AMDは9月10日(現地時間)、ミッドレンジビデオカードの新製品「Radeon HD 4600シリーズ」を発表。ハイエンドセグメントではコストパフォーマンスで定評を得ているRadeon HD 4000世代だけに、そのミッドレンジを待望していた人も多いのではないだろうか。ここでは、Radeon HD 4600シリーズ最上位モデルとなる「Radeon HD 4670」のパフォーマンスをチェックしてみたい。 ●前世代のハイエンドに並ぶ320基のSPを搭載 今回発表されたRadeon HD 4600シリーズは、Radeon HD 4670、Radeon HD 4650の2モデルから成る。主な仕様は表1にまとめているが、各製品の違いは動作クロックと使用されるメモリ。Radeon HD 4670はGDDR3またはDDR3、Radeon HD 4650はDDR2が使用される。 【表1】Radeon HD 4600シリーズの主な仕様
上位モデルとなるRadeon HD 4670は使用メモリに応じて2つのコンフィグレーションが用意されているのも特徴だ。GDDR3 512MB搭載版はグラフィックメモリの容量は若干少なくなるもののパフォーマンスを高めた製品。DDR3 1GB版は性能よりもビデオメモリ容量を重視した格好だ。 場合によっては後者のほうが高い性能を発揮するシチュエーションがあるかも知れないが、GPU側のパフォーマンスを考えると、512MBのGDDR3で動作クロックが速いほうが、常用の範囲においてより高いパフォーマンスを出す傾向が強いはずだ。 疑問なのは、パフォーマンス面ではあまり意味を見出すことができないDDR3 1GB版というコンフィグレーションを、なぜ提案しているかという点だ。これは、単にマーケティング面の理由で、この価格帯で”ビデオメモリ1GB”という製品を出したかっただけではないかと想像している。 ミッドレンジのビデオカードにおいては、幅広いニーズに応えることができる柔軟性も重要なわけで、3種類のメモリに対応できるコントローラを有し、メモリ容量にもバリエーションを持たせて細かな仕様設定ができることを示した点では意味あるラインナップといえる。 次に、このRadeon HD 4600シリーズのブロックダイヤグラムを図1に示したが、基本的なスペックに目を向けると、Stream Processing Unit(SP)は320基となる。320基というSP数は、前世代のハイエンドモデルとなるRadeon HD 3800シリーズと同数。もちろん、Radeon HD 4000世代と3000世代ではアーキテクチャが異なるため、SP数が同数だからといって同じパフォーマンスにはならない。
興味深いのは、1SIMDアレイ当たりのユニット数だ。上位モデルとなるRadeon HD 4800シリーズは5-wayのコア16個を1SIMDアレイとし、これを10アレイ並べる構成で計800個のSP数となっていた。このままで320基のSPというスペックなら4SIMDアレイという計算になるのだが、Radeon HD 4600シリーズは5-wayのコア8個を1SIMDアレイとし、これを8アレイ並べる構成を採っている。SPは減らしたが、並列性は重視した構成といえるだろう。もちろん、SP数などが減らされたおかげで、トランジスタ数は9億6,500万個から5億1,400万個へ削減させている。 【お詫びと訂正】初出時、1SIMDアレイのSP数を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。 また、Radeon HD 4600シリーズは、テクスチャユニットやレンダバックエンド周りが強化されたRadeon HD 4800シリーズのアーキテクチャを受け継いでおり、パフォーマンス面で非常に興味がそそられるスペックといえる。 そのテクスチャユニットは、Radeon HD 4800シリーズが1SIMDアレイ当たり4ユニットで計40個となっていたが、SIMDアレイが8個となったので計32個となった。こうした構成も、1SIMDアレイ当たりのユニット数を減らしてSIMDアレイ数を増やす方向の設計にした意味を感じさせるものだ。 レンダバックエンド(ROP)は8基で、これはRadeon HD 4800シリーズから半減。これに伴い、メモリインターフェイスのバス幅も128bitへと半減している。メモリクロックは維持されたが、インターフェイスの縮小によるメモリ帯域幅減は発生することになる。この当たりはミッドレンジらしい仕様といえる。 もちろん、ビデオ再生周りでも、DVDのアップスケール機能などを持つ第2世代のUniversal Video Decoderといった、Radeon HD 4800世代の機能を実装している。
さて、今回テストするのは、上位モデルのRadeon HD 4670で、512MBのGDDR3を搭載するAMDリファレンスボードである(写真1、2)。 ミッドレンジビデオカードとしても小型のボードに収まっており、当然ながら電源端子も備えていない。Radeon HD 4670搭載カードの消費電力は75W未満とされており、ぎりぎりではあるがPCI Expressスロットからの供給でまかなえる範囲に収まっている。なお、Radeon HD 4650搭載カードの消費電力は65W未満とされている。 ビデオメモリはHynixの「H5RS5223CFR-N0C」を採用(写真3)。512Mbitの容量を持つGDDR3メモリで、表面に4枚、裏面に4枚で計8枚を搭載している。32bitインターフェイスを持つメモリチップを8枚実装してはいるが、GPU側のメモリインターフェイスが128bitまでのサポートなので、各メモリチップに対しては16bitでアクセスしているものと思われる。ただ、先にも触れたとおり8枚実装によるデザインを示すことは、ミッドレンジ向けビデオカードの戦略上は意味あることである。 IOブラケット部は、DisplayPort×2とDVI-Iという、かなり劇的な構成になっている(写真4)。ただし、同時に利用可能な出力は2系統までとなる。ちなみに、Radeon HD 4600シリーズは、HDMI出力やTV出力も可能だ。HDMIとDisplayPort利用時には内蔵のサウンド機能による最大7.1chのAC-3出力も可能になっている。
もっとも、DisplayPortに対するニーズが高くない現在、このリファレンスカードのような構成は現実的にはあまり登場しないのではないかと思う。従来から一般的なDVI×2+TV出力という構成や、DVIとHDMIを組み合わせるような構成を採る製品が多いのではないかと想像される。 次にWindows上での動作クロックであるが、CATALYST Control Centerから、コア750MHz、メモリ1GHzとして、定格どおり動作していることを確認できる(画面1)。省電力機能のPower Playも機能しており、アイドル時はコア165MHz、メモリ250MHzまでダウンしていることが分かる。Radeon HD 4800シリーズではPowerPlay有効時のコアクロックが500MHzであったわけだが、本製品はコアクロックを大幅に下げることで、より高い省電力効果を期待できそうだ。 ●Radeon HD 3850を上回る場面も それではベンチマーク結果をお伝えしていきたい。テスト環境は表2に示したとおり。ここでは前世代のセミハイエンドモデルであるRadeon HD 3850と、価格帯の競合が予想されるGeForce 9600 GTを比較対象とした(写真5、6)。 Radeon両製品のドライバはAMDがレビュー用に配布した、CATALYST 8.8ベースのものを使用した。ただ、このドライバはやや不安定なところがあり、とくにRadeon HD 3850でアプリケーションによっては起動後すぐにフリーズするなどの現象に悩まされた。 また、Radeon HD 4670についても一部アプリケーションでアンチエイリアスが適用されないなどの状況が発生しており、正式リリース版ではこれらの問題が解消されていることに期待したい。細かなトラブルの内容については、各ベンチマークテスト紹介時に触れていきたい。 余談にはなるが、これまでCATALYSTは依然としてATIのブランドが生きており、ダウンロードしたパッケージを展開するワークフォルダも「ATI」フォルダになっていた。しかし、今回配布されたドライバは「AMD」フォルダをワーク用に作成している(画面2)。CATALYST Control CenterはATIロゴがおどっているし、原稿執筆時点では同社WebサイトからダウンロードできるCATALYST 8.8もATIフォルダを利用している。ただ、少しずつAMDカラーの浸透が進んでいく可能性も感じさせる。
【表2】テスト環境
それでは、「3DMark Vantage」(グラフ1、2)の結果から見ていきたい。Radeon HD 3850はExtremeプリセット時にGame Test 2途中でフリーズする現象に見舞われたためスコアが出ていない。でアンチエイリアス性能が改善されたことで、Highプリセットでは、その効果が得られているものと思われる。Radeon HD 4800シリーズからROPユニットは半減しているにも関わらず、この性能を出せているわけで、かなり優秀な印象を受ける結果になっている。 一方のGeForce 9600 GTとの比較では、やや不利な結果となった。ただ、負荷の高いプリセットでは差を詰める傾向も見せており、この当たりは期待が持てる部分である。
「3DMark06」(グラフ3~5)の結果も、3DMark Vantageと似たような傾向になって、フィルタ類を適用した場合にRadoen HD 4670の良さが出てくる結果となった。この傾向はかなりはっきりしたものといえるだろう。 気になるのはFeature Testの結果である。Pixel ShaderやVertex ShaderのシンプルテストではRadeon HD 4670が優秀であるものの、先の3DMark VantageのFeature Testも合わせて考えると、Radeon HD 3850のほうが優秀な結果も多い。 単純にシェーダ処理能力として見ると、Radeon HD 3850を上回る可能性があるが、メモリ帯域幅が狭いことでその良さを出し切れていない部分があるのではないだろうか。3DMark06のシェーダテストならばメモリ帯域幅の影響が出にくい一方、3DMark Vantageでは、その影響が出てしまっているようだ。
「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ6)の結果は、Radeon HD 4670がHD 3850を安定して上回る結果を見せた。描画負荷としては、それほど重いアプリケーションではないので、こうした結果になったものと思われる。 実際、フィルタ非適用時に解像度が上がった場合は、Radeon HD 3850が差を詰める傾向を見せており、メモリ帯域幅の影響がまったくないわけではない。一方でGeForce 9600 GTはさらに良い結果を見せており、この勝負では分の悪い部分も見せている。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ7)は、Radeon HD 3850でトラブルが発生して、まともにテストをすることができなかった。条件に関わらずパフォーマンステストが完走したり、しなかったりしたうえ、完走したときのスコアもバラつきが多かったため、一切のテストを取りやめることとした。 そのため、結果としては見応えのないものになってしまい、GeForce 9600 GTに全条件で劣る、という程度のことしか見ることができない。フィルタを適用したときは差を広げられる傾向にあるが、解像度が上昇した場合はやや差を詰める格好となっている。
「Crysis」(グラフ8)の結果は、いずれのビデオカードも似たようなパフォーマンスとなった。Radeon HD 3850との比較においては、やはり解像度が上がると不利になる傾向が見て取れる。メモリ帯域幅の影響とみて良いだろう。アンチエイリアスなどを適用するのが現実的なパフォーマンスでないためテストは実施していないが、Radeon HD 4670の良さは、やはりフィルタを適用してこそ、という印象が強い。
「Enemy Territory: Quake Wars」(グラフ9)は今回からテストを追加したもの。早速だがRadeon HD 3850でトラブルが出てしまい、アンチエイリアスを適用すると解像度に関わらずテスト中にフリーズしてしまう状況であった。 全体にはRadeon HD 3850が優れた結果を見せる傾向にあるほか、GeForce 9600 GTとの比較でも劣る結果が目立つ。特にフィルタを適用した際にGeForce 9600 GTに差を広げられるのは、本製品の特性を考えると惜しい結果といえるだろう。
「F.E.A.R.」(グラフ10)の結果は、Radeon HD 4670にとって辛い結果となった。いずれの条件においても、比較対象の両製品よりも低いスコアに留まっており、このアプリケーションに対して不得手であることが分かる。 3Dグラフィック技術としては目新しい技術を使っていないF.E.A.R.ではあるが、クオリティを高めるとテクスチャ処理の負荷がかなり高くなる。メモリ帯域幅の影響が出たのだろう。古くなったゲームではあるが、ミッドレンジビデオカードにとっては、まだまだ軽いアプリケーションとは言い切れない結果だ。
「Half-Life 2: Episode Two」(グラフ11)は今回からテストを追加した。フィルタを適用した際に、Radeon HD 3850をぶっちぎる性能を見せており、Radeon HD 4670の特性が色濃く出たアプリケーションといえる。 一方、GeForce 9600 GTとの比較では、全体に低いスコアになっており、Comapny of Heroesと似たように、フィルタを適用すると差が開くという傾向も見せている。
「World in Conflict」(グラフ12)の結果も、Radeon HD 4670の特性がよく出たアプリケーションだ。このアプリケーションは負荷が軽いとCPU性能による頭打ちが目立つ一方、フィルタを適用するとROPユニットやメモリ帯域幅の影響が色濃くなる傾向がある。 結果は、Radeon HD 3850がフィルタを適用すると絶望的なほど低いスコアへ落ち込むのに対して、Radeon HD 4670はその落ち込みをかなり抑制することができている。メモリ帯域幅こそ劣るが、Radeon HD 4000世代のROPユニットの性能の良さが発揮された好印象を受けるものになっている。 GeForce 9600 GTとの比較でも全体に負けてはいるものの、フィルタ適用時には差を詰める傾向があり、最終出力のステップにおけるRadeon HD 4670のアーキテクチャの良さが引き出された結果といえるだろう。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ13)は、主題であるRadeon HD 4670でアンチエイリアスを適用する設定を施しても実際の描画に反映されない症状が出たため、スコアを掲載していない。 さすがにこのアプリケーションではGeForce 9600 GTがRadeon勢に大きな差を付けて優秀な結果を見せている。Radeon HD 4670とHD 3850との比較では、若干ながらRadeon HD 3850が良い結果を見せる傾向となった。ただ、解像度を増したときに、Radeon HD 4670が差を詰めるのは、ほかのアプリケーションでは見られなかったユニークな傾向となっている。
「Unreal Tournament 3」(グラフ14)は、Radeon HD 3850においてアンチエイリアスを適用する設定を施しても、実際の描画に反映されてない症状が出たので、当該の結果を割愛している。 この結果においては、Radeon HD 4670がフィルタ適用時に大きくスコアを落とす結果となった。本アプリケーションのアンチエイリアス対応については、GeForce勢に対してCATALYSTが大きく出遅れた経緯もあり、まだチューニングが不十分なのだろう。これは、Radeon HD 4000世代の良さが発揮されていない、という可能性も含んでおり、今後に期待したい部分だ。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ15)。この結果は、Radeon HD 4670が非常に優秀なものとなった。アイドル時、ロード時とも今回の比較対象中もっとも低い電力で収まっており好印象だ。 特に優秀なのがロード時の消費電力の低さで、Radeon HD 3850とパフォーマンスでは肉薄しているにも関わらず、より低い消費電力を期待できるというのは嬉しい結果といえる。
●Radeon HD 4000世代のアーキテクチャの良さが出た製品 以上の通り結果を見てくると、一世代前のハイエンド向け製品であるRadeon HD 3850に肉薄、またはこれを上回るパフォーマンスを見せるシーンも多く、新世代アーキテクチャを採用したミッドレンジ製品として、従来製品より一歩上の製品であることは間違いない。 パフォーマンスの傾向としては、ミッドレンジらしく解像度が高くなるとパフォーマンスは落ちる傾向にある。ただ、Radeon HD 4000世代のアーキテクチャを採用したことでフィルタ適用時のパフォーマンスダウンがかなり抑制されている。実際の利用においては、この傾向を踏まえて、解像度を上げるよりもアンチエイリアスによってジャギーを抑えてクオリティを上げる方向性で利用するほうが良さそうである。 気になるのは、ミッドレンジ向け製品の上位モデルという同じ立場にあるGeForce 9600 GTに劣る部分が多いことだ。ここは価格面での優位性に期待がかかる。Radeon HD 4670の参考価格は79ドルとされており、これはGeForce 9600 GTよりも安価で、むしろGeForce 9500 GTと似た価格帯になる。 旧ATI時代から、Radeon製品は参考価格よりも1セグメント上の価格帯で登場することが多かったが、日本国内におけるRadeon HD 4670の価格がGeForce 9600 GTよりも安価(例えば15,000円を切るあたり)に落ち着けば、コストパフォーマンスでは魅力的な存在となる。 □関連記事 (2008年9月10日) [Text by 多和田新也]
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