もともとの火付け役であるASUSTeKの「Eee PC 4G-X」登場以降、低価格なUMPCに大きな注目が集まっている。日本でも、Eee PCはかなりの注目を集めており、発売以降順調に売り上げを伸ばしているようだ。さらに今後は、IntelのAtomを搭載するUMPCの登場も控えており、UMPCへの注目度はさらに高まるように思う。そして、ASUSTeK以外のメーカーからも低価格なUMPCが順次投入されている。その中から今回は、Everexが発売した「CloudBook CE1200J」(以下CE1200J)を取り上げる。 ●本体サイズや重量は、Eee PCとほぼ同じ
CE1200Jは、本体サイズやスペック面、価格などを考えると、当然Eee PC 4G-X(以下Eee PC)が直接のライバルとなる。そこでまず、本体サイズや重量などをEee PCと比較していこう。 本体サイズは、230×171×29.4mm(幅×奥行き×高さ)となっており、Eee PCの225×160×20~32mm(同)よりも若干大きくなっている。とはいえ、その違いは幅が5mm、奥行きが11mmほどであり、横に置いて比較しても、CE1200Jのほうが大きいという印象はほとんど受けない。 重量は、発表値では970gだが、実測値は997gであった。発表値と実測値に若干開きがある点は気になるが、誤差の範囲内として片付けられる範囲内ではある。Eee PCの重量は、約920g、実測値で923.5gと75gほど軽い。とはいえ、実際に手に持って比べてみても、本体サイズが小さいこともあり、その違いは全く認識できなかった。そのため、CE1200JとEee PCは、携帯性にほとんど違いがないと考えていいだろう。 本体カラーは、天板およびキーボード面がシルバー、液晶面および底面、キーボードがブラック。液晶面は、本体側に比べ奥行きが短くなっており、本体手前に段差ができる点や、液晶面の下側がえぐり取られて大きな穴が開いている点など、一般的なノートPCとは異なるデザインを採用している。液晶を閉じた状態で本体上部にかなり大きな凸凹ができるため、Eee PCのようなすっきりとしたイメージはない。このあたりは好みによって印象が違ってくるとは思うが、個人的にはEee PCのほうがデザイン的に優れるように感じる。 ところで、液晶下部の穴は、本体を片手で持ちやすくするための工夫で、この部分に指を入れ、バッテリー部分を掴むように持つことを想定して用意されている。実際に、この穴に指を入れて本体を持ってみると、一般的な形状のノートPCとは違い、片手でも非常に安定したホールドが可能だった。当然キーボードは片手での操作となるため、文字入力などは厳しくなるが、立った状態でメールやデータのチェックを行なう場合などには大いに役立ってくれるはずだ。
●CPUはVIA C7-M 1.20GHzを採用 CE1200Jに搭載されるCPUは、VIA Technologies製の超低電圧版C7-M 1.20GHzだ。C7といえば低消費電力のCPUとしておなじみだが、超低電圧版C7-Mは、通常版よりもさらに低い消費電力を実現したCPUで、モバイル機器をターゲットとしたものだ。ちなみに、CE1200Jに搭載されている超低電圧版C7-M 1.20GHzのTDPは5Wで、Eee PCに搭載されている超低電圧版Celeron M 373と同等となる(Eee PCでは、FSBクロックを下げて動作させているため、実際の消費電力や発熱は標準クロック時よりも低い)。 チップセットは、同じくVIA TechnologiesのVX700を採用。VX700は、グラフィック機能を統合するC7-M向けチップセットで、こちらも消費電力の低さが特徴となる。統合されるグラフィック機能は「UniChrome Pro」と呼ばれるもので、DirectX 6世代のGPUだ。そのため、3D描画能力はほとんど期待できないと考えていい。 メインメモリは、標準でPC2-4200 DDR2 SDRAMを512MB搭載。メインメモリはオンボードではなく、マザーボード上に用意されるSO-DIMMスロット(1基)を利用して搭載されている。 ところで、メインメモリは最大1GBまで対応するものの、メモリモジュールを交換するには本体を完全に分解するしかなく、その場合には保証が切れるため、実質増設は不可能。ただし、日本での販売元であるCTO株式会社では、メインメモリを1GBに増設するサービスを行なっており、そちらを利用することで保証を切らせることなくメインメモリを増設できる。搭載OSがWindows XP Home Editionのため、メインメモリが512MBしか搭載されていなくても、そこそこ快適には利用できるが、予算に余裕があり、できるだけ快適に利用したいというのであれば、1GBに増設したいところだ。ちなみに、メインメモリ増設サービスの料金は、メモリモジュール、作業量、送料込みで8,400円となっている。
●1.8インチ30GBのHDDを搭載 Eee PCでは、ストレージデバイスとしてSSDを採用しているという特徴があったが、CE1200JはSSDではなくHDDを採用している。確かにEee PCはSSD採用によってきびきびとした動作が実現されているものの、日本版では4GB、海外版でも最大8GBしか容量がなく、ストレージスペースはかなり心許ないものがある。それに対しCE1200Jでは、30GBのHDDを搭載することで、ストレージスペースは十分な余裕がある。 搭載されているHDDは、Seagate製のST730212DEという、1.8インチ/5mm厚のPATA接続HDDであった。HDDはキーボード下に取り付けられており、キーボードを外すだけで簡単にアクセス可能で、HDD取り付けスペースも比較的余裕があるため、8mm厚の1.8インチHDDの搭載も不可能ではないように思われる。ちなみに、マザーボードとの接続はフラットケーブルを利用するようになっており、接続インターフェイスがZIFソケットタイプの1.8インチHDDを用意すれば交換できる可能性が高そうだ。
●800×480ドット表示対応の7型ワイド・タッチパネル液晶を搭載 液晶パネルは、Eee PC同様、7型ワイドのTFT液晶を搭載する。ただしCE1200Jでは、液晶表面にタッチパネルが取り付けられており、タブレットPC相当の操作性も実現している。そのため、液晶部左上には、タッチパネル操作用のタッチペンが収納されている。 タッチパネルが取り付けられているとはいえ、視認性は悪くなく、表示品質に特に不満はない。しかし、さすがに800×480ドットという解像度の低さは厳しい。各種アプリケーションの利用はもちろん、最近では横1,024ドットでの表示が前提となっているサイトが非常に多く、Webアクセス時にも厳しいと感じる場面が非常に多い。 ただ、CE1200Jでは、より高い解像度を表示させることも不可能ではない。タスクトレイに常駐しているグラフィックドライバのアイコン(S3アイコン)をクリックすると、最大1,024×768ドットまで解像度を変更でき、その解像度を液晶画面いっぱいにスケーリングして表示できる。もちろん、より高い解像度のデスクトップを、解像度の低い液晶に表示させることになるため、文字などの視認性は大きく落ちてしまうものの、表示文字サイズを大きくすれば文字の判別も十分可能となるため、Webアクセス時などはこの機能がかなり役立つ。 また、ノートPCに用意されている外部映像出力端子はアナログRGBであることが多い中、CE1200Jには標準でDVI-Iコネクタが用意されている点も特徴の1つ。外部液晶ディスプレイを接続して利用する場合でも、デジタル接続で利用できる点は、表示品質の面からも有利となる。 ところで、液晶パネル右には、Webカメラ用の30万画素CCDを搭載する拡張モジュールが取り付けられている。このモジュールは着脱可能となっており、オプションとしてSkypeフォン用のモジュールも登場する予定となっている。ちなみに、この拡張モジュールのインターフェイスはUSBだ。
●キーボード、タッチパッドはかなり使いづらい キーボードは、横ピッチが約16mm、縦ピッチが約14mmと、縦がやや狭い長方形型のキーを採用。キーピッチはEee PCとほぼ同等で、キーの押しやすさという意味では大きな違いはない。ただし、CE1200Jではキーの数が80個と少なく、Enterキーの上に「[」「]」キーが、Enterキーの右下に「\」キーが、「カタカナ/ひらがな」キーの右に「ろ」キーが配置されているというように、いびつな配列になっているところが多くあり、キーボードの扱いやすさは大きく劣る。少なくとも、通常のノートPCのようなタッチタイプは期待できないと考えた方がいい。 また、同様にタッチパッドも扱いにくい。なぜなら、キーボード下のパームレスト部分のスペースが狭いために、タッチパッドの大きさが横19mm×縦13mmと非常に小さくなっているからだ。当然、スクロール領域も用意されていない。タッチパッド自体の反応は特に問題はないのだが、このサイズではカーソルを画面の端から端に移動させるだけでも、数度指をなぞらなければならない。 一応、タッチパッドの扱いづらさは液晶パネル面のタッチパネルが補っている。おそらく、タッチパネルを搭載することを考慮して、このサイズのタッチパッドでもいいという判断だったのだろう。とはいえ、キーボード上部に比較的大きなスペースがあり、キーボードの配置を工夫すれば、Eee PCと同じぐらいのサイズのタッチパッドを搭載できたはずであり、やはり残念と言わざるを得ない。それが無理なら、スティックタイプのポインティングデバイスの搭載も考慮してもらいたかったところだ。
本体左側面には、SDカード/MMC/メモリースティック/メモリースティックPROに対応する4-in-1カードリーダーと、DVI-I映像出力端子が、右側面にはUSB 2.0×2と100BASE-TX対応のEthernet端子、マイク/イヤフォン端子がそれぞれ用意されている。DVI-I出力が用意されている点は大きな特徴。USB 2.0は2ポートにとどまっているものの、インターフェイス類は必要十分だ。 さらに、無線機能として、IEEE 802.11b/g対応の無線LAN機能と、Bluetooth 2.0+EDR準拠のBluetooth機能が標準搭載となっている。無線LANだけでなくBluetooth機能を標準搭載している点は、Bluetooth対応のキーボードやマウスを使えば、操作性を大きく改善できるという意味でも嬉しいポイントだろう。
●バッテリ駆動時間は約3時間 付属のバッテリは、容量2,200mAhのリチウムイオンバッテリで、バッテリ駆動時間は公称で約3時間。公称値はEee PCより若干短いものの、ほぼ同じバッテリ駆動時間と考えていいだろう。ちなみに、動画データ(WMV9、可変ビットレート、640×480ドット、60fps)を、画面輝度を最高となる状態で連続再生させた場合、1時間45分ほどでバッテリー残量の警告が表示され、1時間50分ほどで休止状態へと移行し電源が切れた。フルパワーで約2時間ほどの駆動時間は、公称3時間ということから考えるとまあ妥当な線だろう。 ただ、ほぼ同等の重量であり、高スペックであるLet'snote R7よりもバッテリ駆動時間がかなり短いという点は厳しい。Eee PCのレビュー時にも触れられているように、多少重量が重くなってもいいので、大容量バッテリを用意するなどして、最低でも5時間はバッテリ駆動時間を確保してもらいたかった。 また、これだけバッテリ駆動時間が短いと、ACアダプタの持ち歩きも必須になるが、残念なことにCE1200JのACアダプタは比較的サイズが大きい。Let'snoteシリーズの小型ACアダプタとの比較では、2まわりほど大きいといった印象で、持ち歩きはかなりかさばってしまう。また、重量もACアダプタ単体は227g(実測値)と比較的軽量なのだが、付属のDCケーブルがやや重く、ACアダプタとDCケーブルを合わせた重量が334.5g(実測値)にもなってしまう。できれば、Eee PCのように持ち運びも考慮した小型で軽量なACアダプタを付属してもらいたかった。
●分解してみました
今回レビューで利用したCE1200Jは、編集部で購入したものということだったため、分解して内部を見てみることにした。ただし、CE1200Jは、本体底面に「Warranty Void ifTampered Stickers(ステッカーをはがすと保証が消滅する)」と書かれたステッカーがネジ穴部分に貼られており、分解=保証消滅となる点は注意が必要だ。 本体を分解するには、まずキーボードを外すことになる。キーボードはネジ止めされておらず、キーボード上部の3カ所のツメを精密ドライバーなどで外すことで取り外せる。キーボードの下にはHDDの取り付けスペースが確保されており、HDDを固定するカバーのネジを外してカバーを取ると、HDDも取り出せるようになる。 本体底面のネジを全て外し、キーボード面の本体カバーを外すと、マザーボードが現れる。CPUやチップセットなどの主要チップは、マザーボード裏側に取り付けられている。また、CPU/チップセットの横にはメインメモリ用のSO-DIMMスロットが用意されており、512MBのDDR2-533 DDR2 SO-DIMMが取り付けられていた。この部分にSO-DIMMスロットが用意されているため、メインメモリの増設には本体の分解が不可欠だ。 本体底面には、CPUとチップセットを冷却するファンと、無線LANモジュールなどが搭載されている。無線LANモジュールは、内部のUSBコネクタに接続されるという変わった仕様となっている。無線LANコントローラは、Realtek製のRTL8187Lで、IEEE 802.11b/g対応だ。
●妥協すべき部分はいくつかあるが、コストパフォーマンスは抜群 では、いつものようにベンチマークテストの結果を、と言いたいところではあるが、マシンスペックの関係から、特に3D描画能力を測定するベンチマークテストは実行できない。そこで今回は、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と、HDBENCH.NETの「HDBENCH Ver3.40beta6」を利用してテストを行なった。また、比較のためEee PC 4G-Xでも同じテストを行なっている。ただし、解像度が足りないために、PCMark05ではGraphics関連のテストが行なえず、PCMark ScoreおよびGraphics Scoreは測定できなかった。 結果を見ると、Eee PCと比較して多くの面で結果が劣っていることがわかる。CPUの処理能力自体は、1.20GHzとクロックスピードが速いだけあってCE1200Jのほうが勝っている。また、2D描画能力もCE1200Jのほうがやや優れているようだ。ただ、メモリのパフォーマンスがかなり低く、おそらくそのために全体のパフォーマンスが大きく低下してしまっているのだろう。ちなみに、HDDを搭載しているために、Eee PCに比べて読み出しのパフォーマンスは低いが、書き込みのパフォーマンスは大きく凌駕しており、書き込みが頻繁に行なわれるような用途では、CE1200Jのほうが快適に利用できるだろう。 【表】CloudBook CE1200J、Eee PC 4G ベンチマーク比較
とはいえ、実際に使ってみた感覚では、CE1200JとEee PCの間に大きな差は感じられなかった。Webアクセスもそこそこ快適に行なえたし、動画データ(WMV9・約1,700Kbpsの可変ビットレート・640×480ドット・60fps)もコマ落ちすることなく再生できた。もちろん、Core 2 Duo搭載のノートPCと比較すると、Webアクセス時でも重く感じるし、HDクオリティの動画データの再生は厳しいはず。とはいえ、CE1200Jはもともとスペックを追求するマシンではなく、スペックや価格を考えると十分妥協できる範囲内だ。 CE1200Jは、パフォーマンスを考えると何でもできるとは言いづらいものの、OSにWindows XPを採用していることもあって制約は非常に少ない。また、30GBのHDDを搭載することで、より多くのデータを保存したり、さまざまなアプリケーションをインストールして活用できる点も魅力だ。もちろん、液晶パネルの解像度が低かったり、キーボードやポインティングデバイスが使いづらい、バッテリ駆動時間が短いといった点など、妥協すべき部分もいくつかある。とはいえ、59,800円という価格を考えると、そういった欠点も吹っ飛ぶほどの魅力がある。少なくとも、この価格でWindows XP搭載のミニノートが手に入ると考えると、コストパフォーマンスは抜群だ。 ただし、Eee PC同様に、1台目のマシンとしてはオススメできない。あくまでも、2台目以降のサブマシンで、外出時に持ち歩くマシンとして使ってこそ、その本領が発揮されるはずだ。 □CTOのホームページ (2008年4月24日) [Reported by 平澤寿康]
【PC Watchホームページ】
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