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2008 IRPSレポート【基調講演編】
PCやデジタル家電などの寿命をあらかじめ予測する

2008 IRPSの会場入口

会期:4月29日~5月1日(技術講演会のみ、現地時間)

会場:米国アリゾナ州Hyatt Regency Phoenix at Civic Plaza



 IRPS(国際信頼性物理シンポジウム)の初日午前には例年、基調講演(キーノート講演)のセッションが設けられている。今年は「A New Approach to Qualification Testing」と題して米国University of MarylandのCALCE(Center for Advanced Life Cycle Engineering)でディレクター兼教授を務めるMichael Pecht氏が講演した。PCや携帯電話、デジタル家電などの将来像を考える上で非常に参考になる内容だったので、講演内容を紹介する。

 PCや携帯電話、デジタル家電などの電子機器を開発・製造するときに、信頼性や品質などを確保するためのコスト(予算)はどのくらい割かれているだろうか。信頼性品質管理部門の技術者が満足するレベルに予算額が達していることはたぶん、ほとんどない。もちろんベンダーは、公式には信頼性重視、品質重視を謳う。しかし実際には、コストをぎりぎりまで切り詰めていることが少なくない。

 電子機器の開発トレンドから見ると、テストにかかるコストが増えるのは当然に思える。電子機器の内部はどんどん複雑になっており、内蔵する半導体チップの動作周波数は高くなる一方であるからだ。電子機器の内部が複雑になり、半導体チップの動作周波数が高くなることは、テスト費用の増大とテスト期間の長期化につながる。機能当たりのテストにかかる時間が一定だとしたら、機能が増えればその分だけテストに時間がかかるようになる。また周波数の高い電気信号に対応したテスターは、高価になりがちだ。

 とはいうものの、開発・製造コストに占めるテストの割合は増やしづらい。テストにコストをかけても、製品の付加価値が高まったりはしないからだ。何らかの工夫によってテスト費用とテスト期間は現状維持にとどめておく。もちろん信頼性のレベルを維持しながら、である。

 それでは、市場に出荷された半導体チップや電子機器などは、どのくらい故障しているのだろうか。Pecht氏によると、2002年以降に出荷された半導体の市場不良による損害は、累計で100億米ドルを超えるという。また自動車エレクトロニクスやノートPC用バッテリ、据置き型TVゲーム機などに最近では大規模な市場故障が発覚したとPecht氏は講演で述べていた。

 Pecht氏は、これまでの信頼性確保に対する考え方には、誤りがあると指摘する。それは、電子機器の使用条件は非常に幅広く、しかも極端な場合があるにも関わらず、そういった事例を考慮してこなかったことだ。その事例をPecht氏は写真で印象的かつユーモアを交えて紹介した。例えば自動車は、大雪であえなく埋まってしまう。大量の自動車が大雪に埋まっている写真では、サイドミラーだけが雪のかたまりから飛び出していたり、屋根だけが見えていたりした。ダンプカーが土砂に突っ込んでいる写真もあった。旅客機の貨物がなぜか路面に落下している写真では、貨物に電子機器が入っていたら、どうなるのかと心配させられた。危ない使用事例は、ノートPCのキーボードに子犬がオシッコをしようとしている(ようにみえる)写真で締めくくられた(講演会場は大爆笑だった)。

 もちろん、大事なノートPCが愛犬の粗相によって汚されたら笑い事ではすまない。ここまで極端ではなくても、コーヒーやお茶などをノートPCのキーボードに誤ってこぼしてしまい、そのときは動作していたものの、忘れたころになって突然、動かなくなってしまうという経験をお持ちの方がいらっしゃると思う。

 Pecht氏が属するCALCEが開発しているのは、そういった「困った事態」に対処する技術である。さまざまなセンサーで電子機器の内部状態を常時監視しておき、今後どのくらいの期間、電子機器が動くのかの寿命を予測する。そして寿命が尽きる前に、故障の原因を取り除く。こうすることで、信頼性の確保にかかるコストを抑えながら、市場故障の発生を防ぐことが可能になる。

故障予知用のセンサーが異常を検知することで、残存寿命(実際に故障するまでの期間)を予測する。寿命が尽きる前に故障原因を取り除く 寿命予測の仕組み。「Prognostics Based Qualification」と呼ぶ

 言うのは簡単だが、実現は容易ではない。故障に至る物理的なメカニズムを把握する、故障の前兆となる現象を見つけ出す、過去の故障に関する記録を洗い出す、常時監視すべきパラメータを選定するなど、やるべきことや解決すべき課題は山積している。

 それでも突然の故障発生を嫌う分野では、寿命予測の考え方「Prognostics」を積極的に導入している。Pecht氏の講演によると米国陸軍は2003年に、今後導入する新たな兵器システムのすべてに要求仕様として「Prognostics」を組み込むことを決めた。また半導体技術のロードマップ「ITRS」は2007年版に「Prognostics」を盛り込んだ。

 なお基調講演では触れられていなかったが、CALCEは産官学共同のコンソーシアム「PHM(Prognostics and Health Management) Consortium」を組織して研究開発を進めている。コンソーシアムのメンバーには、米国陸軍の研究組織や米航空宇宙局(NASA)、Boeing、Dell、General Motors、Honeywell、Raytheonなどが連なる。

 基調講演に主題を戻そう。Pecht氏は、応用事例として積層セラミックコンデンサとPCを挙げて研究内容の一部を紹介した。

 積層セラミックコンデンサはストレスに曝されると、間欠的に動作しなくなったり、性能が時間的に変動したりすることがあるという。実験では高温高湿バイアス試験(85℃、85%、50V)によってコンデンサの静電容量と誘電正接、内部絶縁抵抗の変化をモニターし、ストレスを与えないコンデンサのグループと比較した。試験を開始してから486時間後に初期劣化と想定されるパラメータの変化が生じ、836時間後には故障の警告を発すべき段階に達した。そして962時間後には実際に故障した。

 PCでは、ハードウエアのさまざまなパラメータの時間的な変化をモニターした結果を示していた。CPUの温度変化やバッテリの電圧変動などである。これらのモニター結果から、寿命の予測を試みていた。

PHM(Prognostics and Health Management)におけるノートPCのパラメータ例

□国際信頼性物理シンポジウムのホームページ(英文)
http://www.irps.org/
□CALCEのホームページ(英文)
http://www.calce.umd.edu/
□関連記事
【4月28日】2008 IRPS前日レポート~半導体の微細化とともに信頼性の維持が難しくなる
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0428/irps00.htm

(2008年4月30日)

[Reported by 福田昭]

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