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IEDM 2007レポート

東芝とSanDisk、既存技術の改良で
NANDフラッシュの限界を延ばす

会期:12月10日~12日(現地時間)

会場:米国ワシントンD.C.
    Hilton Washington and Towers



 NANDフラッシュメモリのメモリセルには、「フローティングゲート型」と呼ぶ構造のセルが使われている。フローティングゲートまたは浮遊ゲートと呼ぶ電気的に浮いた(どこにも電気的に接続していない)ゲートの上に、絶縁膜を介して別のゲート電極(コントロールゲートまたは制御ゲートと呼ばれる)を重ねた構造のMOSトランジスタが、メモリセルになる。

 メモリセルにデータを書き込むときは、制御ゲートに高電圧を印加する。制御ゲートと浮遊ゲートの容量結合により、浮遊ゲートの電圧が上昇する。すると基板から電荷が浮遊ゲートに注入される。浮遊ゲートは電気的に浮いているので、注入された電荷はどこにも逃げられない。すなわちデータが揮発しない(不揮発性の)メモリとなる。電荷を浮遊ゲートから引き抜く(データを消去する)ときは、基板に高電圧を印加する。

 フローティングゲート型メモリセルの特長は、構造が単純なことである。基本的な構造はMOSトランジスタとほぼ変わらないので、微細加工しやすく、したがって高密度化しやすい。このためフローティングゲート型のNANDフラッシュメモリは、高密度化と大容量化で先端を行くメモリとなっている。

 ただし今後の微細化を考慮したときには、フローティングゲート型は微細化が難しくなり、近い将来に限界に達するといわれている。ゲートの横方向(水平方向)は微細化が進むのに対し、ゲートの膜厚方向(高さ方向)は微細化があまり進まないからだ。

 この結果、制御ゲートと浮遊ゲートの容量結合が小さくなる。データを書き込むときに制御ゲートの電圧を上げたり、浮遊ゲートに電荷を注入する時間を長くしたりする必要性が高まる。また相対的に隣り合うセル間の結合が大きくなり、セル間のピッチを詰めにくくなる。

 そこで代替技術として、SONOS型と呼ぶフラッシュメモリ用セルの開発が進んでいる。SONOSとはシリコン/酸化膜/窒化膜/酸化膜/シリコンの略である。窒化膜にキャリア(電子あるいは正孔)を捕獲することで、電荷を蓄える。このSONOS膜を基板と制御ゲートの間に挟んだトランジスタとして、メモリセルに使う。チャージトラップ型とも呼ばれている。

 SONOS型セルはフローティングゲート型に比べると構造は複雑になるものの、書き込み電圧を上げなければなかったり、隣接するセル間が結合したりといった問題は発生しにくい。このためフローティングゲート型に比べ、微細化に向くと期待されている。

 ただしフローティングゲート型の限界が延びれば、SONOS型の出番は遠のく。東芝と米SanDiskが今回IEDMで発表した技術(講演番号17.1)は、フローティングゲート型セルの微細化をさらに進めるものであり、既存技術の延長でNANDフラッシュメモリをさらに高密度化および大容量化できることを示したといえる。

試作したフローティングゲート型セルアレイの断面観察像。IEDM 2007の論文資料から抜粋

 具体的には、コントロールゲート(制御ゲート)とフローティングゲート(浮遊ゲート)の間に存在する絶縁膜(ゲート間絶縁膜)を非常に薄くした。こうすると制御ゲートと浮遊ゲートの結合が強まり、微細化しても電荷の注入(書き込み)と抜き取り(消去)の効率がそれほど下がらずに済む。またトランジスタ間を電気的に分離する技術(素子分離技術)を従来の溝型分離からセルフアラインの浅い溝型分離(STI)に変え、セルトランジスタ間の距離を縮めた。

 そして43nmの微細加工技術によって実際にセルアレイを試作してみせた。セルトランジスタのピッチは86nmしかない。セルアレイをほぼ限界まで詰め込むことができている。ゲート間絶縁膜の厚さは13nmである。


3つのしきい電圧レベルを目標にデータを書き込んだセルアレイの特性。IEDM 2007の論文資料から抜粋

 試作したセルの書き込み電圧は、70nm技術で製造したセルに比べるとわずかに高かった。今後の改良で書き込み電圧は70nm技術のセルと同等以下に下げられるという。書き換え回数は10万回まで確認した。

 また試作したセルアレイは、マルチレベルの書き込みにも対応できた。マルチレベルのNANDフラッシュメモリを十分に実現できることを示した。

 なお、今回試作したセルアレイの製造には43nm技術を使用しているが、この技術がフラッシュメモリ製品に使われるのは、40nm以降の世代になるとみられる。


□IEDM 2007のホームページ(英文)
http://www.his.com/~iedm/
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【12月10日】IEDM 2007前日レポート、次世代不揮発性メモリの本命争いが激化
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1210/iedm01.htm
【12月10日】東芝、128GBの大容量SSDを製品化
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1210/toshiba.htm
【9月4日】東芝、世界最大級のNANDフラッシュ製造棟が完成
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0904/toshiba2.htm

(2007年12月13日)

[Reported by 福田昭]

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