布に電子回路を作り込んでみよう




 今回は衣類やバッグなど布の上に、電子回路を作ってみます。その要となるのがコンダクティブスレッド(Conductive Thread)や導電糸と呼ばれる“電気を十分に通す糸”です。

コンダクティブスレッドもしくは導電糸と呼ばれる縫製用の糸です。太さ(デニール)は、左が234/34 4ply、右が117/17 2plyです
太い方(左の234/34 4ply)は一般の裁縫針で縫うには少々太すぎ。細い方(右の117/17 2ply)は一般の裁縫針で縫う場合も違和感を感じない細さ。というイメージです

 コンダクティブスレッドは、それ自体が電気を通すので、布に縫ったその軌跡が導線の役目を果たします。つまり、布をブレッドボードや基板のような“回路のベース”として使えるようになります。言い方を換えれば、ハンダ付けやブレッドボーディングさえ行なわずに電子回路を楽しめるというわけです。

 コンダクティブスレッドの使用にはいくつかの注意が必要です。1つは被覆がない導線であることです。コンダクティブスレッドどうしが重なると、回路上でショートが起きてしまいますので、縫うとき、つまり配線するときに不必要な部分が重ならないようにしないといけません。

 もう1つは一般の配線用導線よりも大きな抵抗値を持っていることです。実際にその抵抗値を測ってみましょう。

約30センチに切断したコンダクティブスレッドです。まず、太い方(234/34 4ply)から抵抗値を測ってみると、19Ωありました
細い方(117/17 2ply)は167.7Ωでした

 コンダクティブスレッドには、一般の導線と比べて大きな抵抗を持つことがわかります。ブレッドボーディングに使うジャンプワイヤなどとは違い、糸そのものが抵抗器の役割も果たしてしまいます。作る回路によってはこの抵抗値を十分考慮する必要があります。

 なお、ここで使っているコンダクティブスレッドは、Sparkfun Electronicsで購入しました。日本ではスイッチサイエンスメカロボショップでも取り扱われているほか、“導電糸”で検索するといくつかの販売店が見つかります。

 ちなみに、Sparkfunにあるコンダクティブスレッドの公称抵抗値と、上記の実測値には開きがありました。太い方(234/34 4ply)の公称抵抗値14Ωに対し、その実測値は19Ωですので、これはコンダクティブスレッドのバラツキからくる誤差と見てよさそうです。しかし、特に細い方(117/17 2ply)は公称抵抗値が82Ωに対し、実測値は167.7Ωと、おおよそ倍の抵抗値となりました。

 糸の太さの表記は、例えば「117/17 2ply」という形で表記されたりします。「117/17 2ply」は、「17デニールの糸を117本束ねたものを2本撚り合わせている」という意味です。実測値の167.7Ωと公称値の82Ω、そして2ply(2本撚り)という数値の間に何らかの間違いが起きたのかもしれません……もしかすると、我々が手にしているのは「117/17 2ply」ではなく「117/17 撚り無し」のコンダクティブスレッドかもしれません。

 ともかく、コンダクティブスレッドという目新しい“部品”を使って、実際に布の上へ電子回路を作ってみましょう。

布の上にリード部品を縫い付ける工夫です。リードの先を丸く曲げ、そこにコンダクティブスレッドを通し、布の上に固定しようというわけです
コンダクティブスレッドを使ってリード部品を布の上に縫い付けます。コンダクティブスレッドは、一般の縫い糸よりもザラつきがあって縫いにくく、ほつれやすいので、やや慎重に作業しましょう
布の上に回路の一部ができました。LEDと電流制限抵抗を結んだものです
ここに電源を接続すると、LEDが点灯する回路の完成です。これなら衣服へ回路を作り込むこともできそうです

 せっかく布の上に回路を作れるようになったのに、電源だけはこれまでブレッドボーディングで使ってきた電池ボックスではおもしろくありません。そこで、衣服の上に電池ボックスごと回路を作ってしまいましょう。先ほどと同様の回路をジーンズの上に作ってみることにしました。

電池ボックス(コイン電池ホルダ)として、タカチ電機工業のBA2032SM(表面実装タイプ)を使います。電池ホルダの±接点を利用し、ジーンズの上に縫い付けるわけです
電源はCR2032です。1個のLEDなら長時間光らせることができます
このように電池ボックスとLEDをコンダクティブスレッドで接続しました。電流制限抵抗はジーンズの裏側に取り付けてあります
仕上がりがやや汚いですが、電池ボックスが落ちないよう、電池ボックスの接点をコンダクティブスレッドでしっかりと固定します
反対側も同様にしっかりと固定します。LEDのリードも頑丈に固定します。このようにコンダクティブスレッドを重複して縫い付ける場合、コンダクティブスレッド上の抵抗値が若干変化しますので、電流制限抵抗の値の算出は縫製作業の終盤で行なうのがよいでしょう
配線が完了しました。電池ボックスをポケットなどの中に縫い付ければ、ジーンズの表面にはLEDしか見えていないようにもできるでしょう
実際に電池を入れてみると、このように光ります。なお、この場合、電源のON/OFFは電池の抜き差しで行ないます

 次に、電源のON/OFFをより快適に行なえるように工夫してみましょう。まず思いつくのは、小さなスイッチの追加です。我々も上のジーンズの回路にスイッチを加えてみました。しかし、電池ボックスとスイッチが加わることで、衣服の上に多数の部品が乗り、少し不格好になってしまいました。

 さまざまな方法を考えましたが、我々のメンバーが考え出したユニークな方法を紹介します。磁石を使うことで、電池ボックスを省いたうえ、スイッチの機能を加えるという方法です。

肝となる部品は“マグネットボタン”や“マグボタン”と呼ばれる手芸用の磁石付きボタンです。上記キーワードで検索すると多数の磁石付きボタンがヒットするはずです。手芸店でも一般商品として売られています
このようなサイズ・形状のものを選びました。磁石付きのボタンには縫い付け用の穴も開いています。価格はまちまちですが、2個セットで200円前後で売られていました
磁石付きボタンは、磁石側と磁石に付く側が1セットになっています。写真の左側が磁石になっています。ここでは、磁石側のみを2個使います
2つの磁石でコイン電池を挟むと、このように吸着します。磁石の部分は電気が通る必要があります。表面にコーティングがなされている場合は電気が通らないことがありますので注意してください。また、磁石でコイン電池の±極がショートしないようにも十分な注意が必要です
吸着したコイン電池と磁石2個は、このように斜めにしても離れることはありません
電流制限抵抗も小型化したいと考え、LEDにはやや特殊なものを選びました。小さな基板の上に、高輝度白色LEDに加えて電流制限抵抗まで実装されています
LilyPad Bright White LEDと呼ばれるもので、Sparkfunから購入しました。コンダクティブスレッドの使用を考えて作られたものです。日本でもスイッチサイエンスから単体で購入することができます
磁石や電流制限抵抗付きLEDをコンダクティブスレッドで縫い付けていきます。今回は小さな布製バッグの上に回路を作ることにしました
出来上がった状態です。バッグの口の両側に縫い付けた磁石が、コインホルダーとスイッチの2役を果たします
バッグの表側には前述のLED部品のみが見えるように縫いました
こんなふうに光ります。夜道などではより耀いて見えます
【動画】実際に電池を装着して使ってみた様子です。電池を装着する際、極性に注意する必要があります

 コンダクティブスレッドは、アイデアや考え方次第でさまざまな実用につながる素材です。衣服に電子部品を縫い込み、電子回路を完成させられるので、これまでにない新たなアプリケーションを実現できるようになります。

 コンダクティブスレッドが裸の導線であること、コンダクティブスレッド自体に小さくない抵抗があることなど、作る回路によっては支障が出ることもあります。例えば複雑な配線が必要な回路は実現しにくいですし、シビアな電圧制御などを必要とする回路にもあまり向きません。コンダクティブスレッド自体が酸化しやすく、コンダクティブスレッドと部品の接点が不安定になるという弱点もあります。

 とは言っても、布の上へ自由に回路を作れるという点は大きな魅力です。皆さんもぜひコンダクティブスレッドで楽しんでみてください。

帽子にLEDを点灯させる回路を縫い込みました。ハンチングなど、内側に余裕のある帽子だと回路や電源の作り込みが容易です
セーターの手首にLEDを縫い付けてみました
写真ではLEDの光が見えにくいですが、夕方~夜間だとその光が鮮やかに引き立ちます
コンダクティブスレッドは使わずに、LEDのリードを直接数珠つなぎにしたブレスレッドです。電源は9Vで、肘のあたりに隠しています。作る場合は、リードのショートに十分注意してください
暗い場所で腕を振るとこのように見えます

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【11月27日】【武蔵野】7セグLEDの数字を動かしてみよう
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1127/musashino020.htm

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(2008年12月4日)


船田戦闘機、スタパ齋藤、上杉季明によるユニット。電子工作からバンド演奏までさまざまな活動を行なうが、各活動に共通するテーマは“電気が通ること”としている。電子部品・電子回路の玄人ではなく、それらに対して強い興味を抱いている。ブレッドボーダーズは、そんな立ち位置から電子部品・電子回路に触れていくプロジェクトである。


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