NVIDIAが提唱する新規格「Enthusiast System Archtecture」。略してESAは電源や冷却装置、ケース内のファンなどを管理/制御するプロトコルだ。これはNVIDIAとしては珍しく、性能のように数値で表せない技術だ。そのため何が新しいのか、どんなメリットがあるのかが、なかなか伝わりづらい。 今回、このESAの評価機を入手したので、ESAがどのようなものかを実機に触れながら探っていこう。 ●電源、冷却装置、ケースファンがESAという共通のプロトコルを持つ CPUやGPU、メモリ、HDD、マザーボードなどからステータス情報を取得することは簡単だ。例えば、CPUならCPUIDが有名だ。マザーボードメーカーが添付するユーティリティでさまざまな情報を監視することができる。GPUならドライバを介して、駆動周波数や温度、チップへの供給電圧、ファンの回転数など各種情報を取得できる。各ハードウェアにはそれぞれ温度や回転数といったセンサーが搭載されており、決められたプロトコルで通信し、ソフトウェア上でデータを表示している。 ただし、こうしたセンサーを搭載し共通の規格を持つものがあれば、一方ではセンサーをほとんど搭載せず、共通規格を持たないパーツもある。それは電源や冷却装置、ケースファンなどだ。例えば冷却装置のファンに異常が発生した際、あるいは電源の電圧に異常が発生した際などを考えると、これらの機器にもセンサーを搭載することは十分にメリットのあることと思われる。 実際、ESA登場以前にもごく一部の高付加価値製品でセンサーを搭載したものが登場していたが、これらは製造メーカーのソフトウェアからでしか操作できない。それらとESAが異なるのは、ESAが共通のプロトコルを与えたことだ。これにより電源、冷却装置、ケースのメーカーが異なっても1つのソフトウェアからステータス監視することが可能となった。ESAはUSBに基づくプロトコルを用い、Windows上からはUSB/HIDとして認識される。
●ESA評価機の構成 まず評価機に搭載されたESA対応機器を紹介しておこう。ケースはCooler Master「COSMOS 1010」。従来のCOSMOS(1000)をESAに対応させた製品だ。電源はTagan「BZ ESA 1100」。プラグソケット式のケーブルを備えた1,000W電源で、製品名が示すとおりESAに対応している。水冷ユニットはCoolIT Systems「Freezone Elite CPU Cooler」となる。ラジエータ、ポンプ、ヘッドが組み立て済みで、ケースの背面ファン部に装着するタイプのメンテナンス性を高めた水冷ユニットだ。
ESAを利用するには、チップセットのサポートも必要とされている。現在NVIDIAよりダウンロードできる「nForce System Tools with ESA Support BETA」によれば、ESAをサポートするチップセットとして「nForce 780i SLI」、「nForce 680i SLI」、「nForce 680i LT SLI」の3つが挙げられており、同社のチップセットのなかでもハイエンド向け製品のみに絞られている。
ESA対応機器とマザーボードとの接続方法を評価機で確認しておこう。両機器を接続するケーブル(評価機では黒いビニール皮膜のケーブル)を辿っていくと、マザーボードの中央付近にあるケース内部用のUSBピンヘッダに接続されている。マザーボードのピンヘッダは一般的に1段目が5ピン、2段目が4ピンの計9ピンで1つのまとまりとなっており、これが2つ用意されている。まず1つ目の9ピンは、水冷ユニットが上段の5ピン、電源がその下段の4ピンといった具合に接続されていた。もう1つの9ピンは、ケースのESAケーブルが上段の5ピンに接続され、残った下段の4ピンにはフロントアクセスパネルの9ピンコネクタのうち4ピンが接続されているという状態だった。 ケースのESAケーブルに関してもう少し補足しておく。マザーボードから配線を辿っていくと、いったん裏面に引き込まれた配線は、COSMOSのフロント上部、ちょうどフロントアクセスパネルの裏へと引き込まれていた。ここにはESA用の基板が格納されているようだ。ESA機器にはセンサーの追加が必須で、そのセンサーがアナログであればデジタルへと変換する基板が必要となる。その基板がここにあるものと推測される。
●「NVIDIA System Monitor」は派手な3Dインターフェイス ではソフトウェア側を見ていこう。評価機では、ESAのステータス情報を表示するソフトウェアとして「NVIDIA System Monitor」が用意されていた。これは先のnForce System Toolsからインストールされる。 NVIDIA System MonitorはESAの目玉でもある、3Dインターフェイスを用いたハードウェア監視ソフトウェアだ。中央には対応している機器のアイコンが円形に表示され、マウス操作でグルグル回る。また、透明度の調節もできる。いかにもエンスージアストウケしそうなインターフェイスだ。この評価機で表示された機器アイコンは、電源、水冷ユニット、ケースといったESA対応機器に加え、マザーボード、CPU、メモリ、HDD、GPUまであり、PC内部の全パーツと言って良いだろう。もちろん評価機がNVIDIAのものであり、同社のチップセット、GPUで統一されているというひいきはある。ただ、全てのパーツを1つのソフトウェアから監視できるというのはこれまでに無かったことだろう。
センサーからの情報は小さなパネルとして下段に一覧表示される。CPUならば駆動周波数や、クロック倍率、コア電圧、温度、そしてCPU使用率など。ESA対応機器では、温度、ファンの回転数、電源であれば電圧状態などが表示されている。
これらのパネルから必要な情報だけをピックアップすることも可能だ。必要な情報のパネルをクリックすると、そのパネルは上段へと移動する。これがパネルを選択した状態だ。複数の機器のパネルをピックアップすることも可能だ。例えば温度が気になるなら、CPU温度とGPU温度、冷却液の温度といったように絞り込める。 パネルをピックアップした状態で、スクリーン右上の矢印(←)ボタンをクリックすると、NVIDIA System Monitorは、選択したパネルを除いて最小化する。そしてこの状態でピックアップしたパネルをドラッグすると、デスクトップ上の好きな位置へと配置できる。また、そのほかにもカスタマイズが可能だ。まずパネルの下側にある吹き出しのような三角を押すとログが表示される。そしてステータス表示画面の左隅のマークを押すと、設定画面が呼び出され、パネルの名前や更新間隔、温度センサーであれば一定温度に達した際のアラートなども設定できる。
ここで、ESAの動作を確認してみた。ケース内でケーブルがファンに干渉し、回転が止まってしまうようなことがあれば一大事だ。これをシミュレーションしてファンの回転を強引に止めてみた。当然、パネルの数値は0rpmとなる。アラートを表示するように設定しておけばより便利だ。 次は、何らかの拍子にESAのケーブルが外れてしまったらどうなるか。これは一度電源を落としてESAのケーブルを外し、再度起動させNVIDIA System Monitorで確認するという方法で確認した。すると、NVIDIA System Monitorからその機器の項目が消えていた。 ではその状態(Windows起動中)で再度ESAケーブルを繋いでみた。NVIDIA System Monitorを最小化した状態で結線したところ、「ESAのコンフィギュレーションが変わった」という旨の警告が表示され、その後NVIDIA System Monitorを再表示させると、消えていた機器の項目は復活していた。ESAはUSBをベースとしているため、プラグアンドプレイも可能なようだ。
ESAでステータス情報を表示するソフトウェアがもう1つある。それは従来の同社チップセット製品にも対応する「NVIDIA Control Panel」だ。ESA対応機器が接続されていると、NVIDIA Control PanelのPerformance-Device settingsにESA対応機器のタブが追加される。先のNVIDIA System Monitorと同様、ステータス情報が表示されており、ここからファンの制御などを細かく指定することも可能だ。このあたりの使い勝手は従来のNVIDIA Control Panelと同様だ。さまざまな情報を常時表示可能なNVIDIA System Monitorとは性格が異なってくるが、好みに応じて利用すると良いだろう。
●将来のESAではケース内温度分布の3次元的表示が可能に?
ここまでESAをテストをしていて気付いた点をいくつかピックアップしてみよう。まず、現状ではマザーボードのUSBピンヘッダが足りていない点だ。実際に評価機では、フロントアクセスパネル用のUSBは半分が使用されていなかったが、NVIDIAによればESAはUSBをベースとしているため、将来的にはUSB HUBのようなものを介することで解決できるとの回答だった。 次に、今回のCOSMOS 1010では回転数や温度を取得している場所が2カ所のみだった点だ。どうやら、現時点ではすべてのファンを監視するというわけではないようだが、将来的にはすべてのファンから個別にデータを取得するものになるだろう。NVIDIAでは、ESAにXYZ軸といった位置情報も含めると説明会で語っていた。これにより、位置と温度のデータを組み合わせてケース内温度分布を3次元的に把握することも可能になるのことだ。温度分布を正確に把握するためには、ケース内のできるだけ多くのセンサーから位置と温度のデータを取得しなければならないだろう。現時点ではまだXYZ軸の設定をどのように行なうかはわからない。ユーザーがメーカーの想定した位置以外の場所にファンを設置した場合の扱いも不明だが、ESAはそうした将来のビジョンを掲げている。 ●今はまだ一部エンスージアスト向けのESA
現在ESAおよびNVIDIA System Monitorが利用できるのはNVIDIAのエンスージアスト向けプラットフォームのみだ。これは、エンスージアストなシステムはより冷却にシビアであることが理由と見られる。ただ、ESAとNVIDIA System Monitorは、Enthusiastだけでなく自作中級者にも受け入れられるものではないだろうか。自作パーツの世界ではファンコンやステータスを表示するLCDなど、5インチベイアクセサリーが人気だ。こうしたパーツの購入層はエンスージアストだけではない。ギミックを楽しんでいるのだという見方もあるが、NVIDIA System MonitorならそのUIはウケそうだ。その点でnForce 750、nForce 650が対象外というのは惜しい。 ESAのローンチパートナーには、今回対応機器として紹介したメーカーのほかにも、ASUSTeKやGIGABYTE、EVGA、MSI、XFXといったマザーボードベンダー、ThermaltakeやSilverStoneといった電源/ケース/冷却機器メーカー、そしてDellやHPも名を連ねる。ではこれらのメーカーからESA対応機器が登場するのはいつ頃だろう。今回の評価機に搭載されていた水冷ユニット「Freezone Elite CPU Cooler」は“Available soon”としている。また、Thermaltakeの日本法人、日本サーマルティクでは、同社がESA対応機器を開発中であることを認めた上で、そのリリース時期を2008年第1四半期頃としている。また、同社はESA対応製品を2008年1月に開催されるInternational CESで展示するとしている。タイミング的にInternational CESが各社のESA対応機器のお披露目の場となるだろう。 □NVIDIAのホームページ(英文) (2007年12月27日) [Reported by 石川ひさよし]
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