IntelからAtomプロセッサとCentrino Atomプロセッサー・テクノロジーが正式に発表された。その模様に関しては別記事(こちらとこちら)などが詳しいのそちらを参照していただきたいが、発表されたAtomやCentrino Atomのスペックは謎だらけで、チップセットに関してはSKU構成に関してもプレスリリースで触れていなかったり、IntelのWebサイトでもその情報に関して詳しく触れられていなかったりするので、若干の混乱が生じている。 そこで本記事ではそうしたAtom、Centrino Atomのスペックなどに関して整理して、そのSKUのポジショニングなどに関しても考えていきたい。 ●小型向けは安く、ノートPCに近い製品は高くという価格設定になっているAtom 発表されたAtomには以下のような5つのSKUが用意されている。 【表1】Intelから発表されたAtomプロセッサのスペック
なお、今回発表されたのはあくまで開発コードネームSilverthorne(シルバーソーン)で呼ばれてきたUMPC/MID向けで、開発コードネームDiamondville(ダイアモンドビル)で呼ばれてきたネットブック/ネットトップ向けの製品は含まれていない。基調講演などでもネットブック/ネットトップの出荷は6月になると説明されているので、おそらく6月に台湾で予定されているComputex Taipeiあたりで発表という手はずになっているのではないだろうか。 さて、この5つのSKUを見て気が付くのは、2つある。1つは仮想マルチスレッディングとなるSMTの機能が上位の3つの製品に限られていることだ。また、HTを有効にした場合、TDP(熱設計消費電力、設計時に参照するピーク時の消費電力)が0.2Wほど上がってしまうということだ。つまり、2.4W/2Wと発表されている上位3つのSKUの消費電力は実際には2.6Wと2.2Wであるということだ。性能面を考えると、HTを有効にしないということはあまり考えられないので、実際には2.6Wと2.2WがTDPであると考えた方がいいだろう。 なお、元々の計画では1.86GHzのSKUが2W、1.1GHzのSKUが1W、800MHzのSKUが0.6Wとなっていたのに、実際には2.6W、2W、0.65Wに増え、さらに1.6GHz、1.33GHzという中間のSKUが追加されていることがわかる。おそらくこれは歩留まりが当初想定していたよりもあまりよくなかったと考えることができるだろう。不思議なのは価格構成で、2.6Wの1.83GHzと2.2Wの1.6GHzは実際には同じような歩留まりで製造コストは同等に近いと想像できるのに1.83GHzの方は135ドル、1.6GHzは70ドルという価格に設定されている。同じようなことは下のSKUにもいえ、0.65Wの800MHzと2Wの1.1GHzは、場合によっては800MHz/0.65Wの方が歩留まりが低く、製造コスト的には高くつく可能性が高いと考えられるのに同じ価格に設定されている。 こうしたことからわかることは、Intelは価格設定を小さいもの用ほど安価に設定し、大きなもの、つまりノートPCに近い製品向けのAtomは高価に設定しようと考えていることが透けて見える。そうしたことにより、Atomを搭載したUMPC/MIDとCore 2 Duoを搭載したノートPCと棲み分けしようと考えているのだろう。
●130nmプロセスルールで製造されるPolusboことIntel System Controller Hub UMPC/MID向けAtomは、チップセットのIntel System Controller Hub(SCH、開発コードネームPolusbo)と組み合わせて利用することになる。 SCHはノースとサウスが1チップになっているチップセットだ。Intelがノースブリッジとサウスブリッジを1チップにしたモバイル向けチップセットをリリースするのは、90年代に利用されていた440MX以来となる。なお、Intelのアナンド・チャンドラシーカ上級副社長(ウルトラモビリティ事業本部 本部長)によれば「SCHは130nmのプロセスルールで製造されている。確かに90nmや65nmなどより進んだプロセスルールで製造することも可能だったが、今回はCPUの方が完全なスクラッチ設計でしかも45nmプロセスルールという新しいプロセスルールで製造されるため、チップセット側でもリスクを冒すことは避けるべきだと判断した。これは純粋に戦略上の判断だ」と説明しており、SCHに関しては130nmプロセスルールで製造されていることが明らかになった。 実際、Intelが公開しているダイ写真を見ると、非常に小さなAtomのダイに対して、SCHのダイは非常に大きくなっているのだが、その理由は130nmプロセスルールで製造されているからと考えることができるだろう。 SCHの特徴は、強力なGPUを搭載していることだ。SCHに内蔵されているGPUは、Intel GMA(Graphics Media Accelarator) 500と呼ばれるGPUコアで、2パイプ構成のユニファイドシェーダになっており、バーテックスシェーダ、ピクセルシェーダを同じシェーダユニットで処理することが可能になっている。なお、ソフトウェアのAPIとしてはシェーダモデル3.0に対応しており、Direct3D9レベルの実装となり、メモリの容量と帯域を十分確保すればWindows VistaのWindows Aero環境で利用することも可能になる。 また、GMA 500にはハードウェアによるビデオデコーダが内蔵されており、MPEG-4 AVC(H.264)、VC1(とWMV9)、MPEG-2、MPEG-4の動画をCPUの処理能力を必要とせずに再生することができる。Atom自体の処理能力は、Core 2 Duoほど高くないので、それらの動画をCPU側でデコードするのはかなり厳しいことになる可能性がある。しかし、GMA 500に内蔵されているこのデコーダ機能を利用することでCPUに負荷をかけずに動画の再生が可能になる。 なお、メモリコントローラはシングルチャネル構成で、DDR2 DRAMが利用することができる。FSBが533MHzである場合にはDDR2-533が、400MHzである場合にはDDR2-400をメモリデバイスとして利用できる。なお、一般的な1.8VのDDR2 SDRAMだけでなく、サーバー向けなどに利用されている1.5VのDDR2 SDRAMも利用することができるようになっている。ただし、その場合には1ランクのみのサポートとなるので、最大で512MBまでとなる。 ●3つのSCHのSKUが存在するが、上位版/下位版も同じ価格に設定 SCHには以下の3つのSKUが用意されている。 【表2】Intel System Controller HubのSKU構成(一部筆者推定)
なお、このSCHのスペックはすべてが公開されている訳ではなく、TDPなどのデータはIntelのWebサイトでも公開されていない。TDPやサポートOSのデータは筆者が独自にOEMベンダなどから得た情報であるので、Intelの公式見解ではないことをお断りしておく。 533MHzのFSBをサポート、1GBのメインメモリ、HD解像度の動画デコーダというスペックの上位2製品(US15WとUS15L)と、400MHz FSB、512MBメモリ、SD解像度の動画デコーダというUL11Lという下位モデルの3製品がある。US15WとUS15Lの差はWindowsをサポートするかどうかという点だ。US15Wの方はWindows VistaとLinuxをサポートするのに対して、US15Lの方はLinuxのみのサポートとなっている。つまり、Windows VistaもサポートしたいベンダはUS15Wを採用する必要がある。 UL11Lは機能が制限されている替わりに消費電力が低いという特徴がある。上位2製品のTDPが2.3Wであるのに対して、UL11Lは1.6Wになっており、より消費電力が低いデバイス向けと位置づけられていることが伺えるだろう。 なお、このチップセットの方は機能のありなし、消費電力にかかわらずすべてが同じ25ドルに固定されている。ちなみにこの25ドルという価格は決して高い価格ではない。通常IntelのPC向けチップセット(ノース+サウス)は40ドル前後に設定されているので、25ドルという価格設定はIntelのチップセットとしては破格の安値だということができるだろう。 ●Atom/SCH/無線/電池/ポケットに入る小ささが条件となるCentrino Atomブランド CeBITにおける説明によると、PCメーカーなどがUMPC/MIDを製造し、Centrino Atomのブランド名を冠するためには以下のような条件を満たす必要がある。
IntelがCentrino Atomにこうした条件を設けるのは、Centrino AtomブランドのUMPC/MIDが“ポケットに入る”というIntelの売り文句を実現するためだ。IntelはCentrino Atomの売り文句として、モバイルインターネットをポケットに入れて持ち歩ける、というのがあるが、仮になんでもかんでもオッケーということにすると、例えば10インチの液晶を搭載したミニノートのようなCentrino Atomブランドの製品が登場してしまって、ノートPC向けであるCentrinoとの差別化が曖昧になってしまうおそれがある。おそらくそれを心配しているからこそ、こうした条件をつけたのだと考えることができるだろう。 なお、Centrino Atomブランドにこだわらず、PCベンダがAtomプロセッサ搭載として発売する分には、この基準から外れた製品を作ることも可能だ。ただし、PCベンダにとってCentrino Atomブランドを冠することができると、IIP(Intel Inside Program)のキャッシュバック率が高まったり、Intelと共同マーケティングを行なうことができたりというメリットがあるので、おいそれとそうでない決断をできるかどうかは、難しいところだろう。 ●IDFで多数展示されたUMPC/MID、日本市場での課題はナショナルブランドの価格設定か IDFで行なわれたCentrino Atom/Atomの発表会では、OEM/ODMベンダが新しい製品を発表、あるいは参考展示した。日本に関係ありそうな製品としては、すでにInternational CESで公開された東芝、クラリオン、ウィルコム、CeBITで公開されたパナソニックといったベンダが公開した製品で、今回は日本向けの製品という意味で新しいのは、富士通のLOOX Uの後継と思われる製品ぐらいだった。 台湾のODMベンダなどと話していて気になったのは、その価格設定だ。各ベンダともに、Centrino Atom/Atomを搭載した製品の価格を非常に安価に設定していることだ。聞いてみると、599ドルとか699ドルなどという価格に設定しているところが多く、少なくとも999ドル以上の価格を想定しているところは一部の特殊なフォームファクタを除きほとんどなかった。 問題はこの価格設定が日本のナショナルブランドに可能か、ということだ。実は以前ある日本のナショナルブランドの関係者とCentrino AtomブランドのUMPCはいくらぐらいになるのかという話をした時に、10万円台後半ぐらいかな、といわれてびっくりしたことがある。確かに、海外のベンダがMcCaslin(Intel Ultra Mobile Platform 2007)を搭載したUMPCを699ドルとか799ドルという価格で販売しているのに対して、日本のナショナルブランドで唯一McCaslin搭載製品をリリースした富士通は当初139,800円という価格設定にするなど、内外の価格差は非常に大きかった(その後富士通はキャンペーンモデルという名目で99,800円に値下げしている)。 今のところCentrino Atom搭載の製品を参考展示した東芝も富士通も、正式には発表していないため、どのような価格設定になるのかはわからないが、このままいくと10万円越えは充分あり得るストーリーではないだろうか。その時に海外から輸入されるODMが開発したUMPC/MIDとの勝負がどうなるのか、筆者には正直いって今のところなんとも言えないとしかいいようがない。 ただ、1つだけユーザーに朗報なのは、このUMPC/MIDに取り組むベンダに通信キャリアであるウィルコムの名前があることだ(開発はシャープが行なうことがすでに明らかにされている)。通信キャリアからインセンティブ付きで販売されれば、見た目の価格はかなり安価に設定されるだろう。となれば、対抗上他のベンダも価格を下げる必要がでてくる可能性が高く、このシャープが開発してウィルコムが販売するUMPCは、6月に発表が予定されており、そのリリースは日本のUMPC市場が一変する可能性を秘めている、ということができるのではないだろうか。
□関連記事 (2008年4月3日) [Reported by 笠原一輝]
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