アップルは15日、同社のノートブックの全ラインナップ「MacBook」および「MacBook Pro」、「MacBook Air」をモデルチェンジした。このうちMacBookとMacBook Proは一部モデルを除き、チップセットベンダー、筐体デザインなどを含むフルモデルチェンジとなる。 特にMacBook Proは、2003年に発売された「PowerBook G4 (Alminium)」以降、デザインモチーフを引き継いだまま大きな変更が与えられておらず、実に5年ぶりの筐体デザイン変更となった。見て、触って、持ってみて判る質感の高さを前面に押し出しながら、原材料高騰の中にあって、従来機と同じ価格帯に収めているのが大きな特徴だ。 MacBookは、最低価格モデルが従来のプラスティック筐体(白のみ)のままとなる。ただし価格は、114,800円に値下げされた。同様の措置はMacBook Proにもあり、MacBook Pro 17インチモデルは従来型アーキテクチャと筐体デザインのまま、液晶パネルを1,920×1,200ドットの光沢処理を標準仕様とし、価格も318,800円に値下げされる。 これら2モデルを除く製品、すなわちMacBook(新)とMacBook Pro 15インチモデル、MacBook Airが新規アーキテクチャを採用する。新モデルのラインナップにあってはキーボード左右のスピーカーなど一部を除き、MacBookとMacBook Proの間に筐体デザインでの差異化は行なわれていない。 ●NVIDIAチップセットを採用 まずは新アーキテクチャのモデルに共通する仕様について話を進めよう。 新アーキテクチャでは従来のIntelチップセットを採用せず、NVIDIAのチップセット(mGPU)「GeForce 9400M」が新たに採用された。これに伴いメインメモリがDDR3に変更されている。プロセッサはPenryn世代のCore 2 Duoだ。アップルによると、チップセットをNVIDIAに変更することにより、従来のMacBookに比べGPUのパフォーマンスは一気に5倍になったという。 P> MacBook、およびMacBook Pro 15インチ下位モデルには2次キャッシュメモリ3MBのCore2 Duoを、MacBook Pro 15インチ上位モデルとMacBook Airには2次キャッシュメモリ6MBのCore2 Duoが搭載されている。 アップルがIntel製チップセットからNVIDIA製チップセットに乗り換えた理由は、今後のOS、アプリケーションにおいてGPUのパフォーマンスが快適性を向上させる上での重要なファクターとなるからだろう。アップルはMac OS X 10.4で導入したQuartz Extremeを皮切りに、現行のMac OS X 10.5のAPIやアップル製アプリケーションの中で、積極的にGPUの持つ演算能力をメディア処理に活用するアーキテクチャ採用を進めてきた。最近、アドビシステムズが発表したPhotoshop CS4もGPUを積極的に使っている。 こうした技術トレンドの中で、GPUパフォーマンスがコンピュータ全体のパフォーマンスにより深く関わるようになることを意識し、統合グラフィックスでありながらGPGPUに対応するNVIDIAとの協業へと舵を取ったのだろう。GPUパフォーマンスを重視したハードウェアアーキテクチャの舵取りは、近い将来のMac OS Xやアップル製アプリケーションが進む方向を暗示している。 GPUに関してはもうひとつ仕掛けが用意されている。MacBook Proには独立型GPUのGeForce 9600M GTも搭載されており、システム環境設定から、どちらのGPUを用いるのかユーザーが選択可能になった。切り替えに際して、システムの再起動は必要ない。両GPUの間にはバッテリ持続時間にして約1時間の差があるという。なお、NVIDIAのGeForce 9シリーズのWindows版ドライバでは、チップセット内蔵のグラフィックコアと外付けグラフィックチップを同時に動かすことでパフォーマンスを向上させるHybrid SLIという技術も使われているが、少なくとも現時点ではサポートされていないようだ。 アップルはiLifeに含まれるアプリケーション程度ならば、強力になったチップセット内蔵GPUで充分な速度を得られるが、高品位な映像、画像を大量に処理するプロフェッショナル向けに外付けGPUの使用を推奨するとしている。
筐体デザインが変更されたMacBook(新)とMacBook Pro 15インチモデルには、アルミ削りだしのメインボディと、薄く仕上げたガラスで前面がカバーされたLEDバックライト液晶パネルが与えられた。これにMacBook Airと同じキーボードと、4本指まで同時認識する新型トラックパッドが組み合わされる。なお、新モデルのうちMacBook(新)の下位モデルのみ、キーボードバックライトが装備されていない。 メインボディはアルミ押し出し材をカットした直方体の塊を、マシニングセンターで削りだした上で、硬質の酸化アルミ加工で仕上げたもの。アップルはこれを“ユニボディ”と名付けており、外装と筐体フレームを完全に一体化することに成功した。薄型筐体でも高い剛性/強度を実現できる上、同じ剛性ならばより軽量に仕上がると話している。実際、手に取った感触は金属の塊のように高剛性だという。 アップルでは、このユニボディの加工工程を、自社のWebページで公開している。発売前に一部で話題に上っていた“Brick”(煉瓦)と言われた新しい生産技術は、おそらくこれら一連の工程による筐体加工のことを指すと思われる。 新型トラックパッドは一見、ボタンレスに見える意匠で、表面はアルミ蒸着によるコーティングが施されたガラス素材で覆われている。トラックパッドが取り除かれ、そこにタッチパネルが置かれるといった噂が出たのは、この新型トラックパッドのデザインからイメージされたものだと考えられる。 しかし、実際にはiPod touchやiPhoneに見られるようなユーザーインターフェイスではなく、トラックパッド全体がクリック可能なボタンとして機能する。トラックパッドの一部領域が右ボタンクリック用に割り当てられており、右ボタン操作も行なえる。さらに従来、3カ所までのマルチタッチに対応していたが、新たに4点のマルチタッチにも対応。4本の指を置いて上下に動かすとExposeの操作、左右に動かすとアプリケーション切り替え操作となる。 また底面のカバーを外すことでバッテリ、メモリスロットにアクセス可能なほか、バッテリを外したスペースからHDDを簡単に取り外すことも可能だ。もちろん、保証外ではあるが、HDD交換は簡単に行なえる。 一方、廃止された機能もある。まずFireWire 400がMacBook(新)、MacBook Proともに廃止された(MacBook ProではFireWire 800が利用可能)。またDVI、Mini DVIが廃止され、代わりにMini DisplayPortが採用されている。同時にDisplayPort対応の24インチディスプレイが発表された。 ただし、Mini DisplayportからはアナログRGBを取り出すことも可能であり、DVI(Dual Linkにも対応)への変換アダプタもオプションで用意されているため、従来型のCinema Displayと接続しているユーザーも既存のディスプレイを活用することが可能だ。 ●デザイン/質感を向上させつつ、価格は引き下げ MacBookは初のLEDバックライトを採用したことで、厚みは27.5mmから24.1mmに薄型化、重さは2.27kgから2.04kgに軽量化される。フロントサイドバスは1,066MHzに高速化されており、プロセッサはCore 2 Duo 2.0GHz(2次キャッシュ3MB)、2GB DDR3メモリ、1,280×800ドット13.3インチLEDバックライト液晶、160GB HDD、SuperDriveの下位モデルが148,800円。Core 2 Duo 2.4GHzと250GB HDDを搭載する上位モデルが184,800円。 MacBook Pro 15インチモデルはベースモデルがCore2 Duo 2.4GHz(2次キャッシュ3MB)、2GBDDR3メモリ、1,440×900ピクセル15.4型LEDバックライト液晶パネル、GeForce 9400M+9600M(ビデオメモリ256MB)、250GB HDD、SuperDrive、ExpressCard 34スロットといったスペックで228,800円。上位モデルはプロセッサがCore2 Duo 2.53GHz(2次キャッシュ6MB)に高速化され、メモリを4GBまで増強。さらにGeForce 9600Mのビデオメモリに512MBを搭載し、288,800円という価格設定だ。BTOでは2.8GHz版のCore2 Duoも選択できる。 MacBook AirはチップセットがGeForce 9400Mに変更されているが、筐体などのデザインは変更はない。低電圧版Core 2 Duo 1.6GHz(2次キャッシュ6MB)、120GB HDDを搭載するモデルが214,800円。プロセッサの動作周波数が1.86GHz(2次キャッシュ6MB)で128GB SSDを搭載するモデルが298,000円と価格が引き下げられている。 なお、128GB SSDはすべての新型筐体モデルのBTOオプションとして選択することが可能になった。
製品ラインナップ全体を見ると、最廉価モデルと17インチモデルを一応は残しているものの、ほぼ継続販売のみとし、その分、主力機種に開発リソースを集中させているのがわかる。アルミ削りだしというコストのかかる手法を採用したのは、デザインと質感の高さが製品価値を向上させるとアップルが判断したからに他ならない。 ネットブックブームの中で影に隠れがちだが、デザインや品質感に拘ったノートPCは、緩やかなトレンドを作りつつある。ネットアクセスに特化した低価格ノートブックという方向とは逆に、より物としての品位を高めることを意識した製品は、たとえば先日、HPが発表したOmnibook Eliteシリーズなどにも見られる方向だ。 滅多なことでは製品の基本デザインを変更しないアップルが現行iMacの発表以来、価格を上げずに質感を重視したデザインへと置き換えているのは、ユーザーが絶対的な性能や機能よりも、製品全体の所有欲、使用感を重視するようになってきたと感じたからだろう。実際、今回の製品ラインナップでは、内蔵グラフィックスの性能向上は重視しているが、プロセッサのクロック周波数向上にはあまり積極的ではない。 製品としての魅力、ユーザーの満足度を高めるには、単にプロセッサ性能を上げるだけではなく、その時々のソフトウェア環境に最適化したハードウェアとし、さらにデザインや質感を上げなければならない。そうした考えのもとにMacBook、MacBook Proを再構築した結果とも言えるだろう。 現在、ノートPCは猛烈な低価格化圧力の中でコストダウンを迫られている。そうした中、質感を重視したアップルのアプローチに対する消費者の反応いかんによっては、他のノートPCの開発トレンドにも影響を与えそうだ。 □アップルのホームページ (2008年10月15日) [Text by 本田雅一]
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