットでは、どうもCPUmark 99の値が低くなる傾向にあるようだ。おそらく、メモリ周りのチューニングなどがIntel製チップセットのほうが優れているのだろう。
【WinBench 99 ver 1.1】
CPUmark 99 | FPU WinMark | ||
---|---|---|---|
WinFast 6300MAX(SiS 630) | FSB100/メモリ100 | 35.8 | 2,520 |
FSB100/メモリ133 | 37.4 | 2,530 | |
PIIISED(Intel 810E) | FSB100/メモリ100 | 45.8 | 2,690 |
総合的な2D描画性能を比較するBusiness Grapics WinMark 99やHigh-End Graphics WinMark 99の値は、一転してSiS 630のほうが高い値を出している。特に、メモリバスクロックを133MHzにすると、100MHzの時と比べてかなり数値が向上する。SiS 630では、メインメモリの一部をフレームバッファ(ビデオメモリ)として利用するUMAを採用しているので、メモリバスクロックが向上すれば、ビデオメモリのバンド幅も広がり、描画性能が向上するわけだ。
【WinBench 99 ver 1.1】
1,024×768ドット16bitカラー | 1,024×768ドット32bitカラー(Intel 810Eは24bitカラー) | ||||
---|---|---|---|---|---|
Business Graphics WinMark 99 | High-End Graphics WinMark 99 | Business Graphics WinMark 99 | High-End Graphics WinMark 99 | ||
WinFast 6300MAX(SiS 630) | FSB100/メモリ100 | 142 | 435 | 79.9 | 368 |
FSB100/メモリ133 | 154 | 447 | 110 | 404 | |
PIIISED(Intel 810E) | FSB100/メモリ100 | 140 | 289 | 102 | 355 |
DirectX環境下での3D描画性能を計測する3D WinBench 99の値も、SiS 630のほうが優秀である。なお、3D WinBench 2000や3DMark2000は、DirectX 7.0対応のベンチマークテストだが、SiS 630では正しく動作したものの、Intel 810Eでは、DirectX 7.0を導入してもサポートされていないファンクションが多すぎて計測することはできなかった(3DMark2000の場合は、途中で必ずハングアップしてしまう)。3D描画ファンクションのサポートの充実度に関しても、SiS 630のほうが上だといえる(付属のビデオドライバを導入すると、自動的にDirectX 7.0も組み込まれる)。
しかしその3D描画性能も、TNT2やG400、GeForce256といった最新ビデオチップには遙かに及ばない。同じCPU(PentiumIII 500EMHz)で、TNT2搭載ビデオカードで3D WinBench 2000を計測すると、1,024×768ドット16bitモードで48程度、1,024×768ドット32bitモードで33程度の値になる。統合型チップセットとしては3D描画性能が高いとはいえ、やはり過度の期待は禁物だ。それでも、800×600ドット16bitモード程度で3Dゲームソフトを楽しむくらいなら、それほど不満はないだろう。
【3D WinBench 99 ver 1.2/3D WinMark 99】
1,024×768ドット16bitカラー | 1,024×768ドット32bitカラー | ||
---|---|---|---|
WinFast 6300MAX(SiS 630) | FSB100/メモリ100 | 446 | 237 |
FSB100/メモリ133 | 538 | 342 | |
PIIISED(Intel 810E) | FSB100/メモリ100 | 388 | 計測不可 |
【3D WinBench 2000/3D WinMark 2000】
800×600ドット16bitカラー | 800×600ドット32bitカラー | 1,024×768ドット16bitカラー | 1,024×768ドット32bitカラー | ||
---|---|---|---|---|---|
WinFast 6300MAX(SiS 630) | FSB100/メモリ100 | 20.1 | 14.2 | 14.4 | 9.58 |
FSB100/メモリ133 | 28.1 | 19.8 | 19.8 | 12.4 | |
PIIISED(Intel 810E) | FSB100/メモリ100 | 計測不可 | 計測不可 | 計測不可 | 計測不可 |
【3DMark2000/3DMark】
1,024×768ドット16bitカラー | 1,024×768ドット32bitカラー | ||
---|---|---|---|
WinFast 6300MAX(SiS 630) | FSB100/メモリ100 | 698 | 401 |
FSB100/メモリ133 | 896 | 645 | |
PIIISED(Intel 810E) | FSB100/メモリ100 | 計測不可 | 計測不可 |
●コストパフォーマンス的には魅力はある
今回はADIMMが入手できなかったため、ADIMM装着時の性能は計測していないが、ADIMMを装着すればさらに描画性能は向上するはずだ。メモリバスクロックを133MHzに上げたときの描画性能の上昇度合いから推測すれば、ビデオメモリのバンド幅が足を引っ張っている可能性は高い。ADIMMを装着すれば、ビデオメモリへのアクセス幅が一挙に2倍の128bitになるため、大きく描画性能を向上することが期待できる。また、LAN機能やサウンド機能を内蔵しており、実売18,000円程度で販売されていることを考えれば、コストパフォーマンスも非常に優秀だ。ローコストにクライアントPCを作りたいという人には、お薦めできる製品である。
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【1月29日号】LANまで取り込んだ新統合チップセットSiS630搭載のマザー登場
第一弾はLeadtek製「WinFast 6300MAX」、拡張性もあり
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000129/sis630.html
(2000年2月18日)
[Text by 石井英男@ユービック・コンピューティング]