米ラスベガスで行なわれたInternational CESは、AV家電の側から見ると「The Panasonic Show」と言えるほど、展示内容、業界への提案など、さまざまな要素に満ちたパナソニックの充実度が際だっていた。AVC社社長の坂本氏が行なった基調講演も、単に贅沢や享楽性を求めるのではなく、家族団らんをキーワードに家電業界の将来の可能性を示した素晴らしいものだ。 一方、PC、特にモバイルに目を向けるとMenlowプラットフォームを採用した、UMPCがいよいよお披露目となり、x86ベースのMobile Internet Deviceへの期待も高まったIntelの展示が印象的だったのではないだろうか。 と、このようなCESの話題の中で、新聞各紙を含め大いに話題になったのが、Blu-ray DiscとHD DVD、つまり青紫レーザーダイオードを用いた高密度光ディスク規格の行方だろう。すでにAV Watchなどで多くの記事が出ているので、ここでは言及を避けるが、BDへと情勢が大きく傾いていることは間違いない。 とはいえ、PCへのBDドライブにニーズはあるのだろうか? CESで拾った話題を交えながら話を進めたい。 ●ビジネス向けPCはBDのみ搭載と米HP
米Hewlett-Packard(HP)はBlu-ray Disc Association(BDA)が誕生する前、技術ファウンダーのみで構成されていたBDFの頃からBDに関わっていた企業だが、その後、HD DVDへの対応も表明。両対応のPCを発売している。ご存じのように、HPはPCベンダーとしては世界最大であり、HD DVDにも対応するとの発表は当時、大きな話題になった。 そのHPの技術ライセンス室ディレクターで光ディスクを担当するクリフォード・ロウブ氏は「コンシューマPCへのHD DVDドライブ搭載は今後も数年は続けるが、ビジネス向けはBDのみで行く。個人的な見解だが、すでにフォーマット戦争の決着は付いた」と話した。 HD DVDは国内での発売タイトル数こそ少ないが、北米ではかなりの数が出ている。今後、ハリウッドでも最大のコンテンツライブラリを保有するワーナーがタイトルを発売しなくなったとしても、既存のHD DVDビデオ保有者は残る。このため、その再生環境が必要なユーザー向けにHD DVDドライブ搭載モデルも販売するが、あくまでも「両対応PCを発売したメーカーとしての責任(ロウブ氏)」で搭載するもので、本命はBDだと明言する。 そもそも、過去を振り返ってPC向け記録媒体で容量の少ない規格が残ったことはない。PC用途ならば、2003年からデータ記録専用のPRODATA規格(BDのデータ専用版)も存在し、容量も大きなBD以外に選択肢は無かった。問題は、果たしてPC向けにBDが必要なのか、という、根本的なところにある。 PCでの光ディスク応用は主に ・ソフトウェアやデータの大量配布・市販あるいは録画ビデオディスクの再生 ・大容量データのアーカイブ保存 の3つのアプリケーションに集約される。光ディスクは原理的に目的データへのシーク速度が遅く、シーケンシャルに大きなデータを読み続ける用途(ビデオ再生がもっとも適している)や、プレス加工で同じ内容のディスクを大量生産可能な利点を生かした用途に向いている。 ●データの増加は止まらない 問題はDVDの1層4.7GBに対して、BDの1層25GBが、どこまで魅力的かという点だ。ただ、この点に関してはデータの増加という形で、あっという間にBDが必要な時期がやってくるだろう。それは過去の歴史が証明している。 たとえば静止画のみを考えた場合でも、大幅にデータ量は増加している。画素数の増加は言うに及ばず、コンピュータの処理能力向上に伴って写真をJPEGではなく、すべてRAWデータで管理しても実用的に使えるようになってきている。撮影ショット数の増加や、デジタル写真データをメールでやりとりする頻度も増えている。 さらに動画も議論の対象に含めれば、数年のレンジで見るとプレゼンテーションデータに高解像度の動画データを貼り付けるといった使い方も、当たり前になってくるはずだ。現時点では現実的ではないと思っていても、HDDやデータを扱うコンピュータの処理能力が増え、利用する上での心理的、物理的障害が取り除かれてくれば、自ずと“かつては”重いと言われたデータを、特に意識せずに利用するようになるものだ。 思い起こせば'90年代半ば、「将来は記録型DVDがPCに標準搭載されるようになる」と言われた頃、シーク速度の遅いDVDにデータアーカイブする用途など、あまり意味がないと感じたものだった。 自分たちが少しずつ、歳を取っているということも意識しなければならない。毎年新しく生まれている新規のPCユーザーは、皆、現在のGB単位のデータ量が当たり前の中でPCを学習している。数MB単位のデータで「重い」と言っていた世代とは、データ量に対する感覚が異なるのは当然だろう。 ●高密度メディアのバイト単価は必ず安くなる
もちろん、バイトあたりの単価が高ければ、まだまだDVDの方が良いと思うのは当然だ。しかし、高密度記録メディアのバイト単価は、低密度のものよりも絶対に安くなる。 なぜなら、メディアを製造する工程数は、同じ光ディスクならば大差はないからだ。たとえば1層のDVD-Rと1層のBD-Rは、構造の違いから製造ラインは共用できない。しかし、製造装置の規模や材料費は大きくは変わらない。 光ディスクは大量に生産し、製造ラインの稼働率が十分に高まれば、あとは製造歩留まりと材料費でコストが決まる。歩留まりも製造を続けていれば、どんなメディアもほぼ同等レベルにまで至り、材料費も変わらないとなれば、究極的にはDVD-RもBD-Rもコストは変わらない。 もちろん、細かな部分での違いはあるし、BD-RがDVD-Rと同等レベルのコストになるには、まだまだ時間がかかるだろうが、言い換えればそれは時間の問題でしかないわけだ。そこまで極論しなくとも、たとえば100円のDVD-Rに対して、500円のBD-Rが当たり前になれば、バイト単価はほぼ同等になる。 松下電器によると、1層BD-Rの単価はネットで探した最安値などではなく、通常、購入できる1枚あたりの単価で年内に500円を切りたいとしている。その頃になれば、最安値のメディアは300円ぐらいになっているかもしれない。 さらにこの先数年を見据えれば、大切なデータのアーカイブにBDを多用する時代も来るのは間違いないだろう。BD-Rには有機色素系のライトワンスメディアよりも、無機材料を用いたライトワンスメディアが現時点では主流であり、耐光性、保存性といった点でもDVD-Rより安心できるという利点もある。 ●現時点ではビデオ系アプリケーションが中心 もっとも、今すぐに記録型BDを使おう、などと言うつもりはない。まだまだデータアーカイブやデータ配布に利用するメディアとしては、DVDの方がいろいろな意味で使いやすい。そもそも、配布となるとそれを読む相手が必要なのだから当然だ。 現時点ではBDにハイビジョンを録画したい、HDカムコーダで撮影したデータをデータ保存しておきたい、市販BDビデオを見たいといった、ビデオ系アプリケーションを中心に考えなければ、PCにBDを搭載するメリットは出てこないと思う。 ただ、業界が動き始めたことで、今すぐに大容量光ディスクへの記録が必要となった時、BDを選択しておけば安心と言える状況にはなったと思う。BDドライブがPCに搭載されるのが当たり前になる日は、まだ数年先のことになるだろうが、その前にユーザーが「どちらを選べばよいか」で迷い、混乱することがなくなったのは、消費者として歓迎すべきことだろう。
□関連記事 (2008年1月17日) [Text by 本田雅一]
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