多和田新也のニューアイテム診断室

チップセット内蔵グラフィックスの可能性を広げる
「ATI Hybrid Graphics」




 AMDが3月4日に発表した「AMD 780G」チップセットに搭載される「Hybrid Graphics Technology」は、統合型チップセットと外付けビデオカードを連携させることで、パフォーマンスを向上させる機能だ。この性能をチェックしてみたい。

●AMD 780GとRadeon HD 3450を使用した評価キットの構成

 一般に、内蔵グラフィックスのパフォーマンスで不足する場合には、外付けビデオカードを装着してパフォーマンスを改善するわけだが、この場合、グラフィックス機能は完全に外付けビデオカードに頼ることになる。多画面出力のためなど、内蔵グラフィックスコアが完全に使われなくないわけではないが、性能に関しては外付けビデオカードの性能で頭打ちとなる。

 これに対して、Hybrid Graphicsは、外付けビデオカードを装着したときにも、内蔵グラフィックスコアの性能を活用する。AMD(旧ATI)は、複数枚のビデオカードを使って3Dレンダリングを分散処理するCrossFire技術を有しており、これと同じように内蔵グラフィックスコアと外付けビデオカードの両方を使って3Dレンダリングの性能を底上げするのである。

 これまでの常識では、パフォーマンスや機能を重視して外付けビデオカードを使うならチップセットにグラフィックスを統合しないものを選ぶユーザーのほうが多かったと思う。しかし、外付けグラフィックスを使った場合でも内蔵グラフィックスが活用されるということであれば、そうしたユーザーの目を統合型グラフィックスに向ける可能性を持っているといえる。

 ただし、対応しているビデオカードは、現時点でRadeon HD 3400シリーズのみだ。内蔵グラフィックに近いパフォーマンス同士でのCrossFireというイメージになるので妥当ではあるが、どこまで性能を引き上げることができるかは後ほどベンチマークでチェックしてみることにしたい。

 なお、Radeon HD 3450はDirectX 10.1に対応したビデオカードであるが、AMD 780Gに内蔵されたRadeon HD 3200はDirectX 10までの対応となる。そのため、Hybrid Graphicsを有効にした場合は、DirectX 10のフィーチャーしか利用できない点には注意が必要だ。

【画面1】AMD 780GにRadeon HD 3400シリーズを装着すると、CATALYST Control CenterにCrossFireの項が表示される。従来のCrossFire同様、チェックをするだけでHybrid Graphicsが有効になる

 ちなみに、AMD 780GとRadeon HD 3450を用意した場合、使用できるグラフィックス機能はAMD 780G内蔵グラフィックス、Radeon HD 3450単体、Hybrid Graphicsの3パターンが考えられる。しかし、Radeon HD 3450を装着した時点で、ドライバ上から内蔵グラフィックスのみを利用するという設定はできない。ATI Catalyst Control Center上の設定は簡単なもので、従来と同じくCrossFireの欄にチェックを付けるのみ(画面1)。CrossFireを無効にするとRadeon HD 3450、有効にするとHybrid Graphicsで描画が行なわれることになる。

 ディスプレイケーブルの接続に関しては、BIOSのブートは増設ビデオカードからしか出力されないので、こちらがメイン出力ということになる。CrossFireにチェックを付けてHybrid Graphicsを有効化した場合、Windows上でも出力は増設ビデオカードからのみとなる。

 Hybrid Graphicsを無効にした場合は、Radeonシリーズが持つSurround View機能により、Windows上からは増設ビデオカード、内蔵グラフィックの両方から計4画面を出力可能となる。この場合、AMDの説明によればUVDやRAMDACなどの仕様は、ディスプレイと接続されているGPUに合わせられる。

 今回テストする機材は、AMDから借用したHybrid Graphicsの評価キットだ(写真1)。CPU、メモリ、マザーボード、ビデオカードがセットになったものである。

 CPUは、AMD 780Gと同日発表された「Athlon X2 4850e」だ(写真2)。TDP45Wの低消費電力版CPUにラインナップされる製品である。従来とモデルナンバーの表記が変わったので位置付けが分かりにくいかも知れないが、2.3GHz動作のAthlon X2 BE-2400の上位モデルとなり、2.5GHzで動作する(画面2)。従来と同じく65nm SOIで製造されるが、プロセスがこなれたことで、従来と同じレベルのTDPに収めつつ、より高いクロックの製品を投入できるようになったということになる。

 AMD 780Gを搭載するマザーボードは、GIGABYTEの「GA-MA78GM-S2H」(写真3、4)。microATXに準拠した製品で、I/Oリアパネル部にはD-Sub15ピン、DVI、HDMIの3つの端子を搭載。AMD 780Gの映像出力機能を活用した製品といえる。

 ビデオカードはSapphire製のRadeon HD 3450である(写真5)。ロープロファイルに準拠しており、冷却はヒートシンクのみで行なうファンレス製品となっている。

【写真1】テストに使用したHybrid Graphicsの評価キット 【写真2】TDP45Wの「Athlon X2 4850e」。OPNは“ADH4850IAA5DO”となっており、Athlon X2 BE-2400と同じG2リビジョンであることが分かる 【画面2】CPU-Z 1.44.1の結果。CPU-ZのDBには未登録のようだが、動作クロックなどは確認できる
【写真3】AMD 780Gを搭載するGIGABYTEの「GA-MA78GM-S2H」 【写真4】GA-MA78GM-S2HのI/Oリアパネル部 【写真5】Sapphire Technologyの「Radeon HD 3450 256MB DDR2 PCIE」

●Hybrid Graphicsの性能向上度合いを検証

 それではベンチマークの結果をお伝えしたい。テスト環境は表に示した通り。まず、本コラム全体に関連する変更点が2カ所ある。1つはHDDで、これまでSeagateのBarracuda 7200.10を使用していきたが、今回よりBarracuda 7200.11へと変更した。もう1つはOSで、Windows Vista UltimateにService Pack 1を適用したものを使用していく。今回のテストに関しては、先に紹介した評価キットのみを使用している。これを用い、Hybrid Graphicsでどの程度パフォーマンスを向上させられるかをチェックしていきたい。

 グラフにおいては、実際のスコア/フレームレートのほか、相対性能を示すグラフを併記、AMD 780Gを100としたときのHybrid Graphicsの性能、Radeon HD 3450を100としたときのものの2つも示している。

 また、AMD 780Gの記事同様、統合型チップセットのテストに合わせて各アプリケーションのクオリティ設定を低めにしている。そのため、ほかのビデオカード関連のベンチマーク記事とはスコアの互換性がないので注意されたい。

 では、「3DMark06」(グラフ1~4)と「3DMark05」(グラフ5)の結果から見ていきたい。結果は両極端だ。3DMark05ではほとんど差がない。3DMark05においては単に拡張カードであるRadeon HD 3450によって、AMD 780Gよりは高い性能を得られるに留まるわけだ。つまり従来型の拡張方法と変わりがない。

 一方の3DMark06は、Radeon HD 3450に対して、20%を超える性能向上が見られ、Radeon HD 3450とAMD 780Gが同時にうまく動いているのが分かる。その効果は、AMD 780Gと比べておおよそ180%前後となっており、スコアの絶対値を見ても性能改善効果は大きい印象を受けるだろう。

 また、AMD 780GからHybrid Graphicsへの性能向上は、解像度が高くなるほど良好な傾向にあることも気に留めておきたい。一方Radeon HD 3450からHybrid Graphicsは解像度が変わってもほとんど差がない。これは、メインメモリと共有する内蔵グラフィックスのメモリ帯域幅によるものだろう。

 もちろんHybrid Graphicsでもメインメモリを共有するわけで、このボトルネックは変わらない。だが、ローカルフレームバッファを持つ外付けグラフィックスの性能がスコアに加味されるので、相対的には解像度が高まるほど若干ながらスコアの改善効果が高いように見えるのである。

【グラフ1】3DMark06 Build 1.1.0
【グラフ2】3DMark06 Build 1.1.0(SM2.0)
【グラフ3】3DMark06 Build 1.1.0(HDR/SM3.0)
【グラフ4】3DMark06 Build 1.1.0(Feature Test)
【グラフ5】3DMark05 Build 1.3.0

 「F.E.A.R.」(グラフ6)の結果はやや判断が難しいものとなった。解像度が低いうちは多少の効果が見られるものの、もっとも高い解像度であるSXGAではスコアが下がってしまったのだ。これはHybrid Graphicsの効果がないアプリケーションと見ていいだろう。解像度の低いところでも性能向上は10%を切る程度であり、3DMark05に近い傾向を示したアプリケーションといえる。

【グラフ6】F.E.A.R.(Patch v1.08)

 続いては今回からテストに加える「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ7)の結果である。Radeon HD 3450と比べ、全解像度に渡って15%前後の性能改善が見られる。テストにはマルチプレーヤーにおけるリプレイデータを使用していることもあり、CPUによる処理も多い。まして、現在においてはゲーマー用CPUとは言えないAthlon X2 4850eを使った環境である。後述のテストではHybrid Graphicsを有効にしたときにCPU処理のオーバーヘッドは増える傾向も出ており、それでも、低解像度から安定した性能向上が見られるのは意味が大きい。

【グラフ7】Call of Duty 4(Patch v1.5)

 「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ8)の結果は芳しくない。Radeon HD 3450を上回る結果もあれば下回る結果もあり、その差も10%未満で、誤差によるものだろう。Hybrid Graphicsの効果がないアプリケーションといって差し支えない結果だ。

【グラフ8】COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS(Patch v2.202)

 「World in Conflict」(グラフ9)の結果も、芳しくないが、ほかの効果がないアプリケーションとはちょっと違った傾向が出た。というのは、解像度が高まるに連れて相対性能は改善傾向にあるのだ。このアプリケーションはCPU処理が占めるウエイトが多めで、解像度が低いとグラフィックス性能を持て余すことになる。

 解像度が低いときに相対性能が低いということは、Hybrid Graphics有効時はCPU処理のオーバーヘッドが増加してしまっている可能性が高いのである。解像度が高まるに連れてグラフィックス性能への依存度が高くなり、差が詰まってくるというわけだ。つまり、Hybrid Graphicsはきちんと働いているという判断はできる。

 しかし、それが効果があるかというと、ない、ということになるだろう。SXGA時の平均フレームレートは34であり、ゲームを楽しむギリギリのレベルだ。これ以上負荷を高めるよりは、むしろ下げるほうが現実的だ。となれば、Hybrid Graphicsを無効にしたほうが高いパフォーマンスを期待できることになる。

【グラフ9】World in Conflict(Patch v1.004)

 「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ10)は、逆に非常にグラフィックス性能に依存したテストで、CrossFireやSLIの結果がわりと反映されやすいアプリケーションという印象もあるが、こちらはHybrid Graphicsの効果がまったく出ていない。ドライバ側のチューニングが原因だろう。

【グラフ10】Call of Juarez DirectX 10 Benchmark

 「Unreal Tournament 3」(グラフ11)は、効果が得られるアプリケーションといえる結果になっている。botを動かすベンチマークにおいてもXGA以上ではすでにグラフィックス側の性能が要求され、その改善効果も大きいことが分かる。

 絶対値としてのフレームレートはもう少し欲しい気がするが、低解像度であればゲームを楽しめるレベルではある。非実用的なものから、実用的なものへと性能を引き上げることができているのは大きな意味がある。

【グラフ11】Unreal Tournament 3(Patch v1.2)

 「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ12)は、非常にはっきりした結果となった。グラフィックス性能への依存度が大きいSnowではHybrid Graphicsによってスコアを伸ばす一方、CPU処理への依存度が高まるCaveでは逆にスコアが下がるのだ。ここまでに示した結果で見えてきた傾向が、もっともはっきり出たテストといえるかも知れない。

【グラフ12】LOST PLANET EXTREME CONDITION

 最後に消費電力測定の結果(グラフ13)である。アイドル時はRadeon HD 3450を挿した時点で引き上げられ、これはHybrid Graphicsの有効/無効に関わらず、ほとんど差がない。面白いのはピーク時の消費電力で、Hybrid Graphicsを有効にして2つのGPUコアでレンダリングを行なったほうが消費電力が下がる結果となったのだ。

 考えられる点としては、Radeon HD 3450とAMD 780GのCrossFire化により、性能の低いAMD 780G側に足を引っ張られてRadeon HD 3450の負荷が軽減。結果、Radeon HD 3450の消費電力が下がったのではないだろうか。それでいて、高いパフォーマンスが出る場合もあるわけで、これは“結果的に”という言葉を付けなければならないだろうが、パフォーマンスと消費電力のバランスを改善する技術にもなっていることになる。

【グラフ13】消費電力

●少ない投資でのアップグレードを実現する技術

 以上の通り結果を見てくると、効果があるアプリケーション、ないアプリケーションがはっきり分かれている。ビデオカードを2枚用いたCrossFireと比べ、効果があるアプリケーションが少ない印象も受けるが、今後のドライバのチューニングに期待したい。CrossFireがそうであったように、実際に改善されていくのではないだろうか。

 問題は、ローエンドGPUを2枚組み合わせても、劇的なパフォーマンス向上は得られない点だ。GPUに関する技術というとゲームというものを意識してしまうが、そこに触れると、Hybrid Graphicsを導入するぐらいなら良いビデオカードを買うべき、という話に帰結してしまう。

 だが、そもそもAMD 780Gを中心とするCartwheelプラットフォームはローエンド~メインストリーム向けのプラットフォームであり、ゲーマーやパワーユーザーがメインターゲットではない。

 そうしたメインターゲットに対して、例えば、今はAMD 780GのPCで十分に事足りているが、1年後に、今使っているアプリケーションよりも高い3D性能を要求するアプリケーションを使う必要が出た場合に、数千円の投資をすれば購入したビデオカードの1.5枚分ぐらいの性能を得られるといったシナリオが成立するだろう。

 つまり、最初からHybrid Graphicsを構築した状態で導入すべきものではないと思う。そういう状態で導入するということは、チップセット内蔵グラフィックスだけでは不満があるわけで、だったら最初からもっと良いビデオカードを買ったほうが良い。あくまで、今のローエンド~メインストリームユーザーに対して、将来的にお得なアップグレード手段を提供するものと捉えておくべきだろう。

 ここで危惧しているのが、Hybrid Graphicsに関しては技術的な面ばかりが前面に押し出されている印象を受ける点だ。これは自作ユーザーなどには面白いものとして映るだろうが、今後は、本来ターゲットとするユーザーに、いかに分かりやすく機能をアピールしていくか重要だろう。それが、Hybrid Graphics、引いてはCartwheelプラットフォーム成功の鍵をも握っていると思う。

□関連記事
【3月5日】AMD、DirectX 10対応ビデオ内蔵チップセット「AMD 780」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0305/amd.htm
【3月5日】【多和田】AMDのプラットフォーム戦略第2弾「AMD 780G」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0305/tawada133.htm

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(2008年3月17日)

[Text by 多和田新也]


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