ITの普及によるオフィスの電子化やペーパーレス化は、エコの観点からも望ましいことだが、実際にペーパーレス化が進んでいるかと言われると、なかなかそううまくは行かないようだ。実際、人に文書を配布するのに、紙より無難な媒体はあまりない。すべての人が常時PCを携帯しているとは限らないし、情報の二次利用が簡単なデジタルデータを渡すのは避けたいと考える人もいるからだ。逆に、元データがデジタル化したことでバンバン紙に印刷できる、という話もあるくらいで、当分の間、紙の資料をもらう機会はなくなりそうにない。 しかし、もらう側にとってみると、紙の資料は扱いに困る。かさばる上、後から探すのが困難だ。どんなに貴重な資料も、必要なときに参照できないのでは宝の持ち腐れになってしまう。 というわけで、紙の文書のデジタル化というのは、日頃紙の資料をもらう多くの人にとって、不可避な作業となる。一度デジタルで作成したコンテンツを、繊維上のインクの集合にして、またデジタル化するのだから何とも無駄な話だが、紙の資料がなくならない以上、この作業もなくなることはない。 ●紙資料のデジタル化を手伝うScanSnap S1500M 紙の資料のデジタル化に不可欠なツールといえばスキャナだ。多くの人にとってなじみ深いのは、ガラスの原稿台の上に原稿を載せてスキャンするフラットベッドスキャナだと思うが、複数ページの文書のデジタル化にはあまり適していない。たとえ自動原稿送り装置(ADF)を備えていても、フラットベッドスキャナでは処理に時間がかかる。文書のデジタル化には専用のドキュメントスキャナを使った方が断然効率が良い。
このドキュメントスキャナの分野で定評を持つ製品の1つが、PFU(富士通)のScanSnapシリーズだ。2001年に最初の「fi-4110EOX」がリリースされたScanSnapシリーズは、同社が業務用スキャナで蓄積したノウハウをベースに、個人でも購入可能な手頃な価格を実現した製品。従来はWindows対応製品のみだったが、昨年からMac対応版の国内投入が始まっている。 この2月に発売されたS1500Mは、Mac版とWindows版が同時発売となる初のフルモデルチェンジ製品のMac版となる。従来機S510Mに比べて読み取り速度が20枚/分に高速化した(従来は18枚/分)ほか、グレースケールのサポートや付属ソフトの改善が行なわれた。Mac版といっても、前モデル(S510M)がMac用のスキャナユーティリティ/ドライバしか付属しない「Mac専用モデル」であったのに対し、このS1500MにはWindows用のスキャナユーティリティ/ドライバ(ScanSnap Manager)もバンドルされており、Windowsマシンと組み合わせて利用することもできる(Windows版パッケージに含まれる、付加価値ソフトウェアは添付されていない)。 まずはハードウェアだが、スキャナ本体の機能は基本的にWindows版と同じ。五角形の断面を持つ本体のデザインは、イタリア在住の日本人デザイナーによるもので、Windows版と違うのはホワイトとパールホワイトを組み合わせた、明るい色調が採用されていることだ。白やアルミニウムの素材色を生かしたMacのデザインにならったものだと思われる。電源スイッチを兼ねる上部カバーは、バタンと閉まらないようにダンプされるなど、細かな配慮が見られる。 読み取り解像度は、ノーマル(カラー/グレースケール150dpi、白黒300dpi相当)、ファイン(同200dpi、400dpi相当)、スーパーファイン(同300dpi、600dpi相当)、エクセレント(同600dpi、1,200dpi相当)の4段階。上述した20枚/分というスキャン速度は、ノーマルからスーパーファインまでの解像度に該当する(エクセレントは5枚/分)。新たに搭載された超音波方式マルチフィードセンサーで、重送の検出力を高めており、20枚/分の高速スキャンを安心して使うことができる。スキャン時の動作音も従来製品より若干低くなったようだ。
この4段階の解像度設定に加え、本機には自動解像度モードが用意されている。これを利用すると、A6サイズ以上の一般文書はファインで、名刺のようなA6サイズ以下の小型文書はスーパーファインで、それぞれスキャンされる。本機には名刺OCRソフトとしてCardMinderが付属するが、その推奨設定がスーパーファインとなっており、自動解像度モードを利用することで、意識せずに文書と名刺、それぞれに最適なスキャンができる仕組みだ。 ほかにも自動化機能として本機は、用紙サイズの自動検出、カラー自動判別、白紙ページの自動削除、自動傾き補正、自動向き補正などを備える。極力ユーザーの手を煩わせることなく、スキャンボタンを押すだけで、誰もが簡単に文書のPDF化を行なえる、というのが当初からのScanSnapシリーズの製品コンセプトであり、それはMac版でも変わらない(パッケージにはAdobe Acrobat 8 Professionalが付属する)。 このS1500Mで新たに加わった機能の1つは、カラー自動判別にグレースケールモードが追加されたことだ。従来はカラーと白黒の2モードであったため、グレースケール原稿を読みやすく保存しようと思うと、強制的にカラーモードでスキャンする必要があった(自動判別では白黒2値になり、階調がつぶれてしまうため)。S1500Mなら、自動判別任せでも階調のある読みやすいデータとして保存できる。 また、色を識別し圧縮率を最適化することで、原稿によってはカラーモードで読み取るよりデータサイズを小さくできるというメリットもある。手元にあったA4サイズのプレゼンテーション資料7枚(両面で計14ページ)をスキャンしてみたが、データサイズは白黒で1.9MB、グレースケールで3MB、カラーで3.3MBであった(次に紹介するOCR読み取りを含む。圧縮率の設定は5段階のうち高い方から2番目の4)。 さて、本機でMac対応も2世代目を迎えたわけだが、大きく改善されたポイントの1つが日本語対応だ。従来はWindows版だけであった日本語対応のOCRが、Mac版でも利用可能になった。これにより、スキャンした文書が1枚の画像としてPDF化されるのではなく、検索も可能なPDFとして電子化される。SpotlightはデフォルトでPDFの検索を行なってくれるから、本機で作成したPDFはファインダからの検索で見つけることが可能になる。 さらにこのS1500Mでは、設定しておくことによって、ラインマーカーで印をつけた単語を文書のキーワードとして自動登録することも可能だ。OCRという技術の性質上、いずれの場合にしても100%正確な文字認識を期待するわけにはいかないが、電子化された文書を後から見つける可能性を高めるという点で、従来モデルから大きく前進したと言えるだろう。
残念ながらWindows版と異なり、マーカーで囲った部分だけをPDF化するクロッピング機能や、PDF以外のOffice文書への直接変換、キーワードによる文書保存先の自動振り分け、といった機能はMac版には実装されていない。このあたりは将来のアップデートに期待したいところだが、名刺管理/OCRソフトウェアとしてCardMinderが付属することと合わせ、日本語を用いたビジネス環境でドキュメントスキャナを利用する要件は十分クリアしている。CardMinderは、Mac OS X標準のアドレスブックとデータを同期することが可能で、MobileMe等を用いて他のMacやiPhoneとアドレスデータを共有することも可能だ。 どうしてもMacというと、DTMやグラフィックスなど、クリエイティブツールの印象が強い。それは間違っているわけではないが、本機のような一般オフィス向けの周辺機器もちゃんと存在している。Macをメインマシンにと考えているユーザーには頼もしい存在だ。 □関連記事 (2009年4月7日) [Reported by 元麻布春男]
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