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レノボ、ThinkPadの熱設計を語る
~システムインテグレーションこそが熱設計の鍵

レノボ・ジャパン テクニカルマスター 中村聡伸氏

12月18日 開催



 レノボ・ジャパン株式会社は18日、報道関係者を対象に、ThinkPadで採用している熱設計への取り組みについて説明会を開催した。

ThinkPadの熱設計を支える4つのポイント

 ノートPCにおける熱設計は筐体や素子の温度、騒音レベル、冷却装置のサイズや重さ、そしてCPU性能がポイントとなる。レノボ・ジャパンのテクニカルマスター 中村聡伸氏は「機構的設計や性能を犠牲にすることなく、熱設計を取り入れることが重要。この4つのうちどれが欠けてもよいものにはならない」と語り、ThinkPad Tシリーズを題材に、過去から現在、そして未来への熱設計の変遷について解説を行なった。

 同氏は'85年にIBMに入社。'90年からノートPCの機構設計を担当。'98年からTシリーズの機構設計に携わり、2004年からはTシリーズの熱設計を担当。現在は熱設計の基礎技術・基礎開発を担当している。


●転換期はTDP 3.3Wの486DX4-75MHz

 '90年代序盤、ThinkPadなどで採用していたCPUのTDPは1.7W台だったが、これがIntel 486DX4-75MHzでほぼ倍の3.3Wになったことで、現在につながる熱設計へのアプローチが始まったという。

 「例えば、Tシリーズは常に最高性能のCPUを搭載することが決定している。その上で“次のCPUからTDPが倍になる”といったように選択の余地がない以上、冷却機構を見直さなければならない。486DX4が登場した当時はすでにCPUファンを搭載した他社製品もあったが、できればThinkPadではマネをしたくなかった」と語る中村氏はヒートパイプに着目。狭いスペースにヒートパイプを通し、導熱させることで冷却効率を高めた。

 ここから後に、板状のヒンジで放熱を補助する「Thermal Hinge」や、平たく伸ばしたヒートパイプ構造の「Vapor Chamber Heat Pipe」、ベースカバーにヒートパイプを這わせて排熱させる構造などが設計された。

熱設計の歴史。年を追うごとにTDPは上がるが、だからといって筐体を大型化することはできないと語る ヒートシンク単体から、ヒートパイプを組み合わせた冷却へ ヒートパイプを使った冷却装置の発展形

●ファンを搭載したThinkPad

 だが、ヒートパイプやヒートシンクの改良でも排熱が追いつかなくなり、ThinkPadはファン搭載に踏み切る。冷却効率を上げるべく、ベアリングの構造に着目したり、空気の吸入口をファンフレームの両側に備えた「Double Inlet」などといったアプローチが採られた。しかし、ファンを搭載すれば冷却性能は上がるが、同時に駆動音も上がっていく。ここから、静音という課題も同時に持ち上がってきた。

 フクロウは、ネズミなどの音に敏感な生物を捕食する。そのフクロウがネズミに気づかれぬように静かに空を飛べる秘密は風切り羽の形状にある。中村氏はここに注目し、以後ファンや羽根の形状などの研究を重ねていく。

 現在T61で採用されている冷却ファンは、ファンの羽根の先端で渦を発生させ、騒音を打ち消しやすくする形状となっている。これは、フクロウの風切り羽の切り欠き部分が渦を発生し、羽ばたきの音や飛行時の音を消す働きを持つ点に着目し、設計された。

ファン冷却装置導入の歴史 フクロウの風切り羽に着目。他の鳥は風切り羽に切り欠きがない 冷却ファンの変遷。T61ではファンの羽根先端で渦を発生させて駆動音を打ち消す構造を発展させた

●インテグレーションこそが鍵

 中村氏は「ファンメーカーはファンを作り、ヒートパイプメーカーはヒートパイプを作るが、相互の働きについては考慮しない。良い冷却ファンと良いヒートパイプを組み合わせても、それだけで良い冷却機構になるわけではない」と語り、「何を組み合わせれば最適な機構になるのか、そしてノートPC内の限られたスペースをいかに有効活用するか。レノボはそういったインテグレーションを考えていく」と述べた。

 Tシリーズでは、それまで箱形状としていたCPU+ヒートシンクの組み合わせでも、上面をカットし空間を確保するといった設計を採用。また、家屋の建築で利用される外断熱通気工法を応用し、通気口を外装に用意することで本体の表面温度を5度下げるといった工夫がなされている。

 そのほかにも、CPUに塗布するグリスの成分や塗り方など、目に見えない部分にも細かく配慮し、ThinkPadの性能を支えているという。

 中村氏は「例えば、これまでの筐体デザインでファンの風量を15%増やせば、断熱構造を採用したThinkPadと同じだけ温度は下がる。だが、それを採用すればThinkPadは2mm厚みが増し、騒音は2dB上がることになる。それでは、ThinkPadの性能の1つである重量などが犠牲になる」と、“性能を犠牲にしない熱設計”こそが重要であると改めてアピールした。

 今後の熱設計については、「かつてPCは道具として扱われていたため、今ほど要求は厳しくなかったが、現在では我々が想定していた利用状況と異なる。ThinkPadの設計思想である“性能やユーザビリティを犠牲にせず、小型化/軽量化を追求する”ために、どうすれば現状のまま風量を増やすことができるかといった、冷却デバイスの基礎技術の開発強化を引き続き行なっていく」とした。

旧モデル(左)と新モデル(右)の冷却構造を比較
Tシリーズ旧モデル(左)と新モデル(右)の背面。デザインを変えずに排熱口を追加するのも熱設計の1つ CPUファンを取り外したところ。フレームとラバーの間のわずかな段差も、通風構造で利用する グリスは特殊な素材を使用。グリスの塗り方にも工夫があり、ユーザーがファンをはがしてしまうと2度と同じ性能は出せないという

 質疑応答では、図中に描かれていた水冷機構について「現在も開発中だが、コストや重量、万が一のショートの危険性を鑑み、実現には至っていない。搭載するには新しいソリューションを追加する必要がある」とした。また、冷却機構の性能向上に伴う、空気中のチリなどの吸い込みについては「現在の構造では冷却を追及するためにフィンのピッチが詰まっているため、塵やほこりなどがかかりやすい。だが、決してそれについて静観しているわけではない」とし、今後研究の余地があると語った。

□レノボ・ジャパンのホームページ
http://www.lenovo.com/jp/
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【11月14日】レノボ、ThinkPadのキーボード設計へのこだわりを開発者が語る
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(2007年12月18日)

[Reported by ishid-to@impress.co.jp]

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