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ついにベールを脱いだTransmetaの概要


●注目を集めるTransmetaのCrusoeがいよいよデビュー

 斬新なアイデア、期待以上の性能/消費電力、輝く将来性。米Transmeta社の“x86互換”MPU「Crusoe(クルーソー)」がついにデビューを飾った。

 クルーソーのクロックは0.18μmで最大700MHz、消費電力はDVD再生時でさえ1~2W、ダイサイズは256KBの2次キャッシュとノースブリッジを統合しながら73平方mmと極めて小さく(Pentium IIIは106平方mm)、価格も65ドル(333MHz)からと安い。x86の完全互換性を実現しOSも選ばないうえに、組み込み向けにはカスタマイズしたMobile Linuxをディストリビュートする。ターゲットは、ノートPCとハンドヘルドデバイスやWebPadで、まる1日分(8時間程度)バッテリが保つ軽量WindowsノートPCを実現できるという。


●シンプルハード+アップグレード可能なソフトでMPUを構成

 これまでのx86互換MPUにない、性能/消費電力を実現するCrusoe。そのベーシックなアーキテクチャについては、2カ月前にこのコラムで説明した。今回は、具体的なスペックが公開されたので、この風変わりなMPUについて、とりあえずざっとおさらいしてみたい。

 Transmetaが、今回発表したCrusoeは2種類。ノートPC向けの「TM5400」と、WebPADやハンドヘルドデバイス向けの「TM3120」だ。TM5400は0.18μmプロセスで製造し動作クロックが500~700MHz、TM3120は0.22プロセスで製造し333/366/400MHzとなる。2つのMPUの違いは、クロックとプロセスだけではない。TM5400の方はMPUコアが拡張されており、256KBの2次キャッシュもワンチップに(On-Die)統合、省電力機能も強化している。また、両チップとも、MPUコアにチップセットのノースブリッジの機能、つまり、DRAMインターフェイス、PCIバスを統合している。スペック表は下の通りだ。

 Crusoeが従来のMPUと決定的に異なるのは、MPUがハードウェアとソフトウェアの2つの部分からなる点だ。「VLIW(Very Long Instruction Word:超長命令語)」アーキテクチャのMPUコアと、「コードモーフィングソフトウェア(Code Morphing Software)」と呼ばれるエミュレーションソフトウェアの組み合わせでCrusoeというプロセッサは成り立っている。簡単に言えば、ハードウェアでできていたMPUを、ソフトとハードの2つの部分に分割してしまったわけだ。そのため、TransmetaではCrusoeを「ソフトウェアベースのプロセッサ」という呼び方もしている。

 では、Crusoeでは、なにがハードウェアからソフトウェアに置き換わったのか。まず、Crusoeはx86互換MPUと言いながらも、MPUそれ自体はx86命令を直接実行できない。x86命令は、コードモーフィングソフトウェアがCrusoeのVLIWコアが実行できる命令に動的に変換(トランスレート)して実行する。これが、x86命令を直接デコードするAthlonやK6と異なる点だ。また、コードモーフィングソフトウェアは、並列実行できるx86命令をグルーピングしてVLIW命令に入れ込んだり、いったん変換した命令をバッファリングする機能を持つ。

 また、Transmetaは、このコードモーフィングソフトウェアをインターネット経由でアップグレードできるようにもする。つまり、コードモーフィングソフトウェアが改良された場合、インターネット経由でアップグレードすることでMPUのパフォーマンスそのものを向上させることができるわけだ。


●利点の多いCrusoeのアーキテクチャ

 こうしてMPUをハードウェアとソフトウェアに分割したCrusoeは、これまでのx86互換MPUと較べて次のような利点を持つ。

・MPUのハードウェアを単純にできる
・チップのデザインとデバッグが簡単になる
・小さなデザインチームが短い期間で開発ができる
・チップが小さいので生産コストが安くなる
・チップが小さくシンプルなので放熱と消費電力が少ない
・x86との完全な互換性を実現できる
・Intelのx86に関する知的所有権を回避できる(と思われる)

 これらの利点のうち、放熱と消費電力が少ないという利点は、モバイルコンピューティング向けだ。とくに、性能競争でどんどんハードウェアが複雑化して、発熱と消費電力が増大しているx86MPUの世界では強力な武器となる。Transmetaでもそれを十分認識しており、Crusoeをモバイルインターネットコンピューティング向けと位置づけ、様々な消費電力を下げる技術も織り込んできた。その中には、IntelのSpeedStepと類似の、動作中のMPUの電圧とクロックを変えて消費電力を抑える技術「LongRun」も含まれている。この省電力フィーチャに関してはまた詳しく説明したい。

 スペック表を見ればわかる通り、Crusoeの消費電力は異常に少ない。TM5400なら、通常のアプリケーションを使っている分には消費電力は1W程度、DVD再生をしていても1.8W程度しか消費しないという。これは、モバイルPentium IIIの数分の1、これまでのx86互換MPUでは、到底実現できなかった数字だ。Transmetaでは、1.5~2KgクラスのノートPCで、通常アプリケーションで5~8時間、DVDソフト再生でも3~4時間の連続バッテリ駆動ができるとしている。


●小さく安いMPUと低い開発コスト

 小さなチップも本当だ。Crusoeのダイサイズ(チップ本体の面積)は非常に小さい。TM5400で73平方mm、TM3120で77平方mmだ。256KBの2次キャッシュとチップセットのノースブリッジの機能を含んでこれなのだから、MPUコアがいかに小さいかがわかる。MPUの製造コストは、このダイサイズとパッケージが大きな要因になっており、Crusoeは、放熱も少ないためパッケージコストも低くできると見られるので、かなり製造コストが安いと推測できる。

 また、MPUのデザインがシンプルで、開発に必要な労力と時間が短いという利点は、Transmetaのようなファブレス(工場を持たない)メーカーには重要な要素だ。開発リソースが限られていてもハイパフォーマンスなMPUをタイムリーに開発できるからだ。

 ファブレスメーカーは、最先端の製造プロセスにチューンした物理設計がしにくく、MPUの性能を上げにくいという問題があった。しかし、MPUが単純になると、こうした問題も緩和され、クロックは上げやすくなる。実際、Transmetaは700MHzのサンプルを出荷中と発表している。これまで、x86の世界では、高性能MPUの開発コストと苛烈な性能競争のために多くのファブレスメーカーが脱落していった。しかし、Crusoeのアーキテクチャなら、Transmetaのような小さな企業(従業員200人)でも、有利な戦いを展開できる可能性がある。


●PCだけでなくハンドヘルド機器も視野に

 Transmetaは、x86命令をデコードできるが、PCだけをターゲットにしているわけではない。PCから携帯情報機器まで幅広いモバイルデバイスをターゲットにしている。また、ノートPCでも、現在のPentium IIIノートのような大型ノートは視野に入れていない。あくまでも、Crusoeの利点を活かせる軽量ノートやミニノートが狙いだ。Transmetaの説明では、1.5kg程度までのWindowsサブノートや、DVD-ROMドライブを備えた2kg程度のWindowsノートを、TM5400のターゲットとして想定しているという。

 しかし、面白いのはTM3120のターゲットの方だ。こちらは、1kg以下のWebPADやハンドヘルド機器を想定している。いずれもディスク装置を持たないデバイスで、フラッシュメモリをストレージに使うことを前提とする。Transmetaは、こうしたCrusoe機器向けに、ディスクレス環境に最適化したMobile Linuxを、OEMに供給するという。そう、ここで、TransmetaがLinuxの開発者ライナス・トーバルズ氏をエンジニアとして雇ったことが生きてくるわけだ。

 以上がCrusoeの概要だが、来週は、Transmetaの技術と性能、それからマーケティング上の可能性について、もう少し突っ込んでみたい。


●仕様一覧
TM5400TM3120
動作周波数500~700MHz333/366/400MHz
L1キャッシュ(命令)64KB
8Wayセットアソシエイティブ
64KB
8Wayセットアソシエイティブ
L1キャッシュ(データ)64KB
8Wayセットアソシエイティブ
32KB
8Wayセットアソシエイティブ
L2キャッシュ256KB
4Wayセットアソシエイティブ
整数演算パイプライン7段7段
浮動小数点演算パイプライン10段10段
ノースブリッジ統合統合
メインメモリDDR SDRAMSDRAM
クロック100~167MHz66~133MHz
電圧2.5V3.3V
インターフェイス幅64bit64bit
サポート容量64/128/256Mbit64/128/256Mbit
アップグレードメモリSDRAM
クロック66~133MHz
電圧3.3V
インターフェイス幅64bit
サポート容量64/128/256Mbit
I/OPCI 2.1PCI 2.1
パッケージ474ピンBGA474ピンBGA
SMMサポートサポート
電圧1.2~1.6V1.5V
LongRunサポート×
消費電力:DVD再生時1.8W2.9W
〃:MP3再生時1.0W1.4W
〃:Auto Halt0.9W0.9W
〃:QuickStart0.3W0.4W
〃:DeepSleep30mW15mW
製造メーカーIBMIBM
プロセステクノロジ0.18μm0.22μm
ダイサイズ73平方mm77平方mm
サンプル出荷中出荷中
量産出荷2000年中盤出荷中

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【'99年11月19日】Transmetaの謎のMPU「クルーソー」の実像
x86命令をVLIWプロセッサでエミュレートするMPUが来年1月に登場?
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(2000年1月21日)
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(2000年1月21日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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