常に広帯域のネットワークに接続されているのなら、モバイルPCにストレージはいらない。それがかなわないからこそ、モバイルPCのタフネスやストレージのスピードなどが話題になる。隙間を埋めるように着々と整いつつあるモバイルブロードバンドインフラだが、これからいったいどう進展し、モバイルPCをどう変えていくのだろうか。 ●高すぎるイー・モバイルのローミング イー・モバイルが電話サービスの開始に伴い、ドコモのインフラを使った国内ローミングの詳細を発表した。ローミング対応エリアは25道府県となり、同社既存サービスエリアを加えると、47都道府県、ほぼ全国で使えるようになるそうだ。ただし、東京の地下鉄駅構内等を含め、カバーされていない重要なエリアも少なくない。 データ通信ができるローミング対応端末は、今のところ、電話端末のH11Tのみとなっている。しかも、ローミングデータ通信料金がやけに高額だ。具体的には0.0735円/パケットの従量課金となっている。仮に、1回の出張で、50MB程度のパケットを消費したとしよう。1パケットを128Byteで計算すると、28,710.9375円となる。あきれるほど高価だ。 このパケット料金は、ドコモの料金にあてはめて考えると、「パケットパック10」の0.105円と「パケットパック30」の0.0525円の中間に相当する。 仮に、ドコモの携帯電話ユーザーが、イー・モバイルを使えないエリアでは、ドコモの携帯電話を使って従量制パケット通信をした場合、出張期間だけパケットパックを購入すればイー・モバイル端末より安上がりだ。 先の例でいえば、3日間の出張ということで、出発時に9,000円の「パケットパック90」に変更すればパケットあたりの価格は0.01575円となる。50MBなら、6,152.34375円だ。 ドコモの場合、同月内3回までのパケットパックの変更は無料で、無料通信分は日割り計算されるので、イー・モバイルエリアに戻り次第、普段のパケットパック設定に戻せば出費は最小限に抑えられる。余り分は通話料金に充当されるので、毎月支払っている電話料金次第では出張のある月はそのままでもいいかもしれない。 今、イー・モバイルのデータ通信カードを使ってデータ通信をしているユーザーは、ローミングサービスを受けるために、オプション料金105円を支払い、新たに対応端末を購入し、エリア外ではその端末を使わなければならない。 もし、ドコモの通話端末ユーザーなら、ドコモのデータ通信専用端末を追加購入し、ファミリー割引で「データ通信専用プラン」を契約、普段は1,417円/月のデータプランSSで契約を維持しておき、出張の月だけ10,941円/月のデータプランLLに設定すれば、パケットの価格は0.0126円と、50MBなら4,921.875円と、さらに安くなる。これは、プロトコル制限のなく、接続に専用ソフトもいらない完全従量制の価格だが、データ転送料がさらに多いことが予想されるなら、データ定額プランに変更してもいいだろう。 そんなめんどうなことをするなら、データ通信はすすべてドコモにするというユーザーがいたっておかしくない。少なくとも、ぼくはそうするつもりだし、場合によっては、以前に紹介したIIJモバイルを契約するかもしれない。 いずれにしても、イー・モバイルが、このような価格設定でローミングサービスを開始したことの理解に苦しむ。しかも、ドコモは2年割引を発表し、実質的な値下げを明らかにしている。イー・モバイルの料金が発表されたのは、そのあとなのだ。 このことから予想されるのは、イー・モバイルがあまりローミングを使ってほしくないと考えているということだ。その背景には、ドコモとの契約が切れる2010年10月末を、どんどん前倒しにして、自社ネットワークで日本全国をカバーする自信があるのかもしれない。だったら、なおさらローミングの価格は廉価に抑え、イーモバイルのデータ通信カードとは別にドコモの音声端末を持つという選択を抑止するべきではないか。 ●ブロードバンド常時接続がもたらすもの ともあれ、各社のサービスの詳細がこれでほぼ出揃い、WiMAX網のサービス開始までは、月に1万円を下回る価格で、任意のサービスを利用できる状況になったわけだ。個人的には、現在、IIJモバイルのサービスを評価中で、接続専用ソフトのいらないピュアな使い心地に、心が揺れている。 これで、実際に、モバイルPCをインターネットに接続できない場所は、地下鉄の駅間と、ごく一部の地下店舗、そして航空機内のみとなった。1月から2月にかけて志賀高原と白馬山麓にでかけたが、定宿はHIGH-SPEEDエリアではなかったものの、つながらないよりはずっといい。人口3.5万人程度の実家でさえHIGH-SPEEDエリアで快適にインターネットに接続できる。そのエリアが広がるのも時間の問題だ。 金に糸目をつけないなら、海外ローミングだって利用できる。ちなみに、アメリカ国内でモバイルPCによるパケット通信ローミングをした場合、料金は0.2円/パケットとなる。50MBの通信なら、78,125円に達し、ちょっと話にならない。怖くてとても使えないが、背に腹は代えられないケースもあるのだろう。 いずれにしても、普段の行動範囲の多くがブロードバンドネットワークに対してオンラインでいられるようになり、Googleの提供するようなメールやカレンダーのサービス、そして、ドキュメントサービスによる表計算やワープロ、プレゼンテーションソフトの提供の実用度は格段に向上する。そこでモバイルPCに求められるのは、ブラウザと日本語入力のためのIMEだけだ。 ●MIDが受け入れられれば誰が幸せになれるのか この春以降は、インテルが提唱するMobile Internet Device(MID)がホットな話題になりそうだが、このデバイスは諸刃の剣になりそうな可能性も秘めている。インテルにとっての諸刃の剣ではない。インテルとしては、安いプロセッサでも、大量に売れればそれでいいからだ。 MIDがヒットし、多くのユーザーが、その機能で満足するようになることで、 ・処理性能の高いモバイルPCはニッチとなり価格が高騰する。・製品のバリエーションも乏しくなる。 ・製品の進化も止まってしまう。 ・自宅でPCを使うコンシューマーも、MIDで十分と考えるようになる。 ・結果としてプレミアムPCもニッチ化が進む。 ・コモディティPCでさえいらないというコンシューマーも登場する といった状況が予測できる。 さらに、 ・インターネットコンテンツがMIDに最適化されるようになる。・MIDの処理性能を超えるコンテンツは淘汰される。 ・1,000万画素を超えるような画像を生成するデジカメは悪とされるようになる。 ・PCに依存しているあらゆる機能が専用機に移行する。 ・汎用機として個人が使うPCが絶滅する。 といった副作用だって予測できる。 おりしも、昨日、アドビシステムズがリッチインターネットアプリケーションのプラットフォームとして、Adobe AIR正式版およびAdobe Flex 3の提供を開始した。この環境の活用により、Webの表現力はさらに豊かなものとなり、ブラウザやデスクトップアプリケーションの開発手法を変革が起こるそうだ。もし、MIDがAir端末として使われるようになれば、PC周辺の状況は一変するだろう。「リッチ」の定義だって変わるかもしれない。 各ベンダー、プロバイダーが、さまざまな思惑を胸に抱きながら、PC業界の再編が進もうとしている。もはや、ネットワークがOFFであることが許されない時代である。 □関連記事
(2008年2月29日)
[Reported by 山田祥平]
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