AMDは11月15日、GPUの新製品となる「Radeon HD 3800シリーズ」を発表した。5月に発表された「Radeon HD 2900 XT」の後継となる製品で、2008来年第1四半期にもリリースされる見込みのWindows Vista Service Pack 1に含まれるDirectX 10.1(Shader Model 4.1)をフルサポートする初めての製品となる。今回発表された、「Radeon HD 3870」と「Radeon HD 3850」の2モデルのパフォーマンスを見ていきたい。 ●Radeon HD 2900 XTをブラッシュアップ 今回発表された2製品の主なスペックは表1にまとめた通りである。DirectX 10.1への対応が大きなセールスポイントとなるが、320基のStream Processing Unitsや512bitのリングバスを持つメモリコントローラなど、マイクロアーキテクチャはRadeon HD 2900 XTのマイナーチェンジに留まる。といっても、変更点は他にもまだたくさんある。
【表1】Radeon HD 3800シリーズの仕様と比較
まずはプロセスルールだ。Radeon HD 2900 XTは同世代のライバルとなるGeForce 8800 GTXが90nmプロセスであったのに対し、先んじて80nmプロセスを採用した。10月にはGeForce 8800 GTが65nmプロセスを採用しその一歩前に出た格好となったが、Radeon HD 3800シリーズは55nmプロセスで製造されており、最先端プロセスの立場を取り戻した。 トランジスタ数を削減しているのも大きな特徴である。具体的には、Radeon HD 2900 XTの7億個に対し、6億6,600万個まで削減。プロセスシュリンクとの相乗効果もあり、ダイサイズは408平方mmから192平方mmまで大幅に小型化されている。ダイサイズの小型化で歩留まりが向上することによる製造コスト抑制のほか、発熱や消費電力の面でも効果が期待できる。 トランジスタがなぜ減ったかについての詳細は不明だ。機能の向上を考えると、むしろトランジスタが増えてもおかしくないほど。公開されているスペックからすると、メモリコントローラ周りの変更で、GPU-リングバスストップ間のメモリインターフェイスが、Radeon HD 2900 XTでは合計で512bitであったのものが、256bitへ縮小されたことが一因と想像される。 メモリコントローラ周りの構成も正確なディテールは不明だが、おそらく4個のリングストップに32bit×2のインターフェイスを持ち、合計で256bitというRadeon X1000世代に近い構成になっていると思われる。 Radeon HD 2900 XTは4個のリングストップに64bit×2のインターフェイスを持ち、ここに32bitインターフェイスのメモリチップを4枚ずつ、計16枚実装していた。当然ながらRadeon HD 3800両製品ではメモリチップの数も減っており、表面のみで8個のメモリチップを実装している。 発熱に関しては、リファレンスデザインでは、上位モデルとなるRadeon HD 3870が2スロット占有型クーラー、Radeon HD 3850はシングルスロットに収納可能なクーラーを搭載している(写真1、2)。
Radeon HD 3870は一見するとRadeon HD 2900 XTに似た形状である。しかし、ボード長は、このクラスの製品としてはそれほど長くない240mm前後のRadeon HD 2900 XTよりさらに短くなっている(写真3)。また、クリアタイプの化粧カバーから覗く銅製のヒートシンクは明らかに小型化されており、ボードの重量も軽くなっている。ただ、ファンの最大回転時の音はわりとうるさい。GeForce 8800 GTのように甲高くうるさいわけではないのでマシな印象は受けるのだが、温度が高い状態が続くとストレスを感じそうなレベルである。 Radeon HD 3850は、1年ほど前にリリースされたRadeon X1950 Proに似た雰囲気の外観であるが、やはり化粧カバー内のヒートシンクの形状は変更されている。こちらは最大回転数でも騒音はそれほどでもなかった。 消費電力については後ほどテスト結果をお伝えするが、公式の資料によると、リファレンスデザインボードの最大消費電力は、Radeon HD 3870が105W、Radeon HD 3850は95Wとされている。Radeon HD 2900 XTは200W前後の消費電力で、半分程度にまで抑制されている。そのことを裏付けるかのように、両製品とも電源供給端子は1基のみ(写真4、5)。導入の容易さは確実に向上したといえるだろう。
その他の機能であるが、GPUに統合されたサウンド機能を利用したHDMI出力は引き続きサポート。ドングルを利用してDVI端子からHDMI出力へ変換する点もRadeon HD 2900 XTと同様だ。ただし、Radeon HD 3870/3850はDualLink HDCPをサポート。1,920×1,200ドット超え、2,560×1,600ドットの解像度まで著作権保護されたコンテンツを出力できるようになった。 ブラケット部の端子は両モデルともDVI×2とビデオ出力の構成で、従来通りである(写真6、7)。
動画再生に関しては、Universal Video Decoder(UVD)が搭載されたのも大きなトピックだ。Radeon HD 2900 XTではUniversal Video Acceleration(UVA)と呼ばれるシェーダを利用した従来のAvivo HD相当のハードウェアアクセラレーションに留まっており、H.264やVC-1のビットストリーム処理などを行なうUVDはRadeon HD 2600以下のモデルに限定されていた。今回、ハイエンド向け製品である本製品にも搭載されることになり、HD DVDやBlu-Rayコンテンツ再生時のCPU使用率低下に期待がかかる。 このあたり、10月29日に発表されたGeForce 8800 GTと似たような機能強化が目立つ。現在のトレンドに合わせて、両社とも押さえるべきポイントは共通した考えになっているといえるだろう。 一方、Radeon HD 2900 XTは、Avivo HDの機能の1つであるビデオ入力のために、GPUのほかにTheater 200というビデオデコーダチップを実装していたが、Radeon HD 3870/3850の両リファレンスボードには、このチップが見当たらない(写真8)。この機能がGPUに統合されたということもないようで、デバイスとして認識することもなく、今回の製品はビデオ入力には対応しないということになる。 このほか、今回テストするリファレンスボードの動作クロックを確認してみると、ほぼ定格通りで動作していることを確認できる(画面1、2)。メモリクロックはRadeon HD 3870は2.25GHz、3850は1.66GHzとちょっと中途半端な設定になるが、資料によると、実際はそれぞれ2.4GHzのGDDR4と1.8GHz GDDR3が使われているようなので、多少のオーバークロック動作は、手軽に実現できる可能性はありそうである。 ちなみに、画面を見ても分かる通り、画面キャプチャ時(つまり平常時)のコアクロックは300MHzと非常に低い。これは、Radeon HD 3870/3850で新たに「PowerPlay」を搭載したことの効果だ。 PowerPlayはモバイル向けのMobility Radeonで採用されてきた技術で、コアへの供給電圧とクロックを動的に変化させる機能である。単なるアイドル時のクロックゲーティングだけでなく、軽負荷ゲームと高負荷ゲームよって別のパラメータを持つなど、電力効率を高めている。 ●まずはシングルビデオカードでパフォーマンスを比較
パフォーマンスの検証を行なっていくが、まずはシングルビデオカードの状態で性能を比較してみたい。テスト環境は表2に示した通りで、nForce 680i SLIを搭載するASUSTeKの「P5N32-E SLI」をベースとしたシステムで検証している。 時間の制約もあり、基本的には先週お伝えしたGeForce 8800 GTの記事と環境を統一。データも多くは流用した。Radeon HD 3870/3850とRadeon HD 2900 XTのドライババージョンが異なるのも、そのことが理由の1つである。
【表2】テスト環境(シングルビデオカードテスト)
まずは「3DMark06」(グラフ1~4)と「3DMark05」(グラフ5)である。いきなり意外な結果となっており、Radeon HD 3870ですら3DMark06/05ともにRadeon HD 2900 XTと同等かもしくは劣勢に立たされている。解像度が上がると多少は改善される傾向にあるが、そこで同等のパフォーマンスが精いっぱいという印象になっている。 NVIDIA製品との比較では、Radeon HD 3870の直接的なライバル関係にあるGeForce 8800 GTと比較して、SM2.0テストでは劣勢、HDR/SM3.0では優勢な立場にある。 興味深いのは3DMark06のFeature Testの結果だ。Radeon HD 2900 XTと比べて、Pixel Shaderではより良いパフォーマンスが出るものの、Vertex Shaderではやや劣勢。そして、Perlin Noiseは大幅にパフォーマンスが下がっている。 Radeon HD 3870が好結果となったPixel ShaderとPerlin Noiseは、いずれもPixel Shaderの能力に依存するテストとなるわけだが、それらが違う傾向を見せている。前者については、ドライバないしはハードウェア側でロードバランスや処理スケジュールが変更されていると想像される。Pixel Shaderの基本的な処理性能を向上させる最適化は歓迎できるポイントだろう。 Perlin NoiseはPixel Shaderの能力に加えて、ビデオメモリのアクセス性能にも大きく依存するテストだ。このテストにおいては、ビデオメモリインターフェイスの縮小が影響したように思われる。 スペックの面で見れば、Overallスコア全般でRadeon HD 3870/3850の結果が震わないのもビデオメモリの帯域幅が影響したと見るのが妥当だろう。コアの基本的なマイクロアーキテクチャが同一であれば、転送する情報量が増える解像度向上やフィルタ適用は、ビデオメモリの帯域幅が狭い方が不利になる。しかし、結果は逆で高負荷の方がRadeon HD 3870が健闘を見せる結果になっている。 ということは、先のPixel Shaderのテストで想像した最適化が行なわれていたり、テクスチャユニットや異方性フィルタをリファインして、フィルタ適用時のパフォーマンス改善を行なうなど、ビデオメモリ帯域幅が減ったことの影響が出にくいような、ドライバまたはハードウェア改良を行っている可能性は十分に考えられる結果といえる。 もう1つのRadeon HD 3850に関してだが、こちらは低解像度ではあまり目立ったスコアは出せていない。しかし、3DMark06のHDR/SM3.0における高負荷条件では、GeForce 8800 GTSに迫るスコアを見せた。GeForce 8800 GTSがオーバークロック版であるという点を加味すれば、条件次第で対抗力を持った製品といえる。
次にF.E.A.R.である(グラフ6)。この傾向も、3DMarkシリーズに似た雰囲気の結果となっている。Radeon HD 3870はRadeon HD 2900 XTに対して低負荷では明確に劣るが、高負荷では同等程度のパフォーマンスが出せている。ただ、GeForce 8800 GTには完敗の様相を呈している。 Radeon HD 3850に関しても、低負荷ではGeForce 8800 GTSに惨敗するが、高負荷になると差を詰める傾向は3DMarkと同じだ。
Call of Duty 2(グラフ7)は、Radeon HD 3870のパフォーマンスが良好だ。低負荷ではドライバの素行の良さも関係するが、この点はNVIDIA製品を圧倒している。また、高負荷になるとNVIDIA製品に水をあけられる結果とはなるが、Radeon HD 2900 XTには勝る結果をとなっている。 Radeon HD 3850にしても、低負荷状態ではRadeon HD 2900 XTに勝る結果となった。AMD製品におけるCall of Duty 2のフレームレートは、高負荷ではちょっと現実味のない結果であり、実際にユーザーがプレイするであろう低負荷におけるRadeon HD両製品性能の良さは押さえておきたいポイントである。
Crysis Single Player Demo(グラフ8)は、GeForce 8800 GTX/GT両製品の素性の良さが目立つ。ただ、ここでもRadeon HD 3870はRadeon HD 2900 XTを上回る性能を安定して出せているほか、Radeon HD 3850がGeForce 8800 GTSのOC版に近い性能を出せている。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ9)の結果も、NVIDIA製品が非常に高いパフォーマンスを示している。そのため、あまりインパクトのある結果とはいえないのだが、Radeon HD 3870がRadeon HD 2900 XTを安定して上回っている点は特筆できる結果といえる。
「World in Conflict」(グラフ10)の結果は、CPUに依存する処理が多いこともあって差は小さいものの、GeForce 8800 GTX/GTの両製品が良好な傾向を示す。ただ、低負荷ではRadeon HD 3870もかなり健闘しており、実用面ではまずまずの結果といえるのではないだろうか。 Radeon HD 3850はGeForce 8800 GTSのOC版を上回るのに加え、相対的に見て高負荷でもパフォーマンスの落ち込みが小さい。GeForce 8800 GTSは上位モデルに比べてフレームバッファの容量差以外にも、ROPユニット数やテクスチャユニット数など、あらゆる点で差が付けられている。一方、Radeon HD 3850はクロックとフレームバッファ以外は同等の機能を持っており、上位モデルから急激にスコアが落ちるということが少なく、ほかのアプリケーションも含めてリニアに性能差が出る傾向にある。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ11)は、Radeon HD 3870の健闘が光る結果となっている。低解像度ではGeForce 8800 GTXと均衡したスコアになっているほか、高解像度でもGeForce 8800 GTを上回った。 Radeon HD 3850もGeForce 8800 GTを上回るシーンがあり、このアプリケーションにおいては、Radeon勢の良さがみられる結果となっている。
「Unreal Tournament 3 Demo」(グラフ12)は、新ドライバでもアンチエイリアスが適用されなかったので、フィルタなしのパターンのみ結果を掲載している。 結果は3DMarkシリーズに近い傾向になった。ここでは、Radeon HD 3870もRadeon HD 2900 XTに劣る結果だ。ただ、GeForce 8800 GTには大きく差を付けられていないのが特徴的な結果となっている。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ13)は、アプリケーションの最適化もあってNVIDIA勢が圧倒的なパフォーマンスを見せた。このアプリケーションに関しては、現時点でAMD勢の出番はなさそうである。もっとも、Radeon HD 3870は高負荷でRadeon HD 2900 XTを上回る傾向を見せるあたりは、興味深い結果となっている。
次に、HD DVDの再生テストである。このテストのみCPUはCore 2 Duo E6550(2.33GHz)へ変更。MPEG-4 AVCで収録された「VirtualTrip 地球の大自然」のチャプター12と、VC-1で収録された「SPY GAME」のチャプター21を再生し、CPU使用率を1秒ごとにトレースし、3分間の平均を結果として表している(グラフ14)。 GeForce 8800 GTの記事では6月14日に公開されたパッチ(3104)を適用したPowerDVD Ultraを使用してテストしたが、この状態では、Radeon HD 3870/3850を利用すると映像が表示されないトラブルが発生した。 そこで、この両製品のみ、AMDから提供されたPowerDVD Ultraのb3501パッチ適用版を使用してテストしている。前回高いCPU使用率となったRadeon HD 2900 XTでもこの新しいベータ版PowerDVD Ultraで再生してみたが、CPU使用率に大した変化は見られなかった。よって、Radeon 2900 XTの結果も前回より流用している。 結果は良好だ。Radeon HD 3800製品は、MPEG-4 AVCコンテンツの場合16%前後といったところで、GeForce 8800 GTのVP2ほどではないにせよ、低いCPU使用率で再生が出来ている。また、VC-1コンテンツも15%を切っており、VC-1に対応しないNVIDIA製品に対する明らかなアドバンテージとなっている。
●CrossFire、SLIのパフォーマンスを比較する
続いてはマルチビデオカード技術を利用した場合のパフォーマンスを比較してみたい。今回、Radeon HD 3870は1枚しか入手できなかったため、Radeon HD 3850のみ対象とする。 テスト環境は表3に示した通りで、GeForce 8800 GT/GTSは前回記事からの流用である。余談ではあるが、先日、NVIDIAからCrysisのSLI対応ドライバとしてForceWare 169.09がリリースされた。気になるドライバではあるのだが、今回は時間の関係でテストできていない。 Radeon HD 3850とRadeon HD 2900 XTは、CrossFire対応マザーということで、Intel X38を利用したASUSTeKの「P5E」を利用。こちらはすべて新規テストとなる。 ちなみに、新規のテストとなるのでRadeon HD 2900 XTのドライバも統一しようと思ったのだが、Radeon HD 3800シリーズのテスト用に提供されたドライバをRadeon HD 2900 XTに適用しようとすると、インストール途中で応答がなくなり、CATALYST Control Centerがインストールされない現象が出てしまった。そのため、ここでも異なるドライバを利用している。 このほか、Radeon HD 3850上でF.E.A.R.を走らせた際、シングルビデオカード、CrossFire構成を問わず、どの解像度を選んでも40fps前後しかでないという状況に見舞われた。前述のシングルビデオカード時には目立ったトラブルもなく動作していただけに原因がまったくつかめていないのだが、いずれにしてもF.E.A.R.のパフォーマンス傾向からすると明らかに不自然な値であるため、今回は割愛している。
【表3】テスト環境(デュアルビデオカードテスト)
では、順に結果を見ていくことにする。「3DMark06」(グラフ15~17)と「3DMark05」(グラフ18)は、CrossFire/SLIともに安定して効果が出ているアプリケーションだ。 低負荷ではRadeon HD 3850の性能向上度合いは、Radeon HD 2900 XTに比べて高めの傾向にあるものの、高負荷になるとバラつき、逆にRadeon HD 2900 XTが度合いが大きい場合もある。どちらか一方の効果が大きいといった傾向は見られない結果となっている。
「Call of Duty 2」(グラフ19)は、Radeon HD 3850において、CPU依存度が高い低負荷では大幅なパフォーマンスの落ち込みが見られた。前述のテスト同様、シングルビデオカードのときの性能は極めて良好なのだが、CrossFireの落ち込みは極端である。まだドライバが洗練されていないと判断していいだろう。 ただ、Radeon HD 2900 XTほど向上度合いは大きくはないものの、フィルタを適用して負荷が高まるとCrossFireによるパフォーマンス向上を見せている。効果はあるが、過度な期待できないといったところだろう。
「Crysis Single Player Demo」(グラフ20)は、マルチGPUに対応しないとされているアプリケーションである。1,280×1,024ドットでは、Radeon HD 3850をCrossFireにすることでRadeon HD 2900 XTのシングル動作程度までスコアを伸ばす結果が見られているが、ほかのスコアは芳しくなく、やはり基本的にはマルチGPUに対応しないと見ておいて間違いないだろう。製品版に期待したい。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ21)は、わりとCrossFireの効果が感じられる結果といえる。低負荷時、GeForce 8800 GTのようにシングル動作でも高い性能が出ているビデオカードではSLIを構築しても、CPU性能の頭打ちが発生してしまっている。 その点、CPU性能に余力のある状態のRadeon HD 3850は伸びが良好だ。向上の度合いはRadeon HD 2900 XTと似たような傾向になっているが、HIGHをベースとした設定でSXGAが60fpsを超えるあたりは実用面でも意味が大きそうである。
「World in Conflict」(グラフ22)に関しては、CrossFireの効果がまったくない結果となった。これもCPU依存が強い印象を受けるアプリケーションだが、高負荷になってもパフォーマンスは伸びない。かたやGeForce 8800シリーズでは高負荷になるときっちりパフォーマンスの伸びを見せるあたり、アプリケーションの特性や問題ではなく、CATALYSTのチューニング不足と見ていいと思われる。 ただ、シングルビデオカードのテストの項でも触れたが、GeForce 8800 GTSの極端な落ち込みに対して、Radeon HD 3850の落ち込みはそれほどでもない。落ち込みが小さいから良い、と言えるレベルのフレームレートでもないのだが、ビデオカードの特性としては興味深い結果といえる。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ23)は、少々不思議な結果が見られている。条件に限定されず、マルチGPUの効果がないシーンが散見され、何度再試行してもスコアの傾向が変わらないのである。 具体的には、Radeon HD 3850は1,920×1,200ドットのフィルタなし条件、Radeon HD 2900 XTは1600×1,200ドットと1,920×1,200ドットのフィルタ適用条件である。現象発生のパターンのようなものが一切ない不思議な現象であるが、スコアからするとCrossFireが正しく動作していない(つまり2枚のビデオカードへ処理が割り振られていない)状況ではないかと思われる。もちろんマルチGPUのhotfixなどは適用した環境であり、ドライバ側のチューニング不足と見ていい。
「Unreal Tournament 3 Demo」(グラフ24)は非常に良好な結果だ。NVIDIAのSLIの効果はかなり低いのに対して、CrossFire両製品は大きな伸びを示している。また、Radeon HD 3850の方が、Radeon HD 2900 XTよりも、全般にスコアの伸びが大きいのも特徴で、このアプリケーションのCrossFire対応に関しては非常に優れたチューニングがなされている。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ25)におけるCrossFireは極端で、Snowでは安定して高いスコアの伸びを示すのに対し、Caveではスコアが下がるシーンが多い上、向上してもその度合いは小さなものになっている。NVIDIA製品はCaveでも高負荷時には基本的に大きなスコアの伸びを示しているのとは対照的である。 このあたりはアプリケーションの最適化、ドライバの最適化が進むことで改善される可能性はあるが、Snowのスコアも現時点ではRadeon HDの上位製品×2枚でGeForce 8800シリーズ1枚相当といった雰囲気であり、Radeon HDには向かないアプリケーションという傾向はCrossFireを構築しても変わりない。
●大幅に低下した消費電力 最後に消費電力のテスト結果を紹介したい(グラフ26)。少々項目数の多いグラフになっているので、要点をまとめていきたい。 まず、シングルビデオカード同士の消費電力差はP5N32-E SLIに接続した結果同士を比較する必要があるが、Radeon HD 2900 XTとの差から見てみると、プロセスのシュリンクによって大幅に消費電力が下がっていることが確認できる。 おおよそ、Radeon HD 3870がアイドル時50W、ピーク時100W、Radeon HD 3850がアイドル時60W、ピーク時130Wの程度の消費電力抑制が実現されており、55nmプロセスの素行の良さが表れている。 GeForce勢との比較では、G80世代のコアであるGeForce 8800 GTX/GTSの両製品とは、アイドル時/ピーク時ともに下回る結果となっている。また、アイドル時はRadeon HD 3870/3850ともにGeForce 8800 GTを下回るほか、ピーク時はRadeon HD 3870がGeForce 8800 GTを上回り、Radeon HD 3850は下回る結果になっている。 アイドル時の消費電力の低さは特筆できる結果だ。55nm/65nmという新世代のプロセステクノロジ同士の争いでは、同等レベルの消費電力低減が実現されているといえる。 続いては、CrossFire構成時の結果である。まず、Radeon HD 3850とRadeon 2900 XTをP5Eに接続した状態で比較すると、アイドル時/ピーク時とも、Radeon HD 3850のCrossFire構成時の消費電力が、Radeon HD 2900 XTを下回る結果になっている。 1枚あたり95W(×2=190W)と公称されているRadeon HD 3850に対し、Radeon HD 2900 XTは1枚で200Wなので、この結果はうなずけるものがある。 もちろん、Radeon HD 3850×2枚とRadeon HD 2900 XT×1枚なら前者の方がパフォーマンスも良好であり、消費電力の絶対的な低下とパフォーマンスの絶対値の相乗効果で、電力あたりのパフォーマンスという観点では差がさらに開くことになる。 続いてはNVIDIA勢との比較であるが、ここではマザーボード違いを考慮する必要がある。そこで、Radeon HD 3850/2900 XTのシングルビデオカード時同士を比較してみると、P5E(Intel X38)の方が、アイドル時で50~60Wほど、ピーク時で40Wほど低消費電力であることが分かる。 Radeon HD 3850のCrossFire構成時とGeForce 8800 GTのSLI構成時では、アイドル時で83W、ピーク時で58Wの差があり、ビデオカードのみの消費電力差は20~30W程度、Radeonの方が低いと見ることができる。ビデオカード1枚当たりの公称消費電力はRadeon HD 3850が95W、GeForce 8800 GTが105Wなので、2枚で20~30Wの差というのは妥当な数値といえる。 いずれの結果でも、80nmから55nmへのプロセスシュリンクの効果を感じさせるものであり、消費電力の大きさが問題視されたRadeon HD 2900 XTとは違ったイメージで捉える必要があり、消費電力の面ではNVIDIA製品と同等視できる製品になっている。
●競争力を重視した製品となったRadeon HD 3800シリーズ 以上の通り結果を見てくると、フラッグシップの交代劇のわりには、Radeon HD 3870が従来のRadeon HD 2900 XTにパフォーマンスが劣るシーンも散見され、少々地味な印象を受けるのも事実だ。 だが、本製品は価格面で勝負に出てきている。参考価格は、Radeon HD 3870(512MB)が210ドル、Radeon HD 3850(256MB)が179ドルとなっている。日本円に当てはめるとRadeon HD 3870でも2万円台中盤~後半を狙える価格設定である。 これまで、この価格帯はメインストリームの市場であったことを考えると、かなり魅力的な価格設定といえる。当初は199ドルとアナウンスされていた、GeForce 8800 GTの256MBが、ここにきて179~199ドルと価格帯を改めたのも、Radeon HD 3800両製品の価格競争力の強さを印象付ける出来事だ。 価格対性能比でいえば、先の消費電力テストのところで触れた、Radeon HD 2900 XT×1枚と、Radeon HD 3850×2枚という比較も面白い。前者は399ドル、後者は2枚足しても358ドルだ。これでいて、後者の方がパフォーマンスが高く、消費電力も低い。しかも、Radeon HD 3850は1スロットタイプのクーラーなので2枚挿しも比較的容易であるわけで、CrossFire対応マザーが必要という点をクリアできるのならば面白い選択肢といえる。 また、UVDの追加、DualLink HDCPへの対応でGeForce 8800 GTと同等かそれ以上の機能を持ち、Radeon HD 2900 XTの最大の欠点ともいえた消費電力も改善され、HDMI出力機能やDirectX 10.1対応という点ではGeForce勢に対しアドバンテージも持っている。これで価格面のメリットがあるのだから魅力を感じる人も多いのではないだろうか。 ライバルのフラッグシップへ直接ぶつけてこなかったのはRadeon HD 2900 XTと同様ではあるのだが、3Dパフォーマンスでは劣ってもトータルパフォーマンスでは負けない、という姿勢を前世代以上に強めた製品といえるだろう。 □関連記事 (2007年11月15日) [Text by 多和田新也]
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