2月上旬 発売 価格:21,000円 セイコーインスツルの「SR610」は、広辞苑第六版のみを収録したコンテンツ特化型のコンパクトな電子辞書だ。50音キーの採用により、デジタルガジェットに慣れていないユーザーを対象に、最新の広辞苑をだれでも利用しやすいよう工夫したことが特徴の製品である。 ●ライバルは書籍版の「広辞苑」 今回紹介する「SR610」は、2008年1月に発表された広辞苑の最新版である第六版“だけ”を収録した電子辞書だ。数十点、多ければ100ものコンテンツを搭載する一般的な電子辞書の中では、異色とも言える存在である。 昨今の電子辞書と言えば、決められた価格にあわせてコンテンツが取捨選択され、ラインナップが決定される傾向にある。そのため、複数メーカーの製品を取り扱う店頭では、大は小を兼ねるとばかりに、コンテンツ数のみで製品の評価を決めてしまうケースも少なくない。価格が同じであれば、80コンテンツモデルよりも100コンテンツモデル、といった具合だ。 その点、この製品は「広辞苑」というコンテンツをいかに持ち運びやすくするかに主眼が置かれており、その他のコンテンツは搭載されていない。コンテンツ数重視の開発コンセプトとは明らかに異なっていることが分かる。パッケージにも「電子辞書」という文字はなく、メーカー名に並んで大きく「広辞苑 第六版」とだけ書かれるなど、あくまで広辞苑のデジタル版であるとのスタンスを崩していない。 ちなみに本製品、標準価格は21,000円だが、本稿執筆時点で実売10,000円を下回っている。書籍版広辞苑の定価が8,400円(普通版)、13,650円(机上版)なので、ほぼ変わらない価格で購入できるというわけだ。ライバルは電子辞書ではなく、書籍版の広辞苑であると見なしてよいだろう。 ●コンパクトな筐体を採用。キーボードは珍しい50音配列 まずはいつもどおり、外観とハードウェアを見ていこう。 筐体色は黒とグレー(シルバー? )のツートン。筐体は金属ではなくプラスチックで、重量が軽いこともあり、高級感はあまり感じられない。本体は名刺入れをひとまわり大きくした程度のサイズで、ポケットに入れて持ち歩くのも余裕の大きさだ。 もっとも、本体の厚みは20mmとそこそこあるので、ポケットに入れると存在感がある。ニンテンドーDS Liteの厚みが21.5mmなので、だいたい同じくらいということになる。フットプリントの小ささで体積を判断すると、思わぬ違和感を感じることになるかもしれない。
液晶画面は全角15文字(または半角30文字)×5行と、一昔前のワープロ専用機よりもやや広いといった程度。VGA搭載モデルが登場している一般的な電子辞書とは雲泥の差だ。これら解像度の問題もあり、広辞苑第六版の約24万件の項目こそ収録されているものの、写真や図版については一切収録されていない。これについては後ほど述べる。 キーボードは珍しい50音配列。5行×10列にわたって並べられたキーに、「あいうえお」~「わをん」まで50音が規則正しく割り当てられている。QWERTY配列でもなければ、ケータイに採用されているカナめくり入力でもないため、こうしたインターフェイスに慣れているユーザーは戸惑うかもしれない。もっとも、デジタルガジェットとは縁のない層にとっては敷居が低いキー配列であるとも言える。このあたりにも、書籍版からの乗換えを想定した製品のコンセプトが見て取れる。 ボタン幅は約6mmで、指先で押していく形になる。タッチタイプするといった類のキーボードではない。キーはラバー式で、昨今の電子辞書などと比較すると、ややオモチャ的な感が漂う。ちなみにキー数は65だ。 50音が配置されたその上段には各種ファンクションキーが割り当てられており、漢字検索や慣用句検索などの機能を備える。画面のスクロールなどの操作は右側にある上下左右キーなどを用いて行なう方式だ。 重量は電池込みで135gと、通常の電子辞書のおよそ半分ほどだ。単4電池2本で駆動し、寿命は100時間強というのは標準的な電子辞書とそれほど大きく変わるものではない。 このほか、3分間操作がないと電源が切れるオートパワーオフ機能や、前回電源をオフにした際の状態を記憶しておくレジューム機能も装備されている。SDカードスロットなどを用いたコンテンツの追加機能や、音声出力機能、バックライト、手書き入力機能などは搭載されていない。
●操作性はシンプルで分かりやすい。ジャンプ機能も実装 コンテンツが広辞苑だけということもあり、いわゆる総合メニューにあたる画面は存在せず、起動するとすぐに広辞苑の検索画面が起動する。 基本的な検索方法は、50音キーを用いての見出し語の読みによる検索。検索を実行すると候補語の一覧が表示され、決定キーを押すと全文が表示され、といった流れは、一般的な電子辞書と変わりがない。初めて使う場合でも、問題なく使い方を理解できるだろう。
個人的になかなか気が利いていると感じたのは、ページに続きがある場合、スクロール可能であることを示す下向き矢印が画面右上に表示されること。同様に、ページの中央にいる時は、上向きと下向きの矢印がともに表示されるので、上下どちらにもスクロール可能であることが一目で分かる。 いわゆるスクロールバーが存在しない電子辞書の場合、ページに続きがあるのかないのか、一見して判別できないことは珍しくない。こうした使いにくさを解消し、誰にでも分かりやすいインターフェイスを、限られた画面サイズの中で提供しようとしている姿勢は好感を持てる。 このほか、特定の語句を含む慣用句を検索する「慣用句検索」や、本文内にある特定の語句からさらに検索を行なうための「ジャンプ機能」、音訓や部首・総画数などから漢字を調べる「漢字検索」機能など、広辞苑のコンテンツをフルに使うための検索方法は充実している。特に、電子辞書というものを初めて使った際、その便利さを実感するのはジャンプ機能であるわけで、こうしたポイントをきちんと押さえている点は高く評価したい。
●可搬性の高さは魅力。写真や図版が収録されていない点は要注意 同じ「電子辞書」というカテゴリの製品でありながら、本連載で取り上げてきた従来の電子辞書とはまったく違ったコンセプトを持つ本製品。パッケージの表記、さらに上蓋のシルク印刷からも分かるように、いい意味でも悪い意味でも、とにかく「広辞苑第六版」のデジタル化に主眼を置いた製品である。 書籍版の広辞苑と比較した際、やはり最大のメリットは重量だろう。通常版でおよそ3kgある書籍版に比べて、本製品の重量はわずか約136g。実に20分の1以下だ。体積的にも持ち歩きが困難な書籍版に比べ、本製品であれば胸ポケットにもすっぽり入ってしまう。可搬性で言うと、本製品の圧勝だろう。また、価格についてもマイナス要素は存在しない。 デメリットもある。画面解像度の関係もあり、写真や図版が収録されていない(正確には、一部が説明書に掲載されている)ことだ。同じ電子辞書でも、前回紹介したカシオの「XD-SP6600」における広辞苑第六版はは図版約2,800点が収録されているが、本製品には収録されていない。広辞苑における写真や図版は、万人が利用するわけではないだろうが、やはり書籍版ではなにかと目に留まる存在であるし、写真や図版での印象というのは記憶に残りやすいという特徴を持っている。書籍版と電子辞書版のどちらかを選ぶ際、この点が大きなポイントになるのではないかと感じた。 あと、「芦」「榊」など、いわゆる新JIS規格対応の漢字は表示できない点についても注意が必要だ。ドット数の問題もあり、複雑な漢字を正しく表示させるといった用途には、あまり適していない製品であると言える。 いろいろと書いたが、書籍版と電子辞書版、無理にどれかに一本化するのではなく、例えば自宅や学校、研究室では書籍版の広辞苑を使用し、外出する時は本製品を持ち歩く、という利用方法も考えられる。書籍版と併せて発売されているDVD-ROM版を選ぶという選択肢もあるだろう。いずれにせよ、利用スタイルを見極めながら、購入の選択肢に加えたい製品だ。
【表】主な仕様
□セイコーインスツルのホームページ (2008年4月23日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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