11月1日、エプソンダイレクトが設立15周年を迎えた。それを記念した15周年限定モデルの発売や、記念キャンペーンを実施し、ユーザーへの還元を図っている。直販メーカーとして事業を拡大してきたエプソンダイレクトは、今後、どんな成長を遂げるのだろうか。「15年間に渡り、当社の製品をご購入、ご活用いただいたユーザーにまずは感謝したい。そして、この想いを100以上の形にして、今後10年、20年の長きに渡ってお返しし、さらなる期待に応えたい」と語るエプソンダイレクト・吉崎宏典社長に話を聞いた。 --'93年11月1日にエプソンダイレクトが設立され、今年11月で15周年を迎えました。まず、この15年を振り返っていただけますか。
吉崎 私自身、エプソンダイレクトの設立準備段階から携わり、現在に至っていますから、まさに15年以上に渡り、この事業に取り組んでいます。もともとエプソンダイレクトは、DOS/Vパソコン、そしてメーカー直販の役割を担うことを目的にスタートした企業です。当時は、エプソンのPC事業といえばPC-98互換機であり、その多くをPC専門店や量販店による店頭販売で展開していた。このときに、エプソンが、海外のPC互換機事業で培ったノウハウをベースに、将来の国内PC事業の方向性を模索するということでスタートしたのがエプソンダイレクトです。 '98年には、商品企画、部品調達、生産をエプソンダイレクトに一本化するという節目がありました。エプソン販売では、その時点で、PC-98互換機と横並びでDOS/Vパソコンの販売を開始していましたが、グループ内に2種類の製品があるわけですから、決して効率的ではなかった。そこで体制を一本化し、PC事業に携わっていた社員もエプソンダイレクトに異動。それぞれのブランドで販売する形としました。それも、2004年には、エプソンのブランドに統一し、エプソンダイレクトのPCブランドであったEndeavorを、シリーズ名という形に再編しました。
さらに、今年4月からは、エプソン販売のOAサプライビジネスを、Shop Epsonという形で統合し、エプソングループ全体の直販ビジネスを担っています。この秋からは、ビジネス向けモバイルプロジェクタの新商品として「Endeavor EB-S6」を発売し、Endeavorブランドの新たな製品をスタートした。 このように、これまでの15年間を振り返ると、パラレルで走っていた事業が、徐々にエプソンダイレクトに統合され、現在に至っているといえるでしょう。 エプソンダイレクトでは、「あなたとエプソンがつながる、安心の直販ショップ」という言葉をスローガンに用い、日本生まれのサービスと品質を直接お届けし、ビジネススタイル、ライフスタイルをサポートすることをお約束する。それが、今の取り組みを表現するものといえます。 --メーカー直販のエプソンダイレクトが、あえて「ショップ」という言葉を使う意図はなんですか。 吉崎 もちろん、我々はメーカーであることには変わりがありませんし、モノづくりに対するこだわりも強いものを持っている。しかし、メーカーという側面とは別に、PC以外のプリンタやプロジェクタといった製品も当社では扱っていますし、しかも、サービス、サポートという点も、我々の重要な差別化策となっている。こういったものをひっくるめて提供できるという点では「ショップ」という言い方ができるのではないでしょうか。「サービス」、「品質」、「満足」、「安心」といったものを迅速にお届けする「ショップ」というわけです。 もちろん、メーカーなのか、ショップなのかと言われれば、それはメーカーであることには間違いない。ただ、メーカーにも100の力を注ぎ、ショップにも100の力を注ぐというのが、これからのエプソンダイレクトのあり方だと思っています。エプソンダイレクトでは、当社が提供する製品に対して、「ホールプロダクト」という言い方をしています。 ここには、単にプロダクトを提供するのではなく、製品を取り巻くすべてのものを、当社の差別化要因と捉え、これらをまとめて提供するという考え方です。例えば、スペック、価格という製品のコアとなる部分がある。これだけで差別化するのではなく、一日修理や、注文から2日間でお届けする納期保証、メールでのコミュニケーションといった業界ナンバーワンのサービスやサポート体制、エプソンが持つブランドの安心感といったもを含めて、エプソンダイレクトは提供していますよ、ということなんです。ホールプロダクトをユーザーに提供するためには、サービス、サポートの評価でナンバーワンを取らなくてはならない、あるいは2日間の納期保証が必須である。そうした発想のもとに事業に取り組んでいるのです。そして、ツールPCも、ホールプロダクトを実現するための1つの要素です。 --「ツールPC」とはなんですか。 吉崎 例えれば、モンブランの書き慣れた万年筆のように、絶対に手放したくないと思うような道具に、当社のPCがなってほしい。そういう意味を込めたPCです。PC自体も文具と同じツール(道具)です。ただ、使っていくと、その使いやすさを感じることができるもの、手放したくなくなるという気持ちにさせてくれるもの。そういうPCをエプソンダイレクトは作りたい。これをツールPCと表現しています。 --標準化が進むPCの世界において、それをどうやって実現するのですか。
吉崎 例えば、キーボードレイアウトへのこだわりや、デスクトップPCにはハンドルをつけて設置の際に持ち運びを容易にするといったこともその1つです。また、USBポートを2基用意する場合にも、少し幅を開けている。これは、少し幅広のUSBコネクタでも、2つの並んで差し込めるようにするためです。机の上に置いた場合にはどの向きにファンをつけるのがいいのか、机の下に置いた時には、どの位置にコネクタがあったらいいのかということも繰り返し議論し、実際に個人ユーザーの意見を聞いたり、ユーザー企業に直接訪問して使い方を学んだりといったことを行ない、それを反映しています。 使い込んでいって、「手放せないな」、「やっぱりエプソンダイレクトのPCがいいな」、と思ってもらえれば、また次もエプソンダイレクトを選んでくれるはずです。長年に渡って、ユーザーとお付き合いできるような製品を提供していきたいですね。 --ツールPCとしての完成度は満足できるレベルに達していますか。 吉崎 まだまだですね。これは常に改良していくことが必要ですし、メーカーの独りよがりにならないように、ユーザーの意見をもっと聞かなくてはならない。また、もっと多くの方々に、エプソンダイレクトがこうした姿勢で、製品を作っているということを知っていただかなくてはならないですね。 --一方で、15年間、変わらなかったこととはなんですか。 吉崎 お客様との関係をしっかり構築していき、その期待を決して裏切らないという点です。直販ですから、製品そのものを見ていただく機会が少ない。だが、一度購入していただければ、その良さをわかっていただき、また安心して使ってもらえる、次もエプソンダイレクトから購入したいと思っていただける、そういう関係を構築したいと考えてきました。設立以来、この考え方を前提として、これを実現するための努力を惜しまない、という点では、15年間変わらない姿勢ですし、これからも変わらないものだといえます。エプソンダイレクトのユーザーには、4台目、5台目というユーザーも多いですから、こうしたユーザーの方々の期待を裏切らない製品を提供する努力をしていきます。 --ところで、15周年記念の限定モデルも用意しましたね。これにはどんな想いを込めていますか。 吉崎 デスクトップPCのフラッグシップモデルである「Endeavor Pro4500」と、ノートPCのフラッグシップモデルである「Endeavor NJ5200Pro」をベースに、それぞれ限定で200台を販売します。
Endeavor Pro4500では、サイドパネルとフロントに日本の伝統工芸である蒔絵を職人の手描きによって施し、絵柄も3種類用意しました。また、Endeavor NJ5200Proでは、天面の素材に本屋久杉を採用し、Endeavorのロゴを焼印しています。記念限定モデルは、「最先端PCと和の融合」をテーマにしています。PCは、技術進化が早く、陳腐化しやすい。そこに、蒔絵や本屋久杉といった1,000年以上の歴史を持ち、流行に左右されないものを持ち込みたかった。時の流れがまったく違うものを組み合わせることで、PCそのものが醸し出す雰囲気を、やすらぎや安心感というものに変えることができないかと思ったのです。
また、本物を長く使っていただきたい、そしてエプソンダイレクトとお客様は、1,000年に渡り、お付き合いするつもりです(笑)、ということも示したかった。15周年モデルにはそんな想いを込めています。 --これからの5年、10年はどうなりますか。 吉崎 もう少し幅広いユーザーに対して、訴求していくことも考えていきたいと思います。エプソンには、カラリオというヒット商品がある。インクジェットプリンタ市場では、50%のシェアを持つ人気商品です。ただ、見方を変えてみると、そのユーザーのほとんどがエプソンブランド以外のPCを使っていることになる。プリンタもエプソンならば、PCもエプソンを使っていただきたいという気持ちはあります。とくに、上位機種であるEP-901シリーズなどを購入していただいているユーザーには、エプソンダイレクトのPCの良さをご理解いただけるのではないでしょうか。かなり先の話になりますが、「カラリオパソコン」、「オフィリオパソコン」といったものが登場してもいいかもしれませんね。 これまで、エプソンダイレクトのPCの出荷傾向を見ると、1つはエプソン販売を通じた企業向けPCの領域がある。ここは、しっかりとラインアップを強化し、企業のニーズに応えていく。そして、PCのパワーユーザーや、SOHOで利用するユーザーの方々も重要なユーザーです。 こうした方々は、自らPCに関する情報を取りに行くことができ、「スペックを読む」ことができるユーザーです。店頭に行かなくても、自ら判断することができ、エプソンダイレクトの良さをご理解していただいている。これらのユーザーの期待に沿うように、これからも製品の進化を遂げていく。これに加えて、もう一歩踏み出して、これまでエプソンダイレクトと接点がなかった人たちに、どう良さを伝えていくかを考えたい。そこに、今後の事業の成長のベースがあると思っています。エプソングループの直販ショップという位置づけが、より明確になってきましたから、PCだけでなく、プリンタ、プロジェクタなども含めた提案も加速させたいですね。 これまで当社の製品をご購入、ご活用いただいたユーザーには、本当に感謝したい。それによって、15年間に渡り、事業を継続できた。そして、この感謝の想いを100以上の形にして、今後10年、20年の長きに渡ってお返しし、さらなる期待に応えたいと思っています。 □関連記事 (2008年11月13日) [Text by 大河原克行]
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