今回のIDFで取り上げられたプラットフォーム、特にクライアントプラットフォームを価格帯で分けるとしたら、ハイエンド/エンスージアストが1.5、メインストリームが0.5、そしてローエンドが8の割合になる。そんな具合ではないかと思うくらい、今回のIDFでは低価格プラットフォームの話題が多い。 その大きな理由は、従来Silverthorneのコード名で知られてきたAtomプロセッサが正式にローンチされたことにある。同時に、これを搭載したMIDやNettop/Netbookといったプラットフォームが発表され、多くのセッションや展示スペースがこれらのプラットフォームに割かれていたことが、印象を強めたことは間違いない。 さらに、教育市場向けのClassmate PCについても、第2世代製品の発表が行なわれた。第2世代Classmate PCは、現時点では超低電圧版のモバイルCeleron 900MHz(実際の動作クロックはともかく、石としてはEee PCと同じ)でスタートするものの、すぐにAtomベースのプロセッサを用いたリフレッシュが行なわれることになっている。いずれにしても、低価格PCの話題の中心はAtomというわけだ。
●低消費電力なAtomがシステムの小型化を促進する Atomといえば、その最大の特徴はやはり低消費電力ということになる。Atomファミリのプロセッサには、Silverthorneのコード名で知られてきたAtom Z5xxシリーズのプロセッサ(現時点で明らかにされているのはZ500からZ540まで、10刻みの5製品)と、Diamondvilleのコード名で知られてきたAtom N2xxシリーズのプロセッサ(こちらは明らかにされているのはN270のみ)の2系統があり、前者はMobile Internet Device(MID)やUltra Mobile PC(UMPC)向け、後者はNettop/Netbook向け、という位置づけだ。 熱設計消費電力(TDP)は、4.5~7インチの液晶ディスプレイを採用する、より小さなフォームファクタ向けの前者で0.65W~2.4W、据え置き型のNettop向けの後者でも4W程度で、既存の超低電圧版のプロセッサに比べてもかなり小さい。現時点では、まだ明らかにされていないが、一部の資料にはすでにデュアルコア版の予定が記載されており、デュアルコア版でもTDPは8Wとされている(おそらくニコイチ構成なのだろう)。 消費電力を抑えることのメリットは、環境に優しいことから電気代の節約でサイフに優しいことまで、実にさまざまだが、デバイスを設計する上では、冷却機構を簡素にできることが大きい。冷却ファンのないパッシブヒートシンクで済めば、ヒートシンクそのもののコスト削減、ヒートシンクの重量削減、ファンレス化による消費電力の削減、ヒートシンクの小型化による占有容積の低下、可動部品の減少による信頼性の向上、ファンにより生じるノイズの消滅など、良いことづくめだ。 ファンレス化による消費電力の削減は、プロセッサの低消費電力化と合わせて、バッテリの小型化を可能にする。小さなバッテリは軽量だから、ヒートシンクの重量削減と合わせ、システム重量を軽くすることに寄与する。小さなヒートシンクと小さなバッテリはシステム全体の小型化と軽量化をもたらし、さらには物流コストの削減にもつながる、といった具合で、どんどんと相乗効果を生む。プロセッサの消費電力は小さいに越したことはない。
●Nettop/NetbookとWebサービス
そんなに素晴らしいなら、なぜIntelはすべてのプロセッサをAtomにしてしまわないのか。それはもちろん、絶対的な性能の点でAtomは、Core 2ファミリのプロセッサに及ばないからだ。 IntelでAtomを担当するのはMobility事業部のUltra Mobility Groupだ。Mobility事業部長であるダディ・パルムッター副社長に、ハイエンドのAtomプロセッサと、ローエンドのCeleronプロセッサで、性能的にオーバーラップする部分はあるのか、という質問をした。パルムッター副社長の答えは、「オーバーラップはない、AtomとCeleronの間には歴然とした性能差が存在する」というものであった。 もちろん、だからといって、Atomの性能が低いといっているのではない。Atomは消費電力当たりの性能に優れたプロセッサとして設計されており、この観点におけるトップクラスである。ただ、絶対性能という点で、同世代のCeleronを超えることはない、というだけのことだ(言い換えれば、数年前のノートPCなら性能的に上回っていても不思議ではない)。 Atomを搭載したローエンドのPCは、デスクトップ型をNettop、ノートブック型をNetbookと呼ぶ。その名前からも明らかなように、インターネット接続を前提にしたプラットフォームであり、Webブラウザと電子メールの利用を主に考えられている。Webブラウザといっても、Googleドキュメントに代表されるサービスを考えれば、意外とできることは多い。こうしたサービスを利用する上では、クライアント側の処理能力はあまり問われない。NettopやNetbookは、いわばコンシューマ向けのシンクライアントだ。 そう考えれば、NettopやNetbookのOSとして、Linuxが重要な地位を占めていることがよく分かる。豊富で使いやすいアプリケーションの蓄積という点で、Windowsには大きなアドバンテージがあるが、Web上のサービスを利用するだけなら、WindowsとLinuxの差はかなり縮まる(Windows DRMによる保護コンテンツなど、決して差がないわけではないが)。小型のMIDは、さらにコンテンツの利用に特化したプラットフォームだと考えられる。そうした用途により、プラットフォームを使い分けて欲しい、というのがIntelのメッセージのようだ。 □Intelのホームページ(英文) (2008年4月4日) [Reported by 元麻布春男]
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