元麻布春男の週刊PCホットライン

Macrovisionが進める、もう1つのビジネス




●コピーガード技術で伸びたMacrovision

 みなさんはMacrovision(マクロヴィジョン)という名前を聞いて何を連想されるだろうか。おそらく多くの人が、筆者と同様、アナログビデオのコピーガード、あるいはCCCDに採用されたコピープロテクト技術(CDS-300等)や、BDのコピープロテクト技術の1つであるBD+の基礎となるSPDC(Self-Protecting Digital Content)といった、コピープロテクション/コンテンツ保護技術の会社、というイメージを思い浮かべるのではないかと思う。実際、これらは今も同社の主要なビジネスの1つであることに変わりはない。しかし、Macrovision=コピープロテクションというイメージは、現在では短絡的すぎるようだ。

 おそらくは最も普及したミュージックプレイヤーソフトであるiTunesで音楽CDの取り込みを行なうと、演奏者やアルバムタイトル、曲名などのデータが、CD情報検索サービス会社であるGracenoteからダウンロードされ、取り込まれた楽曲データにメタデータとして付与される。昨年4月、ソニーがGracenoteを2億6千万ドルあまりで買収したことは記憶に新しい。

 同様に、オンラインのiTunes Storeで楽曲を購入した場合、ダウンロードした楽曲データにもメタデータが付与されている。が、その情報が自分でCDから取り込んだ場合と異なっていることに気づいているだろうか。

【図1】iTunesでCDから楽曲を取り込んだ際に付与されるメタデータ

 図1はNina Vidalというアーチストの「Moving Along」という楽曲をCDから取り込んだ際に、Gracenoteが付与したメタデータの一部だ。共演者のJean Cazeがアーティスト名に加えられ、コンピレーションアルバムの1曲という位置づけになっている(同じアルバムに収録された他の10曲はすべてアーティスト名がNina Vidalで、1曲だけ違ってしまう)。また並べ替えデータの項のアルバムアーティストが空欄になっていることが分かる。

【図2】iTunes Storeで楽曲を購入した際に付与されるメタデータ

 一方、図2は同じ楽曲をiTunes Storeで購入した際に付与されていたメタデータだ。こちらでは共演者名が楽曲末尾にカッコ付きで記載され、アーティストの項目はNina Vidalのみとなっており、コンピレーションのチェックマークも外されている。この方がアーティスト別アルバムで表示させた際に、Nina Vidalの項目にアルバムに収録された全部の楽曲が表示される点で使いやすいと思うが、嫌いな人もいるだろう(最も好ましいのはアーティスト名がNina Vidal Feat. Jean Cazeで、アルバムアーティスト名がNina Vidalだろうか)。いずれにせよ、iTunesでCDから取り込んだ場合と、iTunes Storeで楽曲を購入した場合で、採用されるメタデータは異なる。

 実は、現在iTunes Storeで販売されている楽曲データに付与されているメタデータは、AMG(All Media Guide)という別の会社が提供するものであり、このAMGを2007年11月に買収したのがMacrovisionだ。AMGは、Allmusic(音楽)、Allmovie(映画)、Allgame(ゲーム)といったデータベースサービスを運営する企業で、このデータベースは書籍としても刊行されている。また、家電メーカーが自社の製品にメディアを識別するために、AMGのデータベースを参照できるようにする機能を「LASSO」という名称で販売している。

 このAMGに続いてMacrovisionが2007年12月に買収したのが、Gemstar-TV Guide Internationalだ。Gemstarといえば、録画予約を簡単にするためのGコードをライセンスした会社として覚えている人もいるだろう。「TV Guide」はおそらく米国で最も有名なTVガイド雑誌の誌名であり、TV番組関係の強力なデータベースを持つ会社と考えていい。

 つまりAMGとGemstar-TV Guide Internationalを傘下に持つMacrovisionは、コピープロテクション技術の会社であると同時に、音楽、映画、ゲーム、TV番組に関する情報を網羅した、巨大データベース/メタデータ企業となっている。

●メタデータサービスの基本はメタデータの保有

 その同社が現在最も力を入れているビジネスの1つが、TVセットやセットトップボックスに搭載されるEPG(電子番組表)技術だ。すでに米国向けのTVでは、ソニーの「BRAVIA」や三洋電機のデジタルTVに採用されている。国内でも1月13日に発表されたパナソニックの「ビエラ」に、Gemster-TV Guide Internationalが開発したEPG技術である「G-GUIDE」をベースにした新サービス「注目番組」が採用された。通常のEPGでは1週間先までの番組情報しか知ることができないが、この「注目番組」では、Gガイド(G-GUIDEをベースにしてIPGが提供する国内向けのEPGサービス)がお勧めする番組については1カ月先の番組情報が提供され、ビエラリンクで接続されたディーガに録画予約することもできる。

 今年のCESでは、こうしたEPGをさらに強化する方向性として、家族それぞれのお気に入りコンテンツを記憶させ、EPGをパーソナライズする展示が行なわれていた(図3)。

【図3】Billさんにパーソナライズされた番組表。個人ごとの嗜好をMy TVとして提供するには、搭載する不揮発メモリの量を増やすなど、コストも必要になる

 また、3大ネットワークの1つであるCBSと連携して、番組表からCBSが提供するコンテンツの予告編や過去のエピソード等を呼び出して再生する、といったデモも行なわれていた(図4)。Macrovisionが目指すのは、コンテンツを保護する技術だけでなく、そのコンテンツを楽しむのに不可欠なメタデータ、そしてそれを配布する技術(EPG)を取りそろえたトータルなメディア企業というわけだ。

【図4】CBSの人気ドラマ「CSI:」の過去のエピソードを番組表からリモコン1つで呼び出すことも技術的には可能。米国では番組表に掲載される広告のほとんどが番宣だという

 このようにコンテンツだけでなく、その関連情報であるメタデータに注目する動きは、近年に強まってきている。上述のようにGracenoteを買収したソニーは、VAIOシリーズ向けのTV番組録画・視聴ソフトである「Giga Pocket Digital」向けに、TV番組内で紹介された情報のメタデータをインターネット経由で提供し、それを活用するカタログビュー機能を提供している。Giga Pocket DigitalがPC上でメタデータを活用するソフトウェアであるのに対し、MacrovisionはTVという家電製品のEPGを拡張する形でメタデータを活用しようと考えているわけだ。

 両社に共通しているのは、AMG/Gemster-TV Guide InternationalやGracenoteの買収に見られるように、メタデータによるサービスを本格的に展開するには、メタデータそのものを自社で保有する必要がある、という認識を持っていることだ。現在はVAIO向けのサービスにとどまっているソニーが、広く家電向けにも同様のサービスを提供する日がくるのか。その時、Gracenoteのデータベースがどう活用されるのか、注目される。それとも、かつてのGコードのように、MacrovisionのメタデータとEPGが、日本の家電や放送業界を席巻することになるのか、気になるところだ。今のところ日本の家電メーカーで、ソニー以外に顕著な形でメタデータ戦略に取り組んでいるところはないように思える点も気にかかる。

□Macrovisionのホームページ(英文)
http://www.macrovision.com/
□IPGのホームページ
http://www.ipg.co.jp/
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(2009年1月22日)

[Reported by 元麻布春男]


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