富士通から発売された「FMV-BIBLO LOOX R」(以下LOOX R)を試用した。光学ドライブ内蔵のモバイルPCという観点から言うと、長く続いてきた「LOOX T」シリーズの後継機種とも言える製品だ。液晶サイズが一回り大きくなったにもかかわらず、筐体の底面積はほぼ同レベルをキープしている。 しかし、実際に手にしてみると従来機とのコンセプトの違いが見えてくる。デュアルコアプロセッサ化や画面解像度の高解像度化、そしてコスト配分や機能の取捨選択など、従来機の設計をそのまま引き継ぐことはできない状況にもあった。そこでLOOX Tとは異なる視点で、富士通なりの2スピンドルモバイルPCのコンセプトを再構築したのが、今回のLOOX Rだったように思う。 ●モバイルPCに求められるスペックを満たすために再構築 ここ数年の富士通は、非常に効率の良い商品企画を行なうことでスケールメリットを出し、コスト競争力を上げていた。ビジネス向けとコンシューマ向け、両方で活用できるハードウェア設計を心がけ、同じプラットフォームでビジネスとコンシューマの両方に展開することで、プラットフォーム数を少なくしていた。 最大のライバルであるNECと比較すると、デスクトップPC、ノートPCともに、プラットフォーム数は富士通の方がはるかに少ない。もちろん例外もあるが、仕事で使っても、個人の道具として使っても魅力のある製品として企画しようという意図が、各シリーズに共通している。 従来機のLOOX Tに関しても、信頼性の高いビジネスにも使える小型ノートPCとして、日本だけでなく米国や欧州でも、小型ノートPCとしてはよく売れる製品だった。しかし、国内市場を見ると、保険会社や製薬会社などが一括購入するモバイルPCに求める要件をLOOX Tが満たしておらず、発注を受けるためのコンペに参加する前に、基本仕様面で落とされることが多かったようだ。 特に液晶サイズは12.1型以上と指定する企業が多く、堅牢性に対する要求も数値化されていることが多い。そしてもちろん、価格面での競争力も必要だ。一方で“薄さ”に関しては寛容な場合が多い。 LOOX Rを見ると1,280×800ドット(WXGA)の12.1型ワイド液晶パネルを採用。ギリギリまで狭額縁化を行ない底面積を小さくする手法で、LOOX Tと同レベルのフットプリントを実現している一方、厚みに関してはあまりこだわっていない。
フラットな天板イメージを引き継ぎつつも、立体的な造形を加えて約200kgfの面加圧、35kgfの点加圧試験をクリア。フラットな天板と底板で1枚板的な造形にこだわっていたLOOX Tとは少々、デザインのコンセプトが違うことがわかる。 本体部もメイン基板や冷却システムなどを最小限の面積/容量に抑えつつ、しかし光学ドライブはやや変型の9.5mm厚(表から見ると12.5mmにも見えるが、内部は立体的に入り組んでいる)。最新の7mm厚を用いず9.5mm厚とすることで機能面や記録速度、再生速度など、スペック面での利点もあるが、最大の利点はコストを抑えられることだろう。その分、重量が増しているが、それでもせいぜい10~20g程度の差だろう。 また、厚みのある18650型バッテリセル(直径18mm、長さ65mmの円筒形セル)6本パックをキーボード下にスッキリと収めるレイアウトを採用した。厚み方向の余裕は冷却システムの簡素化にも寄与している。
LOOX Rの主なスペックだが、HDDは 2.5インチ 120GBを搭載。メモリスロットは2基用意され、最大容量は4GB(ただしサポートOSはWindows Vista 32bit版のため、メインメモリとして認識される最大容量は約3GB)。±R DL対応DVDスーパーマルチドライブを搭載する。インターフェイスはもUSB 2.0×3、IEEE 1394(4ピン)、ミニD-Sub15ピン、SDカードスロット、Type2 PCカードスロット、Gigabit Ethernet、IEEE 802.11a/b/b/nドラフト対応無線LAN、Bluetooth 2.0+EDR、56Kモデムと、必要と思われる機能は一通り搭載している。この試用機の型番はLOOX R70YPで、直販価格は264,800円だ。
こうしたコンセプトで構築された本機の1.27kg(6セルバッテリ搭載時。同梱の4セルバッテリ搭載時は1.18kg)という数字は、12.1型の2スピンドルノートPCとしては最軽量というわけではないが、価格と機能性、軽量性などのバランスからすると、納得のいくスペックに仕上がっているのではないだろうか。 企業向けモバイルPCとして求められる要件と、コンシューマ向けモバイルPCとしての魅力のバランス点を探した富士通の現時点での結論が、LOOX Rというモデルに表現されている。 ●コンセプト変更で失ったもの、得たもの
LOOX Rを企画する上で、富士通はある面は妥協し、その代わりに別の面ではこだわるといった取捨選択をきちんと順序立てて行なっていったのだろう。何を最優先したのかは知る由もないが、上記のように各種仕様と製品への実装具合を見る限り、機能性を失わずにコストを下げることに、もっとも腐心しているように思う。 たとえばメモリカードスロットは3メディア対応からSDカード専用に変更され、LOOX Tシリーズでは定番の、光学ドライブと排他で装着可能な増設バッテリが用意されない。 それ以前に、光学ドライブを取り外せないので、不必要時にこれらを取り外して軽量化する、という選択肢がなくなったのは残念だ。ただし、直販モデルでは、オーダー時に光学ドライブなしも選択できる。
またキートップはやや横長で、18mmの横キーピッチを実現しているが、縦方向のキーピッチは15.5mmしかない。縦方向の詰まりが多めなため、親指でスペースバーを叩くときに届きにくい印象が強かった。もちろん、これは手の大きさや慣れにもよるだろう。 ここ数年は横長扁平のキー形状を採用するメーカーが増え、すっかり市民権を得てきている。しかし横長キーはキーからキーへと運指する際、指の移動方向が変わってしまうため、タッチタイプができる人ほど違和感を感じやすい。LOOX Rだけの問題ではないが、扁平キーに慣れていない人は要チェックだ。 ただし、キータッチはさすがで、しっかりとしたクリック感に適切なキートップ形状、それに浮きなくしっかりと取り付けられたキーボードユニットの建付なども良い印象を持った。 さて、こうした若干否定的な印象を持つ部分もあるが、それぞれの取捨選択には理由もある。メモリカードの主流は明確にSDカードであり、あえてコスト高で内部容積を多く取るマルチスロットは必要ないと考えたのだろう。xD-Picture Cardの利用者は、ほぼオリンパスのデジタルカメラユーザーのみであり、メモリースティックはデュオが主流となっている。 何より従来のLOOX Tプラットフォームでは、冷却の関係上、デュアルコアプロセッサを搭載できなかったのに対して、本機では低電圧版デュアルコアプロセッサを搭載可能になったことも大きい。個人的にはシングルプロセッサで省電力とコンパクト化を追求する方向もあるとは思うが、きちんと売れる製品となると将来性のあるデュアルコアプロセッサでの設計にならざるを得ない。 搭載プロセッサはCore 2 Duo SL7100と表記されているが、これは低電圧版Core 2 Duo L7100(1.2GHz)を、Penryn世代向けとして開発した小型パッケージに収めたものだ。コアのアーキテクチャはMeromのままで、同作周波数こそ異なるがアップルがMacBook Airで採用したものと同一種類のプロセッサと見られる。 CPUをLOOX Tの超低電圧版シングルコアから、低電圧版デュアルコアへ変更したことで、確実に発熱量は増えているはずだが、薄さにこだわらずに設計したため、冷却部の余裕は十分だ。電源設定を高パフォーマンスに設定し、続けざまに各種アプリケーションのインストールや画像処理などを行なったが、排気音や手元の温度が不快なレベルまで高まることはなかった。長時間の動画エンコードを行なうとファンの動作回転は高くなるが、騒音レベルは一般的なA4ファイルサイズノートPCのそれと大きくは違わない。 これらは筐体の薄さにこだわらず、コストなども含めてトータルのバランスで検討した結果だろう。 ●華はないが実用性は高い さて、取材や取材の合間の原稿整理、執筆作業などのため、最小限のアプリケーションをインストールし、実際に外に持ち出してみた。こうした出先で使う際には、絶対的なプロセッサのパフォーマンスよりも、鞄の出し入れのしやすさや膝の上での使いやすさなど、全体的な使い勝手の方が重要になる。 その点、本機は底面に段差がほとんどなく、ゴム足の出っ張りも最小限に抑えられている。加圧試験での堅牢性を狙った天板も、立体的な造形はさほど深くなく、かなりフラットだ。重量バランスも良いため、鞄の出し入れで引っかかるようなことはない。 加えて薄くするために無理な設計をしていないため、手にとって使っていて剛性面の不安を感じることがない。キーボードの建付が良いと書いたが、各部がキッチリとはまりこんで歪みにくい、しっかりとした感触は本機の美点の1つだろう。 バッテリ持続時間に関しても、軽微な作業ならばLEDバックライトを絞り込めば、無線LANを使いながらでも9時間以上は利用できそうだ。ボタン1つで省電力設定に切り替わる機能もLOOX Tから引き継いでおり、細かく電力設定を変更しないユーザーにも電力消費設定を手軽に使う方法を提供している点もいい。もちろん、エキスパートユーザーならば省電力モード時の設定を自分でカスタマイズすることも可能だ。 前述したように本機のプロセッサはMeromベースであり、チップセットもIntel GM965 Express。いわゆるSanta Rosa世代のため、全体のパフォーマンスに関しては推して知るべしだが、このクラスのモバイルPCにおけるバッテリ性能に関しては、Napa世代の製品が多かったこともあり、あまり検証されていなかった。あるいは電源まわりのLSIなどが進化しているなどの違いもあるのだろう。“使い方による”のは当然だが、それにしても最新のSanta RosaモバイルPCは意外にバッテリが伸びるようだ。これだけバッテリ持続時間が長ければ、バッテリの充電率を80%に抑え、バッテリパックのサイクル寿命を1.5倍に伸ばす「バッテリーユーティリティ」も便利だ。 加えて特筆しておきたいのがACアダプタだ。ACアダプタはコンパクトな上、細長いデザインを採用しており、ケーブルをまとめて付属のベルクロストラップで留めても嵩張らず、しかも軽量(ACケーブル部含めて248g。ケーブルを除くと194g)だ。各ケーブルも適度な長さで使いやすい。
LOOX Rには残念ながら、“華”あるいは“セクシーさ”といった言葉で表現できるフェロモンを放つかのような魅力には欠ける。同様に必要な機能は全部持ち歩こうというコンセプトで開発されていたLOOX Tシリーズは、無骨なりに男っぽさを感じる造形や各部の拘りがあったが、LOOX Tシリーズと同種のフェロモンは発していないように見える。 しかし、原材料が高騰する中でコストを下げ、プロセッサや画面サイズなどを向上させつつ、光ディスクドライブ搭載時の重量は削減しながら価格は抑えめになっている点は評価できるのではないだろうか。華はなくとも、今後は少しずつ増えていくことが予想されるCPUの熱にも対応できる設計上の余裕もありそうだ。 厚みが増えたことは残念だが、しかしフル装備の性能そのままに、小型/軽量を目指したLOOX Tの魂は引き継がれ、実用性はすこぶる高い。 最後に光沢ブラックの天板塗装について触れておきたい。。美しい仕上がりの反面、ちょっとした布面との擦れでも小傷が目立ってしまう。道具として毎日持ち歩くつもりなら、オーナーによっては気になるかもしれない。 □富士通のホームページ (2008年2月15日) [Text by 本田雅一]
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