元麻布春男の週刊PCホットライン

Core i7に思う実用と夢




●順調な出足のCore i7
Core i7プロセッサ

 11月に発売されたIntelのCore i7プロセッサは、まずまずのスタートを切ったようだ。最上位のCore i7-965 Extreme Edition(3.2GHz)は、値段も値段(10万円超)だけに、バンバン売れるというわけにはいかないが、3万円を切るお手頃価格のCore i7-920(2.66GHz)は結構順調らしい。

 メモリコントローラを内蔵し、従来のFSBに代わってQPIを採用するCore i7は、必ずマザーボードを新調する必要がある。しかも、ピン数が多い(1,366ピン)こともあり、マザーボードは6層基板以上になるため安くない(Intel純正のDX58SOは8層基板)。現時点で3万円前後からスタートという感じで、1万円を切るものさえ珍しくなくなったマザーボード製品としては格段に高価だ。

 さらに多くのユーザーにとって、メモリも新たに調達することが必要になる。Core i7がサポートするメモリはDDR3(定格では最大1,066MHz)のみで、DDR2メモリを流用できない。Core i7が内蔵するメモリコントローラは、3チャンネルのメモリチャンネルをサポートしているから、最適な性能を得るには3枚単位での増設が不可欠。したがって、Core 2 DuoやCore 2 QuadでDDR3メモリを利用していたユーザーも、メモリを買い足すなり余らせるなりすることになる。

 細かいことを気にしなければ、1枚からDIMMをインストールすることはできるし、Intel純正のDX58SOはメモリスロットが4つでメモリチャンネルの数と非対称になっており、3枚の次が4枚になってしまう。このような構成でももちろん動作はする。32bit OSで利用するユーザーは1GB DIMMを3本、64bit OSで利用するユーザーは2GB DIMMを3本というのがとりあえずのスタートポイントという感じだ。もっとメモリを積みたいというユーザーは、サードパーティ製のマザーボードを選んだ方が幸せになれる。HDDやビデオカードは流用できるとして、CPU、マザーボード、メモリ(1GB DIMMの3枚セットが約1万円)で7万円前後からというのが、アップグレードによるCore i7体験のお値段ということになる。

 7万円が高いのか安いのかは個人の価値観次第だから何とも言えない。が、PCを触る行為そのものが好き、という人にとっては、法外な値段ではない。ちょっといいネットブックを1台買ったと思えば、出せる金額だ。持ち運び用のネットブックと、Core i7のデスクトップでは全然用途が違うわけだが、それだけでなく使う際の心構えも少し違ってくる気がしてくる。

6層基板以上になる高価なマザーボード インテルの吉田社長も自作PC派。CPUはもちろんCore i7-965 Extreme Editionだ
●実用と夢

 基本的にはネットブックも、それに使われるCPUのAtomも、実用のためのもので、それ以外の入り込む要素はあまりない。世の中には、ネットブックをあれやこれやと増強する人もいて、それはそれで趣味としては成り立つのだろうが、元が安価なものだけに、追加のコストをかけ過ぎるのは本末転倒の感がある。Atomの小さなダイは、低コストを実現するための必然であり、そこに余計なものを削ぎ落とした美があるとしても、夢までは入っていない気がする(だからといって、最終製品にまで夢がないと言っているわけではない、念のため)。

 それに比べればCore i7はリッチなCPUであり、プラットフォームとしてもリッチだ。CPUのダイ上には3レベルのキャッシュが搭載され、L3キャッシュは8MBもある。4つの物理コアにHyper-Threaingを組み合わせて、ソフトウェアからは8コアに見えるというのもリッチだ。プラットフォームは6層や8層の基板を要求する上、下位のプロセッサに使い回すことも許されない。

Hyper-Threadingで8コアに見せかける Eee PC S101(シャンパン)

 2009年にリリースされる見込みのメインストリーム向けのNehalem(4コアのLynfield、2コアだがグラフィックスコアを内蔵するHavendale)は、外部インターフェイスもピン数も違うため、チップセットからCore i7とは異なる。Core i7は、メインストリーム向けとは車台からして違うラグジャリーカーといった風情だ。以前なら、PCベンダがBTOする際にプラットフォームを統一できないことが云々などと言われたのだろうが、今では大きな問題ではなくなってしまった。

 量販店の店頭を見渡しても、Extreme EditionのCPUを搭載したシステムなど1台もない。4コアプロセッサを搭載したシステムでさえ希少だ。ハイエンドのプロセッサは、それを使いたいと意識した人だけが手にするものであり、量販店でPCを買ったらたまたま入っていた、という類のものではないのだ。そういう意味では、Core i7とメインストリーム向けCPUのプラットフォームが分かれていても問題はないし、Core i7を使うのは、いわゆるPC自作に手を染めたユーザーの特権とも言える。

 もう1つ特権的なのは、QPIを採用したCore i7級のハイエンドCPUは、少なくとも当面の間、モバイル向けにはリリースされないだろう、ということだ。それどころか、デスクトップのメインストリーム向けCPUに相当するNehalem世代のClarksfieldとAuburndaleでさえ、いつになるのか良く分からない。

 モバイルのプラットフォームは、来年の春(4月あたり)に現行Montevinaのリフレッシュがあると言われている。一般的にIntelは、プラットフォームを更新した次の四半期に新しいプラットフォームを出すことはしない。それはOEM(PCベンダ)が嫌がるからだが、そうなると最短でもClarksfieldとAuburndaleを搭載する次のプラットフォーム(Calpera)は2009年の第4四半期ということになる。

 しかし現在の経済状況である。まだ米国は、ビッグスリーに対する公的資金の注入をどうするか、と言っている状況であり、資金が注入され、リストラを行ない、負債を返済し、再建するというプロセスはすべて来年以降の話だ。2009年は2008年より景気が悪くなる可能性が高いのに、そんなタイミングで新製品を投入するのか、というのは大きな疑問だ。

 デスクトップPC向けのCore i7にしても、リーマンブラザースの破綻が予測できていれば、無理矢理にでも前倒しするなり、延ばすなりしたかもしれない。新製品を出しました、景気が悪くて売れませんでしたでは、かえって新製品のイメージが悪くなる。そういう意味では、まずは順調というデスクトップPC向けのCore i7は、ギリギリセーフだったのかもしれない。

●Core i7が自作派にもたらす夢は

 もちろん単純に、夢があふれていれば良い製品、とも言えない。2004年の2月、IDFでIntelは突然AMD互換の64bit拡張(EM64T)をサポートすると発表した。Craig Barrett CEOが公然の秘密であったことを皮肉って「サンフランシスコ最大の秘密」と呼んだこの拡張は、ほとんど間をおかずPrescott/Noconaでサポートされた。おそらくPrescott/Noconaには、64bit拡張より大きな(より多くのリソースを必要とする)何かをやるための「夢」が用意されていて、そのリソースを流用してEM64Tが実装されたのだと考えられている。

 だが、Prescottに対する世間一般のイメージは、爆熱などとあまり芳しいものではない。夢を追うとダイ上の無駄も増え、電力効率も悪くなるのだろう。Prescott/Noconaの夢をさらに追求したTejas/Jayhawkは、夢を見るどころか日の目を見ずにキャンセルの憂き目となった。夢を追いすぎて現実(消費電力あたりの性能と言った数字)をなおざりにすると痛い目に合うという教訓だが、現実ばかりでは世知辛い。Core i7は自作派のユーザーに、性能上の余裕とともに、若干の夢を与えてくれるCPUだと思う。

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【11月18日】「Core i7はインテル史上最高のプロセッサ」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1118/intel.htm
【11月18日】Core i7搭載デスクトップPCが各社から発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1118/corei7.htm

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(2008年12月22日)

[Reported by 元麻布春男]


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